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遊戯王GX 〜漆黒の竜使い〜

作者:ざびー
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episode4 ーDancing Of Harpieー

 
前書き
15000文字いくってどーゆー事よ……。

※すいません。手違いで、下書きの方を投稿してしまいました。 

 
「あ、レンカさん!」

プロデュエリスト同士のデュエルが始まる少し前、いつもの控え室にてレンカはデッキ調整も兼ねて自分の現し身とも言える『レッドアイズ』デッキを弄っていた。

「ちょっと、レンカさんってば!」

名前を呼ばれ、ハッと我に帰ると目の前にはマネージャーである橘 楓が立っていた。
恐らくデッキ弄りに夢中になっていたため、彼女が入ってきたことに気がつかなかったのだろう。内心で軽く反省すると、何の用だと目で訴える。

「ようやくこっち見てくれたましたね。
今日の対戦相手と偶然会ったんですが、ちょっと大物でしたよ。」

本来なら、対戦日程が組まれる早くても一週間前くらいには対戦相手となる決闘者の名前が明かされる。だが、稀にソレが決闘が始まる直前まで知らされないことがある。例えば、対戦日の調整が合わなかったり、相手が相当の大物だったりする場合だ。
今回の場合は後者。過去に輝かしい栄光を残した人物なのだろう。
そして、彼女が少し上機嫌であるのもその人物に合ったからと推測される。
で、肝心要のその決闘者とは、一体……?

「教えません。」
「へ?……なんで?」

てっきり教えてくれるものとばかり思っていたレンカは自分のキャラにーー合わないーー情けない声を出してしまう。それに気を良くしたのか彼女は、ニンマリと笑みを作り、控えめなヒントを出してくれる。

「そうですね。ヒントは『真紅眼の黒竜』に関係の深い人……ですかね?多分。」
「……レッドアイズと?」

レッドアイズと関係が深い……。
そうなると考えられるのは、一人だ。
伝説の決闘者、キング オブ デュエリストなど様々な敬称で呼ばれる武藤 遊戯さんの友人にして、伝説の時代を生きた一人

ーー城之内 克也

『真紅眼の黒竜』の使用者としてもっとも有名な決闘者であり、レンカが密かに尊敬の念を寄せる一人でもある。

「おっと、そろそろ時間ですよ。」


ちょうど目星がついたところで時間を迎える。
プロの証しとも言えるブラックデュエルディスクを装着し、フードを眼深く被り、今から敵対する未知の決闘者ーー城之内さんだといいな。ーーとの決闘に覚悟を決める。

「健闘を祈ります。」

彼女の応援を背に受け、控え室を出、決闘の場へと向かう。
その足取りはいつもより軽かった。


ちなみに、対戦相手を推測する際、『真紅眼の黒竜』の元々の所有者であるダイナソー竜崎の名前も上がったのだが候補から即刻消去されたとかなんとか。




◆◇◆

「さぁ!!今宵もやってきたこの時がぁ!!」

熱気渦巻く毎度おなじみ海馬ドームに紅いジャケットを着たMCの声が響く。

「まず、登場するのは未だ無敗記録を保持する孤高の決闘者、漆黒の竜使いこと、レンカだぁ!!」

フィールドの一部がせり上がり、姿を見せたのは全身を漆黒のローブで覆い隠し、未だ謎の多い決闘者、レンカ。
そして、レンカの登場から少し遅れ、スモークが噴射され、人型のシルエットが浮かびあがる。
そして、姿を見せたのはレンカが望んだ城之内 克也……

「レンカに挑むのは、伝説の決闘者の一人……」

ではなく

「孔雀 舞だァ!!」
「へ?」

煙が晴れ、現れたのは胸元を大胆に開いたビスチェを着たナイスバディな金髪のお姉さん。

そう、孔雀 舞だ。

そして、彼女を眼にした途端、レンカは本日二度目、情けない声を出し、がっくり項垂れる。だが、そんなレンカなどお構いなしに実況は続く。

「孔雀舞選手は本来はアメリカのプロリーグ、ナショナル・デュエル・リーグで活躍する決闘者ですが、今回は特別!レンカの無敗記録を破るため、わざわざ日本にやって来てくれたのです!!」

まさかの決闘者の登場に会場のテンションは早くも最高潮へと達する。
そして、舞はファンサービスのためか投げキッスを客席へと一つ送ると、彼女の対戦相手、レンカへと向き直る。

「へぇ、あんたがレンカねぇ。噂通り、顔すら見せやしない。」
「……。……はぁ。」

一拍間を置いた後、深々とため息を吐く。
理由は至極簡単。
てっきり城之内 克也に闘えると思っていたら、別のーー同じくらい有名なのだがーー決闘者だったのだ。楽しみを見事に裏切られたら、落胆するのは誰も同じだろう。

(確かに孔雀 舞と言えば城之内の嫁とか言っとき噂になったけれども……。真紅眼の黒竜と関係なくないですか!?)

