魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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sts 01 「始動、機動六課」
無数の道路が入り乱れながらも整頓された印象を受ける施設。ミッドチルダ中央区湾岸地区に建てられたこの施設は、時空管理局遺失物対策部隊|《機動六課》の隊舎だ。
ここにはずっと憧れだった不屈のエース・オブ・エースの高町なのはさんや執務官であるフェイト・T・ハラオウンさん、といった凄い魔導師が所属している。部隊長を務めているのは彼女達と同い年である八神はやてさん。私の記憶が正しければ、まだ20歳になっていなかったはずだけど部隊長なんて凄すぎる。
けれど、とても気さくな人なようで「長い挨拶は嫌われるから」と、部隊長としての挨拶はとても手短だった。部隊のみんなから感じられる雰囲気も良く、まだ初日だけど凄く良い部隊な気がする。
ロビーでの話が終わった後、私を含めたフォワードと呼ばれる4人はなのはさんに連れられて移動を始めた。
「そういえば、お互いの自己紹介はもう済んだ?」
先を歩いていたなのはさんが振り返りながら尋ねてきた。見慣れない隊舎の内部を記憶するために意識を裂いていたこと、また憧れの人の近くにいる緊張から私は思わず「え?」と漏らしてしまい、隣にいるティアや知り合ったばかりの子供達のほうを見る。
「えっと……」
「名前と経験やスキルの確認はしました」
「あと部隊分けとコールサインもです」
ティアは簡潔に返答し、エリオが補足する。
長年の付き合いがあるティアはともかく、エリオはまだ小さいのに凄くしっかりしている印象を受けた。私のほうが年上なんだし、ちゃんとお手本になれるように頑張ろうと密かに思ってみたり。
「そう、じゃあ訓練に入りたいんだけどいいかな?」
なのはさんの問いかけに私達は一斉に返事をする。彼女は笑顔を浮かべた後、着替えて施設内の海辺のほうに来るように指示してきた。それにも私達は素早く元気良く返事をして、速やかに行動を始める。
着替えを終えてみると、フェイトさんの率いるライトニング分隊であるエリオとキャロとは一部服装に違いがあった。下は同じズボンなんだけど、ふたりのシャツの色は黒。なのはさん率いるスターズ分隊である私とティアのシャツは白色だった。
分隊のイメージカラーでこのようにされたのかもしれない。でもまあ、たかがシャツの色の違いを気にしても仕方がないだろう。今はこれから始まる訓練に集中しなきゃ。
指定された場所に向かうと、そこには教導官の制服に着替えたなのはさんと眼鏡を掛けた長髪の女性が待っていた。眼鏡を掛けた彼女とは初対面だけに挨拶があるかと思ったけど、その前に預けていたデバイスが返却された。
「今返したデバイスにはデータ記録用のチップが入ってるからちょっとだけ大事に扱ってね。それと、メカニックのシャーリーから一言」
「えー、メカニックデザイナー兼機動六課通信主任のシャリオ・フィニーノ一等陸士です。みんなはシャーリーって呼ぶので良かったらそう呼んでね」
シャーリーさんは一度綺麗に頭を下げてから微笑み掛けてくれる。この人も感じが良さそうだ。
「えっと、もうひとり紹介しておきたい人がいるんだけど……シャーリー、何か聞いてる? 元々少し遅れて来るとは聞いてたんだけど」
「あ、はい。ここに来る前に連絡がありました。もうすぐ到着すると言っていましたし、ここに来て頂けるようにお伝えしておいたのでそろそろ来られるかと」
「そっか……あっ、ちょうど来たみたいだね」
なのはさんの視線に導かれるように隊舎側に視線を向けると、手にかばんを持った黒髪の青年がこちらに歩いてきていた。
180センチ近い背丈があるが、着やせするタイプなのか線は細めに見える。髪はやや長めで尖ったように逆立っている。感じられる雰囲気はとても落ち着いており、あまり感情が顔に出ていないせいか少し冷たい印象を受ける。
「ショウくん、久しぶりだね」
「ああ……予定じゃ訓練開始はもう少し後じゃなかったのか?」
「予定はそうだったんだけど……はやてちゃんとかが挨拶を手短に済ませちゃって。ショウくんがいなくても訓練はできるし、時間が勿体無いから先に始めようかなと思ってたところなんだ」
なのはさんと親しげに話すその人に私は心当たりがあった。
私のお父さんは、機動六課の部隊長であるはやてさんと親しくしている。その延長で今目の前にいる人とも何度か顔を合わせたことがあったのだ。
この人の名前は夜月翔さん。なのはさん達と同じ世界の出身らしい。
顔を合わせたことはあっても、きちんと話したことはないので、私が知っているのはこれくらいだ。まあお父さんとかお姉ちゃんにもう少し質問していたらまだ違ってたかもしれないけど。
「私やシャーリーの自己紹介は済んでるからショウくんも簡潔に自己紹介してもらっていい?」
「分かった。何度か顔を合わせたメンツが多い部隊なんであれだが……俺は夜月翔。今は特殊魔導技官をやっている」
特殊魔導技官?
