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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―運命封印―

「答えろ……!」

 本来の持ち主がいなくなった覇王城の頂上、エド・フェニックスは怒りを抑えながら、そこに立っていた男に問うていた。その男はくすんだ青色の服をたなびかせ、一枚のカードを持って佇んでいる。

「答えろと言っているんだ! 遊矢!」

 ――エドとカイザーが覇王城の頂上にたどり着いたのは、ちょうどオブライエンの命を賭けた特攻と同じタイミングだった。ジムとオブライエンの魂が籠もった一撃が覇王に放たれ、その心の闇がオリハルコンの瞳に吸収されていくと、後に残ったのは元の十代だった。

 ……ただし戦いに敗れたオブライエンの命は尽き、最後に残ったのは気絶した十代だけとなった。そして、エドがそこに駆け寄ろうとした時、どこからか現れたのは遊矢だった。遊矢は十代のデッキからカードを一枚抜き取ると、ゆっくりとエドに亮の方を見ていた。

 それを見たエドが感じたのは、久々に遊矢と会ったことによる喜びではなく、目の前に現れた遊矢への怒り。今の登場タイミングは明らかに狙ったものであり、彼は確実に覇王とオブライエンの戦いを見学していた。……つまり、オブライエンを見殺しにしていたのだ。

 今まで何をしていたのか、この瞬間に何をしているのか、何が狙いなのか――それらを全てひっくるめて、エドは遊矢に叫んでいた。

 ――『答えろ』と。

「答えろ……か。俺は最初から、みんなで元の世界に帰ることしか考えちゃいない」

 思いの外はっきりとした口調で、しっかりと遊矢は断言する。そのこととオブライエンのこと、一体何の関係がある――とエドが再び問いただそうとした時、遊矢は一枚のカードをデッキから取り出した。エドと亮は、そのカードから有り余る力を感じた……追求の口を緩めてしまうほどに。

「このカードはいわゆる神のカード……ただし、不完全な封印解除しかしていない。さらに封印を解除するには、覇王の持つこのカードが必要だったんだ」

 覇王のデッキから奪ったカードを憎々しげに睨みつけながらも、先程の《神のカード》と同じくエドたちに見せる。まるでそれは、生徒たちに授業をしている先生のようであったが――見せられたカードにより、二人は今度こそ戦慄する。

 遊矢が見せたカードは《邪心教典》。この最悪の状況を作り出した、たった一枚のカードがそこにあった。

「このカードの力を使って、神のカードの力を解放すれば――」

「ふざけるな!」

 人間と精霊の痛みなどの負の感情と魂を生け贄にし、新たな力を生み出す魔法カード《邪心教典》。その効力を知っているエドは遊矢の台詞を遮ると、正気を失ったような友人に訥々と語っていく。

「そんな不確かな可能性に、また多くの犠牲を出すのか? 正気を――」

「俺は大真面目だ」
 ……次に言葉を遮られるのはエドの番だった。正気を失ったような、と先に述べていたものの、エドが感じたその言葉は正しくない。

 何故なら、黒崎遊矢は正気を失ってなどいないからだ。何者かに操られている訳でもなく、神のカードによる力に溺れた訳でもなく、覇王の後釜を狙うわけでもなく。ただ全員でアカデミアに帰るために、《邪心教典》による神のカード――『エクゾディオス』の完成を目論んでいた。

「それに、この《邪心教典》は完成目前だ。大量のデュエリストの魂は必要ない。必要なのは……」

 かつて十代とのデュエルで《超融合》を生み出していた《邪心教典》だったが、その力はまだ失われてはいなかった。何故ならまだ、《邪心教典》は未完成――そのカードを構成する『疑い』の感情が、オブライエンとジムの計略によって足りないのである。

 そして呼ばれたかのように、また一人の少年がその場に現れていた。……いや、その場に現れていた、というのは少し正しくない。彼はずっと、そこで覇王のことを見ていたのだから。

「……翔」

「そうだ、お前だ」

 あとは『疑い』の感情を《邪心教典》に埋め込むだけ、それで神のカードは完全なる力を取り戻す。遊矢が翔に向けて歩き出そうとした瞬間、デュエルディスクを展開したエドが立ちはだかった。

「待てエド。弟のことなら俺が……」

「いいや、これは僕の役目だ。カイザー」


 無論エドたちからしてみれば、遊矢のやろうとしていることは、ただ仲間を殺そうとしているに過ぎない。神のカードなどという、不確かなものに囚われて。

「…………」

「それに万が一があった時、僕のヒーローより君のドラゴンの方が逃げやすい。君はそこで弟を見ていろ」

 そのエドたちの反応は見越していたのだろう、遊矢もエドに対してデュエルディスクを展開する。エドの言葉に納得したのか、エドが退かないことを悟ったのか、亮は翔を守るように少し下がる。

「……まあ、そんなことは万が一にもありえないがな」

 後ろで待つカイザーにだけではなく、対戦相手である遊矢にも宣言するかのように。エドは闘志を内面に秘めながら、デュエルの準備を完了させる。

『デュエル!』

エドLP4000
遊矢LP4000

「僕の先攻!」

 そうは言ったものの、エドは遊矢のことを過小評価しているわけでもなく、神のカードとやらを甘く見ている筈もない。カイザーが一度見たという情報が確かならば、今の遊矢は【機械戦士】ではなく、何故か《高等儀式術》をメインにした【儀式召喚】デッキを使っているそうだが。

「僕は《デステニー・ドロー》を発動! 手札のヒーローをセメタリーに捨て、さらに二枚ドローする」

 ならば、その神のカードとやらが現れる前に決着をつけねばならない。先攻を勝ち取ったエドは手札交換を果たすと、まずは行動の為の布石を打つ。

「僕はモンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢とエドがデュエルするのは、これで四度目になる。回数としては数えるほどだが、相手は現役のプロデュエリスト。それだけでも充分に多い方だ。一度目と二度目は遊矢の勝利に終わっているものの、二つとも真っ向からの1対1でのデュエルではない。