のちに楓は「レッドアイズと城之内さん、城之内さんと孔雀 舞さん。ほら?関係あるでしょ?」とのほほんと笑いながら語るのだが、今のレンカは知る由も無い。

「ちょっと!何アンタ!?私を見て、ため息吐いてんのよ!!」

そして、レンカと同様にーー全く違う理由だがーー納得がいかないのが、対面して早々にため息を吐かれた孔雀 舞だ。
腰に手を当て、憤慨の意を示す。
その格好すら様になっているが、レンカは怒っている舞をさして気にもとめず、「関係ない」と一蹴。
もっとも内心では、「城之内さんと会えると思って少し浮き足立っていたから。」と思っていたりしているがそんな事言えるわけなく、素っ気ない返答となってしまう。

そして、素っ気なく返された舞は、挑発と受け取ったとかのか闘志の中に殺気が混じる。


『おっと?両者の準備が整ったようだぞ?それでは、今宵のデュエルをはじめるぞぉ!」

二人の間に流れる不穏な空気を察したのか、時間が押しているのかデュエルを始めようとする。


「今夜の闘いを制するのは、今だ無敗記録を保持する『漆黒の竜使い』レンカか!はたまた、華麗なる踊り子を従え、アメリカからやってきた孔雀 舞か!
今!闘いの火蓋が切って落とされるぅ!!」

決闘(デュエル)!!」
「……決闘」

MCの合図を皮切りに、決闘盤を構え、デュエルが開始される。そして先に動いたのは、レンカ。

「……先行、ドロー。
手札からマジックカード『紅玉の宝札』発動。手札の『真紅眼の黒竜』を捨て、二枚ドロー。さらに追加エフェクトによってデッキから『真紅眼の黒炎竜』を墓地に送る。」
「へぇ、レッドアイズを召喚せず、墓地送りね。」

舞はレンカのデュエルを初めて見たのか開始早々墓地へと送られた『真紅眼の黒竜』を見て目を丸くする。

「さらに『竜の霊廟』発動。デッキから二体目の『真紅眼の黒竜』を墓地に。さらに『真紅眼の飛竜』を墓地に送る。
カードを二枚伏せる。」
「じゃあ、私のター ーー」
「まだ。墓地の『真紅眼の飛竜』のエフェクト発動。通常召喚を行っていないエンドフェイズ時、墓地のこのカードを除外し、墓地に存在する『レッドアイズ』を特殊召喚する。」

地面から黒炎が吹き上がり、一体の翼竜が空へと舞い上がる。

「ーーー来い、『真紅眼の黒竜』!」

漆黒のドラゴンが主人の呼びかけに応えるかのように勇ましい咆哮をドーム内へと轟かせる。

「おおっと!これは、いきなりエースモンスターの登場だぁ!!」
「ッ!?いきなり最上級モンスターだって!!」

1ターン目からの最上級モンスターの召喚にさすがの孔雀 舞も驚きを露わにする。

「わざわざ私が呼ばれたわけね。あの野郎から声がかかるわけだ。」

一人納得した様子の舞。
対するレンカはわけがわからず首を傾げている。

「アンタには、関係ないわよ。
さて、私のターンね。ドロー!いくわよ、私は手札の『ハーピィ・クイーン』の効果発動!このカードを墓地に送り、『ハーピィの狩場』を手札に加えて、そのまま発動するわ。」

幻影でできた森が周りを囲み、ドーム内が圧倒言う間に深い森林に呑み込まれる。

「ッッ!?」
「ふふ、ようこそ。そして、ハンティングの始まりよ。」

両腕を広げ、自らのホームグラウンドに来た事を歓迎する素振りを見せると同時に、舞 はペロリと舌を舐め、獲物を見定める。

「おおっと、突然出現した巨大な森で二人の姿が見えなくなってしまったぞぉ!?
だが、安心だぁ!二人のデュエルの様子はスクリーンにバッチリ映し出されるぞ!」

MCが言うが早いか、既にドームの四方に設置された大型スクリーンには、欝蒼と茂る森の中で対峙する二人の決闘者の姿が映し出されており、観客の視線はそれに釘付けとなっている。
そして、現在は孔雀 舞のターンだ。

「私は『ハーピィ・チャネラー』を召喚!
そして、この時『ハーピィの狩場』の特殊効果が発動するわ。
『ハーピィ・レディ』が召喚・特殊召喚された時、フィールド上の魔法・罠カードを一枚破壊する!」
「ッ!……けど、召喚されたのは、『ハーピィ・チャネラー』!」

召喚されたのは、ハーピィ・レディに酷似したモンスターなのだが、正真正銘の別モノだ。だがーー

「ふふ、甘いわね。『ハーピィ・チャネラー』はフィールドと墓地に存在する時、『ハーピィ・レディ』として扱うのよ。
よって、効果成立!あんたの伏せカード、破壊させてもらう!」

上空から急降下してきたハーピィ・チャネラーがその鋭い鉤爪でレンカのカードを引き裂いていく。だが、レンカもただやられるわけではなくーー

「チェーンして、リバースカードオープン『レッドアイズ・リターン』発動!
墓地から『レッドアイズ』モンスターを特殊召喚する!
来い、『真紅眼の黒炎竜』!」

火炎を巻き上げ、上空に羽ばたいたのは、レンカの使役する真紅眼の黒竜と瓜二つのドラゴン。
早速この二体がレンカのフィールドに並ぶ事は珍しい事ではなくなったのだが、舞はそれをやすやすと行うレンカに舌を巻く。

