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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―覇王―

 
前書き
ちょっとSAOの方に力を入れていましたが、通常営業に戻ります。 

 
「敵襲ー!」

 覇王軍本拠地、ジェノサイドブリッジ。時刻で言えば夜と朝の境目、暁の時間――永遠に夜のままのこの世界で、そんな概念があるかは不明だが。ともかくその時間に、レジスタンスは覇王軍への総攻撃を開始した。

 戦士たちの電光石火の奇襲に対し、あくまで寄せ集めだった覇王軍は対応に遅れてしまうが、それも一時的なこと。幹部が1人でも前線に来るか、覇王自らがくれば戦況はひっくり返されてしまうだろう。

 しかし、残る幹部は補充した分も含めて残り二人。前線にたどり着くより先に、二人の決闘者が足止め――いや、覇王軍の幹部を壊滅させるべく動いていた。

「僕の相手が出来ることを幸運に思うんだな」

「……デュエルといこう」

 カイザー亮とエド・フェニックス。二人の異世界から来たデュエリストが、残る幹部二人の前でデュエルディスクを展開する。

『デュエル!』

 ――そして、その二つのデュエルが開始されるとともに、肝心の覇王の下に1人のデュエリストが到着した。

「覇王……」

 オースチン・オブライエン。彼はポケットの中にしまい込まれた石を握り締めると、震える声をごまかしながら覇王の名を呼んだ。覇王は、奇襲にも何ら反応を見せることはなく鎮座しており、オブライエンの呼びかけに答えるように、ゆっくりと立ち上がる。

「……お前か。臆病者に用はない」

「……俺はもう逃げたりしない!」


 しかしオブライエンの顔を見た瞬間、覇王は落胆の色を隠さず浮かべたが、オブライエンの気迫の篭もった叫びにピクリと反応する。自らを奮い立たせるように、オブライエンはさらに言葉を続けていく。

「覇王……ジムの為にもお前は倒す!」

 そう言い放つと、オブライエンは自身の愛用する銃型デュエルディスクを抜き放ち、目にも止まらぬスピードで腕に展開していく。

「……いいだろう」

 そのオブライエンの気迫を認めたのか、それともデュエリストとは戦うだけとでも言うのか。覇王専用のデュエルディスクが展開していき、オブライエンに剣を向けるような形となって、覇王のデュエルの準備は完了する。

「楽しませてもらおう」

 覇王はかつてのような台詞を――ただし十代の時とは違う意味だろう――呟き、オブライエンはその威圧感に耐えながらデュエル開始の宣言を開始する。

『デュエル!』

オブライエンLP4000
覇王LP4000

「ジム……俺を導いてくれ……俺の先攻!」

 デュエルディスクに表示された先攻は、オブライエン。もはや何度目となったかも分からぬジムへの決意を口にしながら、オブライエンは手札に揃った五枚のカードを確かめた。

「俺は《ヴォルカニック・ロケット》を召喚!」

 まず召喚されたのは炎を吹くロケット。高い水準のステータスを持ちながらも、彼のデッキである【ヴォルカニック・バーン】の中核を成すカードをサーチする効果を持つ、という強力なモンスターである。

「《ヴォルカニック・ロケット》の効果を発動。デッキから《ブレイズ・キャノン》と名の付くカードを手札に加える。さらにカードを二枚伏せ、ターンを終了」

「オレのターン、ドロー」

 下級モンスターのほぼ最高値たる攻撃力1900のモンスターを召喚し、二枚の伏せカードにて守りを固めるというなかなかの滑り出し。しかし覇王は何の頓着もせず、特に感情を見せずにターンを進行する。

「こちらのフィールドにモンスターがいない時、このモンスターは特殊召喚出来る。《E-HERO ヘル・ブラッド》!」

 かつてヒーローに憧れた少年の成長した姿。自身の効果で《E-HERO ヘル・ブラッド》は特殊召喚されると、当然のように新たな英雄への足がかりとなる。

「さらにこのカードは、相手フィールドにモンスターがいる時、リリース一体のみで召喚出来る。現れろ《E-HERO マリシャス・エッジ》!」

「…………!」

 いとも容易く召喚されるレベル7モンスターに、オブライエンは改めて覇王という存在の大きさを感じていた。エッジマンだった時の金色の身体は何も残っておらず、その身体は漆黒に染まっている。

「バトル。マリシャス・エッジでヴォルカニック・ロケットに攻撃! ニードル・バースト!」

「この程度のダメージ……」

オブライエンLP4000→3300

 確かに《ヴォルカニック・ロケット》は、下級モンスターとしては高水準のステータスだったが、《E-HERO マリシャス・エッジ》に適うはずもなく。あっさりと破壊された後、オブライエンにダメージが降りかかる。

