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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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遺跡編 来訪

 
前書き
なのはの出番を増やそうと思ったら、何故かユーノの出番が増えていました。

新世界突入の回。 

 
あれからしばらくの月日が経ち、今は10月10日。ヴォルケンリッター達はミッドと地球を往復して贖罪に従事したり、リハビリも終盤に差し掛かったはやてと安らかな暮らしを享受したりしている。テスタロッサ家は近くのマンションに部屋を借り、フェイトとアリシアはアリサやすずか達が通う小学校に入り、家族で新たな生活を謳歌している。なお、フェイト共々嘱託魔導師の資格を手に入れたなのはも、小学生として普通の生活を楽しんでいた。まあ事件が起きなければ彼女達が今戦う理由もない。何事も無いならそれでいいさ。

あの襲撃の後、互いに目的を果たした事でサムとは別れた。今頃彼がどこで何をやっているのかあずかり知らないが、サムならどんな人外が相手でも何とかなるだろう。それに彼に学んだ剣術は俺の新たな力となっている。彼が彼の道を進んだように、俺は俺の道を進めばいい。まぁ尤も、俺がホドリゲス新陰流を身に付けた事を知って恭也や士郎が複雑な顔を見せていたが、これは俺が選んだ剣術だ、外野から指図される筋合いはない。

それとシュテルはあの後、「意気揚々と登場したのに最後にヘマしたせいで、このままではどこぞの猫姉妹の如きへっぽこキャラになってしまうじゃないですかぁ!!」となんか意味の分からない事を叫びながら、迂闊だった自分を責めてしばらく猛省したいとの事で、精神世界で自主鍛錬を行っている。一応「臣下のフォローは王の務めぞ」と言ってディアーチェが様子を見てくれているので、彼女に関しては多分大丈夫だと思う。そういう事情があって、しばらく会話できるマテリアルはレヴィだけとなっている。
何故俺の中にいて意思疎通が出来ない場所があるのかという事について念の為説明しておくと、まあ簡単に言えば俺の精神世界を分割して、プライベートルームのような扱いで領域を彼女達に貸し与えているのだ。魔導師が使うマルチタスクと似たような事をしている訳だが、俺の精神世界は共有空間みたいな扱いで、彼女達に与えた領域では通信をオフにしたのと同じようにお互い声が聞こえなくなる。文字通りのプライベート空間な訳だ。

そしてマキナは聖王教会という場所で回復魔法を学んでいる。彼女のPSG1は色々あって、ラジエル専属のデバイスマイスターに魔法も使えるよう特別に改造してもらった。材料にリーゼ姉妹からもらった通信機を使わせてもらったが……マキナのためなら彼女達も納得するだろうし、別に構わないだろう。
それで、普通に使用する場合は投影型通信機の形を取って、魔法のサポートやマキナの言葉を投影ディスプレイに文字で表現してくれる便利な機能を搭載している。自分の声では話せない彼女にとっては、間違いなく今後の役に立つはずだ。なお、ソフトウェアが戦闘用になるPSG1形態は俺とエレンだけ知っているキーワードを入力する事で解除されるようになっている。少々強引な解釈になっているが、彼女が戦う意思を持った時にそのキーワードを伝える事で銃を返す形にした訳だ。

リーゼ姉妹やナカジマ家、ティーダとはミッドチルダに出かけてる時に会えたら挨拶して近況報告する仲になっている。とりあえずギンガやスバルは今も練習を続けていて、ティアナは何とか両親を失ったショックから立ち直ったそうだ。ちなみにアルザスにも偶に様子を見に行ったりして、赤子……キャロの現状を確認したりしている。というか“ムーンライト”に乗せて走ると凄く喜ぶんだよな、あの子。将来何かに乗ったりするんじゃないか?
なお、俺がそんな事をしていると知ってリーゼ姉妹がなんかニヤニヤして見てきた事があったが、“ねばねば”というあだ名をリーゼアリアに送った次の瞬間、二人そろって土下座してきた。“ねとねと”はこれ以上屈辱的なあだ名を増やされたくなくて、“ねばねば”はこのあだ名が広まるのを恐れて、このような行動を咄嗟に取ったようだ。

エレンやサルタナ達ラジエルクルーは最近、第13紛争世界の戦争が収まりつつあるという事で、このまま上手く戦争を終わらせられるように奮闘している。以前、用事があるという事で地球に立ち寄ったエレンが疲れながらも嬉しそうに話してくれた。
一方でハラオウン家はなぜか地球に家を買って、そこに住居を移している。疑問なんだが仮にも管理局の提督職の連中がこんな所に居を構えて本当にいいのか? 以前に管理外世界では許可がどうのとか言っていたが、その辺はあの組織にとってはどうなっているんだ?