「やってくれるじゃない。
私は永続魔法『ヒステリック・サイン』を発動!デッキから『万華鏡ー華麗なる分身ー』を手札に加え、そのまま発動!
私のフィールドに『ハーピィ・レディ』が存在する時、デッキから『ハーピィ・レディ』か、『ハーピィ・レディ三姉妹』を一体特殊召喚できる!
舞え、『ハーピィ・レディ1』!」

天が万華鏡のように七色の光を放ち、見た目麗しい鳥人が舞うように降り立つ。

「そして、この瞬間、『ハーピィの狩場』の効果発動!あなたのもう一枚の伏せカードを破壊する!」

上空へと舞い上がったハーピィ・レディは獲物へと狙いを定め、急降下。先と同様その鋭い爪で切り裂かんする。

「リバースカードオープン!『竜魂の城』発動!墓地の『真紅眼の黒竜』を除外、『真紅眼の黒炎竜』の攻撃力を700ポイントアップさせる。」
「だけど、関係ないわ!そいつは破壊よ!」

地面を隆起させ、現れたのは土塊の塔。塔の頂上部から光が放たれ、『真紅眼の黒炎竜』へと吸い込まれていく。そして、役目を終えた塔はガラガラと崩れ去り、ただの土へと帰す。
だが、レンカは自分の布陣をさらに盤石なものにするため『竜魂の城』のさらなる効果を発動させる。

「……『竜魂の城』が破壊された時、除外されているドラゴン族モンスターを特殊召喚する。舞い戻れ、『真紅眼の黒竜』!」

三度、火炎を巻き上げ、漆黒のドラゴンが宙を舞う。
自分のフィールドに並んだ三体のドラゴンを見、満足気な表情をするレンカに対し、舞は憎々し気にドラゴン達を眺める。

「くっ、やってくれるじゃない!けど、それくらい誰だってできるってこと魅せてあげる!
私は『ハーピィ・チャネラー』の特殊効果発動!手札の『ハーピィ』を捨て、デッキから『ハーピィ』と名のつくモンスターを守備表情で特殊召喚する!私は『ハーピィ・ハーピスト』を捨て、『ハーピィズペット竜』を特殊召喚!」

森の奥からハーピィの呼び掛けに従い現れたのは爛々と眼を輝かせた紅い痩躯の竜。だが、その首には所有物であることを示すように鎖が繋がれた首輪がかけられている。

「『ハーピィズペット竜』は『ハーピィ・レディ』一体につき、攻守を300ポイントアップさせる!。さらに、『ハーピィ・レディ1』が存在する限り、風属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。それだけじゃないわ。『ハーピィ・狩場』の効果によって、鳥獣族モンスターの攻撃力は200ポイントアップさせる!」

『ハーピィ・チャネラー』と『ハーピィ・レディ1』の攻撃力はそれぞれ500ポイント上昇し、1900と1800に。
そして、『ハーピィズペット竜』は攻撃力は2800。守備力は3100まで上昇する。

「まぁ、攻撃力で敵わないのが残念ね。私はカードをニ枚伏せるわ。そして、このターンのエンドフェイズ時、墓地に送られた『ハーピィ・ハーピスト』の特殊効果が発動される。私はデッキから攻撃力1500以下のレベル4・鳥獣族モンスター一体を手札に加える。私は『ハーピィ・ダンサー』を手札に!」

盤石な守りを築きつつ、デッキ圧縮と手札増強を行う舞のプレイングを見て、今まで闘ってきた中で一番の強敵になるだろうと感想を抱くレンカ。
だが、それをあまり感情に出すことなく、ーーと言ってもフードに隠れ表情などわからないのだがーー自分のターンを始めるため、デッキトップへと指をかけ、ドローする。

「ドロー。……『真紅眼の黒炎竜』を再度召喚する。これにより、黒炎竜は効果モンスターとなり、本来のエフェクトを得る。」

本来の力を取り戻したことへの歓喜か、森全体を震わせるほどの咆哮を轟かせる。

「さらに、手札の『黒鋼竜』のエフェクト発動。フィールド上に存在する『レッドアイズ』に攻撃力600ポイントアップの装備カードとなる。
『真紅眼の黒炎竜』に装備!」

仲間の支援を受けた黒炎竜は攻撃力3000となり、かの『青眼の白竜』と攻撃力が並んだ。

「……バトル!一体目の『真紅眼の黒竜』で『ハーピィ・レディ1』を攻撃!黒・炎・弾!」
「リバースカード、オープン『強制終了』!私は『ヒステリック・サイン』をコストにバトルフェイズを終了させる!」

レンカの真紅眼の黒竜の攻撃は不可視の障壁に阻まれしまい、あえなく後退させられる。

「……ターンエンド。」

「このエンドフェイズ、墓地に送られた『ヒステリック・サイン』の効果発動!
私はデッキから『ハーピィ』と名のつくカードを三枚まで手札に加えるわ。」
「ッ!」

選ばれたカードは『ハーピィ・チャネラー』、『ハーピィ・ハーピスト』、『ハーピィ・レディ 鳳凰の陣』の3枚。
驚異の3枚サーチに珍しく驚きを露わにするレンカ。それと同時に孔雀 舞という決闘者のレベルの高さを実感させられる。

ーー恐らく今まで闘ってきた中で一番強い!

