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イタリア男

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第四章

「伊賀や甲賀に」
「そこから日本に憧れたんだったね」
「武士道の素晴らしさも知り」
「力士に公家、茶人だね」
「この様な不思議な国があるのかと」
 そう思ってだったというのだ。
「惚れ込み」
「そしてだったね」
「そこから日本を知りです」
 そしてというのだ。
「この国について学び今では留学さえしています」
「そう言うと兄さんも一緒かな」
「そうですね、イタリア男に先入観を持っておられる方々と」
「そうだね、まあ僕は建築の方だからね」
 ジャコモが学んでいる学問はというのだ。
「日本の建築には興味はあるけれど」
「私程はですね」
「日本に興味はないね」
「そうですか」
「うん、兄さんは心からの日本好きだから」
 とにかくだ、ザンカリーノは日本を愛している。ジャコモはその彼程日本に強く興味がないというのである。
「そこまではね、嫌いではないけれどね」
「だから今来られていますね」
「そして日本を見ているよ」
「それは何よりです、では」
「明日からまただね」
「努力してです」
 そのうえでとだ、また苦笑いになって言うザンカリーノだった。
「日本の女性に声をかけます」
「苦労してるね」
「そのことについては、まるで」
「まるで?」
「この国の阪神ファンが巨人を愛そうと努力するかの様に」
「阪神?何それ」
「野球の話です」
 このスポーツの、というのだ。
「日本ではイタリアのそれ以上に人気があります」
「サッカーよりも?」
「同じ位でしょうか」
「それはまた凄い人気なんだね」
「ただ、私はサッカーをするかとも聞かれました」
「そうしたことも聞かれたんだ」
「しかし私は陸上競技ですから」 
 それをするからというのだ。
「サッカーはしないとお答えしたら意外といった反応でした」
「イタリア人が誰でもサッカーをする訳じゃないのにね」
「しかしです」
「そこでも先入観なんだ」
「そういうことです」
「先入観は何かとあるね」
 ジャコモは苦笑いをして話した。
「日本人にもあるんだね」
「イタリア人に対して」
「誰もが女好きでもサッカー好きでもないのにね」
「そう思われています、そして」
「僕達も日本について先入観がある」
「そういうことです」
 こうしたことを話してだ、そしてだった。
 二人は兄弟で仲良くスパゲティを食べワインも飲んだ、そのワインについてジャコモはこんなことを言った。
「美味しいワインだね」
「日本のワインです」
「日本酒じゃなくて」
 こう言ったジャコモだった。
「日本のワインなんだ」
「日本人もワイン好きで国内でも製造しています」
「日本酒だけじゃないんだね、日本人は」
「それもまた、ですね」
「そうだね、先入観だね」
「先入観は必ずしもそうであるとは限らない」
「そういうことだね」
 ワインのことからも話す二人だった、ザンカリーノは弟と共に日本人と自分達それぞれにある先入観のことに思うのだった。
 しかし外ではだ、彼はイタリア人としてだった。
 女の子に努力していることを隠して声をかけてだ、周りの日本人達にこう言われていた。
「やっぱりザンカリーノさんってイタリア人だね」
「女の子にどんどん声をかけるよね」
「いや、やっぱりイタリア人ってね」
「女の子好きなんだね」
「はい、そうです」
 その彼等に笑顔で答えるザンカリーノだった、だがその笑顔は仮面であり素顔は隠していた。苦労しているその顔は。


イタリア男   完


                            2015・5・19 
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