「カードを一枚伏せ、ターン……」

「いや。エンドフェイズに入る前に、この《ブレイズ・キャノン・マガジン》を発動させてもらう」

 覇王のメインフェイズ2。《ヴォルカニック・ロケット》によってサーチされ、そして伏せられていた《ブレイズ・キャノン・マガジン》が姿を見せる。オブライエンのフィールドに巨大な弾倉が現れるが、肝心の弾丸を発射する砲身はまだない。

「自分および相手のメインフェイズに、手札のヴォルカニックカードを墓地に送ることで、カードを一枚ドロー出来る!」

 《ブレイズ・キャノン・マガジン》に弾丸が込められていき、オブライエンはカードを一枚ドローする。墓地で発動する効果があるヴォルカニックカードを墓地に送りつつ、さらに手札交換を果たす有用なカードだった。

「そのままターンを終了する。だがエンドフェイズ、《E-HERO ヘル・ブラッド》の効果が発動する」

 このままカードを一枚伏せたのみでターン終了、とオブライエンは思っていたが、覇王のフィールドに半透明のヘル・ブラッドが現れる。

「このカードがHEROのリリースに使われた時、エンドフェイズ時にカードを一枚ドローする」

 上級ヒーローのアドバンス召喚に使用された際、エンドフェイズ時にその負債を補うように一枚のカードをドローさせる効果。半透明のヘル・ブラッドがカードとなり、覇王の手に加わったところでオブライエンのターンに移行する。

「お前のターンだ」

「……俺のターン、ドロー!」

 覇王のフィールドには攻撃力2600の《E-HERO マリシャス・エッジ》に、先程伏せられたカードが一枚。オブライエンのデッキに、切り札を除けばその攻撃力を越えるモンスターはいない。

「《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果により、ヴォルカニックカードを一枚捨ててカードを一枚ドローする。……よし、《ブレイズ・キャノン》を発動!」

 《ブレイズ・キャノン・マガジン》と、発動された《ブレイズ・キャノン》が合体し、ドラムマガジン式の弾倉と砲塔が完成する。ガチャリと大きな音をたてて、弾倉から弾丸が装填されていく。

「さらに墓地の《ヴォルカニック・バレット》の効果を発動。500ポイントのライフを払うことで、デッキから同名カードを手札に加える」

オブライエンLP3300→2700

 《ブレイズ・キャノン・マガジン》によって墓地に送られていた、《ヴォルカニック・バレット》が500ポイントのライフを糧に装填される。用途はもちろんその名の通り、《ブレイズ・キャノン》のための弾丸だ。

「《ブレイズ・キャノン》の効果を発動! 手札の攻撃力500以下のモンスターを墓地に送ることで、相手モンスターを一体破壊する!」

 オブライエンの宣言に連動して、装填されていた《ヴォルカニック・バレット》が、《ブレイズ・キャノン》から炎の弾丸として発射される。目標はもちろん《E-HERO マリシャス・エッジ》――だったが、その炎の弾丸に貫かれるより早く、マリシャス・エッジの姿は消えていた。

「チェーンして罠カード《ナイトメア・デーモンズ》を発動。マリシャス・エッジをコストに、相手フィールドに三体トークンを特殊召喚する」

 覇王が伏せていたカードは、自分のモンスターをコストに相手フィールドに三体のトークンを特殊召喚する、という効果を持つ《ナイトメア・デーモンズ》。《ブレイズ・キャノン》を避けながら三体のトークンを特殊召喚したものの、マリシャス・エッジが墓地に送られたことに代わりはない。

「ダイレクトアタック……といきたいところだが、《ブレイズ・キャノン》を発動したターンは攻撃出来ない。だが、《ヴォルカニック・エッジ》を召喚する!」

 特殊召喚された三体の《ナイトメア・デモン・トークン》と並ぶように、《ヴォルカニック・エッジ》が召喚される。確かに攻撃こそ出来ないが、オブライエンのデッキは攻撃せずともライフを削ることは出来る。

「《ヴォルカニック・エッジ》は自身の攻撃を封じることで、500ポイントのダメージを相手に与える!」

「…………」

覇王LP4000→3500

 攻撃を封じることで相手ライフに直接ダメージを与える、という《ヴォルカニック・エッジ》の効果。どうせ《ブレイズ・キャノン》のデメリット効果により攻撃は出来ないので、特に気にする必要はない。《ヴォルカニック・エッジ》の口から鋭い火球が発せられるが、覇王がその程度を気にすることはない。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド……」

