| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

成長編 素材

 
前書き
少々方向転換な回 

 
激動の一日を終えた、その翌日……。俺はアレクトロ社に潜入している時に、何故か襲いかかってきた妙な青いスーツを着た女性二人組の事について、エレンとサルタナに尋ねた。

「その二人の事をリーゼ姉妹は“戦闘機人”と呼んでいたが、奴らは何者だ?」

「人間の身体を素体に機械を組み込む事で、並の魔導師を上回る戦闘能力と特殊能力を得た存在です。製作者はジェイル・スカリエッティ。次元世界でも屈指の頭脳を持った科学者ですわ」

「管理局でも凶悪犯罪者としてリストに登録されているのだが、中々尻尾を出さない……というより何者かの支援を受けているのか、情報も一部が隠蔽されていて、これまで一度も捕まった事が無い」

「なるほど……何やらきな臭いな。そんな奴がどうして俺を狙う?」

「彼は相当な研究欲の持ち主なので、恐らくサバタの特異な体質に興味を抱かれたのではないかと……」

「世紀末世界の技術に、人の身で暗黒物質を操る力……奴が興味のあまりによだれを垂らすのも頷ける」

「やれやれ……面倒なヤツに目を付けられたものだ」

「とは言っても、私達があなたのバックに着いたと向こうは気付いたでしょうから、多分もう手を出して来る事はありませんわ」

「奴は自らの欲望に忠実だが、少なくとも愚かでは無い。これ以上手を出せば自分達の身が危うくなる事ぐらい理解しているさ。俺達ラジエルは隠れている輩を見つける事に関しては、管理局の中で最強だと自負しているからな」

「そうか。……おかげで当面は気にせずに済みそうだ。ところで裁判の方はどうなっている?」

「テスタロッサ家の裁判は最高裁での勝利はほぼ確定、後はその日を待つだけです。しかし闇の書の方は中々大変ですね。今代の主が蒐集命令を出さなかったおかげで被害がゼロである事や、闇の書がもう破壊を起こさなくなった事、騎士達が贖罪の意思を持っている事などを使って上手く弁護していけば、ある程度こちらに天秤が傾くでしょうが、それでも世間の目や過去の被害者の意見もあるので厳しいですわ」

「だが過去の被害者であるハラオウンが被告人に協力しているという事実は、連中の意見と対抗するのにかなり有効だ。多数の人間が全員一致で断罪を求めてくるようなら、正直かなり危うかったが、ほんの一部でもこちら側に理解を示している人物がいれば、そこから水が漏れるように連中の結束を切り崩せる。かと言ってやり過ぎた減刑はしないし、してはならない。多くの人間が妥協できる位置で判決しなければ、それは余計な不満を生み出し、不測の事態や理性的でない行動が起きる可能性が高まってしまう。本当の意味で安息を得たいのなら、罪は多過ぎても減らし過ぎても駄目なんだ。……何も罪を犯していない、それどころか破壊を止めた功労者であるはやてに何故罪を被せなければならないのか、という気持ちもあるが……真実から耳を塞ぐ者や、自分の眼でしか物事を見ようとしない者もいるからな。そいつらの暴走を抑えるために、心苦しいが彼女には少なからず泥を被ってもらわなければならないんだ。せめて何とかテスタロッサ家と同じくらいまでは治めるが……すまない……」

「いや……いい。俺達が思う様に、全ての人間が真実を受け止められる程強い訳では無いと既に理解している。それに、これははやてや騎士達が選んだ道だ。あまり出しゃばって干渉し過ぎるのは無粋だし、真にあいつらのためにもならない。あいつらの選択を見届けた俺が彼女達の決意を汚す訳にはいかないからな。そこは妥協するさ」

そう言うと話を切って落ち着くために、エレンが淹れてくれた紅茶を飲む。ふむ……味は士郎が淹れた紅茶にはほんの僅かに及ばないが、それでも上品な香りと味わいでのど越しも良かった。喫茶店で出されても十分問題ないレベルだ。
サルタナも同様に紅茶を飲むと、彼はエレンにまた腕を上げたな、などとお褒めの言葉を送っていた。

「やはり紅茶は良い。エレンの紅茶が無ければ、俺の一日は始まらん」

「私の紅茶をそこまで評価してもらえて光栄ですわ」

「ふむ、サルタナは紅茶党なのか?」

「そんなの当然だ。世間ではよく朝食や休憩時に飲む物としてコーヒーと一緒に上げられるが、あんな泥水と比べるなんて紅茶にも失礼極まりない! 紅茶こそ全ての飲料水の中で最高に決まっているだろう!」

「あ、ああ……そう、だな」

「ごめんなさいね、サバタ。閣下ったら、紅茶の話になると途端にムキになってしまうの」

急に凄い剣幕で紅茶の美点を饒舌に語り出したサルタナの様子を前に、耳打ちでエレンがそう伝えてきた。それならそうと先に言って欲しかった……。サルタナの前でコーヒーなんか飲んでしまったら絶対に怒られそうだ。以後、気を付けよう……。