この前はやてさんから機動六課への誘いを受けるときに出たロストロギアのように、局員なら一般的に知られている名称なのかなと思ったけれど、ティア達の顔を見た限り彼女達も分かってないように見える。特殊魔導技官とはいったい何のことなのだろうか。
「みんな、よく分かってないって顔してるね。まあ最近出来たばかりだから浸透してないのも無理はないんだけど。簡単に言えば、魔導師としての仕事とメカニックとしての仕事、その両方をする人のことだよ」
魔導師とメカニック……それってある意味相反する仕事じゃないのかな。
だって魔導師は現場に出て犯罪者とかと戦ったりするわけだし、メカニックはデバイスを作ったりするのが仕事なわけだから。それを両立させるのって凄く難しいんじゃ……。
「難しく考えなくていい。両方やってるといっても、頻度としては魔導師としての仕事はそれほど多くない。俺の主な仕事はそっちのシャーリーと同じメカニックだよ」
「なので、デバイスで困ったことがあれば気軽に私やショウさんに声を掛けてね」
私達フォワードは一斉に返事をした直後、不意にショウさんが持ってきていたかばんはもぞもぞを動き始める。何だろうと思っていると、ショウさんが苦笑いを浮かべながらかばんを開けた。すると中からドレスのような黒い衣服を纏った小さな女の子が宙を舞う。長い金髪が日光を反射してとても煌びやかだ。
えっと……この子はリインフォースⅡ空曹長みたいな感じなのかな。
いやでも、機動六課の制服は着てないから一緒にするのはいけないような……、そんな風に思っていると、金髪の女の子が話し始める。
「もうマスター、六課に着いたのならかばんから出してよね」
「悪かったよ」
「本当にそう思ってる? こっちは大変だったんだよ。マスターが走っている間、かばんの中でひどい目に遭ってたんだから」
流暢な物言いと感情溢れる表情に私はつい意識を持っていかれる。いや、どうやら私だけでなくティア達も一緒のようだ。
「えっと……夜月特殊魔導技官、その子は?」
「ん? あぁこいつは俺のデバイスだよ」
デバイス……この小さな女の子がショウさんのデバイスなんだ。いやまぁ……デバイスにも色々とあるし、人型のフレームも開発されてそれなりに経つとか座学で習ったような記憶があるけど。でも……何だろう、ショウさんみたいな人が持っているのは意外だ。
「ファラ、これから顔を合わせることが多くなるんだからちゃんと挨拶しとけ」
「言われなくてもわかってるよ。はじめまして、ファントムブラスター・ブレイブです。フルネームだと長いですし、みんなからはファラって呼ばれているのでそう呼んでくれると嬉しいです。今日からマスター共々よろしくお願いします」
口調は親しみやすいが、頭を下げる際の仕草にはとても優雅さが感じられた。一言で言えば、どこぞのお嬢様という感じだ。礼儀正しい性格をしているのか、それともショウさんが教え込んだのか……どちらにせよ、とても人間染みたデバイスである。
丁寧に挨拶をされたせいか、私達は反射的に頭を下げながら挨拶を返した。
「あぁそれと、俺のことは気軽に呼んでくれていい。特殊魔導技官なんて付けられても長ったらしい上に堅苦しいし、知名度もあまりないから」
「ちょっと無愛想に見えるかもしれないけど、こう見えて優しい人だから下の名前で呼んで大丈夫だよ」
直後、なのはさんにショウさんは何か言いたげな視線を向ける。だがなのはさんはそれを笑って受け流した。
同じ世界の出身で……確か同じ年齢だったはず。普段の仕事は別だっただろうけど、親しい関係にあるのは当然かも。
「あとショウくんとシャーリーは、たまにみんなの訓練を見ることになってるから。みんなのデバイスの改良とか調整とかしてもらうことになってるしね。まあショウくんに限っては、たまにって言ったけど基本的に毎日見ることになるだろうけど。訓練の手伝いをしてもらう予定だから」
「ちょっと待て……」
ショウさんは額あたりを触れながら搾り出すようになのはさんに話しかける。
「デバイスの件については聞いていたから問題ない……訓練の手伝いってのも補助とかならおかしくはないだろう。だが今の言い方からして、補助を通り越してこの子達の面倒を見るみたいに聞こえたんだが?」
「うん、そういう意味で言ったよ。だってショウくん、ヴィータちゃんと一緒で戦技教官の資格持ってるから。基本的にこの子達の面倒は私が見るつもりだけど、急な用事が入らないとは限らないからね。そういうときのために保険は必要でしょ?」
さらりと言って笑みを浮かべるなのはさんを見て、ショウさんは一瞬呆れたような顔を浮かべる。だがショウさん以上に私の頭の方が複雑になっている。
メインはメカニックだけど、たまに魔導師としても仕事してて、そのうえ戦技教官の資格も持ってる?
普通に考えたらそれなりに有名になっててもおかしくないよね。だけどショウさんの名前って聞いたことがない気がする。それともあれなのかな、私がなのはさんばかり注目してて他に興味を持ってなかったとか。可能性としては充分にありえるよ……。
「さて一通り話も終わったことだし、さっそく訓練を始めようか。今日は最初の訓練ではあるけど、ターゲットを使った模擬戦をするよ。みんな、元気に行ってみようか」
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