ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか
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帰還
あの少年とすれ違ったあと、スウィード育成に熱を入れていた俺達は、ダンジョンを出た頃には、すっかり陽は沈んでしまってもう夜になっていた。
途中で【ロキ・ファミリア】を遠目で見たような気がするが、まぁ今は関係ない。
魔石製品の灯りが街を灯す中、俺達【バルドル・ファミリア】は遠征が終わったという報告と魔石、ドロップアイテムの換金に、万神殿ーーギルド本部へと赴いていた。
玄関口の広大で敷石が整然と並べられた前庭を通り、白大理石で作られた空間へと足を踏み入れる。
スウィードにとっては、冒険者登録以来の二度目となった。
「ウッヒョー! やっぱ、ギルドの受付は綺麗所が揃ってるっすね~」
冒険者の相手をしている受付嬢を見回しながらアルドアさんが声をあげた。
まぁ、アルドアさんの言う通りであって、ヒューマンや亜人の美人さんが選り取り緑なのだ。
冒険者にとって、綺麗な女の人というのは一種の癒しとも言える。
俺としては出来ればズボンではなく、スカートをはいてほしいと思わないでもないが、仕方のないことだと諦める他ないだろう。
「それでは、魔石とドロップアイテムの換金へ行って参ります」
「あ、それならスウィードも連れていってあげて」
「畏まりました。 スウィード、行きますよ」
「あ、はい」
いろいろと詰め込んでパンパンになったバックパックを背負ったパディさんの後を追ってスウィードも換金所へと向かう。
『おい、あれ見ろよ』
『お、【バルドル・ファミリア】じゃねぇか。 しかも全員大集合』
『【光の守人】に【極光の陶酔者】、Lv5の【秘剣】までいやがるぞ』
『そういや、新人が入ったとか噂で聞いたが……あの執事の後ろのやつか?』
俺達がギルドへ入ったときから周りの冒険者からの視線が絶えない。
このオラリオに存在する冒険者系のファミリアの中でも上位に位置する【バルドル・ファミリア】は構成員が十人にも満たないと言う理由でも注目されている。
普通は上位の派閥程、規模が大きくなるものだがこればかりは俺のせいで申し訳ないと思う。
変わり者で実力のあるファミリア。周囲からの【バルドル・ファミリア】はこういった評価をされているのだ。
「フッ、それじゃ、僕は用を済ませてくるよ」
「エイモンドもあきないねぇ。あまり待たさないでよ?」
「分かっているさ、団長。庭の石碑で待っていてくれたまえ」
では、と前髪をなびかせながら離れていくエイモンドさん。
まぁ、ギルドへ来ればいつものことだ。
「あいつ、またなのか?」
「そうみたいっすね」
「ま、あいつのあれだけは認めないまでもないわ」
「……」コクリ
いつもよりも若干足取りの軽く見えるエイモンドさん。
と、そこへ換金を終えたパディさんとスウィードが帰ってきた。
「ありがとう、パディ」
「いえいえ、執事として雑用は当然ですよ」
パンパンに膨らんだいくつもの袋をバックパックにしまい、にっこりと微笑むパディさん。
そして、一人エイモンドさんがいないことに気付いたパディさんは、ハーチェスさんの「ほら、いつもの」という言葉で察したのか納得顔になった。
ただ一人、スウィードを除いては
「あ、あの、エイモンドさんはどこへ……」
「そういや、スウィードは知らないか。 エイモンドはある一人の受付嬢のところに行ったんだよ」
「……? 何でですか?」
「あら、察しが悪いわね。 はっきり言えば、あのバカはその受付嬢のことが好きなのよ」
「うぇっ!? あのエイモンドさんが!?」
信じられないと声をあげたスウィードが俺の方へバッと振り返ったが、実際リリアさんの言う通りであるため頷いた。
いや、でもわかるよその気持ち。いつものエイモンドさんみてたら、そんなこと露程にも考えることなんてないからな。俺も知ったときはかなり驚いたことを覚えている。
【極光の陶酔者】という二つ名を神様からもらったエイモンド・エイナルドはその名の通りナルシストである。
朝もホームの【光明の館】の自室で鏡(自費、八〇〇〇〇〇ヴァリス)を前に日々自分が最も美しく見えるポーズの研究を行っているほどだ。一度見たとき、ジョ◯ョ立ちっぽく見えたのは吹き掛けた。
まぁ確かにエルフである彼は誰の目で見ても容姿端麗であると言えよう。が、口癖のように出てくる発言には、思わず目を覆いたくなる。
そんなエイモンドさんであるが、実は一つだけ例外があったりする。
なんか、好きな人がいるっぽい
本人がそう言った訳ではないが、ギルドへ来ると、毎回必ずその人の所まで赴いて話をしにいくのだ。なんの話かは知らないが、まぁエイモンドさんの事だ。だいたいの予想はできる。
確か、相手は黒妖精の……あれ? なんて名前だったっけ?