「それに紅茶にはレモン汁を入れる輩もいるが、あれは邪道だ! 紅茶の大事な風味を一気に損なってしまう! まったく、連中は正気か!?」

「わかった、紅茶が素晴らしいのはわかったから他の話をしよう? な?」

「そうですわ、閣下。その話はまたの機会にゆっくりと行えばよろしいですわ」

「む……エレンがそう言うなら、まだ2時間程、語り足りないがここまでにしておこう」

放っておいたら2時間も紅茶の話をするつもりだったのか。早々に切り上げてくれて本当に助かった……。

「そういえば……アレクトロ社は今、どうなっている?」

「社長の崩御に立て続けのスキャンダル、多額の賠償請求を受けてかなりの損害を負いましたが、あの規模の会社はそう簡単には倒産しませんわ。と言っても、今回のような計画を起こせる程の力や繋がりはもう残っていないでしょう」

「不正を働いていた連中は罷免されたが、普通に働く真面目な社員もいるから、そいつらの人生まで壊すような事態にはなっていない。あくまでアレは一面だからな……会社全部がそうではないんだ」

「わかっているが……ただ訊いてみただけなのに、案外しっかりアフターケアもしているのだな。驚いたぞ」

「執務官として当然の義務ですわ。ところで潜入の際にサイコ・マンティスからもたらされた、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ州にSEEDに搭載した麻薬を売った麻薬組織がいるとの情報ですけど……」

「そいつらの始末は俺がやる。任務が来てるようなら悪いが、これは譲れない」

「どうしてだ?」

「別に………命を間接的に奪っていた連中が気に入らない、ただそれだけだ」

「ふむ……それなら好きにやって来ると良い。そもそも管理局は自分達の不始末が関わらない限り、管理外世界の問題は関係ないと思って手を出さない連中ばかりだ。奴らには期待できないし、俺達はテスタロッサ家と闇の書の裁判に専念しなければならん。すまない、それ故そっちには手を貸せない」

「いや……むしろ都合がいいとも言える。下手に大勢で行く事でこちらの動きを察知されるよりはマシだ」

「そうですか……ごめんなさい、サバタ。またあなたに面倒をかけさせる事になってしまって……」

「エレンが謝る事なんて一つも無いぞ。俺は俺自身のために行動している、それで救われる人間が現れるだけだ」

「……………」

何かを思ったのか、エレンは憂いの表情で俺の顔を見つめる。先代ひまわり娘に、何が起きようと俺は彼女の“味方”でいると誓ったからな……彼女にあまり悲しい顔はさせたくないものだ。

ちなみになのは達地球組はリーゼ姉妹の案内で管理局の見学をしており、俺も誘われていたのだが……こういう事情があって遠慮した。あまり気を遣わせる訳にはいかないから、建前上ではエレン達と話す事があると言って誤魔化している。騎士達ははやてとネロが見守る中、別室で戦闘記録を取ってもらっており、テスタロッサ家や管理局組は休憩室でマキナと共にレイジングハートに記録されていた俺の昔話の映像を見ている。
そうそう、パイルドライブでフェイトのバルディッシュが破損してしまい、度重なる模擬戦でレイジングハートもかなり損傷を負っていたため、丁度良い機会という事で2機とも修理に出されていた。映像は技術室の端末から経由して流しているらしい。ただ……なんか騎士達のデバイスのデータをもらえた事で、ベルカの技術も改修で込められそうな気がする。使い過ぎて無理しなければ良いのだが……。

……フッ、無理をしているのは俺も同じか。相談も終えた俺は昨日の任務の疲れも残っているが、そのまま“ムーンライト”を使って先に地球へ向かった。ロキとの戦いで“彼女の力”を使った反動が地味に響いており、痛みは治まったが体力はまだ回復しきっていないのだ。戦いに支障は無いが、地味に堪える……。


・・・・・・・・・・・・・・・・

~~Side of なのは~~

リーゼアリアさんとリーゼロッテさんの案内で、私達は管理局の部署や仕事内容の見学をさせてもらっている。私達が知ってたのはリンディさんみたいなアースラの艦長や、クロノ君みたいな執務官、武装隊といった限定された人達ばっかりだった。だけどこの案内のおかげで様々な部署の人達がどういう仕事をしているのかを知る事が出来たのは、今後の進路を考えるための貴重な経験になったと思う。

だ、だけど……ね?

「次元航行部隊、戦技教導隊、首都防衛隊、地上部隊、救護隊に遺失物管理部隊……いっぱいあり過ぎて目が回っちゃうよぉ~」

「技術開発部門にデバイス発明部門かぁ……なんか惹かれるなぁ、そこ。でも私は地球から離れるつもりは無いから、今の内にどんな物があるか見ておこ~っと♪」

「情報通信解析部門……マ○リックスみたいな事でもしてるのかしら? あ、新しいVR訓練とかに必要なプログラムを組んでるのね。使ってるのは当然こっちの言語かぁ。で、こっちは財務管理部門……そういやケチったせいで暗黒ローンでおしおき喰らったんだっけ? 政治統制部門……なんかきな臭いわね。大丈夫なのかしら」

私が混乱している隣で、すずかちゃんは技術系の部署に興味津々で向かったり、アリサちゃんは専門的な所を見ては時々辛辣な言葉を放っていた。あぁ、なんか進路の考え方の違いがよくわかる……。

