ハロウィン
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7部分:第七章
第七章
「じゃあ。行こう」
「トリックザトリート」
サエコだけでなく皆の言葉であった。
「それでわかったわね」
「そう言って出るのはわかってるよ」
これはジャックもよく知っていた。
「それはね」
「じゃあ話が早いわ。それじゃあね」
「うん、皆どんな顔してくれるかな」
ジャックは笑顔で五人と一緒に家を訪問しようと思うのだった。そのカボチャ頭は本当は笑顔にはならない筈なのに今は何故かそう見ているのだった。
「喜んでくれるかな。楽しんでくれるかな」
「ちょっとジャック」
「それは違うよ」
だがここで五人が笑って今のジャックの言葉を訂正するのだった。
「だって。ハロウィンだよ」
「だから」
「あっ、そうか」
彼も言われてそれに気付くのだった。
「そうだよね。驚かすんだったよね」
「そうだよ。わかったら」
「行こう」
「うん。皆を驚かしにね」
「そうそう」
「あんたがね」
「皆を」
実はその皆という言葉だけ聞いているジャックだった。
「皆に会えるんだ。何だか」
そのことを思うとどうしても声が笑ってしまうジャックだった。そうして家々でジャックだジャックだと笑顔で迎えられたこのハロウィンは彼にとって実にいいものになった。
その楽しいハロウィンも終わってお別れの時間になった。ジャックは夜の蛍光灯の下で五人の少年少女に対して言うのであった。
「今日は有り難うね」
「ええ、楽しかったわ」
「ジャックのおかげでね」
「僕のおかげだなんて」
その言葉にまた笑顔になるジャックだった。
「そんな。僕は何も」
「何言ってるのよ、最高のハロウィンだったわよ」
サエコが彼に笑顔で述べる。
「だからね。また会いたいわ」
「僕も」
「僕もだよ」
四人の少年達もそれは同じであった。
「だからね。よかったら」
「また来てね」
「うん。絶対にまたここに来るよ」
ジャックもまた上機嫌で彼等に言葉を返すのだった。
「またね。けれど」
「けれど?」
「どうしたの?」
「君達もオズの国に来て欲しいな」
彼はこう五人に言うのであった。
「是非ね。オズの国に来てよ」
「行けたらね」
サエコがまた五人を代表して述べた。
「行くわ。けれど」
「行き方がわからないっていうの?」
「だって。おとぎの国じゃない」
彼女が言うのはそこだった。
「どうやって行けばいいのよ」
「そうだよね。本当に」
「ジャックはその魔法の靴があるからいいけれど僕達は」
「ああ、それなら簡単だよ」
ところが彼はここで笑って五人に言うのだった。
「簡単な方法があるから」
「方法って!?」
「どんなの?」
「だから。カンザスでね」
ドロシーの故郷である。彼女は二回程度オズの国からカンザスに帰っているが今ではヘンリーおじさんやエムおばさんと一緒にオズの国で暮らしている。そこでオズマ姫の第一の親友、相談役としてオズの国で楽しく過ごしているのである。
「小屋に入って竜巻にさらわれたら」
「それでオズの国に行けるの?」
「そうだよ。多分ね」
今一つ頼りないジャックの返事だった。
「だから。来てよ」
「その方法じゃ何かそのまま大変なことになりそうだから駄目だよ」
「だからジャックがまた来てよ。いいよね」
「皆にもオズの国に来てもらいたいんだけれどな」
竜巻で行く方法を拒まれてそれに項垂れるジャックだった。
「仕方ないや。今は僕が毎年ここに来るからね」
「ええ、それを待ってるわよ」
「来年もね」
何はともあれこのことは楽しみに招待された。こうしてジャックは毎年ハロウィンになるとオズの国からこちらの世界に来ることになったのだった。今もこうしてハロウィンになるとジャックが子供達に混ざって楽しく笑っているのが見られる。そう、殆どの人がそのことに気付かないだけで。
ハロウィン 完
2008・12・16
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