ま、そんな事を思っている俺は俺で、八神家で彼女達の生き方を静かに眺める日々を送っていた。一時と比べてのんびりしているように感じるだろうが、これにはちゃんとした理由がある。実は変異体との戦闘中に右肩に刀が突き刺さった時、そのまま激しい動きをして傷口が広がった事で見た目がエライ事になってしまい、“ムーンライト”でミッドに戻るなり、傷を見て真っ青になったはやてやネロ達が「怪我が治るまでは絶対に大人しくして!!」とガチ泣きでお願いしてきたため、仕方なく療養していた。今は傷もちゃんと完治しているが偶に次元世界に出かける時以外は大してやる事が無いため、そのまま流れで休息をとっている。

「かといって別に暇してる訳じゃない。大所帯となった八神家の家事をやったり、はやての家庭教師をやるだけで結構時間が潰れる。それにちょっとした手作業もしていれば、一日が過ぎるのも早く感じるさ」

『ははは……なんか老成してるっていうか、主夫っぽい生活をしてるんですね、サバタさん』

「老成……か。まぁ、これはこれで充実している。それにユーノこそ、久しぶりに連絡を寄越したかと思えば、何故か最近の彼女達の日常を伝える事になってしまったが……そんなに会いたければ直接来ればいいだろう?」

『そうですね、次は予定を合わせてそうします。でも今回のはちょっと特別な要件がありまして……』

「なるほど、そっちが本題か」

『はい。僕達スクライア一族は元々ロストロギアの採掘や遺跡発掘を生業としているんですが、とりわけ僕は遺跡に強い興味がありまして、少し前までジュエルシードを発掘した遺跡の未踏査区域を調査していました』

「そうか、自分の好きな事なら文句が出ないぐらい打ち込めばいいさ。で、要件は何なんだ?」

『実はかねてより調査許可を求めていた遺跡がありまして、先日ようやく認可が下りたんですよ。それで調査に行くために、不躾ながらサバタさんにちょっと協力してもらいたい事があるんです』

「ふむ、大した用事じゃないなら別に構わないぞ?」

『ありがとうございます。その遺跡は第66管理世界ニダヴェリールという場所にあるんですが……管理局からの渡航許可は既にもらってるんですけど、予約がいっぱいなせいで次元航行艦の手配が取れなくて、行く事が出来ないんです』

「つまりタクシーの代わりをして欲しいと」

『身も蓋もない言い方ですが……そうなっちゃいますね。すみません……』

「いや、偶には行った事が無い世界に出かけるのも悪くない。それにとある筋に頼んで地球上を色々探ってみたものの、“奴”はどうやら地球にはいないらしいからな。少しは遠出をしてでも探す必要がある」

『奴……ラタトスクですか。アイツにはジュエルシードの輸送船を襲われた件で僕も借りがありますからね、まだ見つからないんですか?』

「ああ、ラジエルもアースラも注意深く探しているものの、今の所成果が無い。ラタトスクは策士だから放っておいたら何をしでかすかわからん、故にさっさと見つけたい所だが……面倒な事に上手く雲隠れしているようだ」

『下手したらまたヴァナルガンドを呼び出しそうですからね……』

「……そうだな」

ヴァナルガンドは今も虚数空間で“彼女”が抑えてくれているとは思うが、彼女自身の意思とはいえ、俺のせいでそれを強いてしまった後悔がある。それに報いるためにも、ラタトスクは早く浄化したい。奴が存在し続ける限り、心にしこりが残ってしまうからな……。

「ラタトスクの件はともかく、送り届けるだけなら全く問題ない。何なら今から行こうか?」

『え、いいんですか?』

「遠慮する事は無い。とりあえず合流場所はミッドの聖王教会領地で構わないな?」

『聖王教会領地ですね、わかりました。じゃあ先に行ってそこで待ってますね』

その言葉を最後にプツンっとユーノとの通信を切る。するといきなり背中に女性一人分の重みが圧し掛かり、首元に手が回って来た。

「兄様、また出かけるのでしょうか……?」

「別に心配する事は無いぞ、ネロ。少し出かけたぐらいで事件に遭遇するとは―――」

「テスタロッサ家の裁判とアレクトロ社のSEED、ブラジルの麻薬組織の件」

「……すまん、言い返せん」

よく考えればあれって数日の内に起きた出来事なんだよな……。しかもちょっと様子を見に行くつもりだったはずの渡航から始まっている。どこかの小学生名探偵ばりの事件遭遇率に、ネロが不安に思うのも理解できてしまうな……。

「聞き覚えのある世界の名が聞こえたかと思えば、案の定でした。お節介だとは思いますが、次元世界に出かけるのならば、せめて誰か供を一人でも連れて行ってください」

「……ならネロが来るか? 自分の眼で見れば少しは安心できるんじゃないか?」

「え!? あ、あの、私は主はやてや騎士達が留守の間はこの家を守らないといけない義務が……!?」

「玄関に鍵かければいいだろう……。はやて達も合鍵を持っているから締め出されるような事にはならないし、もし失くしたとしても高町家やバニングス家、月村家を頼れば済む事だ。なに、ちょっと別の世界に知人を送るだけだ、今度ばかりは厄介事は起こらない……と、良いよなぁ」

尻すぼみな言い方になってしまったのは、自分でもあまり確証が持てないからだ。どうしても前科があるから今回も、という可能性を考慮してしまうんだよな。

「よく考えると……確かに私も一緒の方が色々都合が良いかもしれません。それに例の事も気がかりですし……わかりました、私がお供します」

「はぁ……もっと肩の力を抜いたらどうだ? 何を思い詰めているか知らんが、気にし過ぎると思考がそれだけに縛られる。口調も堅苦しいせいで、よそよそしい感じがして気に入らん。もう少し柔軟になってくれないか?」

「は、はい。(兄様は……変わらないな、タイムリミットが迫っているというのに……。だけど騎士カリムの預言を聞いてから、私はより大きな後悔に憑りつかれてしまった。兄様は自らの未来を糧に闇の書の呪いを私と主はやてから引き剥がしてくれたが……果たしてそれは本当の意味で正しい行動だったのだろうか……)」

「……?」

なんか今、余計な事を考えていそうなネロだが、最近の彼女からはまるで迷子のように寂しげな雰囲気を感じる。しばらく様子を見ておいた方が良いか?

