とある3人のデート・ア・ライブ
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第七章 歌姫
第6話 勝負(賭け)
士道 (今は士織)と上条は竜胴寺女学院の校門前で二人並んで立っていた。
理由は精霊攻略のためだが、上条がいるのは正直言って謎である。琴里の指示とはいえ、これは機嫌を損なうだけでは……
でも、それもあの誘宵美九と会わなければ話にならない。
美九「あ、士織さんじゃないですかぁ」
どう理由をつけて入ろうかと士道が思っていると向こうから話しかけてきた。
ラッキーである。
美九「今日は凜袮さんと一緒じゃないんですかぁ?」
士織「あ、あぁ。今日は用事があるって言って帰っちまった」
美九「それで、士織さん。後ろの″アレ″は何ですかぁ?」
アレ。上条当麻のことだろう。美九からすればただの汚物とでしか見てないのだろうか。
士織「あ、あぁ。昨日凜袮さんが言っていた人だよ」
冷や汗を流しながらも上条のことを一応紹介する。
上条「どうも、上条当麻です」
どうせあの時みたいに罵倒されるに決まっている。
初めて士道の顔を確認した時のように、軽蔑し、嫌い、そして蔑む。
だが。
美九「(……?)」
彼女ーー誘宵美九は上条当麻の姿を見て目を細めるだけだった。
士織「あ、あの……美九、さん……?」
士道の問いかけもまるで意味を無くしたように美九は聞いていなかった。
美九「(この人は……)」
恐らく自分を知らないだけかもしれない。だから自分を見ても何も思わないのかもしれない。
だから彼は平然と立っているのだろう。
ても、
だけど。
それ以上に。
彼は、自分以上に苦しんでいるのかもしれない。
容姿は全く似ていないのにどこか園神凜袮と合致する雰囲気がある。なぜか顔を見ただけで園神凜袮を連想させる。
そして。
自分を興味ある対象として無理矢理見らされる。
理由は分からない。
ただ、直感で、本能で、彼女はそう思った。
美九「……中々面白そうな方ですね」
「「……?」」
美九「どうですかぁ、二人とも、私と一緒にティータイムをしませんかぁ?」
とりあえず。
上条を毛嫌いしないことに驚いた。
もちろん彼女と接触できれば何でも良かったので、快く了承した。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
士織「なんか悪いな、何から何までやらしてしまって……」
美九「いえいえー。誘ったのはこちらですし。それに士織さんとティータイムが過ごせるだけで充分ですよー」
上条当麻の名前が入っていないところからすると、男嫌いが治った、というわけでは無さそうだ。
美九は士織の隣にべったりと座り、上条は向かい側に座った。
そこからはただの雑談だった。
男嫌いの美九も上条とはなぜかうまく話せたらしく、この光景だけ見ればただの友達同士の会話にしか見えないだろう。
美九「あー、もうこんな時間ですかー」
士織「わ、悪い、話し込んじゃって」
上条「面目無い……」
美九「いいえ、とても楽しかったですよー」
言って、士道の目を見つめてくる。なんか照れくさくなったので視線を逸らした。
美九「うん、やっぱり、いいです。今までにいなかったタイプですー」
何か納得したようにうなずく。
美九「士織さん。あなたのこと気に入っちゃいましたー。明日から竜胴寺に通ってください」
士織・上条「「……へ?」」
士道だけでなく上条を呆気を取られる。
士織「竜胴寺に……」
美九「はい。転校してください」
琴里『……こっちは何も反応がないわ。冗談では無さそうね。理由は分からないけど……美九の機嫌を損ねたくないけど上手く断りなさい。リスクが高すぎるわ』
と、琴里が言ってくる。士道は肯定するように頷いた。
美九「もちろん、お金や学力は問題ないですよー。私がお願いしておきますからねぇ」
いや、それ以前に性別に問題があるのだが。
士織「ちょ、ちょっと待った。簡単に決められねぇよ、そんなこと」
士道が言うと、美九は唇の端をクイっと上げながら士道の耳元に口を寄せてくる。
そして、
【ーーおねがい】
そんな、甘えるような美九の声は、自分の耳の中の鼓膜を震わせるには充分だった。
強烈な目眩に襲われながらも、ここでそれに酔ってしまえば後悔してしまう気がしたので何とか持ちこたえて美九に答える。
士織「こ、困るよ……そんな言い方されたら……」
美九「ふぇ?」
美九は予想していた返答の一歩先をゆく答えを出された時のように、あっけに取られた。
美九「……」
考え込むように顎に手を当ててうつむく。
上条「……あれ、どうしたんだ?」
士織「分かんねぇけど……なんかあの声だけ色々ヤバかった……ような気がする」
上条「そうか?俺には普通の声に聞こえたけど」
そして。
美九「……!」
何か重要なことを思い出したかのごとく彼女はカッと目を見開いた。
驚いた表情としていたかと思えばすぐにいつもの不敵な笑みへと戻っていった。
そして、言った。
美九「もしかしてあなた達ーー精霊さんです?」
上条「……突然どうしたんだ?」
