魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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空白期 中学編 16 「夏、本番?」
炎天下の中、俺はとあるアトラクション施設を訪れている。この場所を簡潔に言うならば、水に関する様々な遊戯がある場所……一言で言えばプールである。
今の季節が夏だということを考えれば、どうしてプールに来ているのかなんて質問をする者はいないだろう。
ただ……正直に言うと、俺はあまり乗り気ではない。
くそ暑いというのも理由ではあるが、夏が暑いのは毎年のことだ。また俺だって少なからずプールに来たことはあるし、泳ぎもそれなりにできる。
カナヅチでもないのにどうして乗り気ではないとかといえば……簡単なことだ。男女比が大きく女性側に偏っているからである。
これまでにそのような状況で遊んだりすることは何度かあった。だが同じ状況でも立場が小学生と中学生では周囲の反応は変わってくるだろう。
まあこれがまだ買い物や遊園地といったものならまだいいのだが……さすがにプールとなるとあれだ。俺を含め一緒に来ている人間は全員水着。無論、学校指定の水着を着る年齢でもないため、おそらく露出が多い水着だろう。
……目のやり場に困るんだよな。
今日一緒に来ている異性はなのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかの5人。加えて、あとでシュテル達も来ることになっている。他の男子は「夜月……羨ましすぎる!」と泣いたりするかもしれないが、立場を変わって同じことを言えるかと言いたい。プールで男女比が偏っていると気まずさは一気に跳ね上がるのだから。
それに……あいつらは同年代よりも発育が進んでいる。人前で異性のこの部分が良い! といった話はしたりしないが、俺だって健全な中学生だ。異性に興味はあるし、つい体に意識を向けてしまうことがある。
はやてあたりは自分から感想を求めてきそうなので対応がしやすいのだが、フェイトやすずかあたりは……こういうときに限って大胆だったりする。他のメンツよりも恥ずかしがることが多いのに、どうして大胆な格好をするのだろう。それなりの付き合いになるが、たまに彼女達のことが分からなくなる。
「ショウ、どうかしたの? 何だか難しい顔してるけど」
唯一の救いは、今日は男が俺ひとりではないことだろう。
今話しかけてきたのはユーノ・スクライア。ジュエルシード事件を機に交流のある友人であり、無限書庫の司書を行っている人物でもある。
探し物があるときはついついユーノを頼ってしまうことがある。彼は毎度笑いながら引き受けてくれる良い奴なのだが、なかなかに忙しい人間だ。クロノに頼られたりすることもあるし、無限書庫にはその名のとおり無数の情報が存在している。整理するだけでも大変なことだ。
故にあまり遊んだりする機会はない。クロノも執務官であり、あまり休もうとしない仕事熱心な人間なので、3人で集まれるのは極稀である。
だから恋愛事も進展しないんだろうな。ユーノは……出会った頃はなのはに気が合ったような気がしたけど、いつの間にかこれといった反応を見せなくなった。誰か別の相手でも出来たのだろうか。
クロノは……さっさとエイミィとくっ付けばいいのに。今でも姉だとか弟だとかお互い言うことがあるけど、フェイトが妹あたりになった頃から異性として意識し始めてたんだよな。最近じゃクロノはともかく、エイミィはクロノが誰かと親しくしてるだけで機嫌を悪くするようになっているし。
けど本人の前じゃ普段どおりに振舞うし、クロノも気づかないことが多い。気づいても俺に聞いてきたり……なかなか進展しないのも頷ける。
けどプレゼントとか遊びに行くって話になったらふたりとも相談してくるし……年下相手に相談するなよな。俺はまだ誰とも交際した経験はないっていうのに……。
「えっと、ショウ大丈夫?」
「あぁ……少し考え事してただけだ」
「考え事?」
「クロノとエイミィの関係とかな」
俺の言葉にユーノは苦笑いを浮かべる。会う度になのはの使い魔だとかからかわれる関係だけに、彼とクロノの距離感は近い。クロノがからかったりするので良好とは言えない雰囲気を出すときもあるが、まあ俺を含めて同性の友人としては最も親しい部類だろう。
「君も大変だよね」
「他人事みたいに言うなよ。友人なら助けろ」
「助けてあげたいのは山々だけど、僕は君ほど女の子に慣れてないから」
