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キュクロプス

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4部分:第四章


第四章

「そなた達は何でも作れるそうだな」
「貴方は?」
 また無為に時間を潰していた彼等に声をかけてきた者がいた。彼等は今は草原にいてそこから空を眺めているだけだった。その彼等に声をかけてきたのだ。
 見れば今彼等が住んでいる世界にいる神々とは何かが違っていた。他の神々は美男美女ばかりだったが彼の容姿は醜かった。顔はむくれたように、それでいて焼けたようになっていて脚も曲がっていた。どう見ても端麗な容姿ではなく声も悪いものであった。
「はじめて御会いしますが」
「どなたですか?」
「ヘパイストスだ」
 その神はこう名乗ってきた。
「それが私の名前だ」
「ヘパイストス様ですか」
「貴方は」
「そうだ。ゼウスとヘラの子だ」
 ゼウスの正妻はヘラである。つまりは正式に認められている子供になる。ゼウスは稀代の浮気者でヘラ以外の女との間に多くの子をもうけてしまっているのである。
「今後共宜しくな」
「はい、それではこちらこそ」
「宜しく御願いします」
「名はキュクロプスだったな」
 続いて彼等の名を口にしてきた。
「その名前は」
「そうですが」
「それが一体」
「私は火の神だ」
 ヘパイストスが司るのはそれであった。
「そして鍛冶の神でもある」
「鍛冶のですか」
「そなた達は何でも作れるな」
 あらためてこのことを言うのだった。
「父上の雷や叔父上達の武器も作ってくれたな」
「それはそうですが」
「それが何か」
「気が向いたらでいい」
 ヘパイストスは少し寂しそうに彼等にまた言ってきた。
「私の神殿に来てくれ」
「ヘパイストス様のですか」
「そうだ」
 彼はまた彼等に言ってきた。
「その時にはな。来てくれ」
「その時にですか」
「ヘパイストス様のところで」
「気が向いたらだ」
 またこうも言ってきた。やはり寂しそうな声で。
「その時に来てくれ」
「わかりました。それでは」
「まあその時に」
「何時でもいい」
 また寂しそうな声を出した。
「何時でもな。待っているから」
 最後にこう言って彼等の前から姿を消した。キュクロプス達はその神とはいえ周りには誰もいないヘパイストスの背中を見ていた。そうしてそのうえで言い合うのだった。
「それにしても」
「そうだな」
 まずはこう言葉を交えさせた。
「寂しそうな方だな」
「ゼウス様の御子息だったな」
 続いてこのことも話に出た。
「それならばアポロン様やアルテミス様と同じだな」
「そうなるな」
 アポロンもアルテミスも今彼等がいるオリンポスに入った神である。ヘラとの間の子ではないがオリンポスにおいては多くの従者を従え父神からの愛情も深い。
 ヘパイストスもその筈だ。しかしだった。彼には一人の従者もいないのだった。
「しかもヘラ様との間の御子様だといのに」
「何故あそこまで寂しい方なのだ?」
 このことも言い合うのだった。
「わからん。ゼウス様とヘラ様との間の御子息なのに」
「どうしてあそこまで」
 彼等にはそれがわからなかった。だが暫くしてからだ。彼等の耳にそのヘパイストスに関する話が届いたのか。
「そうか。あのお姿故にか」
「それでか」
 ヘパイストスの容姿のことは彼等も見ていた。どう見てもいいとは言えない。
「それ故にああして孤独であられるのか」
「そしてそのお姿故に」
 次に話すのはまた別のことに関するものだった。
「ヘラ様に天から投げ落とされ」
「実に母上に」
「そうして御脚を傷められたのか」
 それ故であった。彼はその姿故に実の母にまで疎まれ今も寂しい思いをしているのだった。キュクロプスは彼のことを知るにつれ次第に自分達のことも思うのだった。
「ならばそれでは」
「我等と同じなのだな」
「そうだな」
 彼と自分達を重ね合わせて考えるようになっていた。
「あの方と我々は」
「同じだ」
「だから声をかけてこられたのか」
 あの時どうして自分達のところに来たのかもわかったのだった。
「我等の前に」
「同じだから」
「我等は醜い」
 そしてまた自分達のその一つ目の容姿のことを考えた。これはもうどうしようもなかった。その真の姿はどんな術でも変えようがなかった。
 
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