 そして、その真っ向からの1対1のデュエルをした三戦目では……遊矢は敗北している。それはまだ、遊矢はエドに勝ったことがない、ということと同義だった。

「俺は《高等儀式術》を発動!」

 さらに今の遊矢には【機械戦士】たちもついてはいない。それでも、遊矢は負けるわけにはいかなかった。

「デッキから通常モンスターを墓地に送り、《破滅の女神ルイン》を儀式召喚する!」

 ――たとえエドを殺すことになろうとも。

「バトルだ、《破滅の女神ルイン》でセットモンスターに攻撃!」

 《破滅の女神ルイン》は二回攻撃の効果を持つ儀式モンスターであり、エドのフィールドのモンスターはセットモンスターのみ。神のカードを待つまでもなく、遊矢が選んだ戦術もまた速攻だった。

「……僕を甘く見るなよ」

 エドの呆れたような溜め息混じりの声とともに、《破滅の女神ルイン》の攻撃に反応したセットモンスターが姿を現し――ルインが放った光弾を弾き返した。

「ぐっ!?」

「僕がセットしていたのは《D-HERO ディフェンドガイ》。反射ダメージを受けてもらう」

遊矢LP4000→3600

 姿を現したセットモンスターは、下級モンスターにしては破格の守備力を誇る、《D-HERO ディフェンドガイ》。易々とルインが放った光弾を遊矢に跳ね返し、遊矢の先制攻撃は400ポイントのダメージとして自分に帰ってきた。

「……カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 攻撃を失敗した遊矢は、仕方なしにカードを二枚伏せたのみでターンを終了し、エドの次なる攻撃に備えた。対するエドは、あくまで強気にカードをドローする。

「神のカードならばともかく、機械戦士を使わないお前に遅れを取るつもりはない! 僕はディフェンドガイをリリースし、《D-HERO ダブルガイ》をアドバンス召喚!」

 岩石のようにゴツゴツとしていたディフェンドガイがリリースされ、代わりに現れたのは細身の男性。そのスーツ姿はどう見ても、戦場には似つかわしくない。

「さらにフィールド魔法《ダーク・シティ》を発動!」

 エドのフィールド魔法の発動とともに、床からそびえ立ってきたビルによって風景は変わっていき、激戦の跡が残っていた覇王城の頂上は一瞬にしてヒーローが戦う舞台となる。摩天楼とはまた違う、闇の中の暗い戦場に。

「バトル! ダブルガイでルインに攻撃!」

 遊矢の《破滅の女神ルイン》と同じく、ダブルガイには二回の攻撃を可能とする効果がある。しかしてその攻撃力は、上級モンスターには似つかわしくない1000程度。

「さらにリバースカード、《D-チェーン》を発動! このカードは発動後装備カードとなり、攻撃力を500ポイントアップさせる!」

 エドのリバースカードから現れた鎖を持ったことと、フィールド魔法《ダーク・シティ》の――攻撃力が上のモンスターに攻撃する時、その攻撃力を1000ポイントアップさせる――効果により、ダブルガイの攻撃力は2500にまで上昇する。

「デス・オーバーラップ・チェーン!」

 エドのかけ声とともに放たれたダブルガイの攻撃は、二つのサポートカードの効果を得て《破滅の女神ルイン》に腹部突き刺さる。そのままルインを破壊しながら鎖は貫通し、背後に控えていた遊矢にまで到達する。

「《D-チェーン》を装備したモンスターが相手モンスターを破壊した時、500ポイントのダメージを与える!」

「……っ!」

遊矢LP3600→2900

「まだだ! ダブルガイのエフェクトにより、二回目の攻撃! デス・オーバーラップ・チェーン!」

 スーツ姿で飄々としていたダブルガイが、突如として雄叫びをあげて巨大な怪人に変化する。先程は華麗に扱ってみせた鎖を力任せに振り回すと、再び遊矢を貫かんと投げつける。

「ぐあっ……!」

遊矢LP2900→1400

 その二回攻撃を遊矢は防ぐ手段はなく、あっさりとライフが大幅に削られてしまう。攻撃とともにダブルガイはスーツ姿の紳士となり、執事のようにエドの前へと戻っていく。

「ターンエンドだ」

「……俺のターン、ドロー!」

 遊矢は勢いよくカードを引いたものの、その頬には一筋の冷や汗が伝わっていた。自分の《破滅の女神ルイン》の攻撃はあっさりと防がれ、エドの《D-HERO ダブルガイ》の攻撃は直撃したことに。エドの方が一枚上手なのだと、思い知らされたようで。

「俺は《高等儀式術》を発動!」

 ……いや、エドが上手なのだというのは今更か、と遊矢は考え直す。ならば自分が新たに手に入れた力で、エドの虚を突くしか勝つ見込みはない。

「俺は《伝説の爆炎使い》を儀式召喚する!」

 遊矢のフィールドに儀式召喚されたモンスターは、炎を操る魔法使いこと《伝説の爆炎使い》。その効果はこのカード以外のモンスターを全て破壊する、という《終焉の王デミス》と似た強力な効果。

「さらに俺は《闇の量産工場》を発動し――」

 だが《伝説の爆炎使い》の活躍には下準備がいる。墓地から二枚のカードを回収するとともに、そのカードをエドに向けてかざす。

「スケール3の《イグナイト・ドラグノフ》と、スケール7の《イグナイト・マスケット》でペンデュラムスケールをセッティング!」

「ペンデュラム!?」

 遊矢が発動したペンデュラムカードに対し、流石のエドも驚愕をあらわにする。交戦した覇王軍の一部が使用していた、異世界における召喚法――大体のことは知っているつもりだが、遊矢がそれを使うとは流石に予想の範囲外だった。