「その言い方は周囲に聞かれると誤解を招くと思うんだが?」
俺は女をとっかえひっかえするような男ではない。それに先ほども言ったが、交際経験は未だに皆無だ。
まあ一般男子よりも異性と話すことはできるかもしれないが、それはあくまでも親しくしているあの子達が主であって、彼女達以外の女子とはほぼ挨拶くらいしかしていない。異性全てに慣れているわけではないのだが。
「誤解なんてよくされてるんじゃないの? はやてと付き合ってるとか前から度々聞いた気がするし」
「あいつと付き合ってるように見えるか?」
「親しくしてる僕らはともかく、はたから見た場合は見えるんじゃないかな。一緒に出かけたり、お互いの家に遊びに行ったり、毎年のようにプレゼントのやりとりしてるわけだから」
確かにそのとおりではあるが……はっきり言って、俺とはやては付き合っていない。周囲からそのように見える理由は複数存在しているが、断じて交際しているという事実はない。
「まあだからクロノ達にも頼られるんだろうけど。でも君に好きな人が出来たらあっちも相談に乗ってくれるんじゃないかな。もちろん僕も乗るけど……ショウは好きな人とかいないの?」
なぜこのタイミングで聞いてくるのだろうか。思わず言ってしまったのか顔が赤くなっているし、真昼間のプールで話したい内容でもないため、今すぐ取り下げてもらって構わないのだが。でもこの顔を見る限り、この際だからこのまま行っちゃえという感じだ。
「Likeって意味なら結構いる」
「Loveの意味で聞いてるんだよ」
「そっちで答えなかったんだから分かるだろ?」
「まあ……本当にいないの? 好きとまでいかなくても気になってる子とかさ。なのは達って全員可愛いわけだし」
最後のは下手をするとお前の人間性を疑われるぞ。まあ本人達の前で言えるほうではないと分かっているが。感想を聞かれたら恥ずかしそうにしながら「うん……似合ってると思うよ」と言う。それがユーノという人間のはずだ。
「それはまあ認めるが……というか、よくなのは達って言葉使ったな。お前、なのはに気が合ったんじゃないのか?」
「え、あぁ……まあ昔はというか、ショウが思ってるほど強い気持ちがあったわけじゃないんだけどね。言葉で表すなら……好きなタイプだったっていうか」
「ふーん」
「あのさ、こっちは割と恥ずかしいこと言ったんだよ。興味なさげな返事するなら聞かないでほしいんだけど。というか、罰として君も好きなタイプくらい答えるべきなんじゃないかな」
いやいや、別に無理やり答えさせたわけじゃないだろ。お前が素直に答えてくれただけじゃないか。なのに何で俺までカミングアウトしないといけない。
直後、背後から「お待たせ~」と声が聞こえた。
振り返ってみると、そこには水着姿の仲良し5人組が立っていた。
なのははいつもどおりサイドポニーでピンクのビキニ、フェイトも普段どおりの髪型で黒のビキニを着ている。視線を合わせる前からどことなく恥ずかしそうにしているが、だったら上着くらい着てもらいたい。こちらとしても顔を向けていいものか迷ってしまう。
はやては短髪なので髪型については言わなくても分かるだろう。水着は水色のビキニだ。アリサの水着は赤となかなかに目立つ。とはいえ、彼女のプロポーションは非の打ち所がなく、また彼女も堂々としているので実に映えて見える。
すずかは長い髪を動きやすいようにポニーテールにまとめており、水着は白のビキニタイプだ。5人の中でも最も発育が進んでいるだけに、破壊力抜群である。女性は男性の視線にほぼ確実に気づくと聞くので、にこやかに笑っている顔の下では何を考えているか分からない。
しかし、俺だけでなく男なら誰だって見てしまうものだろう。ビキニを着た異性が目の前にいるならば。
これまでに彼女達とは何度か海やプールに行ったことがあるし、私用の水着は見たことがある。だがある意味それを見ているからこそ、今回の破壊力が増している気がしてならない。前に見たことがあるのは、ワンピース型のようなものばかりで今回よりも肌の露出が少なかったし。
「ショウくん、あんまじっと見られるとわたしらも恥ずかしいんやけど」
「別に見てない」
「またまた~、少し顔赤くなっとるで。ショウくんはむっつりさんやな」
ニヤニヤしながら人の顔を覗き込んでくるはやてに苛立ちを覚える。が、計算しているのか、はたまた偶然なのか、彼女に視線を向けると胸の谷間まで視界に入ってしまう。
いくら親しい間柄とはいえ、最低限度の異性意識は持っているのだ。また付き合いが長いだけに年々女らしい体つきになっていくはやてに思うところもある。あのはやてが今のような体つきになると誰が予想できただろうか。
