ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか
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迷宮の楽園
「ほわぁ~~~!!」
「ハッハッハ! スウィード、どうっすか? 驚いたっすよね!」
「……昔の式を思い出すな……」
「ちょ、ハーチェスさん、やめたくださいよ」
「フッ、確かに美しい。 けどまぁ、この僕には遠く及ばないのさ!」
「ハーチェス様との結婚式はここでしたいわ」
「……俺はもうなにも言わねぇぞ……」
「ヒル、頑張ってください」
「…………」
十七階層を下り、とうとう到着した十八階層。
ダンジョン内にいくつか存在するモンスターが生まれない階層だ。
まぁ、生まれないだけで、他の階層(主に下から)やってくるモンスターがいるため、一匹もいないとかそういうわけではない。
俺達【バルドル・ファミリア】の面々はそのまま十八階層内の西部の湖畔。そこに浮かぶ巨岩の断崖に築かれた街を目指すことになる。
「あれが【リヴィアの街】……」
「うーん、いつ見ても凄いとしか言えないよな……」
世界で一番深いところにある街
そう呼ばれるここ、リヴィアの街は、その美しい外観に似合わず、無法者の冒険者達が街を仕切っているのだ。なんせ、ここは中層。ここにいるのは、上級冒険者のみ。
さらに法がひかれているわけでもなく、流石というべきか、なんというべきか、腕っぷしの強い者が上!というなんとも分かりやすいところなのだ。
「ハーチェスさん、このあとはどうするんですか?」
「取り合えず、魔石とドロップアイテムを全部買い取ってもらうよ」
「え? ここで買い取り出来るんですか?」
俺とハーチェスさんの会話を聞いていたスウィードが驚いたような声をあげる。
「スウィード。 これから少し街を歩くから回りをよく見てみるといいよ」
ハーチェスさんのその言葉に、?、と首を傾げたスウィード。
俺達は、まあ見たら分かると説明し、そのまま街へと繰り出した。
ーーーーーーーーーー
「どうだ?スウィード。何か分かったか?」
「……高すぎる……」
ボソリと呟いたその声に、俺達は、「あぁ、やっぱりな」と苦笑いを浮かべるしかなかった。
そう、ここ、リヴィアの街は何でもかんでも法外な値段で売られているのだ。それも、桁が一つ二つおかしいんじゃないかと思うほどの、だ。
ダンジョンにもぐる冒険者はダンジョン内での食料や水、ポーションなどのアイテムを補給することができない。そこで、中層以下へ潜る冒険者はこのリヴィアの街でそういった物資を買っていくのだ。
だが、リヴィアの住民がそんな冒険者に突きつける選択肢は二つ。
金を払って生き延びるか、惜しんで死ぬか。
買いたくなきゃ買わなきゃいい。その代わりどうなっても知らねぇぜ? ということなのだ。
まぁあれだ。足元をみられるのだ。冒険者も命あっての物種であるため、結局は買うしかない。
そしてもう一つ。買い取り価格が安い。
ドロップアイテムや魔石の買い取りも出来るリヴィアの街だが、その価格は地上の半分以下。
頭が可笑しいのではないだろうかともはや笑いたくなるものだが、ここからしたに潜るファミリアにとっては、こうして買い取りをしてくれるだけでもありがたい。
魔石やドロップアイテムで重くなったバックパックを持ってここからしたに潜るのは効率が悪すぎる。
安いにしてもお金は貰えるし、荷物もなくなるため、ここは割りきるしかないのだ。
「あれ? でも、お金なんて持ってきていなかったような……」
「ここじゃ、物々交換か、証文を発行するのよ」
あれ?というスウィードの疑問に答えたのは、ハーチェスさんの隣にくっついているリリアさんだった。
「証文?」
「ええ。 冒険者の名前とファミリアのエンブレムから印影をとって、後で帰還した店の人が証文を持って所属派閥に請求にいくの」
「その逆に、買い取りの時は店が証文を発行して自派閥へ請求させるんだよ」
付け足すように加えたハーチェスさんは、ついには自身の腕に体を密着させだしたリリアさんのアプローチに困り顔。
あれで料理ができたら完璧なんだけどな
「へぇ~、そうなんですか……」
ほへぇ、とした顔で辺りの店をキョロキョロするスウィード。