「……馬鹿が……」

 遊矢の背後に展開していく赤と青の二つの柱を見ながら、エドは誰にも聞こえないほどの小さな声で呟く。遊矢が【機械戦士】ではなくペンデュラムカードを使ったことが、遊矢が異世界の住人になってしまったような気がして。

「そして伏せていた《ペンデュラム・バック》を発動! ペンデュラムスケールの間のレベルを持ったモンスターを、墓地から二枚手札に加えることが出来る!」

 そんならしくない感慨は後だ――と、エドは今のデュエルに集中する。遊矢が発動したのは通常罠《ペンデュラム・バック》と、発生しているペンデュラムスケールの間のモンスターを、二枚まで手札に加えるカード。

 要するに。現在発生しているペンデュラムスケールは、スケール3とスケール7ということで、レベル3から7のモンスターを、二枚まで手札に加えることが出来る、ということだ。

「さらに《伝説の爆炎使い》の効果を発動! このカードに貯まった魔力カウンターを三つ取り除くことで、このモンスター以外のモンスターを全て破壊する!」

「魔法カード……ペンデュラムカードか!」

《伝説の爆炎使い》は、プレイヤーが魔法を使うごとに魔力カウンターを溜め、三つ取り除くことて効果を発動する。エドは遊矢が発動したのは《闇の量産工場》のみ――と考えていたが、展開する二枚のペンデュラムカードによってすぐに考えを改める。

 ペンデュラムカードをスケールにセッティングする時は、モンスターカードではなく魔法カードとして扱うため、《伝説の爆炎使い》には既に三つの魔力カウンターが貯まっている。

「プロミネンスドロップ!」

 《伝説の爆炎使い》の周囲を漂っていた炎がさらに火力を高めていき、全てを焼き尽くさんとエドのフィールドに迫り、あっけなくダブルガイを焼き尽くしていく。ここで《終焉の王デミス》と違うことは、今は自分のフィールドへの影響はないこと。ペンデュラムスケールは無事なまま、気兼ねなくその効果を発動することが出来る。

「さらにモンスターをペンデュラム召喚! 現れろ、イグナイトモンスター!」

 先に《ペンデュラム・バック》で手札に加えていた、二枚のイグナイトモンスターこと《イグナイト・イーグル》と《イグナイト・ドラグノフ》が、空中に浮かび上がった魔法陣からフィールドに降り立った。同時に何体ものモンスターを並べる新たな召喚方により、遊矢のフィールドのモンスターはこれで三体。

「バトル! イグナイト・ドラグノフでダイレクトアタック!」

「伏せてあった《D-フォーチュン》を発動! セメタリーの《D-HERO ダブルガイ》を除外することで、相手のダイレクトアタックを無効にし、バトルを終了させる!」

 しかし、イグナイト・ドラグノフが持った銃がエドに届くより早く、先程破壊されたはずのダブルガイがその身を挺してエドを守る。《D-フォーチュン》の効果によってバトルフェイズは終了し、遊矢の総攻撃は失敗に終わってしまう。

「ターンエンド」


「僕のターン、ドロー。スタンバイフェイズ時、破壊された《D-HERO ダブルガイ》の効果を発動!」

 スーツ姿の紳士とワイルドな野獣と、二つの姿を持ったトークンがエドのフィールドに現れる。ダブルガイは二回攻撃だけでなく、破壊された次のスタンバイフェイズに、二体のトークンを精製する効果を併せ持っているのだ。

 これでエドのフィールドには《ダブルガイ・トークン》が二体に、フィールド魔法《ダーク・シティ》。伏せられていた二枚のリバースカードはどちらも発動され、もはや一枚も伏せカードはないが、未だそのライフに傷は付いていない。

 対する遊矢は《伝説の爆炎使い》に二体のイグナイトモンスター、そしてセッティングされたペンデュラムスケールに、一枚のリバースガード。《D-HERO ダブルガイ》の猛攻を受け、そのライフは1400まで落ち込んでしまっている。

「さらに《D-HERO ダイヤモンドガイ》を召喚!」

 フィールドだけを見れば五分五分だが、エドはまだまだ余裕を残している。大型モンスターを交えた猛攻に、遊矢はいつまで耐えることが出来るか、という勝負になるか。

「ダイヤモンドガイの効果発動! デッキトップの通常魔法を未来に送る! ハードネス・アイ!」

 ダイヤモンドガイの効果で捲ったカードは、通常魔法《終わりの始まり》。よってそのカードは墓地に送られ、次なるターンにおける発動が確定する。……そして未来ではなく今、エドのフィールドにはD-HEROを含む三体のモンスター……!

「僕は三体のモンスターをリリースし、《D-HERO ドグマガイ》を特殊召喚する! カモン、ドグマガイ!」

「…………!」

 ダブルガイが破壊されることも最初から計画のうち、ダブルガイ・トークン二体とダイヤモンドガイがリリースされ、黒翼を背負った最上級D-HEROが特殊召喚される。その巨体と禍々しい刃は伊達ではなく、その攻撃力は他に類を見ない3400という数値。

「バトル!」

「いや、リバースカードを発動させてもらう! 《立ちはだかる強敵》!」

 ドグマガイの攻撃がイグナイトモンスターに向けば、それだけで遊矢のライフポイントは尽きる――そんな状況で発動されたリバースカードは、相手モンスターの攻撃を誘導する《立ちはだかる強敵》。本来ならば、他のモンスターとのコンボ用カードなのだが、今回ばかりはしょうがなく《伝説の爆炎使い》を対象に発動する。