「ミネロヴァよ」
「あ、そうです、その人です」
「あぁ。あのちょっとエロっぽい人っすね」
「へぇ~、エイモンドさんが……」
「ま、その人、エイモンドさんには全然興味なしみたいだけど」
「まぁ、そういうこと……っと、忘れてた。ハーチェスさん、ちょっとルナファさんとかに報告行ってきますね」
「うん、頼んだ」
そう言って、俺は受付に向かう。
「ルナファさん。 こんばんわ」
「あ、式君。 遠征は終わり?」
「ええ。まぁ、遠征って言っても、二十四階層までの小遠征ですけどね」
俺がルナファさんと呼んだ受付嬢の女性。本名はルナファ・テレース。茶色の犬耳と尻尾がキュートな犬人で、俺より一つ年上。
【バルドル・ファミリア】が零細だった五年前からの付き合いで、ハーチェスさんと俺とはその時からの付き合いだ。
まだ新人で、年も近いということから俺とは特に仲が良い。時折、二人で何処かへと出掛けることもある。
デートと思わないでもないが、あちらさんは俺のことを弟扱いしてるし、こちらもそういうのはないので悪しからず。恋人とかそんなんではない。てか、俺もう好きな人いるしな!
あえていうとすれば、ルナファさんは俺の癒しである。
「そういえば、新人の子が入ったんだってね」
「ええ。 将来有望ですよ」
「あはは。確かにね。【バルドル・ファミリア】に入ってる人たちって物凄い早さでLvアップしちゃうんだもの」
「アハハハ、ソ、ソウデスネー」
実際そうだったりする。
俺が【バルドル・ファミリア】に入って五年。
その五年の間に、【バルドル・ファミリア】は零細から上位派閥の軒を連ねるようになるほどの実力を伸ばした。
ハーチェスさんはその五年でLv4に。他の面々も二、三年で今のLvまで到達したのだ。
理由は簡単。俺である。
Lv4になった際、夢の中に現れた金髪ピアスの神様に聞いた話なのだが、俺の成長しやすいという体質は、他の仲間にも影響を及ぼすらしい。
流石に原作主人公並みにとはいかないが、それでも一般の他の冒険者よりも断然アビリティの伸びが凄いのだ。これに関しては、一度、神会において、バルドル様が神の力を使ったのではないのかと疑われたほどのことなのだ。
知っているのは俺だけ。決して口に出せない事である。
「そういえば、今日面白い子がいたのよ」
「面白い子?」
「なんかね、全身モンスターの血で真っ赤になった冒険者の男の子がそのままの格好でここまできたの。 もう、あれ見たときは笑いそうになったわ」
「ああ、俺らも見ましたよ。ダンジョンで」
俺もつい笑みを浮かべた。
つられて笑ったのではない。原作スタート。それが嬉しいのだ。
そのあと、一通りの報告を済ませてハーチェスさんたちの所へと戻る。
ハーチェスさんたちはもう庭の石碑の場所に移動していた。
近づいて分かったのだが、エイモンドさんの姿も見られた。
「あれ? 今日は早いんですね、エイモンドさん」
「お疲れ、式」
「フッ、どうやら彼女、僕に会うのが照れ臭くて帰ってしまったらしい」
「なに妄言はいてんのよ。全く脈なんてないでしょ、その人」
「一応聞いたっすけど、どうやら担当の冒険者を所属派閥まで連れていってあげた見たいっすよ」
「……」コクリ
「ていう口実で逃げたんじゃねぇのか?」
聞いてきたというならアルドアさんのいう通りなのだろう。
ただ、いくらアドバイザーとは言え、一人の冒険者にそこまでするとは珍しいな。
「女の人がそんな大の冒険者を連れていけるのか?」
「何でも、担当してるのはスウィードより下の男の子らしいっすけど……まぁ、詳しくは教えてくれなかったす。機密事項っすよ」
「フッ、まぁまた明日の朝に来ればいいだけさ」
話題の中心である本人は全く気にした様子もない。てか、この人、例え邪険にされても照れ隠しだと思ってしまうほどの人だ。俺達が気にするだけ無駄というものである。
ーーーーーーーーーー
「ラッカル、お疲れ。 留守番ありがとうね」
「おう! お前んとこの飯が食えるなら構わねぇよ!」
【バルドル・ファミリア】ホーム、【光明の館】
オラリオの北に位置する場所に建てられたホームで迎えてくれたのは懇意派閥である【ウィザル・ファミリア】の団長、ラッカル・オイードさんだった。
