とある3人のデート・ア・ライブ
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第七章 歌姫
第5話 生ずる疑問
園神凜袮という女の子と少し話しすぎた士道……もとい士織は駆け足でロープで繋がれた、立ち入り禁止と書かれた看板を潜り、美九を追いかけていた。
理由は分からないが、園神凜袮も付いてくるらしい。女の子だからこちらの邪魔さえしなければ特に問題はないのだが……
少ししてやっと悠々と歩く美九の後ろ姿を捉えた。
何もないステージではいくら広くても足音がかなり響いており、駆け足ならなおさら。美九の後ろ姿が大きくなるに連れて気づかれる可能性が高くなると思うと胸の鼓動が一層早くなる。
やっぱり走ったのがいけなかったのだろうか。
ステージに上がる前にこちらに気づいたのか、美九がくるりと振り向いてきた。
美九「あらー?あなた達は?」
驚いたように目を見開き、こちらを観察してくる。
士織「あ、俺はーー」
琴里『馬鹿、士道!』
凜袮「えぇ……」
機嫌を損なわないために、応答するのに少し焦ったのか、女の子口調も忘れていた。
しかし、美九は優しげに笑ってみせた。
美九「俺……?変わった言葉遣いをしますねー。うふふ、個性的で素敵ですよ」
どうやら士道の言葉遣いを個性として認識してくれたらしい。これで無理に女の子口調しなくて済んだようだ。かなり運がいいことで。
とりあえず挨拶をかわそうと、士道が口を開こうとした時、
琴里『待って、選択肢が出たわ』
いつもながらどうやって選択肢が出るのか不思議なアレが始まった。
そして、インカムから聞こえたのは流石に士道には堪える内容だった。
凜袮「?」
凜袮に至っては急に黙り込んだ士道を不思議なそうに見ているし……アレを言うのは辛い。本当に。
でも言うしかない。今なら個性的な女の子として見てくれるはずだ。
意を決して、士道は言った。
士織「今穿いてるパンツ……三万円で売ってくれないか?」
美九「へ?」
凜袮「……」
美九がまん丸と目を見開き、首を傾げ、凜袮は少し引いてくる。
あぁ、死にたい、と士道はこの時思った。
美九はそんな士道(士織)に対して、朗らかな笑みを浮かべると、士道を直視して言った。
美九「いいですよ?あなたとの交換なら」
士織「え……ええぇぇ!!?」
美九「あなたが交換してくださいって言ったのにその反応はおかしくないですかぁ?あ、あなたも私たちと一緒に交換しません?」
凜袮「私は……遠慮しとこうかな?」
凜袮は、美九の笑顔で言われた言葉には苦笑いをせざるおえなかった。
美九「ふふ、なら三人だけの秘密にしておきましょう。いけない子どうしの約束ですよぅ?」
士織「え?あ、あぁ……」
凜袮「なんか……私まで巻き込まれたような……」
時すでに遅しとはこのことである。
顔も同じ。声も同じ。目の前にいる少女は先日出会った精霊に間違いない。
それでも、八舞姉妹のように二人いるんじゃないかと錯覚させてしまうぐらいに、目の前の少女と冷徹な女帝とは反応が遥かに違っていた。
男……というだけでこんなにも違うものなのだろうか。
美九「私、ステージに立つのが好きなんですよぉ」
凜袮「ステージ?」
考え事をしていた士道の代わりに、凜袮が美九の独り言らしき呟きに応えた。
美九「みんなが私の声を聞いてくれる。会場のみんなが私の声を求めにやってくる。そんな空間が愛おしくてたまらないんですよー」
凜袮「へぇ〜……」
美九「あなたたちは珍しい方ですよねー?」
士織「え?何で?」
美九「もしかして、私の名前、聞いたことないんですかぁ?」
士織「え……っと」
凜袮「……?」
それは、精霊としての誘宵美九なのか、歌手としての誘宵美九なのか、士道にはどう答えればいいか分からなかった。
凜袮は素直に知らなかったらしいが。
美九「ふふ、ごめんなさいー。ちょっとイジワルな質問しちゃいましたねー。私の名前は誘宵美九ですよぉ。改めてよろしくお願いしますねぇ。えっと……」
凜袮「私、園神凜袮っていいます」
士織「お、俺は五河士織だ……」
美九「凜袮さんに士織さんですか、いいお名前ですねぇ」
美九が二人と握手したところで彼女が戻ろうと言い出した。琴里も無理に止めるのは良くないと判断し、そのまま美九の後に続いた。
凜袮「あ、そうだ。美九さん、またいつか私の相棒を紹介してもいいですか?」
美九「相棒?それはどんな方なんですかー?」
凜袮「不幸でドジでデリカシーのない、それでもいざという時には私たちを助けようと全力で頑張ってくれる、そんな人です。美九さんも気にいると思いますよ?」
上条のことか、と士道はすぐに分かった。
美九「それはまた個性的な方ですねー。女の子なんですかー?」
凜袮「いえ、男の子です」
と、凜袮が言った瞬間。
美九の顔は一瞬にして鬼のように強ばったと思えば、また笑顔へと取り戻していた。
美九「でもぉ、遠慮しておきます。私、男の子って苦手なんですよねぇ」