「さぁ、まだあなたのターンってわけだけど何かあるかしら?」
「……。」

勝ち誇ったような表情を浮かべる。だが、そこには、油断や慢心など感じられない。
レンカは何もする事はない、むしろできないので素直に首を横に振る。

「じゃあ、私のターン、ドロー!」

これで舞の手札は5枚。対するレンカの手札は2枚だ。今まで手札アドバンテージを取り続けていたレンカはこの手札差に焦りを感じる。

「行くわよ、『ハーピィ・ダンサー』を召喚!『ハーピィ・ダンサー』もチャネラーと同様に『ハーピィ・レディ』として扱うわ。そして、『ハーピィ・レディ』が召喚された事で『ハーピィの狩場』の効果が発動。この効果は強制なのよね。私は自分の『強制終了』を破壊するわ。」

『ハーピィの狩場』は『ハーピィ・レディ』を召喚・特殊召喚する度に魔法・罠カードを破壊するという強力な効果を持つ反面。この効果は強制効果のため、相手の場に破壊できるカードが存在しない時、自身のカードを破壊しなければならない。
それを見越し、レンカはあえてカードを伏せずにいたのだ。

もっともそれくらい舞とて織り込み済み。むしろ、強力な分、コストが重い『強制終了』は今の舞の場にとって場を圧迫するだけ。破壊できてラッキーとすら思っている。

「そして、この瞬間こいつの発動条件を満たしたわ!
発動、『ハーピィ・レディ ー鳳凰の陣ー』!!」
「ッ!?」
「な、なんだぁ!これはぁ!?」

レンカは驚愕に目を剥き、MCは本来の役割を忘れ声を上げる。
ドームに居る全員が空中へと目を向ける。

三体のハーピィ・レディが宙を華麗に舞い、そして、金色に光り輝く方陣が描かれる。
魔法陣の完成を見届け、舞が声高らかに宣言する。

「鳳凰の陣の効果!
私の『ハーピィ・レディ』一体につき、アンタのモンスター一体を破壊する!」

舞の場には『ハーピィ・レディ』は三体。そして、ちょうどレンカの場に存在するモンスターも三体。

魔法陣が強く輝き、魔力を帯びた突風がドーム内に吹き荒れ、レンカのドラゴン達を吹き飛ばし、引き裂いていく。
圧倒いう間にレンカのフィールドにカードが存在しなくなる。
レンカは即座に損失を取り戻そうとカードを発動させようと、手札からカードを一枚抜き取ろうとするが、ふとその手が止まる。そして、再び上空を見上げる。

そこにはあの魔法陣が健在、むしろより多くの魔力を集めていると言っても過言ではない。
瞬間的に察する。

ーー何か来る!と。

「鳳凰の陣のもう一つの効果!
破壊したモンスターの中で最も攻撃力の高いモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」

レンカのレッドアイズは一律に攻撃力2400。
つまり、一度にライフポイント4000のう内、半分以上ものダメージを直接受ける事になるのだ。

「さぁ、正体を見せない!!」

舞の力強い宣言とともに魔力を帯びた風が渦巻き、翼竜の姿を形取る。

「ッ!!」

その姿はまさしくレンカの操るモンスター、レッドアイズそのもの。

「やれッ!」

命令が下され、レッドアイズが主人(レンカ)へと牙を剥く。

「ッ!アァァァァ!?」

2400ものダメージは凄まじい衝撃となり、レンカを襲い、その小柄な体を後方へと大きく吹き飛ばす。
そして、同時にレンカにとって、最大の悲劇をもたらす。

「くっ……うぅ……。」

吹き飛ばされた際に背中を打ったのか、腰あたりを摩りながらゆっくりと立ち上がる。
その時、ふと違和感を感じる。

(あれ、明るい……。視野が広い?)

もしや、と思い、頭のあたりをまさぐる。そして、懸念は最悪の形で確信へと変わる。

レンカを吹き飛ばした衝撃は同時に頑なにレンカの素顔を隠していたフードをも剥ぎ取ったのだ。
そして、フードの奥に隠されていたのは、艶のあるしなやかな紅い髪を後ろで結んだ少女。
ついに顔を現したレンカへとドーム内の人という人は興味の視線を浴びせる。

「…………ひっ⁉︎」

観客の誰ともわからない人と視線が交差し、思わず小さな悲鳴を漏らす。
心臓が早鐘を打ち、次第に眩暈が襲う。胃からモノがこみ上げてくる不快感と息苦しさに思わず膝をつき荒い呼吸を繰り返す。

「こ、これはどういうことだぁ?だ、大丈夫か、レンカ選手!?」

焦りと不安をないまぜにしたようなMCの声がドーム内に響くが眩暈のせいかひどくゆっくりと聴こえてくる。

レンカがフードで素顔を隠し、頑なに正体を隠した理由こそが今のレンカの急激な不調の原因である。

それはパニック障害の一つ、あがり症。
極度の緊張状態に起こる病気の一種だが、レンカの場合は特に大勢の人の前に立つ場合だ。
プロデュエリストとなるために必ずと言っていいほど、対処しなければならない課題であったコレはマネージャーである橘 楓と相談した結果、思いついたのがフードを被り、外界からの情報をほぼ全てシャットアウトする事。結果的に課題をクリアし、平常通り決闘できるまでになったものの、克服したわけではない。