ファミリアのランクは俺達と同じCランクだが、構成員は七十名を越える派閥だ。
主神であるウィザル様とバルドル様は天界からの親友らしく、零細時代から仲が良い。
そして、うちの団長と向こうの団長も仲が良いのだ。
構成員の少ない【バルドル・ファミリア】が遠征の際には、こうして留守番に何人かの団員を貸してくれる。
で、うちはその礼として留守番してくれた人達とご飯食べることになっている。
「えっと……式さん、この人は?」
「【ウィザル・ファミリア】団長のラッカルさんだ。 これから、よく顔合わせるし、挨拶しとけよ」
「お! 式と、そっちが新しく入った新人か! 俺はラッカル、よろしくな!」
ハーチェスさんと話していたラッカルさんがこちらに気付き、豪快な笑みを浮かべて俺とスウィードに挨拶してきた。まぁ、慣れっこだ。こういう暑い人は。
「で? ラッカル。君はうちのホームの留守番をしてくれたのかい?」
「ん? やってねぇな」
おいこら
「……はぁ、いつものように飯だけ集りに来たのか……」
「おいおい、そんな言い方はねぇだろ? 留守番してたのはうちのファミリアで、俺はそこの団長だ。いけないこたぁねぇだろ?」
「……まぁ、いつものことか」
もう諦めたよ、と呆れたように笑うハーチェスさんに、「そうだろそうだろ! ガッハッハ!」と可々大笑するラッカルさん。
【ウィザル・ファミリア】も含めた全員がいつものように苦笑いを浮かべる中、ハーチェスさんが指示を出す。
「それじゃ、料理は頼むよパディ」
「畏まりました」
「おっしゃ! こいつの飯ぁうめぇもんなぁ~! うちに欲しいくらいだぜ」
「ハハ、あげないよ」
警備をしていてくれた【ウィザル・ファミリア】の面々を含めた、総勢十五人が【光明の館】へと入っていく。騒がしい声で俺達の帰還に気付いたのか、バルドル様が玄関まで迎えに来てくれていた。
「バルドル様、ただいま戻りました」
「うん、無事で何よりだ。 ウィザルの子も一緒に食べるんだろ? 歓迎するよ」
バベルでシャワーを軽く浴びてきたため、俺達はそのまま食堂へと向かう。
もうすでに作り始めているパディさんを、スウィードと、ヒルさんが手伝い、待つこと一時間。
ラッカルさん達と話している間に俺も配膳を手伝うことにした。
瞬く間に美味しそうな料理が並んでいき、席につく者達の目を奪っていく。
「……なぁ、パディよ。お前やっぱうちに来ねぇか?」
「こら、ラッカル。うちのライフラインを引き抜かないでよ」
ラッカルさんにジッと視線を向けたハーチェスさんに、わりぃわりぃ、と謝るラッカルさん。
だが、パディさんが抜けるなんてことになったらこのファミリアは壊滅といっていいだろう。
料理はだれがするか? 決まっている。嬉々としてリリアさんがやり始める。
そうなれば、俺達は死ぬ。いつか死ぬ。
考えただけでも恐ろしい話だ。
「それじゃ、みんな揃ったね」
奥に座ったバルドル様が全員が席についたことを確認し、うむ、と頷いた。
「では、いただきます」
その合図で、皆が一斉に食事を始める。
特にラッカルさんだが、食べ方が豪快だ。
こう、ガッツガッツという効果音が聞こえてきそうな様子だ。
「団長がすみません、いつも」と謝る他の団員に、眉を潜めて諦めたような顔をするパディさん。
俺も食いっぱぐれないように食事を進める。
両団長は食事を進めながら情報交換やこれからの予定などを話し、各団員同士も楽しく食事を続けていく。
あ、うちのバカがすみません
もうすぐ怪物祭だな、とかそんな話も出た。
結局、食事が終わってラッカルさん達が帰ったのは二時間後だった。
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スウィード・バルクマン
Lv1
力 I 82→H 111 耐久 I 86→H 121 器用 I 90→H 134 敏捷 I 71→H 103 魔力 I 0→I 0
スキル
【】
魔法
【】
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「……し、しししし式さんっ!!」
「お? スウィード、どうした?」
俺がリビングでハーチェスさんたちと寛いでいると、上半身裸のスウィードが上の部屋からかけ降りてきた。
