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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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後継者

「一輝さん、少々お話いいですか?」
「ん?」

何もすることがなく、毎日体作りやら雑用やらに時間を費やしている一輝がデッキブラシ片手に風呂掃除をしていると、ジンとペストが真剣な表情で訪ねてきた。

「あー、別に問題はないが・・・場所を移動したほうがいい話か?」
「はい。誰にも聞かれない場所で」
「なら、ここでこのまま、ってわけにはいかないよなぁ・・・式神展開、“化”。あとよろしく」

一輝は残りの仕事を式神に任せると、手や足を洗ってから靴を履く。掃除のために服装はかなりラフなものだが、気にするほどのものではない。

「んじゃ、行くか。どこかあてはあるのか?」
「一応ありますが、誰か来る可能性は十分に・・・」
「そもそも、このコミュニティの中に絶対に誰も来ない場所なんてないわよ」
「そりゃそうだ」

たとえ自失であろうと来るときは来るし、そのまま侵入して来ることもある。何せ、このコミュニティには問題児が四人もいるのだから。

「あの三人は、今日何してるんだっけ?」
「三人一組、トーナメント形式の対戦ゲームに参加しています。そろそろ終わる時間ですけど」
「となると、ちょっと難しいか・・・よし、俺の部屋に結界を張るか」
「大丈夫なんですか?今も、リリの指導役に九尾を出しているのに・・・」
「過保護すぎだ。別に三日三晩かかるとかでもないんだし、大したことじゃねえよ。いい加減に病人扱いはやめてくれ」

一輝が肩をすくめ面倒そうにしながら歩き出すので、二人は慌ててその後を追う。そのまま三人は誰かに会うこともなく一輝の私室にたどり着き、結界を張って誰も入れず、音も漏れないようにして、二人はベッドに、一輝は背もたれを前にした椅子に腰かける。

「それで?話って何?」

一輝は何のためらいもなく、何も考えずにそう聞いた。
ノータイムでそう聞かれた二人は少しの間顔を見合わせるが・・・そう長くはなく、ジンが語りだす。

「一輝さん。“ノーネーム”のリーダーを継いでくれませんか?」
「人選ミスにもほどがあるだろ」

即答だった。それはもう即答だった。

「いやというか待て、俺の想像してたより何倍か真面目な話なんじゃないか?」
「まあ、はい。それなりに真面目な話です」
「マジかー・・・俺、『何?ついに二人結婚でもするの?』とかの弄りから入るつもりだったのに」
「お願いなので真面目に話を聞いてください」
「あ、ハイ」

最近、何かあったのかリーダーらしくなってきた人の言葉に、珍しく一輝が従う。

「いや、まあ、さすがにそういうことなら真面目に聞くけどな・・・とりあえず、俺は全部を知る権利があると思うんだけど・・・いいか?」
「もちろんです。いいよね、ペスト」
「仕方ないじゃない。それに、こいつなら話しても大丈夫でしょ」
「そういうわけなので、何でも聞いてください」

ジンからそう返された一輝は、少しの間額に頭を当てて考える。まずは何を聞くべきなのか、そしてどれだけの事情を知っている必要があるのか。

「まずは、そうだな・・・ジンが後継者を見つけないといけない理由はなんだ?」
「近々、僕とペストが“ノーネーム”を抜けるからです」
「その理由は?」
「私の目的のためには、殿下たちの側についたほうがいいからよ」
「あー、そういう・・・確かに、太陽に復讐しようと思うと、こっち側じゃ無理だよなぁ」

もう二人に一輝が知っていることに対して驚く様子はない。
いったいどこで知ったのかはわからないのだが、それでも知ることのできる機会はあった。黒死病がひろまった原因を知っていれば思いつくことではあるし、一時魔王連盟側である湖札と行動を共にしていたのだ。

