静かな勇者
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3部分:第三章
第三章
「今行くつもりか」
「そうですけれど」
「待て、亡骸を見るとだ」
その小屋の外にもだった。骸があった。中年の女の骸だ。その骸を見てランスロットはヴェインに対して言うのである。
「まだだ。死んで間もない」
「そうなんですか」
「血が完全に地面に滲み込んでいない」
そのことからだ。彼は殺された時間を察したのだ。
そのうえでだ。こうヴェインに話した。
「宴が行われているにしてもだ」
「はじまったところですね」
「今行くのはよくない」
そうだというのだ。
「こちらは二人、相手は五十人程だ」
「ですから数は」
「いや、それだけの数だと今行って勝つのは難しい」
あくまでこう言ってだ。ヴェインの軽挙を咎めるのである。
そのうえでだ。彼は言うのだった。
「山賊達の宴が進み酒が回ってからだ」
「それからですか」
「山賊達を攻める」
そうするというのだ。策を使うというのだ。
そうしてだった。ランスロットはヴェインにあらためて話した。
「そうしよう」
「しかしです。村の娘達も捕まっていますし」
「わかっている」
ランスロットはヴェインの激しい言葉に応える。
「しかしだ」
「それならどうして」
「今行っても敗れる」
こう言ってだ。ヴェインの言葉を退けるのである。
「だからだ」
「しかしです」
「そうする」
ランスロットは引かなかった。彼もだ。
「いいな」
「左様ですか」
「今は待つ」
とにかくだ。こうヴェインに言うのである。
そのうえで動かない。その彼を見てだ。
ヴェインは今は苦い思いになっていた。ランスロットの考えがわからなかった。しかしだった。
彼の背を見てだ。そこでだった。
その背にだ。あるものを背負っているものに気付いた。それは。
「・・・・・・・・・」
怒りの炎だった。青く燃えるそれを背負ってだ。あえてそうしていることをだ。見てしまったのである。
そのことに気付いてだ。ヴェインは完全に沈黙したのだった。そしてだ。
夜になりだ。ランスロットはヴェインに対して言った。
「ではだ」
「今からですね」
「そうだ。山賊達を倒す」
夜になってからだ。攻めるというのだ。
「いいな、山賊達は酔い潰れている」
「そうですね。今は」
「酒にな。そしてだ」
「夜ですね」
「そうだ。その夜だ」
夜にだ。何故攻めるかというとだった。
「夜の闇に紛れて攻める」
「酔い潰れた相手をさらに」
「そうして攻める。いいな」
「わかりました。そこまで考えておられてですか」
「我々は山賊達を絶対に倒し」
そうしなければならない。必ずだというのだ。
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