「ふん……ドグマガイで伝説の爆炎使いに攻撃! デス・クロニクル!」

「ぐぅぅぅっ……!」

遊矢LP1400→400

 《立ちはだかる強敵》の効果により《D-HERO ドグマガイ》の攻撃は《伝説の爆炎使い》に向き、遊矢のライフポイントはギリギリ400ポイントだけ残る。

「ターンを終了」

「俺のターン……ドロー!」

 だがエドの攻撃はまだ終わらない。遊矢がカードをドローした直後、ドグマガイがその圧倒的な翼を広げると、遊矢のライフがドグマガイに奪われていく。

「ドグマガイが召喚された次のターン、スタンバイフェイズに相手ライフは半分となる。ライフ・アブソリュート!」

「…………!」

遊矢LP400→200

 エドのライフを100ポイント削ることすら出来ずに、もはや遊矢のライフは風前の灯火。ライフポイントを吸われた影響で片膝をつきながら、遊矢は先のエドとのデュエルのことを思い出していた。

 光の結社事件の時のデュエルも、こうやって制圧されてライフ100にまで追い込まれたと。その時は確か、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を使って逆転を――

「……ハッ」

 ――持っていないカードに頼って何になる。遊矢は苦笑しながら立ち上がると、モンスターをデュエルディスクにセットしていく。

「俺はカードを二枚伏せ、二体のイグナイトモンスターを守備表示に変更し、ターンエンドだ」

「防御に回るだけか? 僕のターン、ドロー!」

 遊矢がドグマガイに向けて取った手だては、自分が今出来る全ての手段を防御に使うこと。圧倒的な攻撃力を誇るドグマガイの前に、今の遊矢が出来ることはそれだけだった。

「ダイヤモンドガイのエフェクトにより、未来に飛ばされていた《終わりの始まり》の効果を発動! カードをさらに三枚ドローする!」

 ダイヤモンドガイの効果で未来に飛ばされていた魔法カードの効果が発動し、エドは《終わりの始まり》の効果によって三枚のカードをドローする。

「さらに《トレード・イン》を発動し……よし、《D-HERO ディバインガイ》を召喚する!」

 さらに手札のレベル8モンスターを引き換えに、二枚ドローする魔法カード《トレード・イン》によって手札を整えると、新たなD-HEROをフィールドに特殊召喚する。先に現れていたドグマガイとともに、銀色の刃を背負ったディバインガイがイグナイトモンスターたちを睥睨する。

「バトル! ドグマガイ、ディバインガイ、奴らを消し去れ!」

 エドの宣言とともに、守備表示のイグナイトモンスター二体は何の抵抗も出来ずに破壊され、遊矢のモンスターゾーンには何も残ることはなかった。……ただし、先のターンで伏せられた二枚の伏せカード、そのどちらもが発動していた。

「俺は二枚の《臨時収入》を発動していた。エクストラデッキにモンスターが送られる度に、このカードに魔力カウンターを置く」

「魔力カウンターだと……」

 エクストラデッキにカードが加わる、という聞き慣れない特異な発動条件。それは明らかに、破壊された場合エクストラデッキに置かれるという性質を持った、ペンデュラムモンスターのサポートカードだった。

「……カードを二枚伏せ、さらにフィールド魔法《幽獄の時計塔》を発動!」

 魔力カウンターを二つ溜めたのみで動こうとしない《臨時収入》を警戒しつつ、エドはメインフェイズ2に移行し新たなフィールド魔法を発動される。今まで発動していた《ダーク・シティ》は墓地に送られ、代わりにある男が幽閉された英国の時計塔が出現する。

「僕はこれでターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 これでエドのフィールドには《D-HERO ディバインガイ》に《D-HERO ドグマガイ》と、二枚のリバースカードに《幽獄の時計塔》。ライフポイントはまだ削られてすらおらず、この遊矢のスタンバイフェイズに《幽獄の時計塔》の針が一つ進む。

 対する遊矢は、魔力カウンターが二つ貯まった永続罠《臨時収入》が二枚。そしてペンデュラムスケールだけだが、その性質上ペンデュラムモンスターは不死身。それを証明するかのように、再び天空に魔法陣が描かれていく。

「モンスターをペンデュラム召喚!」

 ドグマガイとディバインガイ、二体のモンスターに破壊されたイグナイトモンスターたちが、破壊される前の姿のままフィールドに舞い戻る。幾度破壊されようとも、ペンデュラムスケールさえ無事ならば、何度でもペンデュラムモンスターは蘇る。

「さらにペンデュラムゾーンにセットされた、《イグナイト・ドラグノフ》のペンデュラム効果を発動! ペンデュラムゾーンのカードを全て破壊することで、デッキか墓地から炎属性・戦士族モンスターを手札に加える!」

 そして役目を終えたように二対の柱は自壊していき、遊矢の手札にその効果によってサーチされたモンスターが手札に加えられる。そのペンデュラム効果によるサーチ効果に、炎属性・戦士族モンスターという指定以外、何の制約も指定も存在しない。

「二体のイグナイトモンスターをリリースし、《イグナイト・スティンガー》をアドバンス召喚!」

 そしてサーチされ、そのまま二体のイグナイトモンスターを供物に召喚されたのは、最強のイグナイトモンスターこと《イグナイト・スティンガー》。フィールドにいた二体のイグナイトモンスターを合体したようなモンスターは、ステータスでは劣るにもかかわらずドグマガイに銃口を向け……そして激流へと流されていった。

「リバースカード、《激流葬》を発動した。フィールドのモンスターを全て破壊する」

「なっ……!」

 満を持して召喚された最強のイグナイトモンスターは、エドの発動した罠カード《激流葬》にかかり、何の戦果もなくそのまま破壊される。さらにペンデュラムモンスターでもないために、エクストラデッキではなく墓地へと送られる……よしんばペンデュラムモンスターだったとしても、もはやペンデュラムスケールにカードはセッティングされていないのだが。