[ニダヴェリールかぁ~、美味しいものいっぱいあったらいいな~♪ じゅるり……]

なんか精神世界で耳を傾けていたレヴィが涎を垂らしていた。そういやブラジルで召喚している間に知ったが、甘口カレーが大好きなんだったな……。つい面倒を見たくなる彼女の性格のせいか、今度作ってやろうと思った。

[お兄さんお兄さん! ニダヴェリールに行くの楽しみだね!]

「(そうだな……望めば召喚してやるから、その時はちゃんと言ってくれ)」

[オッケー! じゃあそうするね!]

というかレヴィと接していると疲れはするものの、心の闇が薄れて和やかになる気がする。純粋、という奴か?

ひとまず書き置きを残してから俺とネロは八神家から出かけ、月村家の庭に置いてあるラプラスの所へ向かった。地球ではラプラスも月村家に預ける事になり、管理はすずかに任せている。

「なんか手に入れた乗り物はすずかに預けてばかりだな、すまない」

「私もお姉ちゃんもこれぐらい別に気にしてませんよ。サバタさんがムーンライトを預けてくれた時期から私達を狙うハンターや組織の人達が来なくなってるので、むしろある方が安心できます」

「ムーンライトはお守りでも守護神でもないんだが……」

それに月村家を狙う連中が来なくなっているのは、俺が以前にリキッド達と結んだ契約の影響だと思う。何だかんだで彼らにとっても有益な取引をしたから、違えるような事はしないだろう。

「それにムーンライトって実はやきもちで、サバタさんがラプラスを使ってる間は嫉妬しててそれがたまらなく可愛いんですよね~。ウフフフフ……♪」

「おまえは機械を擬人化して見ているのか……」

何だかヤクを決めたように含み笑いを見せるすずか。彼女、機械好きが行き過ぎて変な禁断症状を発症しているのでは……? これが末期という奴か……?

「まぁ……今回は人を運ぶからラプラスで出かける。今の話を聞いて複雑な気分ではあるが、嫉妬してるらしいムーンライトの管理はしっかり頼むぞ?」

「まっかせてくださいサバタさん! このバイクはカーミラさんから授かった大事な物ですからね、責任を持って預かりますよ!」

そうして出発前にすずかとある意味いつものやり取りをして、俺達はラプラスをミッドチルダに向けて発進させる。ミッドに到着するまでの間、ブリッジで俺はふと最近の地球の動向についてネロと話した。

「そういえばATセキュリティ社のIRVINGや、PMCのコマーシャルを最近よく見るようになったな」

「言われてみればそうかもしれない。それに新聞や株価を読むとわかるんだけど、世界経済も武器や兵器開発、軍需産業に傾きつつある気がするんだ」

「いつ大戦争が起きてもおかしくないな、このままの情勢だと。……こっちの地球も先行きが不安だ」

「同感です、主はやての帰る場所が戦火に巻き込まれなければ良いのだけれど……」

「…………」

俺の不安にネロも同意してはいるが、どうも彼女は次元世界を中心に目を向けている。いや、彼女だけではない。魔法に関わっていく者や、その親族は地球の情勢よりも次元世界の情勢に意識の大部分を傾けている。彼女達が選んだ道とはいえ、自分達が生まれ育った世界にも戦争や紛争は未だに存在しているのに、そっちを片付けずに進出してしまって本当に良いのだろうか……?

一方で俺はかつてリキッドから聞いた、世界の裏で手を引く“例の存在”がこのまま世界経済を妙な方向に走らせてしまうのではないかと懸念した。こっちの地球はほとんどの土地が平和ではあるのだが、まだ一部の地域では戦争が存在している。そして経済が戦争に依存してしまったら……そこには人の心なぞ介在しない、ただ殺し合う事で成立するビジネスしか残らなくなってしまう。そんな戦場に、戦う意味なんてない。


そんな話をしている内にミッドチルダに着き、俺はラプラスをそのまま聖王教会の領地に着陸させる。そこそこ広い芝生の上にゆっくりと接地し、エンジンを停止させると、建物からシャッハと何やら荷物を持ったマキナが出迎えに来てくれた。ちなみにマキナの格好は浅葱色のカーディガンに紺色のスカート、髪型はイメチェンに挑んだのかくるっとしたカール状になっており、普通の少女らしい雰囲気となっていた。それは彼女を施設から助け出した身としては、密かに嬉しく思える。

『いらっしゃい、来てくれてありがとうサバタ様!』

「おいマキナ、“様”はやめろって言ったはずだぞ」

“様”付けで呼ばれると、どうしても彼女を思い出す。マキナは好意でしているのだろうが、そう呼ばれる度に後悔の火が燻ってしまう。それにこの呼び方では距離を感じてしまうから、変える様に頼んでいるのだが……。

