箱庭に流れる旋律
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打楽器奏者、抱きしめられる
前書き
だいぶんと長い間更新できず、申し訳ありません・・・他の作品にかまけていました。
これから先、この作品の更新頻度は下がると思いますが、それでも停止したり削除したりはしないので、どうかよろしくお願いします・・・
「お姉ちゃん、強いねー!」
「うん、そうだね。あのニンジャのお姉ちゃん、すっごく強いよね」
結局ロロちゃんと合流できずにお城の中に入ってしまった僕とレヴィちゃん、それに途中で引き寄せることのできた子供たちと一緒に移動しています。それで、お城の中にはよくわからない魔物みたいなのがいたんですけど・・・どれだけ同時に現れても、全てレヴィちゃんが一瞬でバラバラにしてしまいます。いや本当に強すぎませんか?
「お兄ちゃんは、男の子なのに何もしないのー?」
「男ってのはなー、女を守らないといけないんだぞ?」
「うん、そうだよね。本当に情けないよね・・・」
一応僕も剣をぶつけたりしたんですけど、硬すぎて剣が砕けました。なんであんなに簡単に切り刻んでいるのでしょうか、レヴィちゃんは・・・
まあそういうわけで、僕は完全に役立たずと化しています。情けないにもほどがある・・・
「はぁ・・・あ、レヴィちゃん。まだ距離はありますけど、だいぶ進んだところに同じのが十匹くらい。それと・・・人が、何人かいます」
「人のほうの人数はわかるっスか?」
「・・・すいません、動いていないので正確には・・・」
というわけで、感知役に徹することにしました。音の響きを操るギフトは、こういう使い方もできます。・・・レヴィちゃんは普通に気配でわかるそうなので、必要ないかもしれませんが。
「まあ何にしても、急いだほうが良さそうっスね」
「はい、その方針で」
話し合った結果『一人でも多く助ける』という方針に決まったので、どうするかは話し合わなくてもすぐに決まる。僕はレヴィちゃんの言葉に一つ頷いてから足を痛めている子を背負って、レヴィちゃんの後に続いて走る。周りにいるのは子供ばかりだけど、さすがはみんな獣人とか何かしらの種族だからなのか、僕が本気で走ったくらいは簡単についてくる。
・・・これ、レヴィちゃん僕に合わせてくれてるよね・・・そろそろ本気で情けなくなってきました。これから先、空き時間ができたら筋トレとか体力作りとかしよう・・・。
♪♪♪
「みん、な・・・大丈、夫?」
今冬獣夏草からみんなで逃げて隠れてるんですけど・・・とりあえず、大丈夫そうです。
でも、どうしましょう・・・反射的に飛び出しちゃいましたけど、ロロには何もできそうにありません・・・さすがにドラム状態にすると身動きが取れなくなるのでタンバリンを持ってはいますけど、もう既に他の音楽シリーズの影響を受けているのか、私の演奏聞いてくれませんし・・・勝手に持ってきちゃったお兄ちゃんの多鋭剣も十本くらい折っちゃって、もうあと二本だけですし・・・
「・・・ロロ、何もできてない・・・」
「だいじょーぶ?お姉ちゃん」
「・・・うん、大丈夫」
でも、このまま落ち込んでるわけにもいかないんですよね・・・ロロは耳を無理矢理に立たせて、心配してくれた女の子に笑顔を、向けます。勝手に向かって、それなのに彼らを不安にしちゃったら・・・本当に、お兄ちゃんたちに顔向けできません。年はそんなに変わらないですけど、まだプレイヤーとしての経験はない子たちばかりですし・・・ッ!?