 そしてエドのフィールドと言えば、無傷だ。……いや、無傷というには少々語弊があるか。

 何故なら、むしろモンスターが一体増えているのだから。

「さらに僕は《リビングデッドの呼び声》を発動し、墓地から《D-HERO ドレッドガイ》を特殊召喚していた!」

 エドのフィールドにいつの間にか現れていた大男を見て、エドのフィールドに何が起きたのか遊矢は理解した。どうして《激流葬》が、自分のフィールドにのみしか及んでいないのか……全てはドレッドガイの効果にある。

「ドレッドガイが特殊召喚された時、このターンD-HEROたちは破壊されず、僕はダメージを受けない。ドレッド・ウォール!」

 ドレッドガイがその巨体で《激流葬》を全て防ぎきったことにより、エドのフィールドの《激流葬》の影響はない。さらにその効果はそのターン中全てに及び、さらにエドは戦闘ダメージを受け付けない。

「……俺は《臨時収入》の効果を発動! 魔力カウンターが3つ貯まったこのカードを墓地に送ることで、俺はカードを二枚ドロー出来る!」

 発動されていた二枚の《臨時収入》の効果はドローソース。先のターンにD-HEROたちに戦闘破壊された分と、ペンデュラム効果で自壊した分で3つの魔力カウンターは溜まっており、遊矢は永続罠をコストに四枚のドローを果たす。

「…………ッ!」

 ――そしてエドは感じる。遊矢が引いたカードの一つから、限りない力の奔流を。まるで『神』のカードのような。

「俺はフィールド魔法《神縛りの塚》を発動!」

 エドのフィールドには《幽獄の時計塔》が発動しているように、遊矢のフィールドには神を祀っているかのような祭壇、《神縛りの塚》がフィールドを支配していく。しかし遊矢のフィールドには今度こそ何もなく、まだ神のカードが出現するには時間が――というところまで考え、エドはその思考を改める。

 ――神のカードは既に遊矢の手の中にあり、それを呼ぶ手段もあるのだろう。

「このカードは墓地のモンスターを全てデッキに戻すことで、特殊召喚が出来る! ……来い、《究極封印神エクゾディオス》!」

 墓地に送られていたモンスターたちが砕け散り、遊矢の手札から凝縮された力がフィールドに現れる。かの伝説の魔神のまた別の形態――怒りの雷火をフィールドに撒き散らしながら、《究極封印神エクゾディオス》はエドとD-HEROの前に姿を表した。

「くっ……!」

 その雷火はエドだろうがD-HEROだろうが遊矢だろうが無差別であり、何かの効果を発動した訳ではないだろうに、覇王城を崩壊させていく。エクゾディオスはそのまま雄叫びをあげ、さらなる破壊をもたらそうとしたが、間一髪のところで《神縛りの塚》から延びた鎖に阻まれた。

 両腕両足どころか首や胴までもが鎖で固定され、まるでまたも封印されたような様相を呈しているからか、そのステータスは攻守ともに0。

「さらに《高等儀式術》を発動。デッキから通常モンスターを墓地に送り、《終焉の王デミス》を儀式召喚する」

 その神の怒りに遊矢は動じることなくプレイを進めていき、エクゾディオスの他に新たなモンスターを儀式召喚する。《終焉の王デミス》は確かに強力な効果を持つモンスターではあるが、そのライフコストは2000と、残りライフが風前の灯火である遊矢に使用は実質不可能。その上ドグマガイに及ばないからか、守備表示での登場となった。

「そしてエクゾディオスは、墓地の通常モンスターの数×1000ポイント、その攻撃力をアップさせる」

「なるほどな……」

 そのエクゾディオスの効果によって、遊矢がわざわざ《終焉の王デミス》を儀式召喚した意味に得心がいった。《高等儀式術》によって、直接墓地に送られた三体の通常モンスターたちがエクゾディオスの供物となり、その攻撃力は一瞬にして3000となる。

「バトル! エクゾディオスでディバインガイに攻撃! エクゾード・ブラスト!」

「ドレッドガイのエフェクトを忘れたか! このターンD-HEROは破壊されず、僕は戦闘ダメージは受けない!」

 《激流葬》からD-HEROたちを守った効果は未だ健在であり、たとえ相手がエクゾディオスだろうと、今のエドにダメージを与えることは不可能だ。

「エクゾディオスは攻撃する時、デッキからモンスターを一枚墓地に送ることが出来る。よって、攻撃力は4000となる!」

 だがそんなことは遊矢も百も承知。全てはエクゾディオスの効果を発動する為であり、さらにエクゾディオスはその攻撃力を上げていく。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 遂に許してしまった神のカードの召喚。エドは緊張を表に出さないようにカードをドローすると、改めてフィールドを観察する。《神縛りの塚》に封印されているにもかかわらず、確かに神のカードとして相応しいオーラを纏っているエクゾディオスだったが、その攻撃力は今は4000。二体のD-HEROの攻撃力を合計した、ドレッドガイの方が今はまだ上回っている。つまり、ドレッドガイでエクゾディオスを攻撃すれば、ライフが残り200しかない遊矢はそれで終わり……だが、遊矢がそのことを分かっていない筈もない。

 だとすれば、その一枚伏せられたリバースカードへの撒き餌か。遊矢はこのターンを凌ぐことさえ出来たならば、あとは無限に攻撃力を上げるエクゾディオスで、D-HEROたちを攻撃すればいいだけだ。ならばあの伏せカードは、エドの攻撃を防ぐ為のものか。