『何を仰る、大恩あるサバタ様を呼び捨てにする訳にはいかないよ』

これだからなぁ……。線を引いた所では頑固というか生真面目というか……いや、普段の教育係がシャッハだから、魔法より先に常識や礼儀作法とかを叩き込まれたのかもな。やれやれ、真面目過ぎるというのも考えものだ。

「お待ちしておりました、サバタさん、リインフォースさん。ユーノさんから既にご連絡は頂いております」

内心でぼやいていると教育係(シャッハ)が続ける様に言う。さっきので思う所はあるが、彼女に当たるのは筋違いだし、むしろマキナが真っ当な感性を取り戻しつつあるという意味では感謝すべきなのだろう。なにせ天涯孤独の身の上であるマキナの預かりは、今は聖王教会が担っているのだから。

「……ユーノはもう来ているのか?」

「はい、今は待合室で荷物をまとめていらっしゃるので、すぐに来ますよ」

「そうですか。……マキナも元気そうで何よりだよ」

『でも回復魔法の授業は大変だよ。おかげで頭の方は疲れ気味ですな』

「フッ、なんだかんだで充実した日々を送っているようだ」

「しかし疑問だけど……なぜマキナも旅支度を済ませているのかな?」

『これから皆が行くのは第66管理世界ニダヴェリールだけど、そこは私の生まれ故郷なんだよね。正直に言うと、あんまり覚えてないけどね……』

「生まれ故郷……なるほどそうだったのか、それなら丁度この機会に里帰りするのも良いな」

「故郷……道理でニダヴェリールという名に聞き覚えがあったわけだよ。かつて先代の居た世界なのだから、記憶に残ってて当然だ……」

悲しみのこもった表情でリインフォースがしみじみと呟く。闇の書の禍根は未だに根強いが、それでも彼女達はまだやり直せる場所にいる。それに過ちを悔いるのは構わないが、“過去”ばかり見てないで“今”を見るのも大切だと思う。一度壊滅したその世界が、時を経てどうなったのか、自分の眼で見て確かめるべきだろう。

「すみません! お待たせしました、サバタさん!」

「来たか、ユーノ。出かける前に言っておくが、その世界での用事が増えた」

「え、用事ですか?」

「そうだ。ニダヴェリールはマキナの故郷でな、少し里帰りさせてやりたいんだ」

「あぁ、そのことですか。さっきシスター・シャッハに聞いたので、僕自身はとっくに承諾していますよ。でも別にわざわざ僕に断る必要は無いですよ? 今回は連れて行ってもらう身なのでサバタさん達を止める権利はありませんし、むしろ知り合いが一緒にいてくれて気持ちも楽になりますから」

「そうか。それなら遠慮なく滞在させてもらうか」

元々一人だった旅路に、俺とネロ、更にマキナが加わった事でユーノは少年らしい嬉しさを露わにしていた。いくらジュエルシードの時に責任を感じて一人で対処に当たったユーノでも、その件が気がかりで一人旅は不安だらけだっただろう。次元世界の環境では子供の精神が早熟しやすいようだが、どうもその原因は次元世界の妙な体制にある気がする。必要だったとはいえ子供を前線で戦わせる管理局もそうだが、こっちの政治家はちゃんと仕事しているのか?

政治家でもないのに何故かそんな事を考えていたが、法律とかに興味は一切湧かないので、そっちは放っておく事にする。とりあえず予定通りユーノもラプラスに乗り込んだ事で、俺達は訪れたばかりのミッドチルダをすぐ後にし、闇の書にとっても因果の地であり、元管理外世界で、今は管理世界の一つとなっているニダヴェリールへ向けてラプラスを走らせた。これから彼の世界で起こる事を一切予感することなく……。









第66管理世界ニダヴェリール。11年前の闇の書事件で、世界が半壊する程の被害を受けた先代達の故郷。事件後のゴタゴタで管理局が手を回し、管理外世界から管理世界にされたようだが、被災地の復興のためには事情を知る管理局と接触しなければならない以上、やむを得ない選択だったのだろう。
かつては自然豊かで木々や動物達が生き生きとしていて、人柄も穏やかな人達が各地で集落を作って牧歌的な暮らしを営んでいたのだと、航行中にネロから聞いた。しかしあの事件が起きて壊滅的被害を被った彼の地は、当時と全く違う様相になっているのだとユーノが捕捉する。特にミッドの人間が矢鱈と手を加えていったせいで、一部の地域はミッドの技術による高層建築や摩天楼がいくつも並んでいるのだとか。

「あの世界の地中にはデバイスのコアやフレームに使われる魔導結晶やホワイトゴールドなどの貴重なレアメタルが豊富で、管理世界になってから一気にトップシェアの鉱物産出量を誇っています」

「……一気にトップシェア、か」

「まぁ、きな臭い感じは正直僕も抱きますが、それでもこの世界の復興が早く進められたのは、その資源による収益でインフラが整理されたおかげでもあるので、一概に否定はできませんね」

「…………」

一瞬、俺は11年前の闇の書事件を管理局が利用して、この世界を自分達の管理下に置いたのではないか、と勘繰ってみたものの、そこまでして手に入れたいと思うほど次元世界の物資は困窮していないはずだ。多分、事件後の調査で鉱物資源が豊富だと判明したのだろうし、変に疑い出すとキリが無い。一応、気には留めておくが。