「オレのターン、ドロー!」

 オブライエンのフィールドは、相手ライフに直接ダメージを与えられる《ヴォルカニック・エッジ》に、2000というトークンとしては破格の攻撃力を誇る《ギフト・デモン・トークン》が三体。彼のデッキのキーカードたる《ブレイズ・キャノン》に《ブレイズ・キャノン・マガジン》と、二枚の伏せカードという一見盤石な態勢だった。

 それでも、覇王が何かしてくるようで恐ろしい。ただの恐怖という訳ではなく、《ナイトメア・デーモンズ》というコンボ前提のカードが発動された、という前提でもある。

「まずはその邪魔なものから退いてもらう。《大嵐》を発動!」

 使用率の高い《サイクロン》より、遥かに強い旋風がフィールド内を駆け巡っていく。覇王は伏せていた《ナイトメア・デーモンズ》を既に発動しており、その《大嵐》の標的はオブライエンの四枚の伏せカード。

「カウンター罠《ファイヤー・トラップ》を発動! 永続罠カードを破壊するカード効果を無効にする!」

 《ブレイズ・キャノン・マガジン》を生命線としているオブライエンにとって、それを破壊されるのは致命的。しかしそれを対策していたカウンター罠《ファイヤー・トラップ》により、《大嵐》は何も破壊できずにひっそりと止んでいく。

「さらに《ファイヤー・トラップ》が墓地に送られた時、一枚ドロー出来る。さらに《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果により、ヴォルカニックカードを墓地に送り、さらに一枚ドロー」

 《ファイヤー・トラップ》の追加効果によって引いたモンスターを、《ブレイズ・キャノン・マガジン》によって墓地に送りつつ、さらなるドローを果たしていく。オブライエンのデッキの回りは覇王の比ではないが、それでもオブライエンは覇王への不安を拭えないでいた。

 自分がまるで、巨人を前に無駄な抵抗を絞る小人のようで。小人がどんな知恵を振り絞ろうと、巨人はその腕を一振りすれば戦いは終わる。

「ならば、オレは魔法カード《ダーク・バースト》を発動し、墓地の《E-HERO ヘル・ブラッド》を回収し、再び特殊召喚する!」

 闇属性の専用サルベージ魔法《ダーク・バースト》により手札に戻され、その自身のフィールドにモンスターがいない時に特殊召喚出来る、という効果によって、再び《E-HERO ヘル・ブラッド》が浮かび上がっていく。

「さらにヘル・ブラッドをリリースすることで、《E-HERO マリシャス・エッジ》をアドバンス召喚する」

「二体目か……」

 オブライエンがそう用心して呟いた通り、先のターンと同じくヘル・ブラッドをリリースされ、《E-HERO マリシャス・エッジ》がアドバンス召喚される。相手のフィールドにモンスターがいるため、そのリリースの素材は平常時より一つ少ない。

「バトル。マリシャス・エッジで、ナイトメア・デモン・トークンに攻撃する。ニードル・バースト!」

「リバースカード、オープン! 《進入禁止!No Entry!!》」

 その身体中に、びっしりと用意された針に貫かれるより速く、オブライエンはもう一枚の伏せカードを発動する。オブライエンのフィールドの四体のモンスター、覇王のフィールドのマリシャス・エッジ、そのどれもが例外なく守備表示となっていく。

「フィールドのモンスターを全て守備表示にする」

 守備表示になったことでマリシャス・エッジの攻撃は中止され、攻撃表示で特殊召喚されていた《ナイトメア・デモン・トークン》たちも守備表示となる。さらにマリシャス・エッジの守備力は1800と、送りつけられたナイトメア・デモン・トークンならば、充分に破壊出来る数値。

 先の小人と巨人の例を再び用いるならば、いくら巨人の力が強かろうと小人たちに届かねば意味がない。小人たちは隠れながらも必殺の一撃を蓄え、正面から戦わずに巨人に勝ってみせるのだ。

 ――覇王がただ、力を振るうだけの愚かな巨人であれば、の話だが。

「チェーンしてオレは速攻魔法、《魔力の泉》を発動する」

 発動された速攻魔法は《魔力の泉》。相手のフィールドの表側表示の魔法・罠カードの数だけドロー出来るが、次のターン終了時まで相手の魔法・罠カードを妨害と破壊が出来ないことと、自分の魔法・罠カードの数だけ手札を捨てる、というデメリット効果が存在する。