「・・・・・・来た」
あの特徴的な歩く音。間違いなく、近づいてきてます・・・うぅ・・・
「・・・みんな、逃げるよ・・・」
小さく声をかけると、みんな理解してくれます。そのまま音をたてないように、急いで移動を始めて・・・でも、気付かれました。もう、こっちに向かってます・・・・
「・・・・・・・・・」
他の手段、ないですよね・・・
「・・・そのまま、まっすぐ走って。そっちに行けば人がいるから」
一瞬でもいいから、時間を・・・どうにかして、この子たちだけでも。
幸いにも、子供たちは素直にいうことを聞いてくれました。年下相手なら、ちゃんと喋れるし強くも言えるんですよね・・・せめてお兄ちゃんたちとは、ちゃんと話せるようになりたいなぁ・・・
「そのため・・・にも、ここは乗り越えないと」
振り返ると、もうそこには何匹かの冬獣夏草が。そして、手元にあるのはタンバリンと多鋭剣が二本。楽器は変えれますけど演奏しても通じませんし、多鋭剣は刺さらないですし・・・あ、もう目の前に触手が。
「・・・逃げ、ましょう」
それ以外に方法がないです。逃げます。音楽シリーズは希少なギフトですし『音楽はすべての平等である』という考えのおかげで相手の格に関係なく効果を出してくれますけど・・・他の演奏に聞き込んでたら、効果がありません。さらに言うなら、身体能力にも何の影響もありません。
それでも、一応猫族なので見てからでも、十分に避けられます。・・・多少、ヒヤッとはしますけど。
「・・・剣の、舞」
それでも体力はそんなになので・・・多鋭剣に乗って、操って動きます。タンバリン一つでも十分な演奏になるのが、音楽シリーズのいいところです・・・。それに、ロロの音楽シリーズもこういう場でも使えるのが助かります。
一番得意な・・・というよりも思い入れのある楽器はドラム一式ですけど、ロロのギフトは“ドラマー”じゃなくて、“打楽器奏者”だったのも運が良かったです。ジャンルである以上は、打楽器の全てが対象になりますから。・・・動きながらでも、十分に演奏が・・・でき、ます。
・・・剣に乗って飛び回りながら、タンバリンを叩いている絵については、もう気にしないことにします。
「・・・このまま、いければ・・・」
今の数なら、まだ何とかよけきれます。もうしばらくしたら逃げましょう。それでどうにか・・・
「・・・ダメッ!」
と、そこで一匹があの子たちのほうに向かおうとしたので、反射的にその前に向かってしまいます。そうなれば当然、蔦がロロのほうに・・・
「あ・・・」
衝撃を覚悟して目をつむりましたけど・・・衝撃は、来ませんでした。その代わりに、いくつか音が聞こえます。
まず聞こえてきたのは、金属が砕ける音。自分が乗っているのとは別の、日本目を盾にしたのですが・・・やはり、駄目だったみたい、です。
そして、次に聞こえてきたのは・・・四つの、音。
まず一つ目に、誰かが走ってくる音。誰かがこっちに向かってくるようでした。
二つ目に、何かが飛んでくる、ヒュンというような音。それも、いくつも飛んでくるように、連続して。
三つ目に、一つ目と同じ音が、連続して。同じような金属が、砕かれていく音。
最後に聞こえてきたのは・・・ううん、違います。最後に気付くことができたのは、演奏する音。ロロのタンバリンと同じ曲を、歌っている。
「これ、って・・・」
「口閉じて!」
反射的に口を閉じると、そのまま誰かに抱えられて転がります。誰か、というか、この匂い・・・
「あっ、ツー・・・こういうのって、あんまりうまくいかないんだね・・・」
「お兄、ちゃん・・・?」
「あ、うん・・・ごめんね、ギリギリになっちゃった上に、かっこ付かなくて」
イタタ・・・と背中を気にしながら立ち上がっているのは、やっぱりお兄ちゃんで・・・なんでここに、は考えるまでもないことで・・・
「ロ、ロロの方こそ、ごめん、なさい・・・」
「・・・え?」
「ロロが来たせいで、危険なところに・・・」
「ああ・・・いいよ、そんなことは気にしなくて。僕は元々ここに来たかったんだし、何より来てみたら向う側にも音楽シリーズのギフト保持者はいるみたいだし、結果としては来て正解だったと思うから」
・・・お兄ちゃん、本気で言ってる上に、事実そうであるのを混ぜてくるのは卑怯だと思います・・・何も言い返せなく・・・
はぁ・・・多分、多鋭剣を駄目にしちゃったことも、言っても無駄なんですよね・・・天然でこんなことをしてるなら、元の世界にも恋人とかがいたのかもしれない思うと・・・ちょっと、もやもやします。
「あっ、そういえば冬獣夏草は、」
「あ、そのことは気にしないで続けてくれていいっスよ?もう全部終わってるっスから」
「・・・・・・え?」
見てみると、確かに言われたとおり・・・全部、バラバラになって、ます。え?レヴィお姉ちゃん、強すぎませんか・・・?
「まあ見ての通りっスし、子供たちも自分一人いれば簡単に守れるっス。そういうわけなんで、どうぞ存分に抱きしめられててくださいっス」
「・・・ふぇっ!?」
言われてやっと、状況をちゃんと理解しました。ロロ、ずっとお兄ちゃんに・・・!?
「あ・・・ごめんね、ロロちゃん。気付かなくて」
「い、いえ、そんなことは・・・」
「おやおや、これは・・・面白くなってきたっスねぇ・・・」
レヴィお姉ちゃん、絶対に分かってやってるよぉ・・・
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