そういう話を聞いた後、次元航行が終了し、ニダヴェリールの大地が俺達の視界に映る。そこは管理世界の手が入った都市部だけ近代化が進み、周りの地域は荒廃した地面が色濃く残っている歪な環境だった。11年前の闇の書と管理局勢の戦いの痕跡は既に風化しているが、元々あったはずの緑豊かな自然は一切見当たらなかった。ある意味それこそが、過去から残り続けている世界の傷なのかもしれない。

主要都市のクリアカンにてユーノが一時契約した次元航行艦用空港の第7ハンガーにラプラスを着艦させた俺達は、ニダヴェリールの大地に足を着ける。ラプラスに乗っている間マキナやネロが窓から外を眺めているのを横目で見たのだが、11年ぶりにこの地に降り立った二人は様変わりしてしまったこの世界の光景を前に、ただ無言で佇んでいた。

「……で、この後の予定はどうなっているんだ?」

「まず管理局ニダヴェリール支部の人とアポイントメントをして、この世界を出歩く許可を発行してもらいます。後は好きな時間を使って自分なりに納得のいくまで遺跡を探索すればいいんです」

「そうか、それぐらいの軽い用事ならさっさと済まそう。遺跡以外にも色々見ていきたい場所や知りたい事があるしな」

そうやって俺は天に浮かぶ“青い太陽”を仰ぎ、操縦で固まった身体の筋肉を伸ばしてほぐす。誰もが知っているように普通、太陽の光は赤みがかった白であるのだが、この世界の太陽はまるで月に近い色の光を放っている。そのおかげでこの世界は全体的に青みがかっており、海で波の音を聞いているかの如く、精神的に落ち着ける雰囲気を醸し出している。というか落ち着きすぎて意識が薄くなりそうだ。眠気に襲われないように気をしっかり保とう。

「………ん?」

何となしに辺りを見渡した俺は、空港の屋上に人がいるのに気づく。その人は半袖の白い服に金色の刺繍があるスリット付きロングスカートを着ているセミロングの淡い白色の髪の少女だった。見た目は俺やエレンと同じぐらいの年齢であるその少女は、おそらく現地の人間なのか、突然の来訪者である俺達へとにかく視線を集中していた。

ただ、100メートル以上距離が離れているにも関わらず、俺が彼女の存在に気付いた事で、その白い少女は建物の影へと移動してしまった。

「彼女は……」

「どうしたんですか、サバタさん?」

「……いや、なんでもない」

見ていただけで特に何もしていない白い少女の事を話しても意味がないと思い、ユーノにはそう返した。

「二人とも、いつまでも黄昏ていないでそろそろ行くぞ」

「あ、はい。わかりました、兄様」

『了解だよ、サバタ』

呼びかけるとネロとマキナは気持ちを切り替えて、小走りでこちらへ駆け寄ってきた。そのまま俺達は空港の隣にある管理局ニダヴェリール支部へと足を運び、ユーノが先程説明した内容の手続きをしていく。
しかしどうもわからない事がある。何故か局員達の空気がピリピリしているというか、不穏な気配が漂っているというか……。こんな重い空気なのは、何か重大な任務でも目前に控えているからか? 局員じゃない俺達にはあずかり知らないが。
ちなみに俺の暗黒剣や麻酔銃を、質量兵器なんじゃないかという事で局員達に訝しげに見られたものの、エレンが発行した許可証を見せると皆渋々納得していた。正直な所、魔法仕様の武器やデバイスなら良いという理由が俺には全く理解できん。非殺傷設定の有無がそんなに重要だろうか? どんな武器や力も、使う側次第でいかようにもなるというのに。

「ふぅ、やっと全員の滞在許可証を発行してもらえましたよ」

市役所取引は時間がかかるのがお約束なのか、1時間もしてようやく全ての手続きが終わったユーノが疲れた顔をして帰ってきた。

「ユーノ……管理世界に行く時はいつもこんな感じなのか?」

「いえ、普通はここまで厳しくは無いです。やっぱりレアメタルの生産地なので管理局も盗掘や密輸を厳重に警戒して、身元確認を行っているんでしょうね」

「確かに、理解は出来る」

「そうそう、調査の拠点となる街から遺跡までは道案内が付くようなのでよろしくお願いします。現地の人にとっては神聖な遺跡なので、監視の意味で同行するそうです」

「神聖な遺跡ね……この調査って実は“裏”があったりするんじゃないか? SEEDの時のように」

「流石に遺跡を調査するだけで、あそこまでの事をされたりはしないと思いますが……」

「どうだかな。もしかしたらその遺跡には重要な何かが眠っている可能性だって無きにしも非ずだぞ? それを欲して“裏”が準備万端な策を用意していたりするのもあり得る話だ。警戒しておくに越した事はない」

「そこまで言われると遺跡のトラップなどと違う意味で不安になっちゃいますよ……」

「悪い、脅すつもりは無かった。が、念のため注意はしておいた方がいい」

「そうですね。僕だってジュエルシードの時のような事故がまた起きる事は避けたいですし、以後気を付けておきます」

とりあえずユーノに“裏”に対して警戒するよう忠告した後、俺達は支部を出てクリアカンの街に繰り出した。クリアカンは大まかにいくつかのブロックに分かれており、次元世界の人間が多く住む居住区、会社の建物が立ち並ぶ企業区、他の世界から人や物資を運んだり運ばれたりする空港のある次元区、売店や出店などが多く並んでいて活気のある商業区、中央で街を見渡せる管理局支部、といった感じになっている。ミッドチルダ首都クラナガンに地形が結構似ているが、見た目で違う点があるとすれば、廃棄都市区画が街の近くにないことぐらいか。