確か、スウィードはバルドル様にステイタスの更新をされていたと思うが……
「ああ、なるほど。 そのことね」
何やら、分かったような顔で頷いているハーチェスさん。
他の面々も同じようにわかった顔をしていた。
と、ここで俺も気付いた。
「あれか、ステイタスの伸びが凄い、だろ?」
「は、はい! 自分でも何でこんなに伸びたのか……あの、これが普通なんですか?」
「んなわきゃねぇだろ」
ヒルさんの言葉に一蹴される。
そう、ヒルさんのいう通り、んなわきゃねぇのだ。
普通、【ステイタス】というものはこれほど簡単に上がるものではない。
それが一度の、しかも小遠征でここまで伸びたのだ。
……はい、俺のせいですね
「じ、じゃぁどうしてこんなに……」
「僕にも分からないんだよねぇ」
と、そこへスウィードの後を追ってきたのかバルドル様が上の部屋から降りてきた。
「何でかは知らないけど、僕の眷族の子供達は皆成長が早いんだ。 おかげで神会じゃ他の神から【神の力】を使ったとか言われる始末だ。 ……まぁ、どおせ式絡みのことなんだと思うけどね」
「ハハハ、カミサマ、キメツケハヨクナイヨー」
「式、動揺が隠しきれてないっすよ」
「……とにかくだ。 成長が早いってだけで良いことなのには変わりはない。 驚くのも分かるけど、これが【バルドル・ファミリア】だと思ってよ」
「わ、分かりました……」
「それと、口外はしないようにね。 色々と面倒だから」
最後にバルドルが付け加えると、それじゃぁ続きだ、と言って団員の【ステイタス】を更新していく。
俺が呼ばれたのは、ハーチェスさんの次、最後だった。
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ナンバ・式
Lv5
力 C 634→C 698 耐久 E 486→D 528 器用 C 679→B 703 敏捷 B 782→A 825 魔力 B 793→A 801
スキル
【武士英霊】
・長刀を扱う技術
・燕返し
【槍兵英霊】
・二槍流の技術
魔法
【ナイト・オブ・オーナー】
・物質強化
・物の私物化
・かけたものを扱う技術の修得
・詠唱式【騎士は徒手にて死せず】
【ゴルディアス・ホイール】
・召喚魔法
・騎乗の技術
・遥かなる蹂躙制覇
・詠唱式【来たれ、神威の車輪】
【プレラーティーズ・スペルブック】
・召喚魔法(召喚されるのは本)
・海魔召喚(数は消費魔力に比例)
・詠唱式【聖女を求め、狂った騎士は、禁忌の術に手をつける】
発展アビリティ
【耐異常】H 【武芸】H 【精癒】G 【騎乗】I
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「相変わらず、規格外だねぇ……」
俺のステイタスを共通語に直して羊皮紙に書き写してくれているバルドル様がおもむろにそう呟いた。
「……あの、バルドル様」
「ん? どうしたんだい?」
「……なんで、何もきかないんですか? その、俺の異常性とか、いろいろと……」
「それを聞いて、君は答えてくれるのかい?」
その返答に俺は黙り混む。
この世界とは別の世界で死んで、力をもらってやって来た。
……なんて、とてもじゃないが言えるようなことではない。
「君が何に対してそう感じているのかは、僕にはよくわからない。 けどね」
はい、と自身のステイタスが書き込まれた羊皮紙を俺に手渡したバルドル様は、よいしょ、と俺の前に座り込んだ。
「五年前のあの日、君が僕の恩恵をその身に刻んだときから式は僕の眷族なんだ。それだけは変わりないし、それだけが事実だ。なぁに、話したくなればいつでも話すと良い。 僕は永遠不変の神様ぢからね」
その言葉に、どれ程救われてきたか。
どれだけ守られてきたか。
「……俺は」
「ん?」
「……俺は、あなたの眷族になれて、本当に良かったと思っています」
「うん、そういってもらえると僕も嬉しいよ」
そう言って、神様は、優しく微笑んだのだった
後書き
ステイタスのとこ、前のときと何か違うとか思うかもですが、こらでOKなので、御容赦を
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