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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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精神の奥底
  42 暴走する権力

 
前書き
最後の更新から1ヶ月以上も経ってしまい申し訳ありませんm(__)m
今回から新章です!
前章のように現代編に一時戻ることもなく、そのまま本編に突入します!
そしていきなり主人公が全く登場しません(笑)
主人公ではありませんが、前章でいきなり一時退場になったあのキャラクターの現在に少しスポットが当たります。
 

 
同時刻 WAXAニホン支部

白のHONDA・NSXが急ブレーキの音を響かせながらエントランスの前に飛び込んだ。
警備していた隊員たちは思わず轢かれそうになり悲鳴を上げる。
こんな訪問者は前代未聞だった。
WAXAは一般にはその存在すら公開されておらず、都市伝説で噂が多少流れている程度の機関だ。
しかしこの場所に来ているということは、WAXAの存在を知っており、警察ではないといえ、少なくとも法律を行使する機関であると知っているはずである。
だがその機関のエントランスの前で盛大に交通違反すれすれの危険運転と急停車を披露した。
非常識と言ってしまえばそれまでだが、それ以上に何か平和に物事を解決出来ない類の用件だということはその場にいた誰もが感じた。

「おい!アンタ!!危ないじゃない…グェ!?」

隊員の1人が運転席に近づき、怒鳴りつける。
だが次の瞬間、ドアが開いて顔面に直撃して隊員を弾き飛ばした。

「ここか…」

中から1人の男性が飛び出す。
長身で整った顔立ちに知的な眼鏡が印象的な男性、光祐一朗だった。
祐一朗は他の隊員たちを威嚇するように睨みつけながら、建物の中に入る。
熱斗が捕まったという連絡を受け、保護者としてやってきたのだ。
電話口でただ捕まったという報告と場所だけを告げられ、何故捕まったのか、どんな状態なのかが全く分からない。
元はと言えば、熱斗をよこすように協力要請をしてきたのはWAXAの方だ。
これまで小学生の頃から幾つものサイバー犯罪やそれに繋がる陰謀を打ち破ってきた天才オペレーターとそのネットナビ、その技術で要塞と化した学校での立てこもり事件解決に協力して欲しいと。
協力に行って逮捕される、ここまでの話だけで理由を完全に理解できる人間はいないだろう。

「光博士ですか?」

様々なことを考え、気が気でない祐一朗の前に連絡の電話と同じ声の隊員が現れる。
かなり若く、凛々しい顔に屈強な肉体を持った男、暁シドウだ。

「一体どういうことですか!?協力を要請されたのに、逮捕されるなんて!!」
「実は…ご子息には不正アクセスの容疑とテロに関与した容疑が掛かっています」
「不正アクセス!?学校のシステムに侵入して情報を得るように協力を要請したのはそっちでしょう!?」
「ええ…我々の言う不正アクセスとは、学校のシステムへの侵入ではなく、その後のデータの改ざんの可能性があるということです」
「改ざん…?」
「防犯カメラ映像やシステム内から得られた武装グループの情報を改ざんし、我々の捜査を撹乱した可能性があること。またそれによるテロへの関与などの容疑です」

明らかに怒り心頭の祐一朗を納得させるようにシドウは説明する。
だが祐一朗は理解できていないことがまだまだあった。
「可能性がある」、つまり証拠は無いのだろう。
ニホンでは明確な証拠に基づいて、裁判所から出された礼状が無ければ、現行犯以外に逮捕はされないことになっている。
つまり熱斗が逮捕されたということは現行犯逮捕、捜査員の前でデータを改ざんしたのを目撃されたということ以外に考えられない。

「証拠は!?息子がやった証拠は!?」
「現在調査中です」
「!?…じゃあ証拠も無い、礼状も無い状況で逮捕したっていうんですか!?違法でしょう!?」
「….そうなんですが…」

シドウは言葉に詰まった。
顔には明らかな罪悪感の色がにじみ出ている。
シドウも法の精神に則って職務を遂行する立場だということは重々承知なのだろう。
だとすれば上から圧力が掛かったというのはこれまで幾つもの業界を渡り歩いた祐一朗には何となく察しはついた。

「申し訳ありません。今、我々の組織は真っ二つに割れています…ご子息は恐らく事件に早く幕引きしたい一部の人間に身代わりに捕まったようです…」
「そんな…」
「私もご子息が救出された人質を励ましたり、元気づけようとしているのを見て、そんなことを人間だとは思っていません。しかしどうにも出来ないのが、現状です」
「息子には…」
「面会は出来ません。しかし協力はします。ご子息は絶対にお返しすることを約束します」