「そういえばリインフォースって今は戦えるの?」

「ん? ああ……全盛期程には及ばないけど、一応自分の身を守れる程度の力は取り戻しているよ。魔法術式を一度全て失ったとはいえ、魔法自体が使えなくなった訳じゃないから、覚えなおせば問題ないんだ」

ちなみに夜天の書の管制人格だったネロは元々ユニゾンデバイスという所有者と融合する機能があったのだが、暗黒剣でナハトヴァールから切り離した際にその機能も壊れてしまった。はやて達が戦いに出なければ関係ない機能だったのだが、今では事情が変わっている。一応はやては基本デバイスとして夜天の書を使っているが、自前の膨大な魔力を持て余しているため、傍で調整を行える別のデバイスが必要となっている。ユニゾンの出来るネロだったらその役目を担えたのだが、ユニゾン機能は壊れたため出来ない状態だ。

なのではやての訓練は現状ではコントロールを磨く事に特化している。そうしないとまともに魔法が使えないからな……。

「だけどユーノがそれを聞くという事は、もしかして戦う機会でもあったりするのかな?」

「戦うとは限らないけど、遺跡のトラップに掛かっちゃった時に自力で何とかする場面も想定しておかなくてはならないからね。それとここから拠点となる街、アクーナまでは徒歩で行く事になっているんだ」

『アクーナ……』

マキナが小さくその名をデバイスのディスプレイに表示して、感慨深そうに眼を閉じていた。前みたいに手で書く手間が無くなった分、意思疎通や会話はしやすくなっているものの、代わりに別の意味で距離が出来ている気がする。具体的な事は俺もよくわからないのだが……そんな感じがしているだけだ。

それにしてもアクーナまで徒歩で行かねばならないとは……別に旅の経験があるから特に苦ではないのだが、少し思う所がある。クリアカンに次元航行艦用の空港はあるくせに、電車や飛行機などの地上移動用の交通手段を用意していないのが色々妙だ。まるで選民思想の権化のような……流石に考えすぎか?

「………む?」

少し思考にふけっていると、俺の眼が街中で見覚えのある人影を見つけた。さっきと違って今度はわざと見えるような位置で、こちらを見つめている白い少女。俺が気付いた事で、彼女はまたしても背を向けて走り出した。が、その速度は緩慢なもので、しかも途中振り返ってこちらの様子を伺っている事から、まるで『追いかけて来い』と示しているようだった。

……いいだろう、その誘いに乗ってやろう。

「それで地図によると、アクーナまでは崖や絶壁などの危険地帯を避けて回り込む必要があるから結構時間がかかる……って、どこに行くんですかサバタさん!?」

「すまん、少し気になる奴がいてな。追わせてもらう」

「兄様!? お、お待ちください~!?」

『サバタ様が追いかけるなら、私も行くよ』

「え、皆も!? あ~もう、僕もついて行くから置いていかないで~!」

なんかユーノ達もあわてて追いかけてきた。もし罠だとしたら皆を巻き込まずに俺一人で対処したかったのだが……一応あの少女からは敵意を一切感じないから多分大丈夫か。

「この方向は……街の外? それも目的地アクーナに行く方みたいだ」

「兄様はこの世界の地理を知らないはずなのに、どうして方向がわかるんだろう?」

『サバタ様なら何でもアリ』

「もはや崇拝に近いね、マキナのそれは……」

「とはいえ、兄様が成し遂げてきた事を鑑みれば十分納得できるけどね」

後ろからそんな会話が聞こえる中、少女を追い続ける俺達はやがて街の外に繰り出した。たびたび振り返ってはこちらの位置を確認しながら、少女はそのまま荒野を突き進んでいく。しかしどういうわけか、途中からアクーナへ続くはずのルートからそれていきだした。

「あの……この先は崖だから道が無いって、確かクリアカンで管理局支部の人達が注意していましたよ? 大丈夫なんですか、サバタさん?」

「さあな。どういうつもりかは後で確かめるさ」

心配そうな表情でこれから向かう場所に一抹の不安を抱くユーノ。しばらくすると俺達は彼の言う通りに崖の手前へ差し掛かった。崖とは言うが眼下の光景は中々見応えのあるもので、無数の色鮮やかな結晶で構成された大地に空から降る青い光が反射して、まるで宝石を散りばめた絵画のような世界が広がっていた。はっきり言わせてもらうが、これは名物になっても良いレベルだと思う。しかしアレもレアメタルの一種だとしたら、採掘し続けたらいつか無くなるのだろうか……?