「リーゼさん達は、私がどの部門に向いていると思いますか?」

「なのはさんが向いてる所?」

「そんなの決まってるわ。マスコ―――――じゃない、それは」

「待ってリーゼロッテさん、今マスコットって言おうとしましたよね!? 私、マスコット向きなんですか!? そうなんですか!?」

「ひゅ、ひゅ~♪ 何の事だかワカラナイナ~?」

「誤魔化し方が下手すぎます! 横向いて口笛だなんてあからさますぎます!!」

「まぁそうツンツンしないでよ、冗談よ冗談。わざわざエース級の卵をマスコットにするために誘ったりはしないって」

「マスコットじゃないけど、アイドル扱いはあり得るかもしれないけどね。そこは管理局も組織としての美点を作りたがるものだから受け入れるしかないわ」

「そ、そうなんですか……」

「話を戻すけど、なのはさんが向いてる部門と言ったら、やっぱりあそこしかないでしょうね」

「妥当とも言えるけど、やっぱり最も適してると言ったらあそこだよね」

『武装隊!』

二人揃って言う程なの……? ま、まぁ確かに私は前線で魔法を使ってた方が色々適してるのかもしれないけど、もうちょっと色んな視点で見てもらっても良いような……。

「ま、それは本格的に入局する時に決めればいいよ。今は嘱託魔導師の資格をフェイトと一緒に取って、それで経験を積んでからしっかり考えればいいんだよ」

「なのはさんも地球の生活からそう簡単に離れる訳にはいかないし、こっちだって無理やり引き抜くような事はしたくない。資格を取ったら時々手伝ってもらう事になるけど、向こうの生活はしっかり楽しんでもらいたいわ。あなた達はまだ子供なんだから、血を流して戦う日々にすぐ入る事なんて無いのよ」

「そうですか……」

「あ、別に私達は入るなとは言ってないよ? 万年人手不足の管理局としては、なのはさんみたいに強くて可愛い魔導師は大歓迎だからさ。ただね、今ある幸せや家族と過ごす時間はもっと大切にしてほしいんだ。一度手放したら、取り戻そうと思うだけで大変だもの」

「確かなのはさんのお父さんって、ごく最近まで行方不明だったのよね? その理由はイモータルに操られていたせいで、この前の事件で正気を取り戻して家族の下に帰って来てくれたんだから、今の内にもっと家族に甘えてもいいのよ?」

「…………」

二人に言われて、私はふと思い出した。P・T事件の最後、ヴァンパイアにされていたお父さんは私達のために浄化を受けた。行方不明だったお父さんと、本当の意味でのお別れするんだと思っていた。でも……パイルドライブからお父さんは奇跡的に助かった。私達の所に人間として帰って来てくれた。
それからは……お兄ちゃん、お姉ちゃん、お母さん、私、そしてお父さん。高町家がやっと全員揃って一緒に暮らせるようになったんだ。心の底から幸せだった……。フェイトちゃんにはプレシアさんとアリシアちゃんが戻って来たように、はやてちゃんにはヴォルケンリッターの人達がやって来たように、私の家にも太陽が昇ったんだ。

だけど私は、魔法の世界に入り込もうとしていた。せっかく取り戻した家族を置いて、自分の道を勝手に進もうとしていた。この幸せを求め続けていたのに、家族の愛が私にも注がれるのを待っていたのに、それを置き去ろうとしたのだ。
二人に言われたおかげで気づいた。ちょっと一人で抱え込んでたせいで、色々急ぎ過ぎたみたい……。将来の事はもっと時間をかけて考えていけばいいかな。今はこの幸せを享受していけば、それでいいんだ。家族の愛を注がれずに育ったサバタさんも、私がせっかく取り戻した幸せを手放してまで戦う事は望んでいないだろうから。

「……そういえばリーゼロッテさんとリーゼアリアさんって、サバタさんとどうやって知り合ったんですか?」

「うっ! あ、あ~何て言うか、その……そうね……えっと……」

「ジュエルシードの所在を伝えようとしたロッテが、接触をミスって彼に一瞬で倒されたのよ」

「ああぁぁ~~!?」

「い、一瞬で、ですか……」

確かリーゼロッテさんってエースクラスの近接型魔導師だったはずだよね? それが一瞬って……そもそもどんな大ポカをやらかしたらサバタさんと戦う事になるんだろう?
自分の最大の失敗を簡単にバラされてリーゼロッテさんが涙を流して落ち込み、リーゼアリアさんは彼女の事を無視して当時の話の続きを教えてくれた。

「その後も変装魔法が切れて正体を見られたり、上空にアースラがいるのに報告しない魔導師がいる事で疑問を抱かれたんだけど、自分達は敵じゃない事を何とか理解してもらったのよ。その時にお金の持ち合わせがなくて、翠屋っていうお店で彼に食事をおごってもらった社会人は、今ここでみっともなく落ち込んでるわ。そうでしょ、“ねとねと”?」

「ぐすっ……あの屈辱的な仇名まで……! 全部バラさなくてもいいでしょぉ~! アリアのバカァ!!」

あぁ~、なるほど。その時にあの廃病院の事を教えてもらったんだね。となるとあの時はまだ会って間もないどころか、さっき会ったばかりの頃だったんだ。私は途中から盗み聞きしていたんだけど、なんでリーゼロッテさんがジュエルシードの所在を知ってるのかという事について、今になってようやく納得がいった。

リーゼロッテさんが真っ赤な顔で泣き去っていったけど、誰も追いかけて行かなかったのが哀愁を誘った。しばらくして誰も呼びに来なかった事から恥ずかしげにトボトボ戻ってきた彼女を見てると、余計涙を誘われる。なんか不憫だなぁ、あの人。