シドウはそう言って薄いビニールの袋を周りの目を気にしながら取り出す。
本来なら持ち出しが許可されない容疑者の所持品、すなわち熱斗の持ち物の1つだ。
祐一朗には当然見覚えのあるものだった。

「熱斗のPET…」
「中のネットナビやプログラムには触れていませんし、盗聴等のスパイアプリも仕込んでいません」
「何故これを…?」
「大事な証人です。基本的にネットナビは嘘をつきません。彼…ロックマンはご子息が逮捕された時の様子を記録しています。このままでは証拠隠滅のためにPETごと廃棄される可能性があったので」
「…」

祐一朗は中のロックマンがスリープ状態になっているのを確認するとポケットに仕舞う。
そして周囲の防犯カメラを見渡した。
もしPETをシドウから預かる様子が記録されれば、証拠隠滅のために自宅に乗り込まれる恐れがあった。
無罪の子供を自分たちの利益のために無理やり逮捕するような危険な一派がいる以上、笑い事でも用心深過ぎるなんてことはない。
しかしシドウはそのことを計算ずくでカメラの死角をちゃんと選んでいた。
1回、咳払いをするとシドウは本題に入る。

「ここまでの話の通り、ご子息は非常に良くない状況に置かれています。そこで協力者を探して欲しい」
「協力者?」
「ご子息…光熱斗は今まで数多くのサイバーテロを防いできた実績がある。その際、シャーロ軍やオフィシャルの人間との関わりもあるはずだ。その手のWAXAに匹敵する、もしくは更に上位の権力を持つ機関を通じてWAXAに抗議するんです」
「分かった…」
「本当に申し訳ない。ご子息には厳しい取り調べや自白を強要するようなことが行われるかもしれない。だが、絶対に真実を捻じ曲げさせはしない。全力を尽くします。ご子息を無理に逮捕した我々を信用しろという方が無理だということは重々承知です。ですが、今はこれしか言えません」
「…」

祐一朗はこの手の組織内での派閥争いや上から圧力というものの恐ろしさをよく知っていた。
本来なら1人の父親として猛抗議したくて仕方がない。
しかしこの場で下手に行動を起こそうとすれば、熱斗の首が締まりかねない。
どんなに正しい主張をしようと組織の上に真実を歪ませてでも自分の利益を優先する者がいる以上、容疑者の父親がおかしい人間だとして息子の方の立場を悪い方に誘導しかねない。
学校内でのいじめのようなものだ。
権力を持った者が間違いを犯し、それに誰かが正しいことを発言すれば、お前、頭大丈夫?などとあたかも正しい主張をするものの方がおかしいという状況にして孤立させる。
自分の保身、利益、正しいことを理解できない、自分の理解を越えた人間の存在を認めない、悪い意味で学の無い子供であり、腐りきった大人だった。
このまま引き下がれば、傍から見ている人間の目には父親の風上にも置けないような非情な父親に映るだろう。
だがどこまで無法な人間がいようとも法律を行使する機関の皮をかぶっている以上、熱斗の身を思えばこの場で下手な行動は起こせない。
祐一朗は悔しさのあまり、血の味がしてくる程に唇を強く噛み、音が聞こえる程に拳を強く握った。

「あなたの名前は?」
「私は暁シドウ。WAXAニホン支部特別遊撃班所属の人間です。連絡はここまで」

シドウは自分の連絡先をメモした紙を手渡す。
祐一朗はそれを受け取ると、周囲を殺意にも近い怒りと共に見渡すと抑えられない悔しさが滲み出た表情で帰って行った。
シドウは祐一朗や熱斗の心中を思うとValkyrieの件も重要だが、早くどうにかしなければならないと改めて確信する。
指揮官が多少傲慢でも構わない。
それでも正しい命令が行われていれば、迷惑を被るのは自分たちだけ、職務は正しく遂行される。
法に則って正義が行われるのだ。
だが今は違う。
木場という指揮官は傲慢であるだけではなく、法に則ろうとする精神も職務を忠実に行おうとする気があるようにも思えない。
その上、既に一般の人の親子が覚えのない罪を着せられ苦しんでいるのだ。
事態は一刻を争う。
だが組織の中で反乱を起こすというのは祐一朗が反抗する以上に難しい。
組織内ではカースト、すなわち階級があるせいだ。
木場は下の者がどんなに正しいことを言っても、上の者がそれを聞き入れて自分の過ちを認めるならばいいが、聞き入れずにその立場を利用して黙らせる類の人間なのだ。
高確率でシドウが騒ごうとも負ける。
そして木場の勝ちは更に木場の立場を絶対的なものへとしてしまう。
そうすれば犯罪と戦うどころではない。
内部から腐っていき、最悪、敵と同じような犯罪組織と同じになってしまう。
しかも法律を扱う組織である分、質が悪い。
特に頭が回る人間でなくても、容易に想像できることだ。
祐一朗に熱斗の友人に頼らせるのがどの程度の効果があるのかは定かではない。
だがやらないよりはマシだろう。
シドウは耳元に手を当てて、小声で口を開く。

