道を外した陰陽師
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第四十五話
あの後、呪力の回復は寝ていればかなり速くなるので割と早い段階で起きた雪姫は、寝ぼけている→状況を理解する→真っ赤になる→あわてすぎて床に落ちる→打った頭を押さえ、涙目で睨んでくる、という何とも面白いリアクションを見せてくれて、かなり満足した。
「・・・なあ、一輝。やっぱり一発くらい殴っておいてもいいか?」
「え、やだよ。というか、なんで少したった今なんだ?」
「いや、さっきはまあしっかり休めたというのも事実だし、タオルケットなどのこともあるしやめておくべきかと思ったんだが、よくよく考えてみれば一輝が面白がっていたのは間違いない、という結論に至った」
「お、大正解。百点満点だ」
そういった瞬間にこぶしが飛んできたので、俺は片手で受け止める。さも当然のように一発では終わらなかったから俺も防ぎ続ける。やっぱり動き早いなー、雪姫は。
「はぁ・・・あんた、ほんとに懲りないわね」
「面白いからな」
「いつか大変な目にあうわよ、絶対」
「その時はその時だ」
ラッちゃんにそう言うと、ひとつ大きくため息をつかれた。ちなみに、殺女は席組みのほうの会議に出席している。俺?この会場内で行ってるのに参加なんてしたら正体がばれかねないから参加しない。本音はめんどくさいから参加しない。
「で、えっと・・・零厘はどこで食事をとるんだっけ?」
「食堂B。そこを曲がってすぐだ」
零厘の次も他の学校が入っていてと、時間区切りになっている。どこの食堂もこんな感じなんだとか。
風呂の方は、いくつかあるのが学校ごとに割り振られていて、毎日別の風呂になる。とはいえ、他の学校のやつといっしょに入るということもあるらしいが。割とそのあたりは緩い。にしても、これ何かに似てる気がする・・・
「・・・なんだか、修学旅行に来てるみたいだ」
「「ああ、それだ」」
雪姫の言う通り、どこか修学旅行みたいだ。それに比べたら自由度は高いけど。
と、そんな話をしながら食堂に入る。その瞬間に、伊空に捕まった。
「寺西君、こっち来て!」
「え、やだよ。今から飯食うんだから」
「こっちで取ってって言ってるの!君に担当してもらう子にまだ連絡もしてないでしょ!?」
「してない。まあでも、名前からどこの家なのかはわかるんだし、ランク持ち特権使って調べればどんな奥義使うのかもわかるし」
「本人とのコミュニケーションをとってって言ってるのよ!」
いや、それについてもちゃんと今日中に取るつもりではいた。細かい癖まではさすがに分からないし。とはいえ、それは風呂に入った後のある程度リラックスした時の方が・・・
あ、でも今日はさっさと寝た方がいいのか?そう考えると、今のうちに済ませておいた方がいい気も・・・
「・・・・・・はぁ、了解。こっちも光也から連絡を受けたりしないといけないから、時間いっぱいまで、ってわけにはいかないけど、それでも?」
「十分よ。・・・というか、なんで闇口室長から?」
「ちょっと、な。まあ仕事みたいなもんだから、気にしなくていい」
今やってる会議で何が決定したのか。それだけ聞いておかないといけない。で、まあその内容には外に漏れたらまずいものもあるから直接会って聞くことになった。あいつに部屋まで来させようかとも思ったんだけど、さすがにそれは不自然だから俺から尋ねることに。まったくもって面倒極まりない。
「えっと、それで・・・こちらが?」
「ええ、そうよ。例年なら同学年の相手か下の学年の人を相手してもらうんだけど、まあ寺西君ならいいか、っていう結論になったから」