そうして見学を終えた私達はリーゼ姉妹にお礼を言った後、フェイトちゃん達が観賞会を開いている休憩室へ戻ってきた。ちょうど映像の再生も終わったようで、サバタさんとエレンさんの壮絶な過去に、皆衝撃を受けていた。聞く所によると、特にザジさんの話が印象的だったらしく、フェイトちゃんは時の庭園突入前の自分を思い出して感情移入して号泣し、プレシアさんはなんか後悔で狂乱しかけていたらしい。最後の記憶が無くなるという部分では、マキナちゃんが自分と似てる所があると思ったのか、悲しそうな顔をしていた。

「サバタさんとエレンさんが知り合いだった理由は、これでよくわかったわ。潜入任務は生半可な精神では到底こなせないのに、エレンさんがサバタさんなら任せられるとすぐに判断したり、サバタさんがすぐに承諾出来たりしたのは、元から二人の間に強い信頼関係があったからなのね」

「昔の仲間だったのなら、そりゃ気心も知れているか。しかし、あのエレンにこんな過去があったとは、僕は一切気付けなかったな……」

「私、ずっと思ってたんだ。エレンさんがどうしてあんなにお兄ちゃんやサルタナさんに対して滅私奉公主義なのか知りたかったんだけど、この話の内容がその理由だったんだね」

「エレンさんの存在意義、それはお兄ちゃんやサルタナさんに尽くす事なんだ。そうしなければ自分の心の空虚を埋められないから……。以前の私が、母さんの命令を聞く事で自分の存在意義を確かめていたのと同じように……」

「フェイト……でもさ。確か、自分の幸せもちゃんと考えているって言ってたよね? 多分だけど、死んで償おうとしたエレンに新しい生き方を示したのがこの時のサバタなら、ヒトとしての生き方や心の在り方を教えて支えているのがサルタナって事だと思うよ?」

「となると彼女は、歪ながらもヒトらしい幸せを取り戻しつつあるって事なのね。それなら部外者が変におせっかいを焼かなくても、時間をかければ自然と心の傷は塞がる……私達の出る幕はなさそうね。救われた側として何も出来ないのはちょっと辛いけど」

プレシアさんが今言った、“救われた側として何も出来ないのは辛い”。その言葉は私の耳に強くこびりついて残った。彼は私達を守り、皆を救い、心を導いてくれた。恩のある彼に、私達はどう報いればいいのかなぁ……。わかる範囲だと精一杯生きていく事なんだろうけど、そんな曖昧なのじゃなくて、形のある恩返しをしたい。誕生日はサバタさん自身も覚えてないって前に言ってたから無理だし、プレゼントを用意する時間も必要だ。となると……あの日が一番良いかな?

「ねぇ皆、私達で12月のクリスマスにサバタさんへ渡すプレゼントを用意しない? 日頃のお礼の意味もあるし、フェイトちゃん達も恩返しとかしたいでしょ?」

「うん、それグッドアイデアだよなのは!」

「じゃあはやて達にもこの話をしないとね! あ、でもお兄ちゃんにはバレないようにしないとね?」

「人数が人数だからちょっと不安が残るけど……僕も賛成だ。それと後でユーノも誘っておくか……あいつもサバタには世話になったらしいしな、仲間外れにするわけにはいかない」

私の一声を皮切りに、次々と皆が賛同していってくれた。やっぱり皆、彼に恩返しをしたかったんだろう。私と同じ気持ちを皆も抱いてくれて、とても嬉しかった。

この後、私とフェイトちゃんは嘱託魔導師の資格試験の勉強をリンディさんとクロノ君の指示の下で行った。データ収集が終わったはやてちゃん達は闇の書の裁判についてエレンさんとサルタナさんの二人と会議をしていて、マキナちゃんは過去受けてきた実験や心臓の手術からの回復に専念していた。ちなみにマキナちゃんはSEEDが無くなった事で身体能力も元に戻り、卓越した狙撃の技術も使えなくなったみたい。でもAAクラスのリンカーコアがあるから、魔導師としては十分大成出来るみたい。

「うにゃ~、今日の分の勉強終わったぁ~!」

「お疲れ様でした、なのはさん。地球の学校と全く違う内容で、難しかったでしょう?」

「いえ、リンディさんの教え方が上手だったのでわかりやすかったですよ」

「嬉しい事言ってくれるわね。そうそう、伝え忘れる所だったわ。なのはさん、フェイトさん、二人のデバイスから頼みごとがあるみたいだから、アースラの技術室で修理をしているマリエルに会いに行ってくれないかしら?」

「レイジングハートが? 良いですよ。フェイトちゃん、行こう!」

「うん。……マリエルさんかぁ、あのスニーキングスーツの事でもお礼言っといた方が良いよね」

授業を終えて仕事に戻ったリンディさんとクロノ君と別れ、私とフェイトちゃんはアースラへ向かった。ちょっと見なかっただけなのに、なんか凄く久しぶりな気がするなぁ。
懐かしさを感じつつ私達は技術室へ入ると、そこには眼鏡をかけた女性と、その女性と話しているエイミィさんがいた。

「あ、二人ともようやく来てくれたね!」

「こんにちは、エイミィさん!」

「こんにちは……!」

「はい、こんにちは。なのはちゃんは久しぶりだねぇ、二人とも今日は本局見学してきたんでしょ? どうだった?」

「すっごく楽しかったです! それと私、リーゼ姉妹から武装隊向きだって言われました!」

「たくさん部署があって、どこも魅力的に見えました。でもクロノやエレンさんのような執務官になれたら、きっと色んな人を助けられるんだろうなぁ、と思いました」

「うんうん、何か一つでも良い所を見つけられたんなら良かったよ! じゃあ挨拶も済んだ所で早速用事を済ませよっか。こっちの女性がレイジングハートとバルディッシュの修理を担当している……」