「マヤ、光博士が映った監視カメラの映像は?」
『心配すんな。とっくに防犯システムに侵入して録画済みの映像を繰り返すように細工してある。光博士がいた痕跡はデータ上には完全に残っていない。まぁ、目撃されてはいるだろうが、息子が捕まったとすれば、父親が来るのは当然。まさか他の機関に協力するように指示するとはそうそう思いつかないだろうよ』

シドウはマヤに工作させていた。
このまま事がうまく進もうと進まなくても、捜査に木場の介入は避けたいところだ。
そのためリサ、マヤ、笹塚を含めた信頼できるWAXAメンバー数名に声を掛けて特別チームを作った。
数名に限定することで情報の気密性が比較的保ちやすい。
シドウは周囲の人目を気にしながら研究棟の方へ向かう。
これから事件の中枢で燻る存在の正体が明らかになる。
この数日間、Valkyrieと裏で対立していた謎の影の正体が。
シドウは目的地の前で自分のIDカードを翳す。

「暁シドウ捜査官、入ります」

暁シドウ捜査官 実働部隊遊撃予備班所属 ID、声紋ヲ確認

セキュリティが解除され、ドアが開く。
そこには既にリサ、マヤ、笹塚、ヨイリーが集まっていた。
ここはヨイリーの研究室だ。
大量の実験装置やPCが並び、何かの演算を続けている。
シドウがドアロックを確認すると、リサが口を開いた。

「ヨイリー博士にはここまでの経過を全て説明しました。というわけで本題に入ります」

ヨイリーは不思議と腹をくくったような態度でテーブルの上のお茶の茶柱に視線を向けていた。
無心とでも言うのだろうか、特に何か言い訳をしようと必死に考えているわけでもなく、世捨て人のように力が抜けている。
その様子に気づいていながら、リサは攻めるように続けた。

「今回、学校の地下で発見したデータを解析した結果、かつてヨイリー博士の所属していた科学省、I.P.Cなどが共同であるプロジェクトを進めていたことが分かりました」
「あるプロジェクト?」

「ええ。『Solar(ソーラー) System(システム) Project(プロジェクト)』、人工的に電波変換を実現し、人間を遥かに越えた超人を生み出そうとした計画です」

「待て…それじゃあ、まるっきり『Project T.C』と…」
「そうです。暁さんが使うアシッド・エースが生み出された計画とコンセプトはほぼ同じ…いわば『Project T.C』の前身にあたるものという解釈で間違いないはずです。そうですよね?ヨイリー博士?」
「……」

ヨイリーは頷くことも否定することも無かった。
湯呑み茶碗を手にして、お茶を啜る。
余裕があるとも言い難いし、焦っているようでもない。
そもそもが話を聞いているのかも定かではない。
あまりにも反応が無いため、マヤと笹塚はヨイリーの耳に耳栓でも入っているのではないかと疑い、2人でヨイリーの顔を横から覗く。

「ちゃんて聞いてるわよ。耳栓なんかしてないわ」
「っ!?」
「あのさぁ…聞いてるんだったら、なんか反応してくれてもいいんじゃない?」
「死を待つだけの老いぼれにそんな期待をされても困るわよ」
「…イエスかノーかはさておき、話を続けます。この計画により、プロトタイプの水星、『マーキュリー』から「水金火木土天海」、それら地球を取り巻く太陽系の惑星をコードネームとする7つのシステムが作られた。しかし普通の電波変換とは違い、電波体との融合ではなく、構成された設計されたスーツをマテリアライズして身に纏うことで電波人間と同等の能力、性能を発揮するもので、現在、我々の考える電波変換とは少し違うもののようです」
「何で秘密にされていたんですかね?」
「電波人間を新たなる戦力とすることを目的としており、この国を防衛する軍事的な目的も含んでいた。憲法で戦力を保持しないことを明記している国家が防衛のためはいえ、こんなものを作っていたと知れれば国家の信用に関わる。だから隠されていたんですよ」