美九「とぼけないでくださいよー。私の『おねがい』を聞いてくれないだなんて普通の人があるはずないんですからー」
言いながら、美九は先ほどと何も変わらない笑みを浮かべた。
美九「精霊さんだったら嬉しいですねぇ。自分以外の精霊さんに会ったことがなかったですからぁ」
士織「な……」
美九「ねえ、士織さん。あなたは一体何者なんですかぁ?もしかして本当に精霊さん?それともあの魔術師とかって人たちの仲間です?」
士織「いや、その……」
美九「あなたもですよー、上条さん。私からすればあなたの方が謎なんですから」
上条「……俺は学園都市の人間だ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
美九「本当に″それだけ″ですかぁ?」
上条「……」
美九「……あなたは話が長くなりそうなのでまた別の機会にでも聞きましょう。凜袮さんのことも気になりますし」
上条「そうしてくれると助かるよ。出来れば二人きりの時がいいからさ」
美九「……あんまり気が進みませんけど」
上条が苦笑いで対応すると、話を戻すべく士道の方へと向いた。
士道は言いたいことは分かっていると言わんばかりに美九を見据えて、そして言った。
士織「俺は精霊じゃない。ただ精霊を封印する力を持っている。もう既に四人……いや、五人の精霊の力を封印した」
美九「……封印、ですか」
士織「俺自身もなんでこんな力があるのか分からないんだ。でもそれで女の子が救われるなら、理由なんて必要ないんだ。だから君を救いたい。信じてほしいんだ」
その言葉を聞き終えて、少し考えるそぶりをすると、美九は表情一つ変えることなく、でも彼女は言った。
美九「分かりました。信じましょう」
士織「ほ、本当か!?」
美九「はい。ですけど私は封印しなくても大丈夫ですよー」
そうきたか。士道は心の中で舌打ちした。
こうなれば仮にデレさせれたとしても封印できるかどうか分からない。
どこかでキスをすれば精霊の力を失うと聞いてしまえば終わりだ。
上条「そういえばあの日の空間震の時は佐天さんが言ったんだっけ」
士織「ま、まあな」
美九「あらぁ?二人とも涙子さんを知ってるんですかー?」
上条「同じ学園都市の人間だからな」
美九「そうなんですかー」
士織「でも不思議だよなー。空間震も突然起こったりするんだから」
それを聞いて、美九は口の端をクイっと上げて言った。
美九「……じゃあそんなお二人さんに一つ、いいことを教えましょう」
士織「……え?」
その言い振りは頭のいい意地悪な青年が頭の良くないマジメな少年に教えるようだった。
美九「あの空間震はーー私が自分の意思で起こしたものなんですよー」
士織「……は?」
上条「な……!?」
確かに、自分の意思で空間震を引き起こすことができる精霊は存在する。ならば目の前の〈ディーヴァ〉にそれができても不思議ではない。
士織「一体なんで……」
初歩的な疑問。
美九は特に様子を変えることなく言った。
美九「前に言いましたよねー?私、ステージに立つことが好きなんですって。すると突然歌いたくなったんですよー。だから、えいやーって」
士織「そんな、理由で……?あたりには人がいたんだぞ!?」
美九「仕方がないじゃないですかー。私が歌いたかったんですよー?」
上条「人の命を何だと思ってるんだ……!?」
徐々に二人の怒りが増していく。色々なことを経験したからこそ、余計に。
士織「なんとも、思わないのか……?」
でも、美九の顔には一切の罪悪感はなかった。
美九「そうって言われましてもぉ……」
士織「もしお前の友達、そう、今日一緒に下校していた友達が死んでしまったらどうするんだよ!?」
士道が叫ぶように言うと、美九はしばしの間思案を巡らせ、視線を巡らせたのち、再び士道に目を向けた。
美九「それは困りますねー」
士織「だろ!?だからーー」
美九「また私好みの女の子を探すのに手間がかかっちゃいますしー」
士織「……え?」
上条「……は?」
士道と上条は自分の耳を疑った。
狂三と違い、その行動に、言葉に、悪意も、殺意もない。
明らかに、『異質』だった。
士織「悲しく、ないのかよ……?自分のせいで人が死んじまっても……」
美九「確かに悲しいですけどぉ、ほら、彼女達私のこと大好きですし、私のために死ねるなら本望じゃないですかぁ」
さすがに、限界だった。
琴里『士道!?落ち着きなさい!短気起こすんじゃないわよ!』
インカムからの声も意味をなさないように通り過ぎていく。
もちろん上条も怒っていた。
だけど、そこで無駄に怒らず最後まで相手の出方を探るということを覚えた上条はこの場では怒りを爆発させはしない。
上条は、だが。
血が出んばかりに握りしめた拳をテーブルに叩きつけ、その場に立ち上がる。
上条「士道!」
だが彼は、すでに聞く耳を持たなかった。
士織「自分のことを、好きだから……?」
美九「はいー。彼女だけじゃありませんよー。みんな、私のことが大好きなんですー。私の言うことは何でも聞いてくれるんですー」
士織「そうか……」
士道は顔を上げた。
士織「俺は、お前のことが嫌いだけどな」
美九「…………あらー?」
