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富樫

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3部分:第三章


第三章

「だからでございます」
「東大寺のか」
「はい」
 山伏はまた答えた。
「そうでございます」
「まことであろうな」
 富樫は鋭い目で山伏に問うた。
「そのことは」
「はい、まことにございます」
 山伏もその目が鋭い。雰囲気も只者ではない。
 それを見てだ。富樫の家臣達はまた囁く。
「あの威圧感、只の山伏であろう筈がない」
「あそこまで大柄でしかもあの威圧感」
「やはりな。あの山伏は」
「弁慶であろうな」
 確信がさらに深まる。そうしてであった。
 富樫はだ。またその山伏に問うた。
「それではじゃ」
「はっ、何でございましょう」
「その布施を集める頼みの文を聞こう」
 これを問うのであった。布施を集めるという名分の何よりの証をだ。
「読めるか」
「わかり申した」
 山伏は富樫のその言葉を受けてであった。
 その手に巻物を出しだ。読みはじめるのだった。
 つらつらと淀みなく読んでいく。それはだ。
 見事なものだった。聞けばそれだけで確かに東大寺再建の布施の願いに聞こえる。と賀詞の家臣達もそれで幾分か納得した。
「ううむ、ここまで読むとなると」
「やはりこの山伏達は」
「まことに東大寺再建の為の」
「それではなかろうか」
 こう言い合うのであった。
「ではやはり」
「この山伏達は」
「通すべきか」
「そうあるべきか」
 こう話す。しかしだ。
 富樫はふと動きだ。巻物を見ようとする。そこに確かに文が書かれているのかを確かめる為だ。だが山伏もそれを察してだった。
 足を一歩踏んでそうして身を逸らす。それで読ませまいとする。
 そのうえで文を最後まで読んでいく。文は完全に読み終わった。
 読み終えてからだ。山伏は富樫に対して言った。
「如何でありましょうか」
「ふむ。確かに」
 富樫も頷きざるを得なかった。そこまで見事な読みであった。
 それでだ。納得する顔でこう山伏達に話すのであった。
「見事であり申した」
「確かに。東大寺再建の為に」
「みちのくにですか」
「今から参ります」
 こうしてだった。山伏達は関を越えようとする。しかしであった。
 富樫は見逃すつもりはなかった。緊迫した場面を乗り越えて安堵した彼等をだ。ふと呼び止めたのだった。
「待て」
「むっ!?」
「何でありましょうか」
「そこの者」
 大柄な山伏の後ろにいるだ。その小柄な山伏を見ての言葉だ。
「義経殿に似ておる」
 こう言うのであった。
「まさかと思うが。どうなのだ」
「違い申す」
 あの大柄な山伏が富樫の前に出て述べた。
「この者は違います」
「そう言えるのか?」
「はい、疑われるのでございますか」
「似ておるからのう」
 小柄な山伏を見ながらだ。尚も言う富樫であった。
 
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