八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第三十五話 夏休み前その七
「お抹茶も好きだしね」
「だから余計になのね」
「コーヒーもお抹茶もだからね」
「そのどちらにするかは」
「悩むね、どっちにしようかな」
僕は結構真剣に悩んだ、けれどだ。
ここで親父が言った言葉を思い出した、迷った時はだ。
ポケットのお財布から十円玉を出した、そうしてこう言った。
「表が出たらコーヒー、裏が出たらね」
「お抹茶なのね」
「それを飲むよ」
こう詩織さんに答えた。
「そうするよ」
「コインで決めるのね」
「賽は投げられたじゃないけれど」
カエサルはこちらだったけれど僕はだ。もっと言えば親父は。
「これで決めるよ」
「迷うよりは」
「決めないとね」
そして自分ではすぐに決められない時はだ。
「だからこれで決めるよ」
「そう、それじゃあね」
詩織さんも頷いてくれた、小夜子さんも無言で。そして。
僕はコインを上に投げた、コインは空中で横にくるくると回転した。そのコインが垂直に上がって落ちてだった、僕は左手の甲に受けて。
上に右手を覆い被せてだ、それから。
動きが収まったコインを見た、出た目は。
「表だったよ」
「コーヒーね」
「うん、そっちを飲むよ」
こう答えた。
「これからね」
「それじゃあね」
「僕だけコーヒーになったね」
「そうしたこともありますね」
小夜子さんは僕にくすりと笑って言って来た。
「一人だけというのは」
「そういうものかな」
「はい、私もです」
販売機の横の席に座りつつだ、小夜子さんは答えた。
「そうしたことがあります、お抹茶を飲むのが」
「小夜子さんだけということも」
「あったりします」
「そうなんだね」
「お抹茶は嫌いな方もおられて」
「あの苦味が嫌って人がだよね」
僕もそれはわかった、僕は好きだけれどお抹茶はあれで苦味が強くてだ。抵抗がある人もいたりするのだ。
「いるからね」
「そうです、ですが私はお抹茶が好きで」
茶道部でもある、だから余計にだった。
「私だけということも」
「あるんだ」
「はい、ただ紅茶を飲む時もあります」
「コーヒーもだよね」
「はい、そちらも」
小夜子さんもそうしたものを飲むことがある、けれど多くの場合はお抹茶だ。
「飲みます」
「そうだよね」
「あとお砂糖は」
「小夜子さんコーヒーは絶対に入れるよね」
「紅茶にもです」
こちらにもというのだ。
「お砂糖は入れます」
「そっちにはなのね」
「はい、ですがお抹茶には」
「普通は入れないでしょ」
詩織さんはこう小夜子さんに返した。
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