リサは笹塚の質問に答えつつ、PCを操作してスクリーンに映した。
それぞれのシステムの設計図や開発日誌だ。
シドウは少しづつ分かり始めていた。
ヨイリーが今までことを隠し続けていた理由、それはWAXAがこの国の機関ではないからだ。
当然、この国の法律に基づいて行動はしているが、本部はアメロッパであくまでここは支部でありニホン政府によって公安調査庁内に設置されている。
本部に伝わることがあれば、アメロッパ政府のニホンへの目が変わるだろう。
世界有数の先進国の中でも上を行くアメロッパとニホンが対立することがあれば国際問題に発展しかねない。
そのため信頼しているシドウやリサ、マヤにも言うことができなかったのだ。

「しかもシステムは電波体を必要としないため、使用する人間の適合要件が低く、多くの人間が扱えてしまう危険があったんです」
「もし悪意を持った誰かの手に渡ればマズイことになる。ガキの手に渡れば喧嘩の道具に、社会人の手に渡れば出世の道具に早変わりだ。いや、そのくらいで済んだら良い方かもな」
「間違いなく争いの元になります。それにプロトタイプのマーキュリーに至っては人間だけじゃない、コピーロイドや猿でも理論上は使用可能という結果が出ている」
「なるほどな….で、この計画で今回の事件に一枚噛んでいるロックマンそっくりのこの電波人間は生まれた…」

シドウはトランサーで熱斗が手に入れた防犯カメラ映像を開く。
襲い掛かってくる大量のジャミンガーを圧倒的な戦力で倒していくスターダストの姿が映っていた。
スターダストの姿がはっきりと見えたところで一時停止してテーブルの上に置く。
納得しかけていたシドウと笹塚だったが、話には続きがあった。

「いえ、それはこの計画によるものではないようです」
「まだ続きがあんだよ」
「なに?」

「…….」

ヨイリーの態度は相変わらずだったが、僅かに表情が引きつったように見えた。

「この計画と『Project TC』、この間にもう1つ、プロジェクトが存在していた。そうだろ?ばあちゃん、いや、ヨイリー博士?」
「計画の名前は『Project Stardust』…」
「……….」
「そろそろご自分の口で話してもらえませんか?博士。これ以上、隠しても…それに私たちのことを信用できませんか?」 
「ちゃんと情報が漏洩しないように一部のメンバー、それも履歴や能力からシステムとアカツキが導き出した人間の中でもこの4人だけがこの部屋に来ている。アカツキだけなら信頼できなくても、このシステムはアンタが作ったんだ。自分のシステムすらも信頼できないってのか?まぁ、笹塚が信頼できないってんなら分からんでもない」
「ちょっ!?オレ?」

「…いいでしょう。話しましょう。でも条件をつける。話を聞いたら私に協力して欲しい」

マヤとリサは一瞬顔を合わせる。
ようやくここ数日の努力が報われるような気がして肩から力が抜けていく。

「条件とは?」
「それは後で話すわ。いい?」
「分かりました」

シドウは頷き、急須からヨイリーの湯呑み茶碗にお茶を足す。

「あれは3年前、S.Sプロジェクトが終わってからしばらくした頃だった。総選挙を期に国内での兵器根絶を訴える言論が盛り上がった時期があったでしょう?」
「残念ながら、オレはその時期はニホンにいませんでしたが、ニュースで見たことはあります。今まで最低限の実力を保持するに留まらず、いつ始まるやしれない国際紛争に備えて軍事化を進めていたにも関わらず、政権が代わったことで一転。再び非武装の憲法に則った国に戻り始めていた頃ですね」
「それによって、完成していた7つのシステムはあらゆる場所に散らばり隠された。NAXAであったり、アメロッパの研究機関であったり、科学省、スポンサーだったI.P.Cやトリニティー・ブレイン社の手によって。でも制作チームの中は解散しなかった。研究名目を変えることでチームは存続し続けた」

「3年前…I.P.C、トリニティー・ブレイン?まさか…航空宇宙関連…とか?」

笹塚は幾つかのキーワードから1つの心当たりが出てきていた。
恐らく知らない者の方が世界中でも数は少ないであろう出来事が3年前にあった。
トリニティー・ブレインとI.P.Cは共に電子機器の開発、このネットナビなど意志を持つプログラムが空間の中で人間同様の生活が可能な程の高度で自由なインターネット時代を開拓した代表的企業だ。
そしてこの2つの企業でこの他に共通すること、それは飛行機を代表とする航空産業や通信用の人工衛星、シャトルなどの宇宙関連の事業が存在していることだ。
3年前のこの出来事の際もこの企業は共に大きくメディアに取り上げられた。