美九がピクリと眉を動かす。
士織「傲岸で、不遜で、鼻持ちにかはない。みんなお前が好き?はッ」
右手を持ち上げ、士道は美九にビッと指を突きつけた。
士織「世界の誰もがそんなお前を肯定しかしないなら……俺はその何倍も、″お前の行為を否定する″!!」
あーあ、やっちまったな、と上条は呆れながら思った。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
琴里「随分思い切ってくれたわね」
士道「面目無い……」
あの後美九に勝負を挑まれたのだ。
天央祭一日目で来弾高校が最優秀賞を取ったら自分の霊力を封印させてあげる、と。
士道達が負けたら、士道(士織)と霊力を封印した五人の精霊を自分のものにする、と。
上条「どうすんだ?」
琴里「こうなった以上全力で勝ちに行くわ。〈ラタトスク〉の全精力を使ってでもね」
そう言う琴里の目はいつに無く真剣だった。
琴里「士道、あんた確かギターやったことあるわよね?」
士道「あ、あぁ。中学の時に一応……」
琴里「それでいいわ。当麻君は?」
上条「あると思うか?」
琴里「……期待した私がバカだったわね」
上条「なんか、胸に突き刺さる言い方……」
琴里「……まあいいわ。とりあえず、特訓よ」
こうして、
対美九に向けてのちょっとした特訓が始まった。
丁度同時期に、
ジェシカ達ーーDEMインダストリー社が、〈プリンセス〉夜刀神十香、五河士道、上条当麻を標的にしていた。
この時は、まだ知る由もなかった。
それは、AST所属の折紙さえも。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
学園都市、常盤台寮にて。
御坂「いつも思うんだけど、アンタって普段何してんの?」
食蜂「あなたには関係ないわぁ。でも意外ねぇ。御坂さんが私のプライベートを気にするなんてぇ」
御坂「……ま、そうよね。最近どうかしてるわ」
食蜂「……?何か暗いわねぇ。何かあったのかしらぁ?」
御坂「……アンタこそ、私に気にするほど暇なのね」
二人の休日は大抵暇である。
それこそ、ニートに等しいものだ。
だからこそ、それは突然のことだった。
急に、二人の携帯がプルルルルと、鳴り出したのだ。
御坂「……メール?」
食蜂「宛先は分からないわねぇ」
どうこう言っても仕方がないのでさっさとそのメールを開く。
そして。
その内容は驚くべきものだった。
御坂「何よ、これ」
食蜂「……でまかせ、でもないようねぇ」
宛先:無し
件名:佐天涙子について
内容:先日の奇襲事件、6月22日に観測した謎の霊波反応等、過去の彼女のデータを見直した結果、佐天涙子は『精霊になった可能性がある』と判断した。そこであなた達に本性を現す協力をしてほしい。報酬はーー
そこから先は見る気にもならなかった。
御坂「あんたも……」
食蜂「同じ内容のようねぇ……」
食蜂も彼女のことは少し知っている。御坂は彼女の親友だ。
先日の奇襲事件では彼女の謎の治癒能力によって助かった。
御坂「今回ばかりは協力させてもらうわよ」
食蜂「……あなたと一緒なのは嫌だけどぉ、内容が内容だからねぇ」
そう。
普通の人間だった彼女が精霊になるなんてありえない。
だからこそ。
確かめたい、という気持ちが強かった。
彼女ーー佐天涙子が、何者なのかを。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
それは、一通のメールがキッカケだった。
「んあ?誰からだ?」
どこかのビルの屋上にいたLevel5の第7位ーー削板軍覇は携帯画面をジッと見つめていた。
削板「……なんだ、この根性のないメールは」
宛先:不明
件名:上条当麻について。
内容:今までの行動、言動等から推測した結果、上条当麻は『精霊の力を手に入れた』可能性がある。彼の不幸が少なくなったのも、不幸源、『幻想殺し』をその精霊の力が邪魔しているものと思われるので確かめてほしい。報酬はーー
そこから先は興味がなかった。
削板「……あの上条が精霊の力を、か……」
そして、一つ思ったことがある。
削板「精霊って、何なんだ?」
根本的に知識不足だった。
それでも気になるものは気になるので、そこに書かれている日にちに行くことにした。
上条当麻の元へと。
後書き
よっしゃ、これでほぼ全員そろったぞ!
一方通行→言わずもがな
垣根提督→DEM社員に変装
御坂美琴→佐天涙子を追う
麦野沈利→五河士道を狙う
食蜂操祈→佐天涙子を追う
第6位(藍花悦)→???
削板軍覇→上条当麻を追う
今はこんな感じですかね、第6位の藍花悦だけ浮いてるような気がしますが気にしないでください(笑)
第7巻(こちらでは第8章)ではLevel5が集結します!(第6位は未定ですが)これも学園都市の目的の一つだったりします!(あぁ、また伏線が……)前々から言ってた通り美九編後半は荒れます(主に戦闘描写が多くなる)ので、よろしくお願いします!!
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