途中、パディさんから雲菓子という十八階層で採れるひょうたんの形をして綿花のようにふわふわした漿果をもらい、そのあまりの甘さにリリアさんが顔を蕩けさせたり、魔石を売ったりして俺達【バルドル・ファミリア】はリヴィアの街を後にした。
目指すのは十八階層中央に生える中央樹、その根本の樹洞
「それじゃ、休憩はここまでだよ。 ここから先は、気を引きしめて。 それじゃ、いくよ! 」
迷いなく樹洞へと入っていくハーチェスさんに続く。
スウィードは緊張しているようで、少しだけ佇んでいたが、やがて覚悟を決めて身を投じる。
最後になった俺は一度十八階層の風景を目に写し、次には皆に続いて飛び込んだ。
ーーーーーーーーーー
「ハァッ!!」
『ギバァッ!?』
二十四階層。
目標としていた階層へたどり着くと、早速ホブゴブリンの群れと遭遇した。
ホブゴブリンは二M程の体躯を持ったゴブリンを大きくしたモンスターだ。
数は三匹だったため、ハーチェスさんとエイモンドさんの二人が片付ける。
十八階層を降りた俺達は、主軸メンバーをハーチェスさん、エイモンドさん、俺に変えてここまで進んできた。
ただ、全員が前衛であるため、ハーチェスさんとエイモンドさん、俺一人と前衛を交代しつつ、後衛をリリアさんたちに任せている。
「それじゃ、次は頼むよ」
「フッ、この僕の美しさにはどうやっても届かないだろうけどね!」
「分かりました。 けど、エイモンドさんの言ってることは分かんないです」
前髪をかきあげるうちのバカは気にせず、今度は俺が前衛に出る。
と、そこで後ろに控えていたリリアさんがある提案をしてきたのだった。
「そういえば、スウィードは式が憧れなのよね?」
「はい! いつかは、式さんみたいになりたいです!」
「それじゃ、式。スウィードに本気を見せてあげたら? 今は私たちしかいないし」
「おお、式のか。俺も色ボケエルフに同意だ」
いつもは衝突する二人が、今回は珍しく意見があった。
その流れにのって、アルドアさん、デルガさんも同意する。
「…………まぁ、この僕が妬くくらいには、式は強いからね……」
「ああ。なんせ、団長の僕を差し置いてLv5になぅたんだものね」
「ちょ、ハーチェスさん。 言葉に刺がありますよ!」
あれだ、黒い笑を浮かべてるってやつだ!
「……はぁ、分かりましたよ。 ……で?スウィードの手本だから刀だけでいいんですよね?」
「……そうだな、どうせだから槍の方も見せておいてあげて。 スウィードもファミリアで一番強い人の実力を知っておいた方がいいしね」
槍の方は準備してきた?という質問に、俺はため息をついて頷いた。
こうして、ダンジョンにもぐる際には不測の事態に備えて部屋の槍を三本とも持ってきているのだ。
長槍【破魔の紅薔薇】、短槍【必滅の黄薔薇】、そして、必滅の黄薔薇を模して【ヘファイストス・ファミリア】に作ってもらった短槍、【アレルヤ】
アレルヤのみをパディさんに預け、他の二本は背中の袋に【物干し竿】と共にしまっているのだ。
「それじゃ、エイモンド、頼むよ」
その言葉に、エイモンドさんはフッ、と笑うとやれやれといった様子で肩をすくめて一歩前に出た。
「スウィード、僕の魔法、そしてこの僕の美しさを篤と見るといい!」
「は、はぁ……」
「いいから早くやりなさいよ」
リリアさんの一言に、分かっているさ、と気障に笑って見せた。
「【我を見よ、そしてこの美しさに酔え】」
他の面々から一歩離れた場所でエイモンドさんが詠唱
超短文詠唱で練り上げられた魔力は、うっすらとエイモンドさんの体を徐々に包んでいく
「【ゴールデン・フラッシュ】!」
瞬間、エイモンドさんを包んでいた魔力が金色の光を放った。
「うわっ!?」
「……相変わらず眩しいわね、これ。 何とかならないの?」
「リリア、無理っすよ。 こればかりは仕方ないっす」
「まぁ、これに助けられたこともあったから何とも言えねぇよな」
「……」コクリ
「夜に使ってくれれば、便利なんですけどね」
と、まぁスウィード以外の面々は別段驚いた様子もなく、その光に目を細目ながら会話を続けた。
【ゴールデン・フラッシュ】エイモンドさんが持つ魔法の二つのうちの一つだ。
効果は簡単。ただ金光を放つだけ。
だがしかし、この光、どうやらモンスターには目障りのようで、この魔法を使うと一斉にエイモンドさんに襲いかかってくるのだ。