「抜けるのはいつの予定?」
「一輝さんと湖札さんの喧嘩の最中に浚われた、ということにする予定です」
「なるほど、そうなるのか・・・」

そして一輝も、ジンたちが兄妹喧嘩をすることを知っていることに対して何の驚きもない。まあ、問題のレベルの差もあるのだが。

「じゃあ最後に。なんで俺なんだ?血筋的には、耀になるだろ」
「・・・それは、どこで知ったんですか?」
「まあ、いろいろと筋はあったけどな・・・ちゃんと聞いたのは、俺の先代に、だ。高橋示道、ってわかるだろ?」
「・・・・・・はい、全盛期の“ノーネーム”において、プレイヤーだった人です。それはもう、たくさんの魔王を従えていました。・・・一輝さんの先祖だったんですね」
「どうにも、そういうつながりで俺は召喚されたっぽい」

ジンが過去を懐かしむように瞳を閉じ、語る。

「とても自由な方でした。自由で、勝手で、なのに一度親しくなってしまうとだれも憎めなくて・・・陰陽師なのに剣と拳で戦ったり、それなのに知識が豊富だったために本当にたくさんの魔王を隷属させていった・・・そんな人でした」
「まあ、そうみたいだな。ついでに言うと、あいつは幹部職でもなんでもなく、最後までただのプレイヤーだった。そこの子孫に継がせるのは、ちょっと問題だろ」
「確かに、そういう面では問題です」

ジンははっきりとそう伝え、

「ですが、耀さんはまだコミュニティのリーダーとしてやっていくには、足りないものが多い・・・そう、思います」
「なら、それをお前が教えればいい」
「僕たちが抜けるといえば、全力で止められますよ」

ごもっともである。耀に限らず、十六夜も飛鳥も黒ウサギも、このコミュニティにいるほぼ全員が、その行動を止めるのは間違いない。

「ですから、その選択肢はありません。なら、血筋を無視してでもその素質がある人に任せるべきだ」
「俺にその素質があると?」
「はい。どのような形であれ、人の上に立ち、導く力が」

大げさだと思いながらも、一輝は何も言い返さない。はっきりと『無い』と言い切ることもできないのだ。ジンは、『どのような形であれ』といったのだから。

「そして、僕にはなかった実力もあります。ほかにも、まだ僕たちのコミュニティが“ノーネーム”であるなら必要となってくる宣伝頭としての役目も、一輝さんの名前なら十分に」
「・・・有名になったよなぁ、俺」

さすがにそこははっきりと自覚している一輝である。あれだけのことをやらかしたのだから仕方ないともいえるが。

「以上の点から考え、そしてこの話をしても止めようとはしない人という点を考慮に入れると、一輝さんかヤシロさんの二人です。なら、より一層有名であり、主でもある一輝さんに頼むべきかと」
「理にはかなってるんだよなぁ、困ったことに・・・」

もちろんそうでない点もあるだろうが、この時点で一輝が反対するだけの理由は消えている。しいて言うのなら自分が『悪』に該当する霊格を持っていることだが、それを言い出せば“クイーン・ハロウィン”も“牛魔王”もそうだ。今更それを気にしても何にもならない。

「・・・・・・・・・はぁ、OK。いくつか条件を付けていいんなら、その話を受けてやる」
「本当ですか!?」
「ああ本当だ本当だ、だから俺の出す条件を聞け」

一つ目に、と一輝は人差し指を立てる。

「ジンが抜けてすぐには、リーダーは継がない。そうだな・・・上層めぐりが終わって帰ってきたら見つけた、ってことにするからなんか書置きっぽいもの作っといてくれ」
「わかりました、今日中には渡します」
「渡すタイミングに気を付けろよ」

つまり、上層めぐりが終わるまではその立場にはつかない、ということだ。
もちろん本人が面倒臭がっている、という理由もある。だがそれと同じくらいに、上層の連中から話を持ち掛けられる可能性を減らしたい、という理由もあるのだ。一応、ちゃんとした理由が。

「んで、二つ目。耀がリーダーを任せられるくらいに成長したら、俺は引退してあいつに継がせる」
「もちろん問題なんてありません。むしろそうしてほしいくらいです」

さらには、いつまでもやっているつもりはない、ということだ。これについては本当に本人が面倒がっているだけである。他の理由なんて存在しない。

「んじゃ、そういうことでよろしく。これ以上何か言うつもりはないから。」
「はい、わかりました。・・・僕たちのわがままに巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「気にしなくていいぞ。多分、俺がジンと同じ立場だったら何も言わずに抜け出してただろうしな」