「マリエル・アテンザです。マリーって呼んで下さいね」

「はい、マリーさん!」

「よろしくお願いします」

眼鏡の女性、マリーさんと二人で挨拶を交わしてから、レイジングハートとバルディッシュが何をお願いしてきているのかという事を尋ねる。するとマリーさんは心配するような顔で説明してくれた。

「レイジングハートもバルディッシュも、“カートリッジシステム”を搭載したいんだって」

「カートリッジって、ヴィータちゃんやシグナムさんのデバイスに着いてるアレの事?」

「そう、ベルカの技術で作られたアームドデバイスに採用されているシステム。弾丸に圧縮した魔力を込めて、それを使用時にロードする事で瞬時に爆発的な魔力を得られる切り札みたいな武装。だけどこれって制御が難しくて、術者とデバイスに大きな負担がかかるの。インテリジェントデバイスとは相性も悪いのにあなた達の役に立ちたいからって、そんな無茶な改造を施しちゃってもいいものかと思ってね」

「役に……バルディッシュがそんな事を?」

「うん。レイジングハートもバルディッシュも、ヴォルケンリッターのようなベルカ式の使い手や、イモータルのダーク属性の攻撃を何度も受け続けた事で、このままではマスターのあなた達の足手まといになってしまうって危惧してるの。だから力不足を補うために、カートリッジシステムを搭載して欲しいって言ってるんだけど……二人はどう思う?」

「私は……レイジングハートが強くなりたいって言ってるなら叶えてあげたいです。レイジングハートは私の翼です、一緒にどこまでも飛んでいきたいですから」

「カートリッジの負担の事を考えて、マリーさんは私達に意見を求めてくれたんですね。私も……バルディッシュと共に駆け抜けたいです。そのための力が手に入るなら、多少の負担ぐらい問題ありません」

「……わかったわ。マスターの意思も確認した事だし、要望通りにこれからカートリッジシステムを搭載するね。ヴォルケンリッターの戦闘データもラジエルから送られて来たから、そのデータを使ってフレームも使用に耐えられるまで強化しておかなければならないし、これから忙しくなるなぁ。あ、でもこれは覚えておいて。カートリッジシステムは諸刃の剣、使い過ぎるとすぐ身体を壊すから、使用は程々にね」

『はいっ!』

要はトランス・ダークと同じように考えておけばいいんだね。でもトランス・ダークは最後の手段だから、カートリッジの方は使用のハードルを下げても大丈夫かな。過度な使用は抑えるつもりだけど、必要なら躊躇わずに使おう。

ところで……見学をしてから姿が見えないけど、サバタさんはどこに行ったんだろう?

・・・・・・・・・・・・・・・・

~~Side of サバタ~~

地球のブラジル、リオ・デ・ジャネイロ州。州都はそのままリオ・デ・ジャネイロで、ポルトガル語で『1月の川』という意味になるその地に、俺は降り立った。有名なカーニバルは2月の時期に行われるため、今はそういう祭りじみた雰囲気は感じられない。というか俺はそのためにここに来たんじゃない。SEEDに搭載した麻薬を販売した組織、それを探しに来たのだ。

ここの公用語はポルトガル語だが、英語とスペイン語も高校のカリキュラムに組み込まれている。そのおかげで俺の母国語の英語でも何とか通じるため、見かけた人のほとんどに麻薬販売組織の所在について尋ねたのだが、現状そっちは成果ゼロだった。

「ここも違う、か……」

「たわけ。闇組織を暴く事なぞ、一人で出来る物ではなかろう」

「でもさでもさ、僕達がやろうとしてた事も似たようなものだよね?」

「ええ。元々私達は“彼女の力”を求めていましたが、今はこうしてニャンニャンするぐらいが関の山ですからね」

「ニャンニャン出来るのはそなただけだろう! というかニャンニャンしたいのか貴様!?」

「実際こんな姿なんですから、今の内に堪能しても構わないでしょう? あ、その辺りを撫でられると……とても気持ち良いですね」

「わ~い! お兄さんにソーダ飴買ってもらったよ! う~ん、おいしぃ~♪」

「貴様ら懐柔されておるではないか!? あ~もう、なんで我が臣下はこうものんきなのだ!」

「別にいいじゃないですか、我が王。私達の命運は現状ではサバタと共にあるのですから、運命共同体として仲良くした方がよろしいと思います」

「僕もシュテるんと同じ意見だよ。それにいっぱい美味しいモノくれるもん! 喧嘩しない方が良いって!」

「わ、我だってそれぐらいわかっておるわ! だ、だが臣下を二人とも懐柔されてしまうと、我の王としての威厳が……うぅ……」

何やらしょぼんと落ち込むちっこい銀髪の少女。別に彼女だけ除け者にするつもりは無く、彼女を抱え込むと頭を優しめに撫でる。

「わ、我を懐柔するつもりか? だ、だが我は屈せんぞ……我は……我は…………………う、うむ……良きに計らえ~……♪」

「あー! 王様、すりすりしてる~! ズルいズルい!」

「口では否定しつつも、身体は正直ですよね、我が王は。そこがまた可愛いのですが」

「~~ッ!!」

途端にボッと顔が真っ赤に染まるはやて似の銀髪少女。そしてフェイト似の水色髪の少女はさっき買ったソーダ飴を握りしめながら走り回っていて、なのは似の濃い茶髪の少女は構ってほしいのかマフラーを引っ張っていた。……なんか疲れる。

