八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第三十六話 終業式その四
「そしてレオナルド=ダ=ヴィンチは一時間だった」
「一時間」
「それは幾ら何でも」
エリザさんだけでなくイタワッチさんも井上さんに言った。
「少ないにも程があるというか」
「一日でそれだけ?」
「そうだ、十五分ずつ四回寝てだ」
井上さんはダ=ヴィンチのその睡眠について具体的に話した。
「それで充分だったという」
「それはまた凄いわね」
さしものイタワッチさんも驚きを隠せない顔だった。
「一時間はないでしょ」
「椅子に座ってそれだけだった」
「ベッドにも寝なかったの」
「そして起きている間はだ」
「色々な研究していたのね」
「芸術活動もしてだ」
万能の天才と言われていただけにだ、起きている時間は常にそうした活動に勤しんでいたというのだ。まさに休まずに。
「そうしていたという」
「成程ね」
「若し漫画家になったら」
こう言ったのは千歳さんだった。
「原稿の締切に強かったかも」
「起きている間ずっと描いていられるからな」
「漫画家さんって大変みたいですから」
「よく言われているな」
「手塚治虫さんなんかもう」
書斎にもこの人の漫画が結構置かれている、その中には色々と考えさせられる作品も多くて読み応えがある。
「凄かったらしいですね」
「一日四時間睡眠が普通でだ」
「四時間ですか」
「徹夜も多かった」
「過労になりそうですね」
「実際にあの方は過労死だったとも言われている」
それで若くして亡くなったというのだ。
「藤子不二雄F先生や石ノ森章太郎先生もな」
「あの方々もなんですか」
「何しろ若い頃は三日徹夜等もされていたそうだ」
「三日ですか」
「そうして描いていたという」
「それはまた極端ですね」
「どの方もその生涯で多くの作品を残された」
巨匠と呼ばれても遜色ない位にだ。
「それだけにだ」
「過労するだけのものがあったんですか」
「どの方にもな」
「それで、ですか」
「過労死だったとまことしやかに言われている」
徹夜を常にしていて描き続けてきた、それで寿命が縮まって亡くなってはそうした解釈が為されるのも当然だと思う。うちの親父も僕に徹夜は絶対にしないで一日に少しでも寝ておけといつも言っていて自分自身もそうしていた。
「どの方もな」
「やっぱり寝ないと駄目」
ここでまた言ったエリザさんだった。
「そういうこと」
「それはそうだな」
井上さんはエリザさんのその言葉に頷いて答えた。
「人は寝るべきだ」
「何があっても」
「そしてその長さはそれぞれだ」
「私の十時間も」
「それもよしだ、ただ」
井上さんはこうも言った。
「夏より冬の方がよく寝ないか」
「そうなの」
「冬に入るとどうしてもだ」
井上さんが言われるには。
「ベッドの中で身体を温めて休むからだ」
「よく寝ると」
「そうではないのか」
「冬は九時間」
エリザさんはまた答えた。
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