「……僕は三体のD-HEROを守備表示にし、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 ……結論からすれば、エドはその賭けには乗らなかった。あの伏せカードを破壊する手段があったならば……と、今まで自分に向いていた『デュエルの流れ』が、エクゾディオス召喚から遊矢に流れているとエドは感じた。

「俺は《金満な壷》を発動! エクストラデッキのペンデュラムモンスターを三枚デッキに戻し、カードを二枚ドローする!」

 エドのフィールドの《幽獄の時計塔》の針がまた進んでいく。かの汎用ドローカード《貪欲な壷》の亜種カード、ペンデュラムモンスターをデッキに戻す《金満な壷》が発動され、遊矢はカードを二枚ドローする。ペンデュラムモンスターは、エクストラデッキに溜まれば溜まるほど力を増す筈だが、もはやペンデュラムモンスターなど必要ではないということか。

「《終焉の王デミス》を攻撃表示に変更し、さらに永続魔法《フィールドバリア》を発動!」

 攻撃体勢に入る《終焉の王デミス》とともに発動されたカードは、フィールド魔法にも破壊耐性を付与し、新たなフィールド魔法の発動を無効にする永続魔法《フィールドバリア》。これで遊矢の《神縛りの塚》を破壊することだけでなく、エドの《幽獄の時計塔》の破壊された時に発動する、一発逆転の可能性を秘めた効果が封じられる。

「バトル! 究極封印神エクゾディオスで、ドグマガイに攻撃! エクゾード・ブラスト!」

 エクゾディオスの放った雷火にドグマガイは消し飛び、守備表示であるにもかかわらずエドに多大な衝撃を与えた。エクゾディオスの攻撃時に新たなモンスターが墓地に送られていき、これでエクゾディオスの攻撃力は5000となった。通常モンスターということで《ネクロ・ガードナー》などの心配はないが、このままではエクゾディオスは無限に攻撃力を増していく。

「さらに《神縛りの塚》の効果を発動! レベル10のモンスターが相手モンスターを破壊した時、相手ライフに1000ポイントのダメージを与える!」

「なに……ぐうっ!?」

エドLP4000→3000

 デュエルが始まって以来のエドへの初ダメージは、フィールド魔法《神縛りの塚》によるバーンダメージ。エクゾディオスの雷火が祭壇を伝わってエドに加えられ、信じられない火力に口から苦痛の声が湧く。

「さらにデミスでドレッドガイを攻撃!」

 いくらドレッドガイといえども、今のフィールドにいる他のD-HEROはディバインガイのみ。それでは高いステータスを維持することが出来ず、あっさりと《終焉の王デミス》に破壊されてしまう。

「俺はこれでターンエンド」

「くっ……僕のターン、ドロー!」

 《究極封印神エクゾディオス》の登場から、あっという間に盤面はひっくり返されてしまう。神のカードなどと言うだけのことはある、とディバインガイのみになったフィールドを見ながら、エドは気迫を込めてカードをドローした。

 遊矢のフィールドには《究極封印神エクゾディオス》に《終焉の王デミス》、そしてフィールド魔法《神縛りの塚》と《フィールドバリア》に一枚のリバースカード。効果が使えない《終焉の王デミス》はともかく、攻撃力が5000にまで到達したエクゾディオスに、《幽獄の時計塔》を実質封印する《フィールドバリア》、そして恐らくはこちらの攻撃を防ぐリバースカードは驚異そのものだ。

「僕は《D-HERO ドレッドサーヴァント》を召喚!」

 それでもエドは、自らが信じるヒーローたちを展開していく。相手が神のカードだろうとなんだろうと、まだ打つ手はあるのだと。

「ドレッドサーヴァントのエフェクト発動! このカードが召喚された時、《幽獄の時計塔》の針を一つ進める!」

 エドのフィールドに発動している《幽獄の時計塔》が、ドレッドサーヴァントの効果により遂に9時を指す。次の遊矢のスタンバイフェイズで12時となり、これで《幽獄の時計塔》は真の効果を発揮することが可能になる。

「さらにセメタリーの《D-HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動! このカードを除外することで、デッキから同名モンスターを特殊召喚する! カモン、ディアボリックガイ!」

 さらに先のターンで《デステニー・ドロー》によって墓地に送られていた、《D-HERO ディアボリックガイ》が遂にその効果を発動し、デッキから姿を現した。これによってエドのフィールドのモンスターは三体――ドグマガイと双璧をなす切り札の召喚条件が整った。

「来るか、最強の『D』……!」

「三体のD-HEROをリリースし、現れろ! 《D-HERO Bloo-D》!」

 ディアボリックガイ、ドレッドサーヴァント、ディバインガイ――三体のD-HEROたちが出現した血の池に呑まれていくと、そこから新たなヒーローが姿を現した。血の池はそのヒーローの翼となっていき、最強の『D』ことBloo-Dが完全な姿で降臨する。

「Bloo-Dの効果発動! 相手モンスター一体を吸収し、装備カードとする! クラプティー・ブラッド!」

 Bloo-Dの血の翼の一部から、その力を奪い取ろうと、触手のように赤い血が伸びていく。ただ、それと同時に《神縛りの塚》が光ったかと思えば、その触手はエクゾディオスに近づけないでいた。

「だが《神縛りの塚》がある限り、レベル10モンスターは効果の対象にならない!」

 遊矢とエドの前回のデュエルにおいて、その効果をフルに使用してフィニッシャーとなったBloo-D。もちろん遊矢がその効果を覚えていない訳でも、対策をしていない訳でもない。

「だが《終焉の王デミス》はレベル8。デミスをBloo-Dに装備する!」

 しかしてその対策は完全ではなく。確かにエクゾディオスは《神縛りの塚》によって防がれたが、代わりに《終焉の王デミス》がBloo-Dに吸い込まれていき、その力を吸収されてしまう。