「……シュテル、レヴィ、ディアーチェ。おまえ達の仲が良いのはよくわかったから、あまり探索の邪魔はしないでくれよ?」

『は~い!』

……本当にわかってるのだろうか? 甘やかしている俺が言う事でもないかもしれないが、少し不安だ。

今更だが、とりあえず彼女達について説明しておこう。ロキとの戦いで“彼女の力”を使ってから、ナハトの内側にいた彼女達の意思が俺の意識内に顕現しやすくなっていたのだ。それで俺の月の力を使えば、かつてのアリシアと同じように一時的でも具現化させる事が可能だとわかったため、誰も見ていない場所で試しに召喚してみたのだが、いざ対面してみるとかなり賑やかで個性的な連中だった。
それと彼女達の姿は俺の記憶の中からそれぞれ、なのは、フェイト、はやてをモデルにしているそうなのだが、どうも彼女達のプログラムが完全に表出出来ていないためか、フェレットモードのユーノより多少大きめの小動物サイズで現れている。また、シュテルだけなぜか猫耳と猫尻尾が生えている。先日ポンコツ猫姉妹と行動を共にしていた影響なのかわからんが、とにかく理由は不明だ。

チヴィット? 俺は知らないが、それっぽいのならそう思っていればいい。しかし……最近、子守りしてばかりな気がする。正確にはこちら側に来てから、というべきか……。

「ところで王、一つ意見を言ってもよろしいですか?」

「構わぬ、申してみよ」

「はい。いつまでもサバタの呼び方を中途半端にしておくのは面倒だと思うので、ここでいっそ何らかの役職名を与えてはどうでしょう?」

「ふむ、シュテルが参謀で、レヴィが鉄砲玉のようにか?」

「待って! ボクって鉄砲玉なの!? 帰って来れないじゃん、それじゃ!?」

「冗談だ、レヴィ。貴様は鉄砲玉なんかに収まる器である訳が無かろう」

「そうなの? あ~良かった!」

しかし鉄砲玉でないのなら、結局レヴィの役職は不明だった。それに冗談の方が本音が出る、と聞いた事があるが……わざわざ指摘するのは野暮だろうな。

「それで私の方からサバタの役職を考えてみたのですが……」

「先に言っておくが“盟主”は埋まっておるからな? “彼女”が解放された時、居場所が無ければ可哀想だろう?」

「そこはちゃんと考えてあります。で、改めましてサバタの役職ですが……“枢機卿”がよろしいかと」

「“枢機卿”……なるほど、確かに国を治めるために前もって国教を敷いておいた方が良いかもしれんな。この者ならば信仰を集めるのに十分な程のカリスマがある、務めは十二分に果たせよう。……我より能力が色々上回っている気もするが、そこは我の未熟さ故だ、いずれ追い抜いて見せようぞ」

「じゃあこれからお兄さんは“教主”って事になるのかな? う~ん、なんか堅っ苦しいから僕はこのままお兄さんって呼ぶね!」

「レヴィはそのままでいいですよ。ではサバタ、これから我々はあなたの呼び方を“教主”と改めさせて頂きます」

「うむ、光栄に思うが良い、教主殿よ! 貴様は我らの国で王に匹敵する権限を得たのだからな! いずれ我らが興す国でその役目を果たしてもらうぞ!」

なんか彼女達の間で勝手に枢機卿にされていた。俺は宗教とかには全く興味が無いのだが……彼女達がそうして欲しいのなら、仕方ないが拝命してやるか。……ところで、ちっこい姿で相談している光景は妙に和むのだが、彼女達はわざとやっているのだろうか?

さて……いい加減、麻薬組織の捜索を再開しよう。だがこのまま闇雲に捜索に当たっても尻尾を掴むのは相当厳しいだろう。ならば、地球の“裏”に精通した連中に協力を頼んでみた方が良いかもしれない。“彼ら”のやり方は少々過激すぎるとは思うが、背に腹は代えられない。“ムーンライト”の収納スペースから通信機を取り出し、ある場所へ連絡する。

「……俺だ。突然すまないが、頼みたい事がある。ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ州を拠点とする麻薬組織の所在を知りたい。―――は? 既に調べ当ててあるだと? ―――そうか、準備が整ったらそのマフィアを丸ごと乗っ取るつもりだったのか。だが、すまないが奴らを潰さなければならない理由がこっちにはある。だから乗っ取りは―――なに? 金と流通ルートさえ残してくれると約束するなら教えてくれるのか? なら麻薬は? ―――そっちはいらないのか、では麻薬は全て燃やしておく。心配するな、金と流通ルートは約束通り残しておいてやる。後はそっちで好きにすると良い。しかし金はわかるが、何で流通ルートを? ―――そういう事か。警戒するのはわかるが、一応全部が全部そうではないからな。で、場所は? ―――なるほど、その辺りに麻薬を売るマフィアがいるのだな。少し遠いな……まあいい、とにかく助かった。礼を言うぞ“オセロット”……いや、今は“リキッド”か。すまない、今後連絡を取る際は気を付けておく。……通信を切るぞ」

