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ソードアート・オンライン~狩人と黒の剣士~

作者:村雲恭夜
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ブレイク・アップ

 
前書き
闇が動く。雷が吼える。
彼等の希望は、まだ消えていない。
希望は常に、彼等の中にある。 

 
「“光の巫女”……?」
干した果物と木の実を刻んで混ぜた堅焼きパンを大きくかじり取った騎士長ベルクーリは、逞しい顎を動かしながら首を捻る。
一時の停戦状態を利用して、守備軍の兵達には補給部隊から大急ぎで戦場食が配布された。負傷者の治療は、二年間で劇的に成長したユリアの術によって、全て終わっており、皆スープを飲んでいる。ロード達の活躍もあり、守備軍の損害は負傷者だけで済んでいた。
アリスは、小さく千切ったパンを口に運びながら、正面に腰を下ろす騎士長に頷き掛けた。
「はい。その様な名称、これまでどんな歴史書にも見出した事は在りませんが、しかし敵の総司令官が強く求めているのは確かだと思われます」
「闇神ベクタ……だね」
ロードはスープを飲み干して言う。すると、シラル水を注いでいた副長フィナティオが言葉を発した。
「とても信じられません……神の復活、などと……」
「まぁ、な。しかし……得心の行く部分も在る。敵本陣を覆う異質な心意を、お前も感じておらぬ訳では在るまい」
「は……確かに、吸い込まれるような冷気を……感じる気も致しますが……」
「何せ、世界が創られて以来大門が崩れたのだ。もう何が起きても不思議ではない、と考えるべきかもしれん。だがな……嬢ちゃんよ」
鋭い眼光がアリスを正面から捉える。
「ダークテリトリーに暗黒神ベクタが降臨し、そ奴が“光の巫女”を求めており……更にその巫女が、嬢ちゃんの事だと仮定するとして、それが今の戦況にどう影響する?」
「ベルクーリさんの言う通りだ」
ベルクーリの言葉に、ロードが言うとアリスが告げる。
「私が単身、敵陣を破って、ダークテリトリーの辺境へと向かいます。敵は少なからず私を追ってくる筈。充分な距離を取って分断した所で、残る敵軍を逆撃、殲滅して頂きたい」

「あほかぁああああああああっ!!!」

ロードの叫び声が辺りに響き、全員がびくっと体を震わせる。
「馬鹿かお前は!?単身で囮は危険すぎるだろうが!!」
「そ、それが一番安全じゃ無いですか!!それと馬鹿って言わないで下さい!!」
「いーや、馬鹿と言わせて貰うぞ!?いや、馬鹿めと言って差し上げるわこの馬鹿が!!」
「なっ!馬鹿馬鹿と連呼しないで下さい!!」
すると、ユイリ、ユリアの姉妹が、二人を止めに入った。






























その後、数十分、言い争いが続き、結局部隊の五割をアリスに付き添わせる事で漸く収まった。
居残り部隊には、フィナティオ、デュソルバートが入り、ベルクーリはアリスの部隊に入った。
囮部隊には、ロード達や五人の整合騎士と飛竜、千二百の衛士、更に五十人の補給部隊が同伴することとなった。
「よしーーーーー峡谷を出ると同時に、竜の熱線を敵主力に一斉射!向こうにはもう遠距離攻撃手段は殆ど無い筈だ、敵竜騎士にだけは気を付けろよ!」
ベルクーリの指示に、はいっ、と鋭く応える。
すぐ後ろからは、騎馬と徒歩で突進する衛士達の足音が重く響く。
と、その時、ロードが何かを聞いた。
「何だ、この音……?」
すると、ベルクーリが言う。
「奴等……何て真似を!!」
そう吐き捨てた言葉の意味を、ロードは素早く理解し、ウィザードラゴンを生身で装備する。
「ドラゴン!俺に力を!!」
『余剰魔力は余り無い!気を付けろ!!』
途端、漆黒の壁の如く、峡谷を埋め尽くす様に呪粗攻撃が放たれた。
『グラビティ……ブリザード……サイコォオオオオオオオ!!!』
ロードはブリザードを放って氷の障壁を出すと、グラビティでそれの重力を操作、盾にしてそれを押し付ける。
「ナイスだ銃剣士の坊や!!全員、急いで急上昇!!」
『コピー!プリィズ……』
コピーで分身を作ると、後方部隊に飛んだ呪粗をインフィニティーのシャイニングストライクで破断する。が、問題は本体の方だった。
『余剰魔力、残り三割!!』
魔力が、切れ掛かっていた。
ロードの魔力は時間経過と共に回復していくが、先の戦いで約九割を消失。先程の休憩で三割を回復させたが、上級の魔法を同時に使っているため、恐らく後三分で魔力切れを起こす。
「ぜっ……たいに……逃がす……かぁああああああっ!!」
ブリザードの魔力を解除し、全てグラビティに回すと、引っ張られた呪粗が一塊になる。
「グァッ!!」
『グラビティに魔力を回しすぎだロード!!』
「でも……緩めたら……皆が……!」
インフィニティーは動けない。ロードはグラビティを制御するので手一杯。打つ手なしか。
そう思われていた、次の瞬間。

『シャイニング!マキシマムドライブ!!』

「え?」

突然、光が降り注ぎ、呪粗を殲滅した。
その前に、黒い聖職着を纏う、銀色の髪がなびいていた。

「バカがいい根性してるじゃねぇか!」
黒い翼をはためかせ、右腕に光の銃を携えている男。
闇神ダークネスウイング。まさに、この状況を引っくり返せる神が、ここに来て参戦した。 
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