異性意識を持たないレヴィならともかく、こいつに今抱きつかれたりしたらまともに話せるかどうか……。まあ前ほど身体的接触はしてこなくなっているんだが。しかし、性格が性格だけに油断ができない。
「正直に言えば、みんなはともかくわたしのはいくら見ても構わんよ」
「お前……そんなに見てほしいのか?」
「当たり前やないか。何のために新しい水着買ったと……冗談、冗談やから。そんな冷たい目で見るんはやめてほしいんやけど。わたしのハートはこう見えて脆いんやで」
そう言って壊れた試しが今までに一度でもあったか。あったとしても、次の瞬間には何事もなかったように復活してただろうが。
「まったく……あんた達は相変わらず仲良いわね」
「もうアリサちゃん、そないなこと言わんといて。恥ずかしいやんか」
「……演技だって分かってると妙にイラつくわ」
アリサ、今なら止めたりしないから感情のままにはやてをやってしまってもいいぞ。こいつは少し痛い目に遭わないと理解しない奴だから。
「まあまあアリサちゃん、はやてちゃんもああ見えて緊張してるんだよ」
「どこがよ?」
「だってはやてちゃん、着替えてるときに『似合ってないとか言われたらどうしよう……』みたいなこと言ってたもん」
「ちょっすずかちゃん!?」
はやては顔を真っ赤にし、凄まじい勢いですずかの口を塞ぎに行くが、あいにく身体能力はすずかのほうが上であるため、簡単にあしらわれている。
「聞かれてたのはともかく、言うのはひどいで。言うたらあかんって分かるやろ」
「うん、でもショウくんに素直になったほうがいいとか言うならはやてちゃんもたまにはね」
「うぅ~、今日のすずかちゃんはいけずさんや」
頬を赤らめたはやては、少しいじけたようにこちらに顔を向けると、誤解せんといてなと言ってくる。なので淡々と分かってるから落ち着けと返しておいた。
付き合いが長いだけに本心を隠すのが上手いことは知っているし、はやてだって中学生の女の子だ。人並みに異性からの目は気にするだろう。特に俺とは距離感が近いだけに、似合ってなければ即座に切り捨てられてもおかしくない。
「あんたって本当にはやてへの反応が淡白というか薄いわよね」
「全力で相手してたら倒れるぞ」
「まあ確かに……フェイト、あんたそんなに人の目が気になるんなら上着くらい着てきなさいよ」
「え……いや、その」
「……濡れてもいい上着持ってきてないの?」
アリサの問いにフェイトは小さく首を縦に振った。アリサは額に手を当てながら呆れたようにため息を吐き、視線をこちらに戻してくる。
「ショウ、あんたフェイトに上着貸してやりなさい」
視線がこちらに向いた瞬間に予想してはいたが、まさか命令の形で言われるとは。
まあ別に貸すのはいいんだけど……思ってたより日陰もあるし、日焼け止めも持ってきてるから。ただ……俺はともかくフェイトのほうは、異性から借りることに抵抗があるのでは。
「え……い、いいよ別に。わ、私なら大丈夫だから!?」
「どこが大丈夫なのよ。あんたみたいに変に周囲の視線窺ってると弱気だって思われてるでしょうが。馬鹿な男共が寄ってきたらどうすんの。別に汚くはないんだから借りときなさい」
アリサは上着を寄越せと言わんばかりにこちらに手を出してきた。こちらとしても、あまり恥ずかしがられると目のやり場に困るので都合は良いのだが、別に汚いといった言葉は要らなかったと思う。
上着を渡すと、アリサは半ば強引に俺の上着をフェイトに押し付けた。彼女の勢いに負けたのか、フェイトはゆっくりとだが俺の上着を着込む。
「何かごめんね。アリサちゃんも悪気はないんだけど」
「それは分かってるよ。素直じゃなかったりするけど良い奴だから」
「そう言ってもらえると安心かな……そういえば」
なのはは視線だけこちらを見上げ、再度口を開く。
「さっきユーノくんと何を話してたの?」
「え……あぁクロノのこととか……流れで恋愛に関することとか」
……何を素直に答えてるんだ俺は。最後は完全に余計だろ。
「そ、そっか……ショウくんでもそういう話するんだね」
「まあ……同性の間ではな」
「男の子とだけ? はやてちゃんあたりとはしないの?」
「あいつとまともにそんなことができると思うか?」
「にゃはは……相変わらずはやてちゃんには厳しいね」
「甘やかしてもいいことはないからな。余計にふざけるだけだし」
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