 《大嵐》で破壊出来なかったと見るや、覇王は早くも破壊より利用することに方針を転換し、オブライエンのフィールドの魔法・罠カードは三枚。よって、三枚のカードをデッキからドローすると、《魔力の泉》の一枚分だけ墓地へと送る。

 バトルフェイズにもかかわらず、覇王はメインフェイズのように魔法を繰り出していく。しかし、攻撃を止めることが出来た、というオブライエンの油断を突き――

「絶対無敵……究極の力を解き放て!」

 ――そのカードは発動される。

「速攻魔法《超融合》!」

「なっ……!」

 覇王が何の前触れもなく発動したソレに、オブライエンは固唾を飲んで動きを止める。アカデミアの仲間たちの犠牲により完成し、ジムを一撃のもとに葬り去る怪物を生みだした、最強の融合カード――

「手札を一枚捨てることで、フィールドのモンスターを二体融合させる」

 フィールドのモンスター、というのが言葉の通り。自分のフィールドに留まらず、相手のフィールドすらもその《超融合》の範囲内だ。守備表示となっていた《E-HERO マリシャス・エッジ》と、オブライエンのフィールドの《ギフト・デモン・トークン》が時空の穴に吸い込まれていく。

「融合召喚! 《E-HERO マリシャス・デビル》!」

 そして降臨する、最強――いや、最凶の英雄《E-HERO マリシャス・デビル》。マリシャス・エッジをさらに尖鋭化させたようなデザインを持ち、もちろん攻撃表示にて融合召喚されている。

「バトルを続行する。マリシャス・デビルでギフト・デモン・トークンを攻撃。エッジ・ストリーム!」

 速攻魔法《超融合》によって特殊召喚されたため、マリシャス・デビルの攻撃権は未だ保持されたままだ。発射された針がギフト・デモン・トークンを容赦なく貫いたが、不幸中の幸いというべきか《進入禁止!No Entry!!》の効果のため、《ギフト・デモン・トークン》は守備表示。

 これならば、オブライエンにダメージはない。……という訳にはいかなかった。

「《ギフト・デモン・トークン》ば破壊された時、コントローラーには800ポイントのダメージを与える」

「くぅっ……!」

オブライエンLP2700→1900

 オブライエンにとって真に不幸中の幸いだったのは、《E-HERO マリシャス・デビル》に、融合前のマリシャス・エッジの貫通効果が引き継がれなかったことかもしれない。ただ、それでも800ポイントのダメージは重く、オブライエンは少なくない衝撃を受ける。

「カードを三枚伏せ、ターンエンド。エンドフェイズ時に《E-HERO ヘル・ブラッド》の効果が発動し、オレはカードを一枚ドローする」

 《E-HERO マリシャス・エッジ》のリリース素材に使われたことにより、もちろん《E-HERO ヘル・ブラッド》の効果は再び発動される。幻影のようなヘル・ブラッドが覇王にカードを届けるとともに、ターンはオブライエンへと移行する。

「俺のターン、ドロー!」

 予期すらしていなかった大型モンスター、《E-HERO マリシャス・デビル》の迫力に一時圧されたオブライエンだったが、自分のフィールドには《ブレイズ・キャノン》があるのだと持ち直す。

 炎属性モンスターを墓地に送ることで、相手モンスターを破壊する永続魔法《ブレイズ・キャノン》。その効果を先のターンで見ている覇王が、その対策をせずにただマリシャス・デビルを出すとは思えない。恐らくあの三枚のどちらか、あるいは両方は《ブレイズ・キャノン》への対策カード――

「貴様のスタンバイフェイズにリバースカード、《バトルマニア》を発動!」

 ――というオブライエンの思考を打ち切ったのは、スタンバイフェイズという限られたタイミングでの罠カードの発動。相手モンスターを全て攻撃表示にし、バトルフェイズに強制的に移行させる罠カードであり、オブライエンのモンスターは守備表示から今度は攻撃表示となる。

 《ナイトメア・デーモンズ》の発動から、恐らくはここまでが覇王の計画の範疇。相手のフィールドにトークンを送り込み、それを融合素材として利用し、さらにマリシャス・デビルに自爆特攻させることで、戦闘ダメージとバーンダメージで相手は頭を垂れる。

「くそっ……! 俺は《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果を発動!」

 このままバトルフェイズに入れば、それだけでオブライエンの命はない。しかしオブライエンは臆せず《ブレイズ・キャノン・マガジン》を発動し、むしろバトルフェイズに入る――いや、このターンでの決着をつけるべく行動を開始する。