プロとなってから頑なに避け続けていたためにプレッシャーに対する抵抗が弱っていたのか、発作は早速レンカ一人の力では収拾がつかないほどまで悪化していた。

そして、床へとしゃがみこみ喘ぐレンカを冷静に見据える人物が一人。今回のレンカの対戦相手、孔雀 舞。

(なるほどね。……あのお節介が伝えたかった事はこれね。)

舞の脳裏にデュエルが始まる前、偶然に出くわしたレンカのマネージャーと名乗る女性が言っていた言葉の意味を理解する。

ーーレンカさんの事よろしく頼みますね。とっても繊細な子なので。けど、普段はとっても可愛いんですよ!居眠りしてる時とかですね……ーー

と、同時にいきなり恋人自慢の如く有無を言わさずマシンガントークを放ってきたあの女(橘 楓)に対する殺意がぶり返す。
しかし、現在の状況は舞にとっても、よいわけではない。おそらく、このまま放置すればレンカは試合続行不可能となり、舞の勝利となるだろう。だが、わざわざ遠く離れたアメリカから来ているのだ。そんな勝ち方で納得できる舞ではない。むしろ、歴代の決闘者に名を連ねる者としてのプライドが許さない。

(そもそもこんな不完全燃焼で終われるわけ、ないじゃない!)

すぅ、と大きく息を吸うと

「あんた、いい加減にしなさい!」

舞からの叱咤がレンカへと向かって放たれる。

「……えっ?」

思ってもみなかった言葉にレンカは苦しそうに胸元を抑えながらも舞を見上げる。

「あがり症だが、コミュ症だか知らないけどデュエルできないなら、この舞台に立つんじゃないわよ!」
「…………くっ⁉︎」

舞は表情を歪めながらも睨みつけてくるレンカを確認し、少し安堵する。

(ふん、一丁前に決闘者ととしてのプライドは持ってるってわけね。だったら、これくらい気合でなんとかしなさいよ!)

レンカの怒りを煽るため、尚も言葉を続ける舞。

「こんな事くらいでへこたれる決闘者にその『真紅眼の黒竜』はふさわしくないわよ!」
「…………くっ。ふざ、……、なっ。」

喘ぎ苦しそうひしながらも、怒りの言葉を吐露するレンカ。
怒りで緊張を忘れさせる。これが舞が考えた方法。無謀な賭けだが、舞は上手くいくと確信していた。

「へぇ、「ふざけんな」、ねぇ。だったら、私を倒してみせなさいよ。
私の知る『真紅眼の黒竜』使いのあの城之内(バカ)はどんな不利な状況に追い込まれようと、例え神のカードを前にしようと絶対に諦める事だけはしなかったわ。
同じレッドアイズ使いなら、それくらいの凡骨精神魅せてみなさいよ!!」
「くっ!!……さんを、……って、いう、な!」

途切れ途切れに発せられる言葉は着実にレンカが克服しようとしているのを表している。そして、尚もレンカを挑発する舞。

「な〜に?何言ってるか、聞こえないわよ。」
「っ!城之内さんを、バカにすんな!!」

いつの間にかレンカは両足でしっかりと踏ん張り、幼さが残るその顔はまだ苦しそうだが、初めよりかはよくなっている。
そして、舞はニヤリと口角を上げる。曰く、上手くいった。

「言うじゃない。だったら、私を倒して、謝罪でもなんでもさせればいい!」
「やって、やる!」

レンカの晒された黒く澄んだ瞳に強い決闘者としての闘志が爛々と輝いているのをみてとった舞は久々に才能のある子を見つけ、心躍らせる。

「ま、精々足掻いてみせない!まぁ、アンタの場にはアンタを守ってくれる下僕はいないけどね。」

挑発的な笑みを浮かべる舞に対し、レンカがとった行動はというと、

「『レッドアイズ』が、相手によって、破壊された、時。私は、手札の『真紅眼の遡刻竜(レッドアイズ・トレーサー・ドラゴン)』を特殊、召喚!」

途切れ途切れだが、その言葉一つ一つに強い意志が感じられる。
そして、レンカに応えるように現れたのは、一匹の黒いドラゴン。

「そんなモンスターを出したところで……」
「『真紅眼の遡刻竜(レッドアイズ・トレーサー・ドラゴン)』の、エフェクト発動!さらに、墓地に送ら、れた、『黒鋼竜』のエフェクトを、チェーンして発動!」
「っ!?なに!!」

「『黒鋼竜』のエフェクトで、デッキから、『レッドアイズ』カードを手札に加える。
私は、儀式魔法、『レッドアイズ・トランスマイグレーション』を、手札に。
さらに、『真紅眼の遡刻竜(レッドアイズ・トレーサー・ドラゴン)』のエフェクト!
このカードが特殊召喚される前、に、破壊された『レッドアイズ』を、全て場に、戻す!!
刻を、遡れ!レッドアイズ!」