そういう幻想的な光が背後に広がる中、俺達をここまで誘導した少女は徐に足を止めて、こちらと相対する。何かに諦めているような力の無い眼で、彼女は言葉を紡ぎ出した。

「調査団の方々、ニダヴェリールへようこそ。私はシャロン、アクーナで合流予定だった道案内よ」

「フッ、わざわざ地元から出張してくれたという事か。それならクリアカンで……いや、空港で合流した方が手間が省けたんじゃないか?」

「合流する前に見極めたかった……これから来る者達がどういう存在か。来たばかりなら化けの皮も被ってないだろうと思って実行した。でもあの位置から私を見つけられる者が二人もいたのは驚いた。特に片方はね……」

二人? 一人は俺だとして、もう一人は……。

『やけに視線を感じると思ったら、空港であなたの姿を見つけたよ。それとやっぱりサバタ様も気付いていたんだ』

「マキナ……気付いていたんなら私にも教えてほしかったよ」

「サバタさんの方はもう納得してるけど、さりげなくマキナも眼は良いんだったね……」

そういやマキナは元狙撃手だったせいか、静止視力が鋭いんだったな。ついでに言うとなのはが鋭いのは動体視力の方である。

「あなた方に会いにここまで来た理由は他にもある。正規ルートでは余計な時間がかかる。だからアクーナへの近道も案内するつもり」

「近道……?」

「そう、そこは管理局も把握していない。私達だけが知る抜け道……」

「そんな便利な道があるなら、どうして管理局に伝えないんですか? クリアカンとアクーナが行き来しやすくなったら、アクーナの経済も活性化するんじゃ……?」

「アクーナの民はそんなものを求めていない。あの“大破壊”の経験から、私達は外界との接触を可能な限り避けるようになった。世界の管理とか、法的治安とか、そういうのはどうでも良い。ただ穏やかに暮らせればいいの」

『なるほどね……ところで“大破壊”って11年前の……?』

「…………」

返答の代わりにシャロンは無言で頷く。ところで彼女のマキナを見る目は、俺達に向ける物と比べて特別な感じがしている。もしや彼女は……?

ああ、それと彼女がクリアカンで合流しなかった裏の理由も今のではっきりした。アクーナの民はいわゆる世間と隔絶した生き方をしている集落だ。だからニダヴェリールの次元世界への窓口とも言えるクリアカンに長居したくなかったのだろう。故に俺達を人気のない場所まで誘導した訳だ。

「ここから行けばアクーナまで正規ルートより短い時間で着く。付いて来て」

「付いて来てって……まさか崖から飛び降りるのかい? それは流石の私もちょっと勘弁してもらいたいな……」

「全然違う。良いから見てて」

ネロの不安を一瞬で足蹴にし、シャロンは崖の方に向かって一歩踏み出した。今はまだ地面の上だから堂々と歩き続けるが、このまま進めば崖下に真っ逆さまだ。そしてシャロンの足は崖の一歩手前までたどり着き、驚いた事に彼女はそのまま足を崖の先……何も無い空間へと足を踏み出したのだ。

「あ、危ないッ!!」

咄嗟にユーノが飛行魔法を展開して駆け付けようとしたが、落下の気配が微塵も起きないまま、シャロンは何事も無く体重を踏み出した足に傾け、また一歩足を進めた。意味の分からない現象を前にネロ達が呆然とする中、ゆっくり進んでいく彼女は既に何も無いはずの空間の上で両足を直立させていた。

「アクーナの民だけが知る、見えないけど確かに存在する道。太陽が出ている間だけ使えるこの道を通っていくの」

「フッ……視界ではわからない透明な橋か。管理局が把握してない所を考えると、どうやら魔力で作られたのではないようだ」

「こ、これは……道案内がいないと間違いなく足を踏み外すね……。でも飛行魔法も無しで空中に立っているのは不思議な感覚だよ」

闇の書の管制人格として永い時を生きてきたネロも、こんな物があった事は知らなかったらしく、新たな知識との遭遇を噛みしめていた。こういう知らない事を見つけられるから、世界は面白いのだ。

それにしてもこの道を見ていると太陽床を思い出す。……いや、青い太陽だから見えないだけで、性質自体はそっくり似ているのだろう。世紀末世界でも割と頻繁に用いてきたから、気分的にはすぐ慣れた。

身軽な足取りで進んでいくシャロンを見失わないよう、俺達は彼女と同じ道を走っていく。途中、シャロンは下からせり出している結晶を足場にして跳躍、別の太陽床に着地する。続いて俺達も跳躍していくが、ユーノとマキナは俺やネロ程身体能力が高くないから代わりに飛行魔法を介して追っていた。……あぁ、言い忘れてたがマキナは飛行魔法に適性があるぞ。これまで使わなかったのは、単に覚えていなかっただけだ。

「兄様……あのシャロンって子、意外とやれるみたいだね」

「らしいな。とりあえず迂闊に付いて来て遺跡探索で足手まといになる事態は気にしなくて済むようだ」

「だけどどうしてかな……あの子から少し寂しそうな雰囲気を感じる」

「寂しい? ……言われてみれば確かに孤独感が漂っている。呪いに縛られてた頃のネロを思い出すな」

「その例えを引き出されると私としては凄く気まずいのだが……しかし、あの子も何か抱えているのだろうか……」

そんな事を言われても、シャロンの事はまだ何も知らないからどう返せばいいのやら。しばらく共に行動すればわかるかもしれないが、今は何も答えられないな。

まるでクリスタル化した湖のような光景を横目に、俺達は特殊な道を飛び飛び進んでいき、大体2時間ぐらいかけて反対側の崖にたどり着いた。元々半日かかるはずだった道のりを3分の1の時間で通れた辺り、この近道がどれだけショートカットの役目を果たしたのかがよくわかる。そして……、

