魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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空白期 中学編 20 「金色の姉妹」
「こうして3人で出かけるのは久しぶりですね」
3人という言葉が誰を指しているのかというと俺、ファラ、セイだ。セイというのはセイバーをさらに縮めた愛称だ。なぜこのように呼ぶようになったかといえば、地球で呼ぶ際にセイバーだと人の名前らしくないからである。
話を戻すが、今俺は大いに戸惑っている。
何故ならば……今の言葉を発したのはセイではなくファラだからだ。
ひとつにまとめられた長い金髪に青い瞳が特に目を惹く端正な顔立ちは、俺の記憶にあるファラに間違いない。アウトフレーム状態なので背丈は人間サイズになっているが、それでも元の彼女が大きくなっているだけだ。
にも関わらず俺の中に違和感があるのは……ファラのキャラが俺の知るものからずれているからだ。
いつからこいつはこんなにも大人びた表情や話し方をするようになったのだろう。いやまあ、セイやリインの姉としてシュテルから色々と教わってるのは知っていたけど……親の気持ちというのは今みたいな気持ちを言うんだろうか。
「どうかしたのですか?」
「あ、いや……ファラも大分変わったなと思ってさ」
「そうですか? 私はよく会っていたのでそうは思わないのですが……でも昔と比べるとしっかりとはしましたね」
そう……俺の知るファラは、一言で言えばもっと子供っぽい奴だった。人間らしさを求めて作れたデバイスだから稼働時間に応じて性格といったものが変化するのは良いことなのだろう。
しかし、俺からするとビフォーアフターが激しすぎる。シュテルのところに行っても、基本的にウィステリアのテストばかり。普段シュテルの手伝いをしているはずのファラは、そういうときに限って義母さんの手伝いをしていたりした。
セイとはユーリに呼ばれて行った時に毎回のように会っていたから問題ないけど……いや、俺はファラのマスターなんだ。成長したと思って喜んで早めに慣れよう。
「ふたりで何を話しているのですか?」
「ファラが昔と比べればしっかりしたと話していただけです」
「なっ……ショウ、そういうのをこそこそと話すのは感心しませんね」
ファラが厳しい視線を向けてくる。昔は拗ねた子供のような表情も今ではすっかり大人びてしまって……嬉しいような悲しいような。
ちなみに俺のことを名前で呼んでいるのはここが地球だからだ。家の中でならともかく、外でマスターと呼んでいると周囲に誤解を与えかねない。そのためファラやセイには前から外では名前で呼ぶようにさせていたのだ。セイは昔から呼び捨てだったけど、ファラはくん付けだった気が……。
「セイ、あなたもあなたです。陰口を叩くような真似する子に育てた覚えはありません」
「陰口? 別のそのようなことを言った覚えはないのですが?」
「……その顔からして嘘は言っていないようね。けれど、何気ないことで誤解は生まれるもの。そこは気を付けておかないとダメよ」
あのファラがお姉ちゃんのような発言を……お姉ちゃんぶるわりにセイのほうがしっかりして見えていたのに。
でも……妹分が出来てからもう2年くらいになるもんな。こんな風にしっかりするのも当たり前なのかもしれない。
「何だか……ようやくお前らが姉妹に見えてきた」
「マ、マスター……あなたが1番近くで私達のことを見てきたはずですが、今ようやくですか」
「ファラ、気持ちは分からなくもないですが外でその呼び方はしないと約束したはずです。そのようなことでは姉と認めるわけにはいきませんね」
「セイ……少し前から思っていたが、ずいぶんと生意気なことを言うようになったな。昔は機械的だったが、まだ可愛げがあったぞ」
「言葉が荒くなっていますよ。それと、可愛げに関してはファラも前のほうがありましたよ。今からでも遅くありません。前のようにだらけてはどうですか?」
おいおい、お前らいつからそんなに仲が悪くなったんだ。一応顔は笑っているように見えるが、眉間の険しさや尖った声は露骨に機嫌の悪さを表しているし。頼むから路上でケンカとかはやめてくれよ。
と思った矢先、ファラが視線をセイから外して俺のほうに向けてきた。