ビデオが逆再生される様に、景色が移り変わり、数秒後。
レンカのフィールドには、悠然と佇む三体のドラゴンの姿がある。

「な!?くっ、やるじゃない!むしろ、これくらいやってもらわないと!」
「な、なんとぉ!?レッドアイズが時を遡って現れたというのか!?」

一瞬だけであるが舞の想像を超えたレンカは若干苦しそうであるが、ニヤリと勝ち誇った笑みを舞へと向ける。

「まさか、破壊したモンスターが全て戻されたのは予想外だったわ。
私は鳳凰の陣の効果でこのターン、攻撃を行えない。よって、このままターンエンドするわ。

残念そうに肩を竦めてみせる舞。

「……ドロー!『天使の施し』を発動!3枚、ドローし、2枚すてる。
私は、墓地の『真紅眼の飛竜』を生贄に儀式、『レッドアイズ・トランスマイグレーション』を執り行う!」

「っ!?墓地で、墓地のモンスターを儀式素材!?なに、そのあってないようなコストは!」

舞の叫びを他所に淡々と儀式は進んでいく。

レンカを囲むように8本の紅い閃光が伸び、足元には魔法陣が光輝く。

「喪われた竜の魂よ!私を守る鎧となり、敵を砕く剣と化せ!我が身に纏え、漆黒の竜よ!竜の王者、ここに降臨!『ロード・オブ・ザ・レッド』!」

紅い光がレンカを包み込み、その姿を変える。
光が霧散し、レンカが元いた場所には漆黒の竜鱗に身を包んだレンカの姿が。

「おおぉ!!なんと、『漆黒の竜使い』レンカ、自らの操るドラゴンを身に纏ったぁ!」

MCの言う通り、レンカの姿はまさしく『真紅眼の黒竜』。それを決定づけるかのように、漆黒の鎧からは、ドラゴンを模した翼が生え、腰あたりから伸びた鞭のように太い尻尾は地面を打っている。

「ふぅ……、私は、『真紅眼の遡刻竜(レッドアイズ・トレーサー・ドラゴン)』の、エフェクト発動!自身を、リリースし、このターンレッドアイズを通常召喚、します!
さらに、この瞬間!『ロード・オブ・ザ・レッド』のエフェクトが、発動!
『ハーピィズペット竜』を、破壊、します!」
「なっ!?」

灼熱の炎剣が、レンカから放たれ『ハーピィズペット竜』を貫き爆発四散させる。

「そして、私はデュアルモンスター『真紅眼の黒炎竜』を、再度召喚!」

一度フィールドを、離れ失った効果()を取り戻し歓喜の咆哮を轟かせるレンカのドラゴン。

「準備は、整いました!バトル!
一体目の、『真紅眼の黒竜』で『ハーピィ・レディ1』を攻撃!」

「リバースカードオープン!『ゴッドバードアタック』!私は『ハーピィ・ダンサー』をリリースし、『真紅目の黒炎竜』と『ロード・オブ・ザ・レッド』を選択!二体を破壊する!」
「っ!速攻魔法『禁じられた聖衣』を『ロード・オブ・ザ・レッド(わたし)』に対し発動!攻撃力を600ポイントダウンし、このターンエフェクトを対象とならず、効果では破壊されなくなる!
さらに、エフェクトが発動されたため、『ロード・オブ・ザ・レッド』の第二のエフェクトを発動!『ハーピィの狩場』を破壊する!」

聖衣の加護がハーピィの決死の特攻を防ぎ、薙ぎ払われた炎剣が森を焼き払う。
一気にまくし立てたためか、苦しそうに呼吸をするレンカ。だが、一向に攻めの手を緩める気配はない。

「攻撃、続行!やれ、レッドアイズ!」
「っ!クゥゥゥゥ……!」

「これで、支援エフェクトは全て、消えた!私は、二体目の『真紅目の黒竜』で『ハーピィ・チャネラー』を攻撃!」

二体目のレッドアイズがハーピィを焼き払い、舞のライフをおよそ半分、2200まで削る。

「さらに、『ロード・オブ・ザ・レッド』で『ハーピィ・ダンサー』を攻撃!」

三度放たれた炎剣がハーピィ・レディを穿ち、燃やし尽くす。
これで、舞の残りライフは1600。レンカと並んだ事になる。

「くぅ……はぁ、はぁ。わた、しはこれで、エンドです。」

限界が近いのか先ほどよりも苦しそうに息を吐き出すレンカ。一方で、舞はライフ差を0にされたと言うのに、どこか嬉しそうに笑っている。

「ふふっ、まさか一気に逆転されるなんて。これは、私も隠し玉を切る必要があるかしらね。
私のターン、ドロー!『強欲な壺』を発動し、二枚ドロー!来たか。
まずは、フィールド魔法『霞の谷(ミスト・バレー)の神風』発動!」

一陣の風が吹き、ドーム一体を神聖な空気が満たす。

「効果はすぐにわかるわ。
私は『ハーピィ・ハーピスト』を召喚。そして、私は『ハーピィ・ハーピスト』を手札へと戻し、『A・ジェネクス・バードマン』を特殊召喚!」

召喚されたのは、人造の鳥人間。
攻撃力は1300と低くわざわざ召喚したモンスターを手札へと戻しフィールドに出す意味がわからない。

(じゃあ、何か特殊なエフェクト持ち?もしくは、何かのコンボのパーツか。)

