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けろけろ

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3部分:第三章


第三章

「けれど今はな」
「どうしてもなのね」
「天気予報でも晴ればっかりだしな」
「ええ」
 天気予報は双葉もチェックしていた。これは当然だった。
「それに台風だってな」
「来ないわよね」
「あれは来たら来たらで迷惑だけれどな」
「そうね。災害とか起こるし」
「そういうことだよ。とにかくな」
「雨が降らないのよね」
「来月まで待つしかないさ」
 隆盛は空を見上げた。空は高くしかも雨が降るような黒い色の雲もない。そんな気配は何処にもなく見事な真夏日よりであった。
「暑いけれどな」
「やれやれね。・・・・・・んっ!?」
 しかしここでであった。不意に。
「あれっ、これって」
「!?何だよこれ」
 隆盛も同じ声を聞いていた。それは。
 鳴き声だった。何処か楽しそうに鳴いている。その声は。
「蛙じゃねえか」
「ええ、蛙ね」
 双葉はこう隆盛に答えた。
「間違いないわ。これ蛙よ」
「おいおい、何でここで蛙が鳴くんだよ」
 隆盛はその鳴き声を聞いてもやれやれといった感じで笑うだけだった。
「雨なんか降らないってのによ」
「いえ、降るわ」
 しかし双葉は言った。
「降るわ。絶対にね」
「降るっていうのかよ」
「そうよ。降るわ」
 双葉はさらに彼に言った。言葉は少しずつ強いものになっていた。
「これはね。絶対にね」
「降るっていうのかよ。マジか?」
「蛙が鳴いてるから」
 これが彼女の主張することの根拠だった。
「降らない筈がないわ」
「だといいんだけれどな」
「信じないっていうの?」
「天気予報じゃ晴れだったぜ」
 彼が示した根拠はまずは科学的なものであった。
「それも快晴な。降水確率はゼロパーセントだったぜ」
「ゼロなのね」
「しかも今日だけじゃない」
 言葉をさらに続ける。
「これから一週間な。ゼロ行進だぜ」
「昔の阪神の試合みたいね」
 双葉は今の隆盛の言葉を聞いて思わずこんな例えをした。
「ゼロ行進がそれだけ続くと」
「実際にそうだからよ。とにかく降らないってなってるぜ」
 天気予報をその根拠として延べ続ける。
「だからな。蛙が鳴いてもな」
「降らないっていうのね」
「空だって見ろよ」
 次に示したのは現実だった。上を指差すとやはり快晴であった。雲はあっても奇麗な白い雲だ。その雲から雨が降るとはとても思えなかった。
「全然そんな気配ないだろ」
「それはね」
 双葉もこのことは隠せない。どうしてもだった。
「私にもちゃんと見えてるわ」
「どうしてこれで降るっていうんだよ」
 ここまで話してあらためて問う隆盛だった。
「絶対に降らないさ」
「けれど蛙が」
「じゃあ降ったらな」
 隆盛は双葉があまりにも言うので遂に強気に出た。
「賭けるか?」
「賭けるっていうの?」
「俺はあれだ」
 彼は言った。
「ハンバーガー食い放題な」
「ハンバーガーなのね」
「ああ、マクドナルドな」
「結構安くない?」
「じゃあ別のにするか?」
 双葉の言葉を受けて訂正してきた。
「そうだな。ケーキバイキングな」
「あっ、いいわね」
 双葉はこれには顔を晴れやかにさせた。
「それじゃあそれね」
「これから一月好きな時におごってやるよ」
 彼はあくまで強気だった。
「まあ降らないに決まってるけれどな」
「じゃあ私は」
 双葉もまた賭けに乗る。彼女が出したのは。
「この一月DVDのレンタル料全部出すわ」
「へえ、結構するぜ」
 彼の趣味はドラマ鑑賞だ。DVDで観る主義だ。だとするとその費用も馬鹿にはならない。双葉が賭けたのはそれであったのだ。
「じゃあそれでいいんだな」
「いいわ。じゃあ降るか降らないか」
「まあ結果はわかってるけれどな」
 隆盛ははじまる前からもう勝ち誇っていた。暑い中でも涼しい顔をしている。
 
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