キュクロプス
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5部分:第五章
第五章
「そしてあの方も御自身のことを嘆かれている」
「だから。我々に」
しかしこう考えても相憐れむというものではないのだった。
「求められているのだな」
「あの方に」
彼等はこう考えたのだった。
「孤独な我等をお側に」
「そして我々もあの方の孤独を癒すことができる」
彼等は孤独の辛さを知っていた。それを知っていて誰かに傷つけられるのを恐れるが故に今まで解き放たれたといってもこうして離れていたのだ。そして彼は。
「あの方もそうだった」
「長い間孤独だった」
「我等と同じく。その辛さの中に身体を沈めておられる」
このことに気付いたのだった。
「それを知っている者同士ならきっと」
「互いに知ることができる」
「ならば」
こう考えていくのであった。そして出した答えは。
彼等はその足でヘパイストスの宮殿に向かった。その宮殿は広く豪華な装飾やみらびやかな財宝に満ちていたが誰もいなかった。静まり返った宮殿だった。
そこに入ったのは彼等だけだった。彼等は磨き抜かれたかのように彼等を映し出すその柱を左右に見つつ金や銀の床を進んでいく。そうしてその奥に行くと。
「ヘパイストス様」
「お伺いに参りました」
「そなた達は」
ヘパイストスは宮殿の奥にいた。そこで一人何か火を操りそのうえで鎚やペンチといったものを使い作っていたところであった。しかし彼等の姿を見て思わず動きを止めてしまった。
「来たのか。いや」
言葉を変えてきた。その言葉は。
「来てくれたのか。この宮殿に」
「以前お声をかけて下さいましたので」
「それで」
「来てくれたのか」
あらためて彼等に対して言うのだった。
「私の前に」
「我々をお求めですね?」
「ですから」
「私は。そなた達を」
だがここでその顔を前に戻した。そのうえで彼等から顔を背けての言葉になった。
「哀れみで声をかけたのかも知れない。蔑む心もあったのかも知れない」
「哀れみ?蔑み?」
キュクロプスは彼のその言葉に声をあげた。
「それは一体?」
「何ですか?」
「私は醜い」
今自分自身が操っているその火を見ながらの言葉だった。
「この顔と身体は。醜い」
やはり彼もそれを自覚していた。
「だから。そなた達に声をかけたのだろう」
あの時のことを言うのだった。
「己より醜いと思い。だから」
「いえ、それは違います」
「確かに我等は醜いです」
キュクロプス達もまたこう言ってヘパイストスに返す。
「ですが。それが何だというのですか」
「むしろ。その醜さにより我等は出会えました」
「馬鹿な、それは違う」
ヘパイストスは彼等の今の言葉を否定した。
「醜さは何も生まない」
そしてこうも言った。
「私は醜さにより母上に疎まれ今もこうして一人でいる」
「それは我等も同じです」
「そうです」
だが彼等はその彼に告げるのだった。
「一つ目のこの顔故に我々は」
「長い間地の奥底に幽閉されていました」
「それは知っている」
知らない筈のないことであった。
「だからこそ私はあの時そなた達に」
「だからこそです」
「醜いからこそ」
キュクロプス達はまた彼に言うのだった。今宮殿には彼等がいた。ヘパイストスを囲んで。
「我々は貴方のことがわかります」
「私のことが」
「そして貴方も我々のことをわかってくれます」
「同じ苦しみと悲しみを知っているからこそ」
これこそが彼等が今彼に対して告げたいことであり実際に告げている。
「ですから我々はここに参りました」
「貴方にお仕えする為に」
「私に。仕えるというのか」
ヘパイストスはここでやっと再び顔を上げた。そうしてキュクロプス達を見るのだった。
「そなた達が」
「我々には腕があります」
「全てを作る腕が」
このことには絶対の自信があった。
「そして貴方も腕を持っておられます」
「我等はここでも同じなのです」
「同じ・・・・・・そうだな」
ヘパイストスもこのことには納得する顔になるのだった。
「同じだ。だからか」
「そうです。ですから貴方はあの時我々にお声をかけて下さり」
「我々も今こうして貴方の御前に」
そういうことであった。だからこそ今ここにいるというのであった。
「それではいけませんか?」
「同じだからでは」
「そうか。同じか」
あらためて彼等の言葉を聞いていた。
「私達は同じか」
「そうです。今迄受けてきたことも」
「そして持っているものも」
どれも同じだというのだ。こうヘパイストスに語っていた。
「ですから」
「共にか」
「御一緒させて頂けませんか?」
「我々と」
また彼に対して問うたのだった。
「宜しければ」
「それにです」
ここでキュクロプス達は彼にさらに言うのであった。
「私は貴方様が好きになりました」
「御自身からお声をかけて下さりましたね」
「それは」
その言葉には返答に窮してしまった。
「先に言った通りだ。蔑みかも知れぬ」
「それは違います」
「私達が同じだからです」
彼等はこう述べてそれは否定するのだった。
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