「《ブレイズ・キャノン・マガジン》で捨てたモンスターは、《ヴォルカニック・バックショット》!」

 オブライエンが《ブレイズ・キャノン・マガジン》によって墓地に送ったモンスターは、《ヴォルカニック・バックショット》。そのカードを覇王に見せつけるように、一枚のカード――ではなく、三枚の《ヴォルカニック・バックショット》を覇王にかざす。

「《ヴォルカニック・バックショット》が、《ブレイズ・キャノン》と名のつくカードで墓地に送られる時。デッキからさらに二枚のこのカードを墓地に送ることで、相手モンスターを全て破壊し、1500ポイントのダメージを与える!」

 墓地に送られた際に500ポイントのダメージを与える効果と、ブレイズ・キャノンと名のつくカードで墓地に送られた際、さらに二枚を送ることで相手のモンスターを全て破壊する効果。その《ヴォルカニック・バックショット》の二つの効果が合わさり、1500ポイントのダメージを与えつつ覇王のフィールドを殲滅する強力な効果となる。《ブレイズ・キャノン・マガジン》から《ブレイズ・キャノン》に装填され、三つの弾丸が《E-HERO マリシャス・デビル》へと向けられる。

「ファイヤー!」

 オブライエンの号令で《ブレイズ・キャノン》が文字通り火を吹き、覇王のフィールドを焼き尽くしていく。爆発がさらに爆発を巻き起こし、白煙が覇王城の一室を埋め尽くした。

「どうだ……!」

 白煙が窓から払拭されていくと。そこには変わらず、覇王とマリシャス・デビルが鎮座していた。まるで、何事もなかったかのように。

「伏せてあった《禁じられた聖衣》を発動した。対象モンスターへの効果を無効にする」

覇王LP3500→2000

 覇王のフィールドに伏せられていた速攻魔法の効力により、《E-HERO マリシャス・デビル》は全くの無事。ただし効果そのものを無効にした訳ではないため、覇王のライフポイントは《ヴォルカニック・バックショット》の効果で大きく削られる。だが厄介なところは、発動された《禁じられた聖衣》の効果がエンドフェイズまで、ということ。これでは残る《ブレイズ・キャノン》による追撃もままならない。

「さらに《ヴォルカニック・エッジ》の効果を発動! このカードの攻撃を封じることで、相手ライフに500ポイントのダメージを与える!」

「……それで終わりか?」

覇王LP2000→1500

 オブライエンは怒涛の勢いで覇王のライフを削っていくが、それでもまだ削りきるには至らない。そして、スタンバイフェイズに発動された《バトルマニア》の効果により、オブライエンの《ナイトメア・デモン・トークン》は自爆特攻を強いられており、このままではオブライエンの敗北は決定してしまう。いくらライフを削ろうとも、今のオブライエンにマリシャス・デビルの攻撃を耐えることは出来ない。

「いや、まだだ。俺は二体のモンスターをリリースし、《爆炎帝テスタロス》をアドバンス召喚する!」

「ほう……」

 《ヴォルカニック・エッジ》と《バトルマニア》の効力を受けていた《ナイトメア・デモン・トークン》をリリースし、オブライエンは炎属性最強の帝王《爆炎帝テスタロス》をアドバンス召喚する。二体のモンスターが炎の旋風になっかと思えば、オブライエンの前に巨大な威圧感を伴うモンスターが鎮座していた。

「このモンスターが炎属性モンスターをリリースしてのアドバンス召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントのダメージを与える! ビッグ・ヴォルケーノ!」

「…………」

覇王LP1500→500

 《爆炎帝テスタロス》のリリース素材になった、《ヴォルカニック・エッジ》が半透明になってフィールドに浮かび上がると、覇王にダイレクトアタックを決めるように爆発する。さらに、この効果はあくまで炎属性モンスターをアドバンス召喚した際の副次的な効果であり、《爆炎帝テスタロス》の効果はここからだ。

「爆炎帝テスタロスがアドバンス召喚に成功した時、相手の手札を確認して一枚捨てる!」

 覇王の二枚の手札が急に燃え上がったかと思えば、巨大な炎となってフィールドに映し出された。《爆炎帝テスタロス》には、捨てたカードがモンスターカードだった時、さらにそのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与える、という効果もあるのだが……覇王の手札にモンスターカードはない。

 そう上手くはいかないか――という思いをオブライエンは頭の片隅に追いやると、覇王の手札にあった二枚の魔法カードを確認する。一枚目は汎用ドローカード《貪欲な壺》。二枚目は……

「……《クリボーを呼ぶ笛》……」

 デッキから、彼の相棒を特殊召喚する速攻魔法。覇王となった今でもデッキに投入されているのは、少なからずオブライエンを驚かせたものの、そんな感傷に浸っている場合ではない。