やり方は少し汚いが、とにかく連中の潜伏先が判明した。シュテル達にこれから内陸の方へバイクでしばらく走る必要がある事を告げると、彼女達は俺の両肩と頭にそれぞれしがみついた。いくら認識阻害魔法がかかっていると言っても、彼女達の存在の重みが感じられるから多少動きづらい。

まぁバイクで移動するだけなら別に問題ないのだが……。そう思ってバイクに跨ろうとした時、背後から身の毛がよだつ程のとんでもない殺気が一瞬だけ感じられた。

「へぇ~、おめぇさんも連中を探してんのか? こいつは奇遇だな」

意外と耳触りの良い男性の声が背後から聞こえ、静かに冷たい汗が流れる中、俺は暗黒剣に手をかけながらゆっくりと振り返る。

「実はな、俺もなんだ」

そこには……異国の“サムライ”がいた。クセの強く長い黒髪をちょんまげに結わえ、左眼に大きな傷跡が残り、薄い黄土色の鎧らしき服装をしていて、腰に携えている刀には鞘にトリガーが付いていたりと機械的な改造が施されている。ひょうひょうとした雰囲気を装っているが、その実、とんでもない鋭さの眼光をしていた。

それより今の言葉……どうやらさっきの通信を聞かれたか。しかし彼が俺の探しているマフィアの傘下にある者だったら、すぐに斬りかかってきていたはず……という事は会話の余地はあるようだ。

「おまえは?」

「なに、ただの流浪人さ。連中には返さなきゃならない借りがあるんでね、ようやくここまでたどり着いた所に、同じマフィアを探してる小僧達と出会ったのさ」

「そうか……今の内に言っておくが、俺は小僧じゃない。サバタだ」

「オーケー、ちゃんと覚えたぜ、サバタ。それと……すまんが、小僧が出しゃばるのはここまでにしてもらおうか。連中をぶっ潰す汚れ役は俺がやる、小僧は家に帰ってママとねんねしてな」

「フッ……俺にはもう母親はいない。おまえの命令は最初から聞けないな。それにおまえこそ一人で始末を付けるつもりなら、大人ぶってないですっこんでろ。俺にだって意地がある、奴らを叩き潰すのは俺の役目だ」

「ほう? おまえ……年の割にイイ殺気を放ちやがる。久しぶりに背筋が震えたぜ……!」

「おまえこそ……この刺すように凍てつく殺気、俺もこれほどの気概を持った人間は他に見た事が無い」

そうやって挑発と称賛を交えながら互いに睨み合う俺達。シュテル達は“ムーンライト”に飛び乗って事の成り行きを見守っているが、そもそも目的が同じなら協力出来るんじゃないか、と普通の人ならそう考えるだろう。

「いいねぇ、そうでなくっちゃ話にならない。来た甲斐があったというものだ」

だが俺と彼の間では、その話は既に結論が出ている。即ち……、

「剣で語るのみ、ってヤツだぜ? それが一番ややこしくなくて済む」

彼は刀身が赤く光る刀を抜き、正眼に構える。俺も暗黒剣を構え、両者の間に真空が張ったかのような緊張感が生じる。周囲にいた一般人は「喧嘩だぁ!」と叫びながら一目散に逃げていき、表通りなのに人の姿が俺達以外にいなくなった。

「良いだろう、我を通すのは強い者だけだからな。俺も俺自身のケジメを果たすために、おまえを越えて見せる!」

「オーケー……! いざ参る!」

刹那、轟音と爆音が発生。周囲に衝撃波をまき散らしながら俺と奴は相手の下へ一気に駆け抜ける。剣が届く距離になった途端、袈裟斬り、返し斬り、回転斬り、のコンボで彼は卓越した速度で刀を振るい、こちらはとにかく大剣で防御し続ける。彼の刀は触れるだけで奇妙な衝撃が走り、これは受け止めるだけで中々手に堪える。だがこちらも押されっぱなしではない。彼の強烈な切り上げの勢いを逆に利用し、受け流して彼に僅かな隙が出来た所に彼の刀を握る右手を目掛けて剣をぶつける。しかし彼はこの程度の攻撃では一切ひるまず、すぐさまカウンターの蹴りが放たれて俺は避ける間もなく、まともに腹部に直撃してその勢いで後ろに飛ばされる。跳ね飛ばされた勢いをバック転の要領で、地面に片手を着き、一回転して着地する。
地面に足が着いた勢いを瞬発力に変換して、再び接敵。対する彼も勢いを殺さずに再び突進。俺の暗黒剣と彼の刀がぶつかり、鍔迫り合いで火花が散る。

「ほう、我流か。筋は悪くないな、だが……!」

「くッ!」

やはり体格の差や力の差があり、力で押し切られて後ろに吹き飛ばされてしまう。何とか立て直したが、俺は予想を超える彼の尋常でない強さに内心驚愕していた。士郎クラス……いや、それ以上かもしれない。これは相手の力量を見誤ったか……。

腕がビリビリ痺れて剣を握る手に力が入りにくくなる中、彼はゆっくり歩きながら告げてくる。

「お前の剣には何かが足りん」

「……?」

彼が何を見ているのかよくわからないが、俺はまだまだやれる。その気概を込めて俺は立ち上がり、彼の目を見据える。彼は嬉しそうに頬を吊り上げ、刀を一旦納刀して抜刀術の構えを取った。こちらも力を絞り出し、暗黒剣を正眼に構える。

周囲から一切の音が消え、心臓の鼓動が耳に響く。一瞬でも気後れしてしまったら、その瞬間に敗北が決定する。明鏡止水、その境地に至るまで俺は神経を集中……彼の一挙一動を見極める。

…………………………ッ!!