「ここが……アクーナか」

結晶の崖を眼下に質素な暮らしを営んでいる小さな街、アクーナ。どちらかと言えば村に近い様相のこの街に着いて、ユーノは街の人への挨拶を行い、ネロは辺りをきょろきょろ見回し、マキナはなぜか街の方をじっと見ていた。この街の人間であるシャロンは入り口の階段を上る途中で、こちらの方……正確にはマキナの方を向いて、とある言葉を告げた。

「おかえりなさい……」

『ッ!?』

「ここはあなたが生を受けた地。全てが始まりと終わりが始まった場所。そう、ここが……」

11年前の闇の書事件、その渦中となった街。マキナの……ソレノイド家に安息と終焉が訪れた大地。つまりマキナはシャロンと同じ……アクーナの民だったという事だ。

『ここが……私の故郷。私の生まれた場所……』

「これは俺も驚いたな……まぁ生まれ故郷を早く見つけられて良かったじゃないか。ちょっと想像以上に早すぎた気もするが……」

「本当に戻ってきたのか……私は。かつての過ちの名残が色濃く残る場所に。先代主の幸せを奪ってしまった私が再び……」

「な、なんか僕の思った以上に偶然と事情がこんがらがってるね。でも11年前の事件の生き残りがこんなにいたなんて……不思議な気分だよ」

マキナとアクーナの関係性にそれぞれ感想を漏らす中、シャロンは次の句を告げてきた。

「……マキナ・ソレノイド。あなたに来て欲しい所がある」

『私に?』

マキナの疑問に無言で頷いた後、シャロンはその場所へ案内していく。ユーノ曰く泊まる場所も彼女が教えてくれる手筈だそうなので、流れで俺達もシャロンとマキナの後を追いかける。
そうしてたどり着いたのは、街を見渡せる高台。そこには多くの御影石が並び、同じ数の影を伸ばして物憂げな雰囲気が辺りに漂っていた。

「墓場か……」

「この墓石……全部綺麗に磨き上げられている……。あの子が毎日掃除しているのかな……?」

「でもなんでシャロンはここに?」

『…………』

無言でマキナは眉を顰め、ゆっくり歩いていくシャロンの後を追う。やがてシャロンは墓場の中央にある、結晶で周りを飾られた巨大な墓石の前で立ち止まり、それを見るよう促した。勧められるまま、マキナを囲むような姿勢で俺達も眺める。

『大破壊の犠牲者 慰霊碑』

その一文の後に、事件で命を落とした死者の名前が列挙されてあった。ずらっと並ぶ名前に目を通していくと、その中に“エックス・ソレノイド”……マキナの父親の名前があった。すぐ下にソレノイドの苗字が付いた女性の名前があった事から、恐らくこの名前の主こそがマキナの母親だろう。彼女は正確には被害者達の報復で命を落としたのだが……ある意味同じか。

「あの事件の後……生き残った人達は破壊の惨状を前にしながら復興を始めた。当時4歳だった私も、死んでいった多くの同胞を埋めるために墓穴を掘った」

「ここの墓場の分、全ての穴を掘ったのか、シャロン?」

俺の質問にシャロンは頷くが、当時4歳という事は相当な苦境だっただろう。そしてマキナや俺と同年代である彼女は続きを話す。

「埋葬を終えた頃、管理局という私達の知らない世界から訪れた組織から、闇の書というロストロギアによって事件が起きたと伝えられた」

「………」

「そのままなし崩しにこの世界が管理世界に取り込まれたけど、それ自体はどうでも良かった。いつだったか、闇の書の被害者の集いがどうのという人達が同意者を集めに来た事もあったけど、誰かを恨んだり憎んだりしても疲れるだけ……。私達はもう静かに暮らしていたかったから、彼らの誘いの手を跳ね除けた」

「へぇ、意外と芯が強いんだね、ここの人達は」

「ううん、そうじゃない。単にもう次元世界のゴタゴタと関わりたくなかったの。排他的と言ってしまえばそれまで……でもそれがどうしたというの? 未曾有の大惨事を受けた私達は確かに怒りも悲しみも抱いた。でもそれは時の彼方に流した。持ってても意味が無いから……静かに暮らせるならそれで良かったから」

『シャロン……私は……』

「あなたが責任を感じなくても良いの。あなた達一家はただ巻き込まれただけ……。マキナ……私の初めてで唯一の友達。11年の時を経た今、こうしてまた会えて私は嬉しいよ……」

『シャロン……!』

「だから……もう一度言うね。おかえりなさい、マキナ」

『ッ! ただいま……! ただいま……シャロン!!』

自分の声が出せない事に悔しさを感じながらも、マキナは昔の自分を知る友人のシャロンに抱きつき、シャロンも昔の友達が帰って来てくれた事を喜んでいた。ユーノは少し状況に置いていかれてるが、事情を知る俺やネロは故郷が優しくマキナを受け入れてくれた事に感謝した。

慰霊碑が優しい光を放つ光景の中、一度分かたれた二人はこうして再会を果たす事が出来たのだった……。

 
 

 
後書き
シャロン:遺跡編のキーキャラクター。マキナの幼馴染みのため、守護騎士やリインフォースの顔は覚えている。毎日全ての墓を磨いているので地味に体力や身体能力は高めだが、戦闘の技能は皆無。

クリアカンとアクーナはボクタイDSの地名より引用。それ以外に関連性は無いです。

この遺跡編は色んな意味で大事な話なので、この先もよろしくお願いします。 
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