つまり、ヘイトを集める魔法。
この魔法を使えるエイモンドさんは、モンスターに囲まれるとうちの回避盾として活躍してくれるのだ。
避けて避けて、そして斬る、突く。
それで怖くはないのかと思うかもしれないが、心配はない
【陶酔】という発展アビリティを持つそうだ。何でも、恐怖への耐性が付くらしく、モンスターの咆哮によって強制停止も起こさないらしい。
まぁ、つまり何が言いたいのかと言えば……
「……来ましたね」
「デッドリー・ホーネットか……」
通路の奥から現れたのは巨大な蜂のモンスター、デッドリー・ホーネット。
その数は十二匹。
「それじゃ、頼んだよ」
「はいはい、了解っと」
エイモンドさんの前に出て、【物干し竿】を袋から取り出すと、鞘から抜いて構える。
鍔のない、刀にしてはとてつもなく長い長刀。その長さは一・五Mを越える。
いつ見ても長いよな、というハーチェスさんの言葉を背後に、俺は駆け出した。
狙うのは先頭を飛翔する一匹。肩に峰を乗っけた状態で走り出し、それを袈裟斬りに。
続く二匹目を返す刀で振り上げて真っ二つにし、三匹目を突きで仕留める。
ここまで、実に二秒。
残り九匹のうち、三匹が同じ高さで飛んでいたため、これを大薙で一気に斬る。
【物干し竿】の長さ故の所業である。
たった一人に、それもたったの数秒で半分の仲間を失ったデッドリー・ホーネットは俺を危険な敵と判断したのか、標的をエイモンドさんから俺に変えた。
だが、この間にもう二匹、【物干し竿】で繰り出した突きで仕留めた俺は残る四匹のうち、三匹に狙いを定めた。
半身の構えを取り、【物干し竿】の峰を地と水平になるように構えた。
「スウィード! よく見ておけよ!」
「え、あ、はいっ!」
ハーチェスさんが何かを叫んだが、よく聞こえない。
意識は三匹の蜂。
一度に三太刀。佐々木小次郎の秘剣。
「秘剣ーー燕返し」
動いたのは一瞬。しかも、刀を振ったのは一度だけ。
だがしかし、四匹いたデッドリー・ホーネットのうち、三匹の体にそれぞれ一筋の線が走った。
縦に、斜めに、あるいは横に。
未だに飛翔を続けていた三匹は、次の瞬間、体が二つに割れ、灰と化した。
残る一匹も頭の部分を落とし、軽く【物干し竿】を振って血を払うと、俺はそれを鞘に戻した。
「ふぅっ、終わった終わった」
「ほんと、とんでもないわね、式は」
「まぁ、昔っからそうだしね。 あ、お疲れ、式」
ハーチェスさんとところまで戻ると、労いの言葉を掛けられた。
だが、これから第二戦、今度は槍でやらないといけないのだ。
「速いっすよね~」
「……チッ、ぜってぇ追い付くかんな」
「ヒルは負けず嫌いですからね」
「……」コクリ
「まぁ、これでもLv5ですし。 あ、パディさん。【アレルヤ】を下さい」
アルドアさんたちにも声をかけられながら、パディさんに短槍、【アレルヤ】を手渡される。
「…………」
「ん? どうした? スウィード」
と、ここでスウィードがデルガさんのように黙り混んでいた。
というか、あれだ。放心状態みたいで、目を見開き、口をポカンと開けている。
「フッ、当然、この僕の光輝く姿に心底見惚れ……」
「なんですかあれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
エイモンドさんの言葉を遮り、二十四階層にスウィードの叫びが響き渡った。
「何って……俺の本気?」
「何で疑問系なんですか!? てか、最後のあれは!?」
「スウィード、驚くのは分かるが落ち着け。 またモンスターがよってくるから」
ハーチェスさんに諫められ、ハッとしたスウィードは一言、すいませんと謝った。
「よし、それじゃあ話すけど、あれが式が刀を使ったときの技……みたいなものかな。僕も、初めて見たときは驚いたし、他のみんなもそうだ」
うんうん、と本人たちが頷く
「で、だ。あれは……燕返しは、一度に三回斬る技らしいんだ。そうだよね、式」
「はい。そうですよ」
「そ、そんなことできるんですか?」
「少なくとも、式には出来る。他の人で出来るって人は聞いたことがないしね。ま、式にしか出来ないかもしれないし、他の人が秘匿してるのかもしれないけど」
「は、はぁ。とにかく、式さんが凄いってことですね?」
「うん。式だからしょうがない」
ちょっと、ハーチェスさん。その言い方はどうかと思いますが?