「《貪欲な壺》を捨ててもらう」

 魔法カード故に追加ダメージはないものの、汎用ドローカードを捨てさせることが出来たのは、大いに意味がある。《クリボーを呼ぶ笛》については頭に入れておくが、この局面でかのモンスターを特殊召喚したところで、何が出来る訳もない。

「あとはお望み通り、攻撃してやろう! 魔法カード《一騎加勢》を発動し、バトルだ!」

 スタンバイフェイズに発動された《バトルマニア》の影響を受けたモンスターは、《爆炎帝テスタロス》のリリース素材になったため、もうオブライエンはバトルフェイズを行う必要はない。だが、それでも《爆炎帝テスタロス》は攻撃表示でアドバンス召喚され、更なる魔法カードの支援を受けて攻撃体制に入る。

「《一騎加勢》は、自分のモンスターの攻撃力を1500ポイントアップさせる! 《爆炎帝テスタロス》で《E-HERO マリシャス・デビル》を攻撃、ヴォルカニック・ブラスト!」

 ターン終了時までとはいえ、破格の上昇値をもたらす通常魔法カード《一騎加勢》。攻撃力を4300にまで上昇させた《爆炎帝テスタロス》の攻撃を受ければ、覇王と言えどマリシャス・デビルごと灰と化す。しかしオブライエンが注目していたのは、覇王のフィールドに残ったもう一枚の伏せカードのことだった。

 《ヴォルカニック・バックショット》や《爆炎帝テスタロス》の効果ダメージを止めなかった以上、あの伏せカードはバーンメタのカードではない。ならば展開補助か攻撃を無効にするカードか、と考えていた瞬間、半透明の戦士が《爆炎帝テスタロス》の目前に現れた。

 ……が、伏せカードはピクリとも動かない。

「墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外し、その戦闘を無効にする」

 いつの間にか――《超融合》のコストか《魔力の泉》か――墓地に送られていた《ネクロ・ガードナー》により、大火力を誇っていた《爆炎帝テスタロス》の攻撃は不発に終わる。《バトルマニア》と《ナイトメア・デーモンズ》のコンボによる、このターンでの敗北は凌いだものの、依然としてオブライエンのフィールドにマリシャス・デビルは健在。

「……カードを一枚伏せ、ターンを終了」

「オレのターン、ドロー!」

 確かにオブライエンの猛攻により、覇王のライフポイントは僅か500ポイント。バーンダメージを無効にするカードがないならば、あとは《ヴォルカニック・エッジ》の効果を発動するだけで、その勝利が確定する。ただしその猛攻の代償に、オブライエンの残る手はもう数少ない。

「魔法カード《ダーク・コーリング》を発動。墓地のモンスターを融合する!」

 しかしてそれは覇王も同じ――の筈だったが、覇王が発動したカードは、墓地融合を果たす魔法カード《ダーク・コーリング》。《E-HERO マリシャス・デビル》に続き、二体目の切り札クラスのモンスターの登場を予感させていた。

「オレは墓地の《E-HERO マリシャス・エッジ》と、《地帝グランマーグ》を融合する」

「岩石族……? まさか!」

 先の《ネクロ・ガードナー》と同様に、《超融合》か《魔力の泉》かで墓地に送っていた、大地を司る帝《地帝グランマーグ》が半透明でフィールドに現れる。その内部から食い尽くすようにマリシャス・エッジが出現し、徐々に姿が悪魔のように変わり果てていく。

 そしてオブライエンは思いだす――あの時見た、ジムを殺した英雄の姿を。

「融合召喚。《E-HERO ダーク・ガイア》!」

 岩石を翼や凶器に利用するだけ利用した悪魔。その効果は、融合素材にしたモンスターの攻撃力分、自身の効果とするというシンプルな効果。しかし、シンプルながら強いという言葉もある通り、その攻撃力は5000という数値を獲得していた。

「ジム……」

「バトルだ」

 その迫力と悪夢を前にして、知らず知らずのうちにオブライエンはその足を下がらせる。そんな相手に対しても、覇王は無慈悲に攻撃の宣言を下す。

「《E-HERO マリシャス・デビル》で、《爆炎帝テスタロス》に攻撃! エッジ・ストリーム!」

「ぐあああっ!」

オブライエンLP1900→1200

 まずはマリシャス・デビルが、その爪で《爆炎帝テスタロス》を切り裂いた。テスタロスは爆発するとともに爆発を起こし、それはダメージとなってオブライエンを襲う。

「さらに――」

「リバースカード、《ファイヤー・ウォール》を発動!」

 そしてオブライエンにトドメを差さんと、ダーク・ガイアに攻撃宣言をするより早く、覇王とオブライエンの前に炎の壁が敷かれていた。ダーク・ガイアにその壁を突破することは出来ず、爆発に巻き込まれて倒れていたオブライエンが、ふらふらとした足取りながらしっかりと立ち上がる。