凜袮「……そっか。じゃあやめておこうかな」
これでハッキリ分かった。
誘宵美九という女は、大の男嫌いだということが。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
五河家にて。
士道「ふぅ……」
家の中で女装を解いた士道はかなり疲れた様子でソファに座り込んだ。
四糸乃「だ、大丈夫……ですか?」
よしのん『まあ男の子があんな女装したら疲れるだろうね』
士道「全くだよ。俺は乗り気じゃないのに……」
一方「明日もやるンだろォが」
士道「やめてくれ。思い出させないでくれ」
あの後美九と別れた士道と凜袮は二人でのんびり歩いていた。
彼女を見るたびに覚える違和感。妙に全てを知っているような口ぶり。
そして。
どこかで会ったことあるという既視感
それを聞こうとした時。
凜袮「あ、私こっちだから。じゃあね」
十字路に差し掛かり、凜袮は士道とは逆の方向へと歩き出した。
士織「あ、あぁ。じゃあ……また」
なぜだろう。彼女と別れるのはすごく切ないと士道は彼女の背中を見つめながら思ってしまった。
上条「どうだった?」
士道(あの時は士織)の姿が見えなくなったと同時に上条が路地裏から現れた。
凜袮「特に支障はなし。人や物にもちゃんと触れられるし、私自身にノイズが走ることもない。やっぱり『型』が出来てしまえば簡単なんだね」
上条「そうだな。で、どうする?凜袮の″身体を維持する″ために俺の魔力はほんのちょっとずつ消費されているけど生活には支障はないし、魔力を使いすぎてあんなことになることもないから……凜袮が望むならこのままでも……」
上条の質問に、凜袮は静かに首を横に振るだけだった。
上条もそれで全てを察したのだろう。凜袮の『型』を崩し、『意志』だけを再び『石』に宿した。
凜袮『やっぱり今の私はここで十分だよ』
上条『そっか。じゃ、帰るか』
凜袮『うん!』
仲が良かった人全員が自分のことを綺麗サッパリ忘れているというのはやっぱりかなり辛いのだろう。
上条はあえてそのことを口にせず、五河家へと向かった。
そして、今に至る。
上条「ただいまー」
精霊マンションはもう寝泊まりするためだけの場所になりつつあるが、気にせず五河家へと入る上条。
佐天「あ、おかえりなさい」
丁度トイレから出てきた佐天はこちらに向かってニコッと微笑んだ。
少し雑談をしながらリビングに入るとそこには既に士道、十香、四糸乃、よしのん、琴里、耶倶矢、夕弦、一方通行が揃っていた。
琴里「お帰り……なんか帰宅ラッシュみたいね」
上条「?」
佐天「つい五分ぐらい前に十香さん達が帰ってきましたから」
上条「あ、なるほど」
今日は佐天が夕飯を作ってくれているようだ。
この匂いはカレーか。学園都市で自炊していただけあって、彼女の料理もすごく美味しいのだ。
上条もソファに座り、ワイワイ賑やかにみんなが騒いでいると、
士道「そういや、一方通行」
一方「あ?」
士道「一方通行って学園都市に住んでたよな?」
一方「……何が言いたい?」
士道「あ、ちょっと質問なんだけど……」
そして。
それから言われた言葉は衝撃なものだった。
士道「垣根提督って人、知ってるか?」
上条「!?」
琴里「……ッ!」
一方「……」
そこからは一瞬の出来事だった。
一方通行がチョーカーに手を当てたと思うと、士道を壁へと思いっきり叩きつけたのだ。
賑やかに騒いでいたのも、壁に叩きつけたバカでかい音で一瞬に静まり返る。
一方「……テメェ、今何であの野郎の名前を知ってるンだ?」
士道「……え?」
一方「答えろ。拒否権は無しだ」
士道「か、紙……だよ」
一方「……あァ?」
士道「この前、精霊が突然現れた知ってるだろ?その時、ASTと交戦してて、それで危険だから俺たちをフラクシナスに戻そうとした時に無理やり握られたんだ。『学園都市Level5第2位、垣根提督』って書かれた紙が……」
一方「……」
一方通行は座り込んでいる士道から視線を外して考えた。
なぜ、あいつがここに……?
静まり返った中、上条はそれを気にすることもなく言葉を発した。
上条「その紙なら、あいつも持ってたぜ」
一気に視線の先が上条へと移り、少し狼狽えてしまうが、すぐに気を取り直して一方通行の方を向く。
上条「鳶一折紙。一方通行も会ったことはあるだろ?」
一方「……あァ」
上条は話した。
DEM社が突然10人ほどの補充要因を導入したこと。
その内の一人がその紙を誰にも気づかれないように握らせたこと。
一方「……あの野郎」
少し怒りを交えた、それでもどこか落ち着いていた声だった。
琴里「(……一体どういうこと?)」
なぜだか分からないが、とりあえずこの場では彼のことを話してはいけない。琴里はそう思った。
そう。
園神凜袮のことを問い詰めることも忘れて。
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