「バトル! Bloo-Dでエクゾディオスにアタック!」

「…………ッ!」

 Bloo-Dはその効果により、吸収した相手モンスターの攻撃力の半分の攻撃力を得る。《終焉の王デミス》の攻撃力は2400――よって1200の攻撃力がアップし、元々の攻撃力と合わせて3100となっている。

 なかなかの攻撃力だが、無限に攻撃力を上げるというエクゾディオスには及ばない――という訳ではなかった。5000という圧倒的攻撃力を誇るエクゾディオスは、今やその力を失い倒れ伏しているも同然なのだから。鎖によってがんじからめにされていなければ、本当に倒れ伏していたのだろう。

「Bloo-Dがいる時、相手のモンスターエフェクトは全て無効となる……いけ、ブラッディ・フィアーズ!」

 Bloo-Dのもう一つの効果。このモンスターが存在する時、相手のモンスター効果を全て無効化する、という疑似《スキルドレイン》とでもいうような効果。《神縛りの塚》で防げる対象を取る効果ではないため、その効果の対象範囲内は神のカードだろうと例外ではなく、エクゾディオスは効果を無効化されて攻撃力は0。

 ……他のカードの効果の干渉を受けるのは、遊矢の使う《究極封印神エクゾディオス》が、未だ未完成ということの証明だろうか。

「くっ……リバースカード、オープン! 《究極封印防御壁》!」

 Bloo-Dの発射した血の針がエクゾディオスを貫くより早く、遊矢の発動したリバースカードからバリアが発生し、血の針は全てそれに阻まれエクゾディオスに届くことはなかった。

「永続罠《究極封印防御壁》は、《究極封印神エクゾディオス》がいる時、相手のバトルフェイズをスキップする」

「ほう……」

 確かにエドの読み通り、遊矢の伏せていたカードは攻撃を防ぐためのものだったが、予想よりも遥かに厄介な代物だった。《究極封印防御壁》は永続罠のため、このままではエクゾディオスがいる限り、エドは攻撃をすることは出来ない。

「ターンを終了する」

「……俺のターン、ドロー!」

 遊矢がカードを引いた直後、《幽獄の時計塔》の針は再び12時を指し、時計の音をフィールドに広げていく。Bloo-Dの召喚により、再び戦況はエドの優勢へと返り咲いた――

「俺は魔法カード《封印されし者の憤怒》を発動!」

 ――訳ではなかった。遊矢が従えている《究極封印神エクゾディオス》は、不完全と言えども神のカードそのものであり、この程度で揺さぶられる『格』ではない。魔法カードの発動とともにエクゾディオスが雄叫びをあげると、エクゾディオスはみるみるうちに力を取り戻していく。

「なに!?」

「魔法カード《封印されし者の憤怒》は、エクゾディオスがいる時、フィールドで発動しているカードの効果を選択し、無効にする!」

 当然ながら遊矢が無効にするように選択したのは、フィールドを一時制圧した切り札《D-HERO Bloo-D》。相手モンスターを吸収する効果を無効にされ、装備していた《終焉の王デミス》が遊矢の墓地に送られるとともに、相手モンスターの効果を無効化する効果も無効となる。

 よってエクゾディオスは、墓地の通常モンスターの数だけ攻撃力を上げる効果を取り戻し、再びその攻撃力は5000へと返り咲いていく。

「バトル! エクゾディオスでBloo-Dに攻撃! エクゾード・ブラスト!」

「だが《幽獄の時計塔》が再び12時を指した時、全ての戦闘ダメージを無効にする!」

 力を取り戻したエクゾディオスの力は圧倒的であり、《終焉の王デミス》を失ったBloo-Dと比べるべくもなく。その一撃に何の抵抗もなくBloo-Dがかき消されていくが、そのダメージは《幽獄の時計塔》に吸収されエドには届かない。

 ……だが、《神縛りの塚》の祭壇に、その雷火の残りカスが充填されていく。

「《神縛りの塚》の効果により、1000ポイントのダメージを与える!」

「がっ……!」

エドLP3000→2000

 《幽獄の時計塔》はあくまで戦闘ダメージをシャットアウトするのみで、《神縛りの塚》によって発生する効果ダメージを防ぐことは出来ない。Bloo-Dを破壊したことによる1000ポイントのダメージがエドを襲い、エクゾディオスの力の一端だとしても気絶してしまいそうな威力を保っていた。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 だからといって倒れるわけにはいかない。エドは意識を強く保ちながらカードをドローすると、そのカードをそのままデュエルディスクにセットする。

「通常魔法《ドクターD》を発動! セメタリーのD-HEROを除外することで、同じくセメタリーのD-HEROを特殊召喚する! カモン、《D-HERO ダイヤモンドガイ》!」

 エドがドローし、そして発動したカードは、D-HEROの専用蘇生魔法《ドクターD》。その効果によって、墓地からダイヤモンドガイを特殊召喚することに成功するが、その手は遊矢にとって考えに至っていなかった。

 何故なら《幽獄の時計塔》の効果により、戦闘ダメージを全て無効にすることが出来るため、現状ではモンスターを出す意味がない。いや、むしろ《神縛りの塚》のバーンダメージのトリガーとなってしまうため、モンスターを出すのはダメージを誘発するだけの筈だ。

 それでもダイヤモンドガイを特殊召喚したということは、デッキトップの魔法カードを未来に飛ばす――その効果に全てを託しているからか。

「ダイヤモンドガイのエフェクト、ハードネス・アイを発動! 運命よ……僕に応えてみせろ!」

 運命を司るヒーローたちを操るエド。ただ運否天賦に身を任せているわけではなく、自らの運命に自分の命すらも賭けたのだ。そしてダイヤモンドガイが導く、運命の魔法カードは――