呼吸が合わさった刹那、この戦い最高の速度を以って俺達は直進、俺は渾身の力を込めた剣、彼はトリガーを引いて弾丸が射出される勢いの刀が衝突して、シュテル達が煽られる程の衝撃波が発生する。

「見えた。お前の剣は“喪失”を恐れている」

「ッ!?」

「人の命を大事に思い過ぎて、傷つける事に恐れを抱いている。その剣を人の血で汚したくなくて、人を斬る事を躊躇っている。他者の命が消えないように、対人戦では無意識に手加減している。簡単に言えば、おまえは命の重みを知り過ぎている」

「…………」

鍔迫り合いの反発で互いに弾き飛び、一定の距離を挟んで戦いは小康状態となる。それよりも彼の言った事が耳から離れなかった。その理由は自分でもわかっている。彼の言葉が真実だからだ……!

「別にその信念を否定する気はないし、むしろ立派な心構えだと思うぜ? 本当に、その歳でよくもまぁそこまでの気概と実力を兼ね備えたもんだ」

納刀してパチパチと軽く拍手している彼だが、俺は自分が光の世界に長く居過ぎたせいで、いつの間にか腑抜けてしまっているのではないかと思っていた。このままでは大事な戦いで、意思を貫くための力が及ばなくなるのではないかと……。

「クッ……俺は……もっと強くならねばならない。あいつらと……何より俺自身の目的を果たすためにも、今一度鍛え直さなくてはならない……!」

「な~るほど? おまえさんにも中々複雑な事情があるみたいだな。そのために力が必要だって事なら……面白そうだ、この俺が力を貸してやろうか?」

「なに? おまえが?」

「そういや俺の家系の流派を継ぐ人間が一人もいなかったなぁと思ってな、おまえさんに俺の剣術を伝授したら中々面白い剣士になりそうだ。我流で俺とあそこまでやれたのは称賛に値するが、やはり流派には流派の長所があるってもんさ。荒削りな我流で戦い続けるより、剣の振るい方を覚え直した方がよっぽど今後のおまえさんの力になるはずだぜ?」

「…………」

冷静に考えると、彼の提案は中々魅力的だ。俺の元々の戦い方は銃か体術であり、剣の使い方は経験任せで実の所中途半端だったりする。そんな剣では自分の腕に絶対的な信頼を置けないし、何より決め手に欠けたままになってしまう。恭也や士郎には我流の強みと弱みを指摘されながらも、実戦慣れした俺の剣術なら大抵の敵が相手でも十分問題ないだろうとは言っていた。しかしあるレベルを超えると、我流では脆い所や隙の多い所を見抜かれやすくなる。このままでは駄目だ……今の俺の剣術は穴だらけだから、今の内に弱点を埋め直していくべきだ。

しかし……この男から学ぶのか? 実力が凄まじいのはわかるが、彼の剣術は俺の暗殺用近接格闘術と似た雰囲気を感じたし、それにどうも本心をあまり表に出さなそうな気が……。いや……そこは俺も同じか。

「……返事を言う前に聞かせてくれ、おまえは何者だ?」

「おっと、誘っといて自己紹介してなかったとは、ついうっかりしてたぜ。俺の名はサムエル・ホドリゲス」

「サミュエル・ロドリゲス?」

「ああ、英語圏だとそう呼ぶんだっけな。とりあえず俺の事はサムって呼んでくれ。ホドリゲス新陰流の宗家の生まれで、剣術師範代に匹敵する実力は備えていると自負している」

「自負? 資格を持っている訳では無いのか?」

「まあ、な。家の方が連中のテロのせいで全滅しちまってな、生き残った俺様は仇討ちのためにやってきたってのが、俺がここまで来た理由って奴さ」

「そういう事だったのか。こっちは連中が売った麻薬のせいで犠牲になりそうだった女の子がいてな。何とか助けたのは良いが、このまま連中を放置しておく訳にはいかないと思って、ここまで来た」

「ひゅ~、勇ましい坊やだ。ますます気に入った」

「そりゃ光栄だが、俺は坊やじゃない。それと……さっきの話を受け入れよう。俺は……おまえの剣術を学ぶ。学んでこの先の戦いもやり抜いて見せる」

「オーケー。短い間だが、骨の髄までホドリゲス新陰流を教え込んでやるよ、サバタ」

「フッ……すぐに使いこなしてやるさ、サム」

こうして俺はサムと麻薬マフィアを潰すまでの短い期間だが、師弟関係を結ぶ事になった。余談だがシュテル達も俺がサムから剣術を習う隣で見学していた。もしかしたら彼女達が人の身体に戻った時、何気に使えるようになっているかもしれないな。

 
 

 
後書き
サムエル・ホドリゲス:メタルギアライジングの主人公、雷電のライバルキャラ。ムラサマブレードという高周波ブレードに改造した刀を振るう、殺人剣の使い手。今作では師匠的立ち位置。

サバタ、シュテル、レヴィ、ディアーチェはホドリゲス新陰流を覚えた! (DLCコンテンツのJetstreamでのサムの戦い方を身に付けた感じです)

マテ娘はサバタから既に”彼女”の事は伝えられています。その一件は彼に一任されているので、彼女達は割とのんびりしています。現在のサイズはInnocentのチヴィットを参考にしています。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