「まぁ、そういうわけで、次は槍だ。 エイモンド、もう一度お願いできる?」
「フッ、お任せあれだよ!さぁ!もっと僕を見て!!」
先程と同じ詠唱で再び光だすエイモンドさん。
そんな光にまたもや釣られてやってくるデッドリー・ホーネット。
その数、十匹。
先程よりも少ないが、よく考えてみると、この辺に計二十二匹のデッドリー・ホーネットがいたことになるのか……
蜂蜜でも作っているなら、可愛げもあるのにな、と冗談みたいなことを考えながら前に出る。
右手には長槍【破魔の紅薔薇】、左手には短槍【アレルヤ】
紅色と銀色の槍を構えた俺は寄ってきたデッドリー・ホーネットを迷わずに串刺しにする。
後は単純な作業だ。
間合いを生かし、突く、斬るを繰り返せば、紅と銀の光の円弧が刻まれる。
瞬く間にデッドリー・ホーネットの群れを全滅させた俺は先程と同じように血を振って落とし、【破魔の紅薔薇】を袋に、【アレルヤ】をパディさんに返した。
「……もう、何も驚きません……」
「っていってるところに悪いっすけど、式はあれの他に魔法も使えるっすよ」
「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
「スウィード、煩ぇぞ」
またもや響いたスウィードの声に、チッ、と悪態をつくヒルさん。
あの反応、懐かしいなぁ、と一人でうんうんと頷いているハーチェスさん。
で、さりげなくハーチェスさんの腕に絡まり付いているリリアさん。
なんか、あの二人だけおかしい気がする。
「さぁ、それじゃ、リヴィアまで引き返すよ。 あと、歩きづらいよ、リリア」
リリアさんが離れると、俺達【バルドル・ファミリア】は直ぐに十八階層へと引き返す。
今日はあの階層の東の森で野宿する予定なのだ。
宿はかなりの金をとられるので、却下となっている。
ーーーーーーーーーー
「それじゃぁ、これから地上へ向かうよ」
あれから、俺達は無事に十八階層へと辿り着き、予定通りに東の森で野宿した。
料理はパディさん、てか準備云々も含めて、全てパディさんが嬉々としてやってくれたので、かなり楽だった。一家に一人、パディさんである。
途中、リリアさんがパディさんの料理を手伝おうとするのを全員で必死に止めて、お腹の危機を逃れたというエピソードもあったが、まぁ、他は何も問題なかった。
強いて言えば、リリアさんがハーチェスさんに夜這いをかけたことぐらいか?
いつものことなのでもう慣れているが
と
そんなこんなで、俺達の小遠征は二日目を迎え、これから地上へと戻るのだ。
ホームではバルドル様と懇意派閥である【ウィザル・ファミリア】の人達が留守番してくれている。
帰ったら【ウィザル・ファミリア】の面々にパディさんの料理をおごることになっているので、夜までには戻る予定だ。
あそこの団長はハーチェスさんと仲が良いし、明るい人なのでさぞかし楽しい夕食となるだろう。
布陣はLv3のリリアさん達を中心とし、スウィードも弓で援護に入る。
体を休めたため、絶好調なヒルさんは最初からクライマックスだぜぇ!!とでも言いそうなくらい動き回っていた。
それに触発されたアルドアさんもスキルと魔法を使うわでハイテンション。
何か危ないお薬でも使ったのかってくらいの勢いだったことをここに明記しておこう。
ーーーーーーーーーー
「ーーーーーーーーーぁぁーーーー」
「ん?」
丁度、二階層へ向かう階段に指し当たった時だった。
微かに、誰かの叫び声が耳に届いた。
俺の他にも、スウィード以外のメンバーは聞こえたいたらしく、通路の奥に目をみやった。
「あ、あの、どうし……」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
「!?!?!?」
通路の奥から現れたのは赤
どす黒い赤が奥から走ってきた。
その正体はちょうど、スウィードと同い年くらいの少年。
多分、モンスターの返り血なのだろう、それをもろに浴びたのか、全身が血で染まっていたのだ。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「おっと!」
血が付かないようにうまいこと避けると、その少年はまるでこちらに気付いていない様子で階段をかけ上がっていく。
呆然とした様子でその背中を見るハーチェスさんたちだったが、俺はここで五年前、前世の記憶を少しだけ思い出した。
確か、物語の始まりはこんなのだったな、と
思わず、笑ってしまった。
原作が、始まる……
後書き
燕返しですが、作中では一度に三太刀ということで、三匹斬れるという勝手な解釈で進めております。
アニメで、アサシンさんは一人が相手で使っていたので、出来るのか
という詳細は不明ですが、まぁ、二次創作ということで我慢してください。
あと、槍の戦闘描写が雑とか言わないでね?
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