「正解よ、笹塚ちゃん。チームは宇宙ステーション開発チームの1つとして残った。確かに強力もしたし、メインシステムには我々の技術が多く採用されていたし、あながち間違いでもなかったけどね」

「そうか……『宇宙ステーションきずな失踪事件』」

シドウは頭はようやく気づく。
世界中を賑わせた宇宙ステーションの失踪事件だ。
その場にいた全員が凍る。
3年前に人類の期待を背負った『宇宙ステーションきずな』が何らかの事故に遭遇し、クルーの1名を除き、脱出用ポッドで避難したものの救出されるまでに餓死したり心神喪失状態となったという未だに原因不明とされる事件。
懸命な捜索にも関わらず、レーダーからも消失し、今となっては宇宙の何処を彷徨っているかは神のみぞ知ると言ってもいい。
そんな事件と今回の事件の裏では動くもの、先程までのプロジェクトとは違い、繋がりがまるで見えない。
だが不思議とヨイリーが真意を隠すためにデタラメを言っているようにも思えないのだ。
ヨイリーはリサの操作してノートPCを自分の方へ寄せた。

「そう、あの大事件よ。死亡者13名、行方不明者1名。肝心のステーションも行方不明ということになっているわ」
「なっている?じゃあ、見つかっていたんですか!?」
「本体は未だ行方不明、でもステーションの一部が宇宙を地球まで流れ着いていたのよ。このニホンの臨海部…ドリームアイランドの廃棄物集積場に」
「ドリームアイランド?あのゴミの山から緑あふれる花畑の公園になったっていう…」
「最近、人気のデートスポットじゃないっすか…」

ヨイリーはリサの解析したデータから説明のために使える資料をピックアップするとスクリーンに映し出す。

「残念ながらパーツと共に流れ着いたステーションのシステムの一部は別の機関が調査していたから、何故ステーションが事故に遭ったのかは分からなかった。でもね、そのパーツを解析した結果、あるものが見つかった。私たちも最初は目を疑ったわ」
「あるもの?」
「肉眼では視認できない…微弱な電磁波が採取された。でもその電磁波はただの電磁波じゃなかった。生物の体の一部であるということが分かったの」
「電磁波の生物…電波体!!」
「そう、そしてその電磁波からはその生物のDNAとは別に人間のDNAも検出された。それは取り残されたクルーのDNAと一致したわ。この事から我々は1つの仮説を立てた。ステーションは地球外生命体の襲撃に遭い、その際、取り残されたクルーはその地球外生命体と何らかの方法で融合して脱出したのではないかとね」
「それが…新しい始まりだったんですね」

ヨイリーは一度、お茶を啜ると続ける。

「これによって世界で初めて電波変換のメカニズムを解析することに成功、プロジェクトは再び動き出した。でもその過程で2つに別れた。手に入ったDNAや解析できた全てのメカニズムをベースに研究を進めるチームと電波変換システムのメカニズムだけを継承して研究するチーム、前者がリサちゃんの言う『Project Stardust』、後者が『Project TC』、アシッド・エースの生まれたプロジェクトよ」
「そうか…だからアシッド・エースと姿が似ていたのか」

「確かに外装システムを構成するものは同じ技術を使っている部分は多いわ。ただし研究自体は『Project Stardust』の方がベースになる電波体のデータがあった分、早く進んだ。DNAの欠損部は『Project TC』で開発されていたアシッドちゃんのDNAを使用したりしてね。システムも現代の軍事科学力の結集とでも言っていいくらいの装備が搭載された。結果、人類初の電波変換システム『スターダスト・ディザイア』は完成した。そしてそれと同時にそのシステムを統制する役割を持った世界初、いえもしかしたら宇宙初かもしれないハイブリッド種の電波体、コードネーム『TRance Advanced System the Hybrid』、通称『TRASH(トラッシュ)』が誕生した」

「『スターダスト・ディザイア』…それがあのロックマンそっくりの電波人間の正体」

シドウはテーブルの上の自身のトランサーに映るスターダストの姿を見た。
自分の使うアシッド・システムのいわばもう1つの可能性、それが自分の裏切った者の手にある。
まるで目には目を歯には歯を、それを忠実に再現したかのような残酷な運命を感じた。