「……魔法カード《オーバー・デステニー》の発動が決定した!」

 未来に飛ばされたのは魔法カード《オーバー・デステニー》。発動条件はあれど、デッキから直接D-HEROを特殊召喚する、という強力な効果を持つ。

 そして、そのダイヤモンドガイの効果は、エドの勝利が次のターンに確定した瞬間だった。

「……ターン、エンドだ」

 もはやエドに出来ることは何もない。ただ次のターンまで、その残り2000のライフを守りきるのみだ。防御するためのカードも何もないが、どうせエクゾディオス相手には無力だ。あろうが無かろうが変わらない。

「俺のターン……ドロー」

 そして自身の敗北までが秒読みであることを、遊矢もまた分かっており、苦々しい顔でカードをドローする。

 エドの次のターンに発動が決定した《オーバー・デステニー》の効果は、墓地のD-HEROを除外しそのレベルの半分のモンスターを、デッキから特殊召喚するというものだ。エドの墓地にはレベル8のドグマガイにBloo-D、ドレッドガイがおり、そのデッキには相手にバーンダメージを与える《D-HERO ダンクガイ》が控えている。

 つまり、このターンでエドを倒すことが出来なければ、残りライフ200の遊矢は、ダンクガイのバーンダメージに敗北する。たとえ神のカードがフィールドにいようとも、ライフが0になれば敗北は決定するのだから。

「……バトル!」

 ドローしたカードを手札に加えながら、遊矢はメインフェイズに何をする訳でもなく、そのままバトルフェイズに移行する。エクゾディオスはその声に応えて雄叫びをあげ、エドは覚悟を決めてその一撃を待ち構える。

「……来い! 遊矢!」

「エクゾディオスでダイヤモンドガイに攻撃! エクゾード・ブラスト!」

 遂に天上の雷火はフィールド全体を焼き尽くすまでに成長し、ダイヤモンドガイをついでのように消滅させていく。ただし《幽獄の時計塔》から発せられるバリアによって、エドがいるところだけは安全地帯となっていた。

「《幽獄の時計塔》のエフェクトにより、戦闘ダメージは無効となる」

「だが《神縛りの塚》の効果により、1000ポイントのダメージを与える!」

 《神縛りの塚》から放たれた雷火により、遂に《幽獄の時計塔》のバリアは破られてしまい、エドの身を焼いていく。だが、エドもそのダメージは覚悟の上。悲鳴一つを上げることなく耐えてみせる。

「これで終わりか? ――遊矢!」

エドLP2000→1000

 これでエドの残るライフは1000ポイントと、《神縛りの塚》のバーンダメージ一回分までに落ち着いてしまう……が、まだ生きている。ライフがいくらになろうと、まだ生きていればデュエルは続行されるのだから。

「……いや、まだだ。リバースカード、《未来王の予言》を発動!」

 ――そして遊矢も最後のリバースカードを発動する。先のターンに伏せられていた、このデュエルに終わりを告げるための切り札を。

「《未来王の予言》は、魔法使い族モンスターが相手モンスターを破壊した時、あらゆる召喚を封じることで、再度攻撃を可能とする!」

「二回攻撃……だが、戦闘ダメージは無効にされ、僕のフィールドにモンスターはもういない!」

 確かにエドがそう言う通り、このタイミングで二回攻撃を可能としたところで、エドにダメージを与えることは出来ない。戦闘ダメージは《幽獄の時計塔》の効果で無効にされ、《神縛りの塚》のバーンダメージを与えようにも、トリガーとなるモンスターはもういない。……だが、そうも言ってられない状況になっていく。

「…………!」

 エクゾディオスの前に魔法陣が出現し、その魔法陣には雷火ではなく業火が出現していくと、うっすらと首がない魔神の姿が映っていく。

 陽炎のように揺らめくその魔神は、かの伝説の――エクゾディアそのものだった。

「なんだ……何が起きている……」

 エドには何かが起きようとしていることしか分からず、その異様な光景に息を飲んでしまう。そして遊矢はデッキから一枚のカードを引き抜くと、ゆっくりと口を開きだした。

「エクゾディオスの最後の効果。このカードの効果でエクゾディアパーツを五枚墓地に送ることで、特殊勝利が決定する……」

「特殊勝利……エクゾディア……か」

 ……遊矢がデッキから引き抜いたカードは、《封印されしエクゾディア》のカード。《究極封印神エクゾディオス》の攻撃と同時に墓地に置かれ、魔法陣の前に揺らめいていた《エクゾディア》が完成する。これまでの五回の攻撃は全て、エクゾディオスの攻撃力を上げるためではなく、この特殊勝利の効果のため。

「…………。エクゾディオスの攻撃、天上の業火――」

「カイザー! 逃げろ!」

 そしてエドは自らの敗北を悟る。エクゾディアというのは、デュエリストにとってそういうモノであり、戦闘ダメージを無効にするとか効果ダメージを与えるとか、そういう次元の話をしているのではないのだ。そして最後に背後にいる筈のカイザーとその弟に叫ぶ。エドが最後に見たものは、業火が揺らめいている魔法陣に完成したエクゾディアと、遊矢の――

「――エクゾード・フレイム!」

エドLP1000→0


「……亮と翔は……逃がしたか」

 ……全てが燃え尽きた覇王城の屋上にて、ソリッドビジョンを消した遊矢はそうひとりごちた。目的だった翔に亮、そして気絶していた十代の姿はもうどこにもなく、ここにはもう意味のあるものは何もない。

「エド……明日香だけじゃなく……エドまで……」

 こんな形での決着を望んでいた訳ではないのに。

「……もう、止めることなんて出来やしない……出来やしないんだ……」
 
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