「ショウ、このような輩は放っておいて私と買い物に行きましょう」
「笑えない冗談ですね。あなたのような上辺だけ飾ったようなメッキの淑女と一緒では、あれこれ連れ回されてショウも疲れるだけです。なので私はファラを置いて行くことを提案します」
「メッキという発言といい、姉を省こうとする物言いといい……イイ度胸ですね」
「厳密に言えば、あなたと私は姉妹ではありませんので。それに戦って勝てると思っているのですか?」
人間のような容姿をして会話をするふたりだが、厳密にはデバイスだ。自分の意思を持っているだけに魔法を使うことも出来る。
しかし、魔法世界でもないのに……いや、そもそもこれくらいの口論で魔法を使わせるわけにはいかない。
魔法を使わずに戦うと……おそらくセイに軍配が上がるだろう。シグナムあたりと仲が良いようだし、似た騎士精神を持っているのか剣を習ったりしているようなのだから。
でも待てよ、シュテルも戦闘能力はあるからな。なのはのような砲撃主体の魔導師ではあるが、接近戦も騎士相手に引けを取らない奴だし。たまにシグナムとは手合わせしてるらしいからな。
俺も過去にデバイスのテストで相手したことがあるが……彼女の魔法の精密さや体術、炎熱砲撃を見ていると精神が折れそうになった。まあ色々とレクチャーもしてくれたりしたので、収穫もそれなりにあったのだが。などと現実逃避をしている場合ではないか。
「いい加減にしろ」
はやてにやっていたようにふたりの頭を軽く叩く。すると見事に同じような反応をした。同じようなリアクションで、容姿も金髪碧眼、口調も似ているのだから姉妹でいいだろうと思った俺はおかしくないはず。
「ケンカするならお前らは帰れ。買い物は俺ひとりで行くから」
「ちょ、ちょっと待ってください。今のはセイが……!」
「なっ――それはあなたのほうでしょう!」
いや、俺からすればどっちもどっちだからな。
親しい間柄の人間だってケンカするときはするから、ケンカをするなとは言わない。が、こうして久しぶりに3人で出かけるときにしなくてもいいだろう。
「はぁ……あぁ分かった、じゃあ俺が帰るからお前らだけで行って来い。付き合いきれん」
そのようにげんなりしながら言ってみると、ファラ達の顔色が変わる。おそらくこのままふたりきりになるよりは、我慢したほうが良いのではないか? と、ふたりとも考えているのだろう。ならばあと一息で問題は解決するはずだ。
「ほら、どうするんだ?」
「……まあ私のほうが年上ですし、このようなことでいつまでも口論するのは無意味ですからね。今のことは水に流しましょう」
「今の物言いには思うところがありますが、この人はファラですからね。私も水に流すことにします」
目の前にいるファラとセイは、引き攣った顔で笑っているのだが……まあ落ち着いたのだから触れないでおくことにしよう。
というか、こうして見ると本当に人間らしくなったよな。リインにはこういう表情はまだ無理なんじゃないだろうか。性格的にこんな表情を浮かべるようにも思えなくはあるが……。
「よし、なら3人で行こう。分かってるだろうが、またケンカしたときは俺はお前らを置いて帰るからな。ケンカの度合いによっては家にも入れない」
「そ、それはあんまりでは……」
「お前らはもう子供じゃないだろ。リインの姉として振る舞っているし、自分達の意思でシュテル達の手伝いだってしてるんだから。だから俺も甘やかしたりしない」
「……分かりました」
「やれやれ、テストで会っていた割にはセイは甘えん坊ですね」
「なっ……あなただって似たようなものでしょう。それにさすがはシュテルの手伝いをしているだけあって、性格もずいぶんと似てきたようですね」
言った傍からこいつらは……人間らしくなったことは技術者の目からすれば良いことであり、喜ばしいことなのだろう。だが実際に相手をするとなると面倒臭さがあるな。ケンカの仲裁なんて経験がないし。
見上げた空は雲ひとつない状態だというのに俺の心は曇り空だ。このふたりが今後どうなっていくのか、俺には全く検討がつかない。だがそれが楽しみにも思え、その一方で不安でもある。
「まあ……なるようにしかならないか」
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