「このシステムはアシッド・エースと同じトランスコード認証による電波変換システムを採用しつつも、より実際の電波体の持つ電波変換のメカニズムを忠実に再現しているため、電波変換による肉体へのダメージは比較的少なく、安定した出力を保つことができると期待されていた。実際にアシッド・エースと互角かそれ以上の高い出力を誇り、凄まじい戦闘力を発揮すると推定されるわ。装備もそれに見合った強力なものばかり。バズーカ、マシンガン、ショットガン、グレネードランチャー、スナイパーライフル、アシッド・エースと同じウイング・ブレード、ブラスター」
「ひゃぁぁ…Valkyrieもビックリ、武器のデパートかよ」
「常人を遥かに超えるスペックに銃撃をサポートするスコープ機能、電波体の姿を一時的に変化させる事のできるトランス・ウエポン」
「でもそれだけ装備を備えているってことは機動性とか…処理速度は変身に使う端末の処理能力だけでは賄えないじゃないですか?」
「その欠点を補うために装備は当時の技術で可能な軽量化、更にシステム最大の武器であるDNAコンピューターを搭載している」
「DNAコンピューター…マジで?」
「なにそれ?」
「アカツキ…あのな、コンピューターってのは0と1の2つで処理してるのは知ってるな?それが4つの塩基で処理できるからより高速で演算ができる。まだ実用化はされてないって話だったが…」
「バイザーが捉えた映像から敵の弱点や動きを瞬時にシミュレート、理想的な動きを促すため、システム自体がある程度の意志を持っていると言ってもいいでしょうね」

シドウは今の流れで違和感を感じていた。
スターダスト・システムが彩斗の手に渡ったのが偶然だったとしても、話がうますぎる。
たった3年前に見つかった残留電波から電波変換を開発し、そこまで高度なシステムを完成させるなんて早すぎるのだ。

「ストップ、ちょっと待って下さい。ここまでの話は分かりました。でも3年前に発見してからシステムを完成させるのが早すぎやしませんか?確かにその前の計画の段階である程度の技術には下地があったのは分かります。でも電波変換、すなわち電波体という他の生物の力を身に纏わせる技術、既存のスーツを身に纏わせるのとはアプローチの仕方が違い過ぎる」
「そう。前の計画の時点で電波変換のベースになるような技術はある科学者によってもたらされていた。それを採用することで前計画の欠点であった誰にでも扱うことのできるということからある程度の資質のある人間に限定することにしたのよ」
「そうですか…」
「残念ながら彼を含めた計画の関係者は現在行方不明になっているわ。話を続けるけど、このシステムがこれまでのシステム、そしてアシッド・エースと違う点はね、エースプログラムやジョーカープログラムに頼ること無く、ノイズの影響を受けないこと」
「え?そんなことが可能なんですか?」
「理屈的には受けたノイズを別の媒体に溜め込み、攻撃によって排出することでそれ自体を武器にする。しかも使用者にもよるけど、ノイズを制御することができるならファイナライズすることも可能なはずよ」
「なんでそこまで完成されたシステムが実用化されずに隠されていたですか?ここまでの話だとそのまま研究を進めれば、ノイズに対向する決定的な手段が生まれるかもしれない」

リサの問いでヨイリーは止まる。
だが誰もがそれは思ったことであった。
プログラムは現在、2つしかこの世に無い。
しかも片方はWAXAの手には無いのだ。
可能な限り対抗策は量産しておきたいはず、いやむしろそうしなければならないはずだ。
現状、決定的な対抗策はシドウ以外の隊員は持ち合わせていないのだから。

「確かにここまでは完璧なシステムよ。最大の難点…誰も使いこなせないっていう問題が無ければね」

「誰も…使いこなせない…?」

その一言でヨイリーを除いたこの場にいた皆が描いていた理想のシステム、その幻想は呆気無く打ち砕かれた。
そして同時に疑問が湧き上がる。
誰も扱えないシステムが自分たちの目の前に姿を現した。
夢でもなければ、自分たちの妄想でもない。
現実として映像という形で証拠が残っており、誰の目から見ても否定できる要素はないのだ。
話しながら困惑している様子が顕著になり始めたヨイリーは一度、お茶を啜ると更に続けた。
 
 

 
後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は流星1の設定を多く盛り込み、膨らましました。
説明のセリフがかなり多くて退屈かもしれませんが、前章のラストから謎の解明のシーンが多いというこの流れが次回も続きます。

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