「『チューナー』モンスター?」
「あ〜、そこは関係ないわ。」

テキストの一部分に『チューナー』と書かれた文字に注目する。全く聞いた事のないカテゴリ。何か新しい属性や種族なのだろうかと勘ぐっていると事もあろうか、召喚した本人である舞が関係ないと断言する。

「私の『ハーピィ・ハーピスト』が手札へと戻った瞬間、『霞の谷(ミスト・バレー)の神風』の効果発動!
デッキからレベル4以下の風属性モンスターを特殊召喚する!
舞え、『ハーピィ・チャネラー』!」
「そんな、インチキ効果!?」
「それはお互い様でしょう!」

「まぁ、いいわ。
今までは布石、本命はこっちよ!
私はフィールドの『A・ジェネクス・バードマン』と『ハーピィ・チャネラー』、墓地の『ハーピィ・ハーピスト』を除外!
天空の王者よ、大気を掌握せよ!『The アトモスフィア』!」

大小2対の翼を持つ真紅の巨鳥が風を纏い、舞のフィールドへと降臨する。
そして、そのモンスターの攻撃力は……

「攻撃力……1000?」
「しかし、その低ステータスを補うのに余る程の強力な効果を持っているわよ!
『The アトモスフィア』のモンスター効果、発動!相手モンスター一体を選択し、吸収、装備する!私が選択するのは、『ロード・オブ・ザ・レッド』!」
「っ!や、やらせない!『ロード・オブ・ザ・レッド』のエフェクト発動!アトモスフィアを破壊する!」

アトモスフィアに呑み込まれる前に灼熱の炎剣を投影し、投剣しようとする。だがしかし。

「わざわざ発動させるわけないでしょ。速攻魔法『禁じられた聖杯』!『ロード・オブザ・レッド』の効果を無効に!」
「っ!そんなっ!」

大気が逆巻き、暴風となって襲い、レンカの纏う漆黒の鎧を引き剥がす。

「『The アトモスフィア』は装備したモンスターの元々の攻撃力・守備力分だけ自身の攻撃力を上昇させる!よって、攻撃力は3400!!」

その攻撃力は『青眼の白竜』を追い抜き、下手な最上級モンスターをも凌駕する力を得る。

「さぁ、バトルよ!『The アトモスフィア』で『真紅目の黒竜』を攻撃!《テンペスト・サンクションズ》!」

アトモスフィアが発生させた風の暴力がレッドアイズを呑み込み、バラす。
そして、レンカの残りライフは1600まで削られる。

「ターンエンド。さぁ、アナタはどうやって攻略するのかしら?」

「わたしの、ターン……ドロー!
私はマジックカード『融合』を、発動!フィールドの『真紅目の黒竜』と手札の『デーモンの召喚』を融合!」

『真紅目の黒竜』とデーモンが渦へと呑み込まれ、融け合いその力を何倍にまで増幅させる。

「漆黒の竜よ、雷繰りし悪魔よ!神秘の渦で一つとならん!融合召喚!その姿は悪魔の如き!慈悲なき力で敵を屠れ!『悪魔竜 ブラック・デーモン』!」

舞の隠し玉『The アトモスフィア』に対抗するため、レンカが召喚したのはレンカの真の切り札、『悪魔竜 ブラック・デーモンズ・ドラゴン』。
だが、その攻撃力は3200と『The アトモスフィア』僅かに及ばない。はずなのだが……。

「バトル!『悪魔竜 ブラック・デーモンズ・ドラゴン』で『The アトモスフィア』攻撃!!」
「っ!正気!?」

レンカの自爆とも取れる行動に声を荒げる舞。だが、レンカの表情に一切の迷いはない。

「この、瞬間!墓地に存在、する、『ブレイクスルー・スキル』のエフェクトを、発動する!」
「墓地から、トラップ!?いつの間に……、ちっ、『天使の施し』の時か!」


先のターン、『天使の施し』の効果で墓地に捨てたのは『ロード・オブ・ザ・レッド』の召喚コストにされた『真紅目の飛竜』と他にもう一つ、『ブレイクスルー・スキル』。
そして、その効果は『モンスター効果の無効化』。

「『The アトモスフィア』のモンスター効果を、無効!これで、攻撃力は元々の1000へと戻った!やれ、ブラック・デーモン!《メテオ・フレア》!」

力を喪ったアトモスフィアは早速ただの大きな鳥となり、は特大の火球に焼き払われ、破壊される。

「こ、これは強烈ゥゥ!今の攻撃は孔雀 舞のライフは残りたったの400!」

「これ、で!トドメ!『悪魔竜 ブラック・デーモンズ・ドラゴン』のエフェクト、発動!墓地の『真紅目の黒竜』をデッキへと戻し、その攻撃力分、のダメージを、与える!これで、終わり…で……」

トドメを刺す直前、遂に限界を迎えたのか、レンカは糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

「なっ!?ちょっ、ちょっと!?」

思わず心配になり、駆け寄り、その体を抱きかかえる。ただ気を失い寝ているだけで大事は無さそうだとホッと安堵する。

(たっく、私の負けね。)

もし、レンカがもう少しだけ耐えて、バーン効果が発動されていれば舞は負けていた。
それに限界までしのぎを削りあった相手に戦闘続行不可能で、実力以外で勝つなんて自身のプライドが許さない。

