八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

「あっさりしていてね」
「美味しいでござるな」
「うん、けれど」
「その鯰を干物にしてでござる」
「食材にするんだ」
「そうでござる」
　忍者食では、というのだ。
「いつも拙者自身で作っているでござるよ」
「何か凄いね」
「これもまた忍術でござる」
　そのうちの一つだというのだ。
「そうしているでござる」
「食べものを作ることも」
「そうしているでござる、ただ」
「ただ？」
「あくまで非常食であり保存用でござる」
　その忍者食はというのだ、鯰の干物のそれは。
「普段は食べないでござる」
「普段は普通のものを食べているんだ」
「そうでござる」
「やっぱりそうだよね」
「そして忍術、剣道をしているとでござる」
　心身の鍛錬をしていると、というのだった。
「心が清らかになるでござる」
「それはね」
「それは？」
「元々マルヤムさんがそうした心だからだと思うよ」
「拙者が、でござるか」
「マルヤムさんは心身を鍛えたくて忍術と剣道をしているんだよね」
「如何にも」
　その通りだとだ、マルヤムさんは僕に答えてくれた。
「そうしているでござる」
「剣道をしていてもね」
　忍術もだ、僕は自分が見てきたことからマルヤムさんに話した。
「それでもね」
「その心が、でござるな」
「身体を鍛えていても」
「心を鍛えていない」
「そうした人はいるから。剣道は竹刀を使うけれど」
　練習でだ、防具と並んで剣道の象徴だ。
「その竹刀で自分より力が弱い人を叩く様な」
「そうした輩はいるでござるな」
「何処にもね」
「マレーシアにもいて」
「そして日本にもね」　
　そうした奴をこの目で見たことがある、中学時代に他の学校に練習試合に行った時その中学の剣道部の先生がだ。自分の部活の部員を竹刀で防具の上からとはいえ動きが悪いと言って何発も何発も殴っていた。
　僕はそんなことであそこまでやるのか、しかも抵抗しない相手に暴力を振るうのかと驚いた。あの場面は忘れられない。
　それでだ、今マルヤムさんにこう言えた。
「そうした人はね」
「忍術や剣道をしてもでござるな」
「一緒だよ」
　マルヤムさんと違ってだ。
「その心の醜さはね」
「心を鍛えるつもりがないのでござるな」
「身体の強さだけでね」
「暴力を振るうのみ」
「自分より力の弱い人にね」
「それでは意味がないでござる」
　マルヤムさんは毅然としてだ、僕にこう返した。
「何をしても」
「そうだよね」
「力は己の為に使うものではござらぬ」
　これがマルヤムさんの僕への返事だった。
「己を律しそして」
「他の人の為に使う」
「それが力でござる」
　理想論だけれどその通りだと思った、正直なところ偽善と言われても暴力を振るうよりずっとましだと僕は考えている。
　そしてマルヤムさんもだ、こう言うのだった。
「だからでござる」
「そうあるべきだね、本当に」
「大家殿も同じお考えでござるな」
「僕の親父なんかね」
　ここでマルヤムさんにも親父のことを話した。