月に登った三人
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3部分:第三章
第三章
「上にな」
「上!?」
バーンは今のダルビの言葉に眉を顰めさせた。
「何処なんだ、そこは」
「とにかく上なんだよ」
自分でも思いつくままに言葉を続ける。だからこれといって考えはない。
「それでいいだろ」
「上っていうとあれか」
クリストフはビールを飲みながらダルビに尋ねた。
「月か!?ひょっとして」
「ああ、あそこがあったか」
何と言われてそう返すのだった。実にいい加減だった。
「じゃあそこにな。行くか」
「月か」
バーンはそう言われて考える目になった。彼はソーセージを食べている。
「悪くないかもな」
「言われてみればそうか」
クリストフもそんな気になってきた。
「少なくともイワンも理想の思想なんてのもないしな」
「じゃあ決まりだな」
ダルビは二人も乗り気になってきたと見てまた声をかけた。
「月に行くぜ」
「それはいいけれどな」
クリストフは彼に問うた。
「どうやって行くんだ?月なんかに」
「梯子を使えばいいさ」
「梯子をか」
「ああ」
そう答えるダルビであった。
「それをアパートの裏の大きな樹にかけてそれでな」
「それで行けるかね」
「大丈夫だろ」
ダルビは何も考えずに言う。
「試しにやってみればいいさ」
「ううん」
「まあ失敗してもクダ巻いて飲むだけだ」
バーンは達観して述べた。
「それだけだしな」
「それだけか」
「ああ、それだけだ。もう失うもんなんて俺達にはないしな」
これは事実だった。それだけ先の動乱が彼等の心も何もかも打ち砕いてしまったということであった。かなり自暴自棄にもなっていたのだ。
「失敗したらしたでいいだろ」
「それで行ければそれに越したことはないか」
クリストフもそう考えることにした。
「わかった。じゃあそれでやってみるか」
「よし、今夜だ」
ダルビはそのままの勢いで決定した。
「もうそれでいいな」
「随分気が早いな」
「じゃあ何時がいいんだよ」
そうクリストフに言い返す。
「どうせこれ以上いたくないんだろ?ここに」
「まあそうだな」
バーンも同意して頷く。
「俺もそれで賛成だ」
「何だ、御前もか」
クリストフはバーンもダルビに賛成したのを見て困った顔になった。だがもう選択肢はなくなってしまったのだ。こう言うしかなかった。
「じゃあ俺もな。今夜だな」
「ああ、行くか」
「よしっ」
こうしてまずは夜を待つことになった。その夜になると三人はまずは月を確かめた。見れば三人の願い通り見事なまでの満月であった。
三人はその黄金色の満月を満足した顔で見ていた。クリストフも結局はそうした顔になっていた。それを他の二人にからかわれてしまった。
「おいおい、楽しそうな顔になってるな」
「別にいいだろ」
苦笑いを浮かべてバーンに応える。
「俺だって行きたいんだしな、やっぱり」
「よし、じゃあ決まりか」
ダルビはそれを聞いて遂に梯子を出してきた。それはかなり長い梯子であった。
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