「《ファイヤー・ウォール》は相手の直接攻撃時、墓地の炎属性モンスターを除外することで、その直接攻撃を無効とする」

 《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果によって、オブライエンの墓地には大量のヴォルカニックモンスター――つまり、炎属性モンスターが捨てられていた。何度直接攻撃しようと止められるほどではないが、その維持にはライフコストがあり、オブライエンのライフポイントはもう風前の灯火だった。

「……カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

 それでも、伏せカードを警戒しダーク・ガイアの攻撃を後回しにした覇王の攻撃を、一度だけでも防ぐことに成功した。それだけでも、オブライエンは《ファイヤー・ウォール》に感謝しながら、気合いを込めてカードを引く。

「俺のターン……ドロー!」

 もはやデュエルも終幕。オブライエンはそのことを感じ取り、力の限りを持ってカードをドローする。

「俺はスタンバイフェイズ、《ファイヤー・ウォール》の維持コストに500ポイントのライフを払う」

オブライエンLP1200→700

「さらに俺は《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果を発動し、手札を一枚捨てて一枚ドロー……《マジック・プランター》を発動する!」

 ドローしたカードはオブライエンのデッキの切り札、ヴォルカニック最強モンスターこと《ヴォルカニック・デビル》。《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果により、その特殊召喚は可能であるが、特殊召喚したところでE-HEROたちには適わない。勝つために切り札を捨てたことで引いたのは、更なるドローをもたらす《マジック・プランター》。今までオブライエンのデッキの潤滑油として機能していた、《ブレイズ・キャノン・マガジン》を墓地に送るとともに、オブライエンは二枚のカードをドローする。

「来たか……俺はライフを500ポイント払うことで、通常魔法《クレイジー・ファイヤー》を発動!」

オブライエンLP700
→200

 目当てのカードをドローしたオブライエンは、密やかに笑いながら魔法カードをデュエルディスクにセットする。ライフポイントを200にまで減じさせながらも、そのカードは逆転の切り札となる。

「俺の《ブレイズ・キャノン》を墓地に送ることで、フィールドのモンスターを全て破壊する!」

「――――!」

 オブライエンのフィールドに残されていた《ブレイズ・キャノン》が暴走し、自身の限界を超えた一撃をE-HEROたちに向けて放つ。その業火は《ブレイズ・キャノン》本体を自壊させながらも、覇王のフィールドを修復不能なまでに破壊する。マリシャス・デビルもダーク・ガイアも、いくら強力なモンスターだろうと、その業火の前には無力だった。

「さらにその後、俺のフィールドに《クレイジー・ファイヤー・トークン》を特殊召喚する」

 さらに追加効果として、自壊した《ブレイズ・キャノン》から新たなトークンが特殊召喚される。このトークンは攻撃力1000程度ながらも有しており、このままがら空きの覇王に攻撃すれば、デュエルに決着がつく――という訳にはいかない。《クレイジー・ファイヤー》を発動したターンには攻撃出来ず、よしんば攻撃出来たとしても、覇王のフィールドには速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》がセットされている。

「俺は《クレイジー・ファイヤー・トークン》をリリースする!」

 戦闘ダメージでの決着は出来ない。ならばこそ、オブライエンは新たなモンスターを召喚する。

「現れろ、《ヴォルカニック・ハンマー》!」

 満を持してアドバンス召喚されたのは、先に召喚されていた《ヴォルカニック・エッジ》を巨大化させたような上級モンスター、《ヴォルカニック・ハンマー》。その炎の鉄槌を覇王に振り下ろす時を、今か今かと待ち望んでいる。

「そして墓地の《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果を発動。このカードを除外することで、デッキのヴォルカニックモンスターを墓地に送る」

 《マジック・プランター》の効果によって墓地に送られていた、《ブレイズ・キャノン・マガジン》を最後まで発動しきると、更なるヴォルカニックモンスターが墓地に送られる。それと連動するかのように、《ヴォルカニック・ハンマー》が発する炎がさらに燃え盛っていく。