「えー、それだと相手もガチ連中ばっかりで大変になるじゃん」
「だからこそ、サポートも出来る限り腕の立つ人にやってほしいのよ。どうせ貴方、自分の出る試合一つしかないんだから」
暇ならやれってことですね了解です。協力するって言った手前口でぶつくさ言ってもちゃんとやるけどさぁ。
「はははっ。まあずっと立ちっぱなしでも何にもならないし、二人とも座ったらどうだい?皆食事を始めたいだろうし」
と、俺がここに集まっている全員を視ていると先輩であろう男子がそう声をかけてきた。なんともまあ、『これがイケメンです』という手本のような、教科書に載せるならこれであろうとでもいうかのような見た目のやつがいた。なんだこいつ。こんなやつ零厘にいたんだ。はじめて知った。
「それもそうね。寺西君もあまり時間はないんでしょう?」
「あー、そうだな。んじゃ、さっさと飯食いながら話すか」
伊空の言うとおりだし、それ以前に今話しておかないといけないことは多々あるのだ。さっさと話し始めた方がいい。というわけで。
「さて、とりあえず自己紹介してもらってもいいか?正直誰もわからん」
「え、えっと・・・一応、学校で君と話した人とか、呪校戦前に君に見てもらった人とかもいるんだけど?」
「正直に言うぞ。在留陰陽師やってて、あの時は全体的に視ることになってたんだぞ?それで関わった人間全員覚えとけとか、無茶にもほどがあるだろ」
「だからって、全員忘れることはないでしょ・・・」
いやいや、もしかするとここにいない人の中に覚えている人がいるかもしれないじゃないか。そうじゃなくても、呪術的な特徴は覚えてるかもしれないし。むしろそっちの可能性は高い気がする。
あの時も、その人のことを考えてる余裕なんてなかったし。人数さばくのに必死だったからなぁ・・・
「・・・なるほど、確かに距離感のおかしな人のようですね。仮にも先輩である伊空に対してこの口調とは」
「悪いけど、俺はめったに口調を変えない。世話になって、一生を賭けてでも恩返ししていきたいと思ってる人にだけは、敬語を使ったりするんだけどな」
そうだ、あの人にも挨拶しに行かないとなぁ・・・鬼道だったころの知り合いだから、俺は死んだと思ってるだろうし。関わらない方がお互いにとっていいのかは分からないけど、俺としては何があっても恩を返したいし。何かあったなら、頼ってほしい。さすがに組同士の抗争に使われるのは勘弁だけど。
うん・・・よし、この呪校戦が終わったらおやっさんに会いに行こう。広島まで行って、やくざの下っ端どもが邪魔をしてくるのを押しのけて、って作業が面倒ではあるけど、それくらいは我慢して。
「まあそういうわけだから、これを不快だと感じるなら伊空に言って他の人に変えてもらえ」
「それについては気にしていませんよ。そんなどうでもいいことは気にしませんし、問題は腕が立つかどうかだけですから」
超冷静そうな口調でここまで話すと、その先輩は表情を一切変えないでメガネを押し上げて、ようやくほんの小さな笑みを見せてくれた。なんだこの人、弄り倒したら超面白そうだぞ。が、まあそんな時間はないのでやめておく。
「では改めて。結城 優奈です。家や奥義については話したほうがよろしいでしょうか?」
「あー、いや。問題ない。その苗字である以上あれの子孫だろうし」
「説明の手間が省けました。感謝します」
あの一回を除いて表情が変わってないぞこの人。表情に乏しいのは匁もなんだけど、なんでだろうか。匁は弄ろうと思わないのにこの人は本気で弄りたくなる。性別も両方女だし・・・実力の差だろうか?それとも、直感的な何か?