これで話は終わりとばかりに一輝が結界を解いたので、ジンとペストは立ち上がって扉に向かう。そしてそこを開き外に出ると・・・

「あら、ジン君にペストじゃない。」
「あ、ほんとだ。一輝の部屋で何かしてたの?」

ちょうど一輝の部屋をノックしようとしていた飛鳥と耀に遭遇した。何ともタイミングが悪いと考えるべきか、むしろギリギリのタイミングで間に合ってよかったと考えるか。

「あ、えっと、ですね・・・」
「ちょっとジンから恋愛相談受けてた」
「一輝さん!?」

そして、一輝が爆弾を投下した。もちろんだが、一輝という名の爆弾はしっかりと爆発し、飛鳥と耀という二つの爆弾にも誘爆する。

「あら、それは面白いわね。どういう内容だったのかしら?」
「いやそれがさぁ、ある女の子の目的のために自分も一緒についていって手伝いたい、っていうんだよ。超過酷な道だってのに、さ」
「おー、意外とやるね、ジン」
「一輝さん、なんてことを!?」

とっても温かい目で二人からみられ、ジンは一輝に半分怒鳴るくらいの勢いで問う。

「ん?何か間違ってたか?」
「それは・・・間違ってない、ですけど・・・」

そして、何も言い返せなくなる。事実そこまで間違っていないし、ここで違うと言おうものなら再び爆弾が爆発する。もはや、ジンにはこれしか選択肢が残されていない。まあ、二人そろって顔を赤くしたり事実が少し混ざっている分青くしたりと、これはこれでいじられそうなものが残ってしまったのだが。

「まあそういうわけだ。われらがリーダーの成長を祝う意味でも、このことは誰にも言わずそっとしといてやろうぜ」
「それもそうね」
「うん、それがいいと思う」

それでも、三人からにやにやとみられる程度で済んだので、いいほうだろう。ジン本人は『あなたは知ってるでしょう!?』という目で一輝を見ているのだが。

「さて、と・・・それで?二人は何でここにきてたんだ?」
「あ、そうだった。ねえ一輝、最近の十六夜の様子について、何か知らない?」
「うん?」

少しばかり心当たりのある一輝は、この二人まで訪ねてきたことに少し驚いていた。一輝の見たところでは、まだこの二人には気付かれそうもないと思っていたのだから。

「あー・・・いや、わからない。何かあったのか?」
「うん、それが・・・今日のゲームで、ちょっと様子がおかしかったから」
「様子が?」
「そうなのよ。いつもの十六夜君らしくないというのか・・・普段の十六夜君なら、銃で撃たれたらその瞬間にはよけてるか、殴りつけたり掴んだりするかじゃない?」
「まあ、普段の十六夜ならそうしそうだな」
「でも、今日はちょっと違ったというか・・・晴明さんに映像で見せてもらったんだけど、ギリギリまでひきつけてから避けてたから」
「・・・・・・・・・・・・」

その言葉を聞いた瞬間、一輝は一つ心当たりができた。なぜ十六夜がそんな行動をしたのか。その時十六夜が何を思っていたのか。そして・・・なぜ、最近十六夜はあんな様子なのか。

「そういう、ことか・・・はぁ、あいつバカだな」
「何か言った?」
「いや、何でもない。それと、十六夜についても俺はわからないな」
「そう・・・」
「悪いな、力になれなくて」
「ううん、大丈夫。それなら、一輝には私たちの手合わせやってもらうから」
「二対一で私も春日部さんも本気でやるけど、問題はないでしょう?」
「俺が病み上がりだってことと、そっちが無茶すると後に響くってことを考慮するなら、な」

話は纏まったとばかりに二人が歩き出したので、一輝はジンたちにウインクを一つ残してその後を追う。

「あー・・・ま、やっぱりぶん殴るのが一番早いか」
「一輝、今何か言った?」
「いやなにも」

最後の一輝のつぶやきは、誰にも聞かれることはなかった。
 
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