「《ヴォルカニック・ハンマー》の効果を発動! 墓地のヴォルカニックモンスターの数×200ポイント、相手ライフにダメージを与える!」

「…………」

 ――《ブレイズ・キャノン・マガジン》でヴォルカニックモンスターを墓地に送っていたのは、デッキの潤滑油や《ヴォルカニック・バックショット》の効果発動のため、ということももちろんある。だがオブライエンが想定していたのは、あくまでこの状況。墓地の大量のヴォルカニックモンスターに反応し、《ヴォルカニック・ハンマー》が発する炎の勢いが増していく。

「……終わりだ、覇王!」

 そしてその火力は、どうあがいても覇王のライフポイントで防ぐことの出来る数値ではない。《ヴォルカニック・ハンマー》はオブライエンの指示に忠実に従うと、覇王にありったけの火力をぶつけていく。

「オレは速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動!」

「無駄だ!」

 覇王は最後に、伏せられていた速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動する。しかしハネクリボーが特殊召喚、そして効果を発動したとしても、防ぐことが出来るのは戦闘ダメージのみ。

 ――なのに、何故。

「な、に……!?」

 ――《ヴォルカニック・ハンマー》が放った炎を、フィールドに現れた《ハネクリボー》に全て防ぐことが出来たのか――

「《ヴォルカニック・ハンマー》……」

 オブライエンは信じられない、とばかりに呟いたが、何をしようと《ヴォルカニック・ハンマー》は沈黙したのみ。もはや効果は終了し、効果の発動は一ターンに一度だけだ。

 そしてオブライエンは観察し、発見する。《ヴォルカニック・ハンマー》の効果を止めてみせた《ハネクリボー》と覇王の胸に、赤い綱のようなものが繋がっていることを。覇王の心臓部から伸びた綱は、同じくハネクリボーの人間で言うところの胸部へと繋がっており、生命共同体のような様相を呈していた。

「オレはリバースカード、《魂のリレー》を発動していた。手札のモンスターを特殊召喚し、全てのダメージを0とする」

 覇王が発動したのは、最後まで残っていた伏せカード《魂のリレー》。ノーコストで手札のモンスターを特殊召喚し、さらにそのモンスターがいる限り、全てのダメージを0にするという効果を持つ。ただし、そのモンスターが破壊された際に自身の敗北が決定する、という強大なデメリットを持つが。

 それをもって覇王は、《クリボーを呼ぶ笛》の効果で手札に加えた《ハネクリボー》を特殊召喚し、《ヴォルカニック・ハンマー》の効果ダメージを0とした。《ブレイズ・キャノン》を失ったオブライエンに、このターンで《ハネクリボー》を倒す手段はない。

「……ターン……エンドだ……」

「オレのターン、ドロー」

 オブライエンの決死の一撃が届くことはなく。無慈悲にも覇王へとターンが移行する。

「速攻魔法《バーサーカークラッシュ》を発動。墓地のモンスターを除外することで、ハネクリボーはそのモンスターのステータスを得る」

 最後に覇王が発動したのは、ハネクリボーのサポートカード《バーサーカークラッシュ》。墓地の《E-HERO マリシャス・デビル》を除外することで、《ハネクリボー》に悪魔のような鋭利な爪が発生していく。

「くそっ……」

 ……やっとの思いで《クレイジー・ファイヤー》で破壊しようとも、覇王はそれをただ利用するだけ……結局オブライエンは最後まで、覇王の手のひらで踊っていたに過ぎないのかもしれない。少なくともオブライエンは、そう感じざるを得なかった。

「バトル。《ハネクリボー》で《ヴォルカニック・ハンマー》に攻撃。バーサーカークラッシュ!」

「くそぉぉぉぉ!」

 覇王の命令とともに強化されたハネクリボーは爪を震わせ、オブライエンは無念の思いを堪えきれずに叫ぶ。しかしてその叫びが誰にも届くことはなく、ただオブライエンは悪魔の爪に引き裂かれる――

「……ハネクリボー……」

 ――ことはなかった。

 ハネクリボーの爪はまるでオブライエンを避けるように振るわれ、背後に強大な風圧を発生させる。そしてオブライエンは思いだす……この戦いはデュエルに勝つ戦いではなく、ジムの遺志を継いで十代を助ける戦いなのだと。

「……相棒!」

 オブライエンは、ジムから託されたオリハルコンの瞳を手にすると、覇王へ向かって走り出していく。《ハネクリボー》の爪によって発生した爪は、走るオブライエンの後押しとなってさらに勢いを増していく。

「うぉぉぉぉぉっ!」

オブライエンLP200→0

 
 

 
後書き
E-HEROと超融合はアニメ仕様となっております。ご了承ください。 
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