舞は彼女の腕の中で眠るレンカに視線を落とし、優しい笑みを向けると抱えたまま立ち上がる。

「MC、サレンダー。私の負けよ。」
「は?エェ、ちょっと!?」

まさかのサレンダーに会場にどよめきが走る。だがそれすらも気にも止めない舞はレンカを抱えたまま、ドームを後にする。


◆◇◆

「ぅ……うぅん?」

意識が覚醒し、ゆっくりと瞼を開けるとそこは既に孔雀 舞とデュエルをした『海馬ドーム』ではなく、周りをシミ一つ無い真っ白なカーテンで囲われた空間。今レンカがいる場所が医務室のベッドの上だと気づくのにそう時間はかからなかった。

(あ、……私、決着つく前に倒れちゃったんだっけ。あの後、どうなったんだろ。)

心配になっていると勢いよくカーテンが引かれ、顔を見せたのはついさっきまで闘っていた孔雀 舞。意外な人物の登場に驚きを隠せないレンカ。

「あら、起きたのね。大丈夫そうみたいだけど、とりあえず先生呼んでくるわ。」

それだけ言うとカーテンを戻し、行ってしまう。レンカは行ってしまった舞を見て少しだけ寂しさを感じる。

(あんな醜態晒して、ガッカリさせちゃった……よね。)

脳裏に神聖な舞台の上で、取り乱す自分の姿を思い出し、自己嫌悪に陥る。暫くすると再びカーテンが引かれ、誰か入ってくる。恐らく舞さんが呼んでくれた医師だろうと思ったが、実際は違くて

「レンカさんっ!!」
「ふ、ふぇぇ!?
「大丈夫、ですか!倒れたって聞いて私心臓止まるかと思いましたよ!!なんで、あんなに無茶したんですかぁ!!」

レンカの姿を確認するや否や抱きついてきたのは彼女のマネージャー 橘 楓。
本気で審心配してくれていたのか、瞼が少し腫れ、赤くなっていた。

「ホント、ホントォにっ!大丈夫、ですか!?なんなら今組まれてるスケジュール全部踏み倒して一週間くらいお休み入れますか!!てか、むしろ私がそうして欲しい!仕事がへ……レンカさんが心配なので!」
「(あっ、仕事が減るんですね……。)
楓さん、本当にもう、大丈夫ですか。」

マネージャーの本音を察するが、それを表に出さずやんわりと笑みを浮かべると今だ私を抱きしめてくれている彼女の頭をポンポンと撫でる。

「うぅ……。レンカさんがそう言ってくれるなら。けど、無茶だけはしないでくださいね?」

ようやくホールドから解放されてもらえたと思ったら、楓さんの熱の篭った瞳に直視され気恥ずかしくなってしまう。返答に戸惑っていると、開けられたままだったカーテンから顔を覗かせたのが一人。

「あら、お邪魔だったかしらね。」
「にゃっ!?」
「ちっ、ホント、いいタイミングで来てくれましたね〜。このKY。」

ニヤニヤとしながら舞さんが現れる。そして、レンカはその言葉の意味を理解するや顔を瞬間湯沸かし器の如く赤らめ、布団の中に潜ってしまう。一方の楓は明らかに不機嫌となり、嫌味を盛大に込めた敬語で毒を吐く。

「アンタに構ってるほど私も医者も暇じゃないのよ。ほら、先生呼んできたからレンカも起きない。」
「…………うぅ、死にたい。」

もぞもぞとたっぷり数十秒かけて布団から這い出てきたレンカに簡単に診察を済まし、「無理は禁物」と医者直々に言うと足早に立ち去ってしまう。

「まぁ、いかんせん。大事にならなくてよかったです。」
「そうね。私も倒れられた時は焦ったわよ。
あと、レンカ。アンタの事は詳しく知らないけど、倒れない程度にはするべきね。」

直後、舞さんの言葉を聞いた楓さんの目が光った……気がした。

「やっぱり、舞さんもそう思いますよね!だから、レンカさん!プレッシャーに慣れるために、衣装の変更を提案……否!命令します!」
「どうして、そうなるのか理解に苦しむわね。それと、あの娘なら話の途中からベット抜け出して出て行ったわよ。」
「なんですとっ!?」

ハッと楓は医務室の出入り口へと視線を向けるとそこにはそろりそろりと部屋を出て行こうとするレンカが居た。

「ひいっ!?」
「あっ、逃げた。」
「ふふふ、いい度胸ですね、レンカさん。私から逃げられるとでも?」

ばれたのに驚いたのか、小さく悲鳴を上げ、ダッシュで逃げてしまう。そして、テンションが上昇し過ぎ、振り切れている楓は愉悦の笑みを浮かべ、レンカの後を追う。
そして、一人残された舞はと言うと、

「はぁ……なんなのよまったく。」

ため息混じりに一人愚痴を吐いた。

その後しばらくして、
涙目になりながらも逃げる少女(レンカ)とそれを追う変態()の姿が目撃されたとか。


 
 

 
後書き
なんか、レンカのキャラ変わってね?と思う方は多くいらっしゃるでしょう。わざとです。
今までの無口なキャラから一転、急に少女らしくさせて、ギャップ狙ったんですけど……どうでしたかね?

感想待ってます。 
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