・・・ま、どうせ考えても分かんないんだし、いいか。
「で、何か知っておいた方がいいことはあるか?」
「そうですね。強いてあげるのなら、弓とそれに並列した呪術を使うのですが、その呪術の部分が疎かになりがちです」
「ん、了解。なら弓使いながらでも使いやすいように簡略化とか?」
「それで。奥義も弓関連ですし、これから先にも役立ちそうですから」
それを聞いてから、一度箸を止めて全員に配った札を渡すように言う。万が一の時のための切り札だし、弓を使いながら使えないと何の意味もない。そういうわけで渡してもらった札を見て思い出した。そうだ、この人あれだ。弓の撃ち方に癖がある人だ。
だとすると、あれをこうして・・・うん、面白くなってきそう。
「じゃあ、次は僕かな。僕は藤原 鋭多。継承した奥義はまあ家的にはちょっと異質な感じだけど、名は体を表すってことで」
「藤原、ねえ・・・もしかしなくても、あんたら親戚?」
「うん、そうなんだ。ついでに言うと、家が決めた許嫁だったりもする」
「今時そんな風習が残ってるのか・・・」
「といっても、変なのが寄ってこないようにっていう形だけのものなんだけど」
まあ確かに、その家名じゃ寄ってくることもあるだろう。苗字が変わってないってことは、本家なわけだしな。んで、名は体を表すってことは・・・
「・・・なるほどね。討伐したやつにちなんだ奥義ってことか?」
「正解。よく知ってるね、君」
「光也のもとで働いてるとどうしても、な。といっても、どっかの家と直接関わることはほとんどないけど」
それにしても、運がいい。同じ家系に連なってる分、調整が楽になるぞ。他にもやることができそうな身としては、大変ありがたい。今更だが、鋭多は三年で優奈は二年だそうだ。もちろん切り札に渡していたものも回収した。
「さて、次は・・・」
「あたしたちかな?」
「私たちだよね?」
と、並ぶと左右対称の髪型、顔立ちになる二人の女子がお互いに逆の手を小さく上げ、お互いに別の方向に首をかしげていた。涙ボクロの位置まで左右対称なんだけど、なんなのこの奇跡的なまでの左右対称。さらに言うなら、あとはこの二人だけだから次はこいつら以外ない。
「あたし、透奈 佑鬼。二年生」
「私は、透奈 佐羅。二年生」
と、二人は首から下げている名札のようなものを見せながら名乗ってきた。その都市になって名札かよと突っ込みそうになったが、正直これは助かる。なんせ、この二人本当に似てる。ほくろもよく見ないと気付かないくらいの大きさだし、髪をとかれたら判断できる自信皆無だし。呪力の感じまで似てるなんて、中々ないぞ。
「あー、もう聞くまでもない気がするけど、双子?」
「そうね、双子よ」
「ええ、双子です」
「ふむ・・・」
他の情報として、細かく見て分かったがこの二人は完全な左右対称。右利き、右側に泣きボクロがあるのが佑鬼で、左利き、左側に泣きボクロがあるのが佐羅。ってか、この字で女子の名前なんだな。
あとは・・・この二人、内臓や血管を含めても左右対称になる。佐羅は心臓が左側に、佑鬼は心臓が右側に。つまり佐羅は一般的な人間と同じ感じの内臓の配置で、佑鬼は逆になる。どこか同じなところはないかと思って空気の振動パターンを読んだんだけど、もうここまで来るとお手上げだ。
「念のために言っておくと、あたしたち完全に左右対称よ?」
「気が済むまで調べていいですけど、結果は目に見えてますからね?」
とのことなので二人の身体的な情報を聞いてみると、身長体重はまったく同じ(体重は教えてくれなかった。まあ当然だろう)。視力も佑鬼は右が1.9で左が0.5。佐羅はその逆。あとこれも教えてはくれなかったが、スリーサイズも同じとのこと。
いやまあ、これまでに調べた中で出てきたことのない家名だったから知らなかったけど、ここまでこればもうどんな家系なのかは分かる。あの鬼の血をひいてるな、これは。だとすると、単独で戦えるのだろうか?
「悪いんだけど、佑鬼と佐羅の家については何も知らないんだ。奥義関連の情報と二人で戦う時のレベル、一人で戦う時のレベル、そして知っておいてほしいこととかの辺りをメールで送ってくれ」
「はーい、了解」
「家的に外に出せないのは送れないですよ」
「それは分かってる」
そこまで言わせるのは軽い問題だ。鬼道の家にもいくらでもあったし、他の家にしても一つはあるものだろう。見ていて偶然知ってしまったり分かってしまうのはともかく、本人に言わせるのは本気で問題になる。
「とりあえず、明日寺西君に担当してもらう予定なのはこの四人と、雪姫さんの五人。あと何かあった時にどこかのサポートに入ってもらうかもしれないけど、それくらいよ」
「ん、了解。まあやれる限りやりますよ」
とはいえ、また面倒なのがいるんだよなぁ。前者二人はともかく、後者二人がなぁ。俺の想像通りなら、一人で戦わせるにはちょっと問題があるやつらだぞ?時間がかぶったりでもしたら、本当に最悪の展開になる。
ってかそれ以前に、なんで零厘に来たの?
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