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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二十八話 豪新戦その九

 けれどだ、その時に。
 お風呂からあがった香織さんが困った感じの顔で三階の書斎のところにいた僕に対してこんなことを言って来た。
「あの、少し」
「少し?」
「お風呂に入っていたけれど」
「あっ、今ね」
 僕は香織さんに応えて訳を話した。
「ジョーンさんとエリザさんが観戦中なんだ」
「ラグビーよね」
「うん、テレビでね」
「だから二人が殺伐としていて」
 香織さんは暗いお顔になって僕に言った。
「緊張していたのね」
「殺伐としてたんだ」
「湯舟やサウナの中でリラックスはしていたけれど」
 それでも、というのだ。
「殺伐とした雰囲気で」
「ううん、それじゃあ」
「見ていてちょっと怖かったから」
「取っ組み合いの喧嘩には」
「そんな雰囲気はなかったわ」
 そこまではいかなかったというのだ。
「ただ。普段と違ってて」
「殺伐としていたんだ」
「いつもの仲のよさがなくて」
 そうだったというのだ。
「お互いにちくちくと言い合っていて」
「じゃあ普通に観戦していたら」
 その場合について考えてだ、僕はあらためてぞっとした。それで香織さんに対して少し深刻な顔になって言った。
「もっと酷かったね」
「そうなってたわね」
「実はそう思ってね」
「お風呂場で観てもらってるの」
「そうしたんだ、それで試合の方は」
「オーストラリア有利だったわ」
 香織さんはこう僕に答えた。
「僅差だけれど」
「そうだったんだ」
「ええ、ただ」
「僅差だから何時ひっくり返るかわからない」
「実力伯仲だったわ」
 何かオーストラリアとニュージーランドのラグビーの試合らしいと思った、あくまで僕の中でのイメージだけれど。
「だからどっちが勝つかわからないわ」
「どっちが勝っても負けてもね」
 ことお酒という面ではだった。
「一緒なんだよね」
「勝っても負けても」
「どっちにしても二人共飲むからね」
 祝勝でも残念でもだ、本当に。
「結果はね」
「一緒よね」
「本当にね」
 それこそだった。
「まあ。二人には深酒だけはして欲しくないから」
「うちの娘皆そうだし」
「皆かなり飲むよね」
「煙草を吸う人はいないけれど」
 二十歳以下だから当然といえば当然だけれど実際はそうでもない。中学生も吸っている奴は吸っている。
「お酒はね」
「飲むね、この町は飲んでもいいし」
 八条町の条例でだ、特別にそうなっている。
「だからね」
「皆飲む時は」
「相当に飲むのよね」
「だからあの二人も」
 ジョーンさんとエリザさんもだ。
「飲むんだよね」
「そうなのよね」
「飲んでもいいけれど」
 僕はこのことはかなり真剣に言った、心から。
「深酒は身体によくないから」
「止めた方がいいわね」
「お酒は百薬の長だけれど百毒の長でもある」
「それ誰の言葉なの?」
「いや、僕がそう思うことなんだ」
 あくまで僕自身がだ。
「そういう風にね」
「そうなの、けれど」
「その通りだよね」
「ええ、お酒で失敗する人も多いし」
「しかも健康にもよくないから」
「まさに百薬の長であり」
「百毒の長なんだよね」 
 僕はしみじみとした口調でまた言った。 
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