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清明と狐

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3部分:第三章


第三章

「この火と林の気と月明かりを浴びさせて衣を作ります」
「その三つのものからもか」
「はい。この糸もまたただの糸ではありませぬ」
 狐は糸についても述べるのであった。
「狐の世界で特別に作られたものです」
「左様か。それを子供に着せればどうなるのだ?」
「生涯病に困ることはありませぬ」
 我が子の無病息災を願ってのことであったのだ。
「この服さえ着ていれば。何があろうとも」
「全てはがが子可愛さであったのか」
 清明はそれを聞いてまずは瞑目した。それからゆっくりとまた目を開き狐に述べるのであった。
「しかしだ」
「はい」
 そのうえで狐に対して言う。狐もそれに対して答える。
「ここで糸を紡いではならぬ。明日以降はな」
「それは存じております」 
 狐もそれはわかっていた。観念した顔で清明に答えるのであった。
「わかっていますが。しかし」
「我が子が気懸かりなのだな」
「今日だけですね」
 狐は顔を上げてまた清明に問うた。
「衣を作ってよいのは」
「そうなる。明日からは駄目だ。人が怪訝に思う。そうなれば」
「ここに魔物退治として」
「私の様な者が来るとは限らぬ」
 清明はそこを言うのだった。
「残忍な者ならば」
「私の命を」
「そうなってみろ。元も子もない」
 それを今狐に対して告げた。
「そうであろう。それは今日までだ」
「わかりました」
 狐は止むを得ないといった感じで頷くしかなかった。しかしその彼に清明はまた言うのであった。
「ただしだ」
「ただし?」
「今日までに衣を作り終えれば何の問題もないな」
「それはその通りですが」
 それは狐もわかっている。しかしそれは到底無理な話だった。
「私では。これは今日中にはとても」
「そなた一人では無理か」
「とても無理でございます」
 また俯いて答えるのであった。
「それをしたいのはやまやまですか」
「そうだな。一人では到底無理だ」
「その通りです」
 俯いたまままた清明の言葉に頷いた。
「ですから。諦めます」 
 遂にこう言った。
「これでもう」
「いや、それには及ばぬ」
 だが清明はここで狐を引き止めるのであった。
「それにはな。衣は必ず完成する」
「それはどうやって」
「これを使え」
 彼はそう言うと狐に対して何かを差し出してきた。それは。
「札ですか」
「式神になる札だ」
 陰陽道では紙に文字を書いてそれを人や鬼にして使役する。清明はそれの達人であるのだ。
 
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