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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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2ndA‘s編
  第十五話~最後の攻防~

 
前書き
前回のあとがきで嘘ついて本当にすいません。
早い投稿と言いながらこんなにも時間が空いてしまいました。

それと前話の冒頭部分が抜けていた事が発覚し、今回のアップと合わせて更新しておきます。
よろしければ前話も目を通しておいてください。

ではどうぞ。 

 

海鳴市・海上


 岩の剣山が生え、大地からはマグマが吹き出す。空を分厚く覆う暗雲と合わせ、その光景は終焉と呼ぶに相応しいものとなっていた。

「…………」

 そんな中、ただ空中で佇んでいる隻腕の白いマネキンのような存在があった。
 闇の書の防衛プログラムであるその人型は、間近に迫る自己の完成を静々と待つ。しかしその静寂は長くは続かない。
 人型に一番近い位置に存在する岩の頂上に一人の人間が立っていたのだ。

「引きずり出す」

 ただ一言の宣言。
 その声が届いたのかどうか定かではないが、声の主であるライ・ランペルージと虚ろな人型は向かい合う。

「蒼月、パラディン」

『『システム起動』』

 名前を告げられた二機がその存在を示すように返事をする。
 そして、それに合わせて排莢音と、空薬莢が岩に当たる澄んだ音が響く。その硬質な響きが最後の舞台の幕を上げるベルとなった。

「!」

 驚いたのは、それを見ていたアースラの人員か、それとも遠方からこの状況を確認しているなのはか、若しくはその両方か。
 起こった事は至極単純だ。
 ただ単にライがこれまで立っていた岩の剣に闇の書の人型が激突しただけである。しかしそれは人型の自らの行動ではなく、ライが引き起こした攻撃の結果だ。
 だが、そこに誰かを驚かせる要素があるとすればそれは、『人型がなにも行動を起こすことなく攻撃を通したこと』である。

『迎撃――――』

「させるか」

 半ばからへし折れた岩から人型が姿を見せる。次の行動をシステム音声で告げ始める瞬間、それを遮るようにライは短い言葉を呟いた。
 遠距離からの打ち合いであれば全く勝ち目が無い事はこれまでのやり取りで解りきっていた。例えパラディンがあったとしてもそれは変わらない。
 その為、ライが取れる手段はつかず離れずのインファイトであった。
 蒼月を待機モードにし、今は両手足にパラディンの装甲が展開されている。そしてその拳を握り固めるとライは拳を振るった。

「っ!」

『……』

 今度はあらかじめ展開していたのか、障壁が拳を阻む。その硬い感触にライの表情を苦悶に染めるが、プログラムである人型はそんな事を気にもとめずに、迎撃の為にライに向けて腕のパイルバンカーを突き刺そうとしてくる。
 一度自身を貫いたその先端を間近に視認することで、恐怖と不安が脳裏をかすめる。ほとんど反射的にライは殴っていない方の手でそれを自分の肉体と遮ろうとする。
 普通に考えれば鏃を掌で受け止めようとするのは、愚策以外の何ものでもない。だが、今回のライにとってはその限りではなかった。

「ぐっ」

 鏃が掌を傷つける。
 そう、普通であれば“貫通するところを傷つけただけで止まった”のだ。
 その原因はライが掌に握りこんでいたものにあった。ソレはパラディン用のマガジン。パラディン内に格納されていたものではなく、蒼月の方に格納されていた最後の一つである。
 鏃に貫かれ、内部の弾丸に亀裂が入り、カートリッジからは夥しい量の魔力が漏れ始める。

「つぅっ!」

 痛みに耐えながらライはへし折るようにマガジンを握りつぶす。ほぼ中央に穴が空いていた為にそれは異音を鳴らしながら拉げた。
 すると、内部の薬莢が火花を散らしたのか、それとも圧縮されていた魔力をとうとう抑えきれなくなったのかは定かではないが、カートリッジが魔力的な爆発を生み出す。
 瞬間的にマガジン内の弾丸六発分の魔力が辺りを満たし、それは密接していたライと人形を包み込んだ。
 しかし、屋外であるためその濃密な魔力はすぐさま霧散するのは自明の理である。
 だが、その一瞬がライの活路を生み出す。

「カートリッジ!」

 叫ぶように命令を発するライ。
 それに応えるよう、パラディンは構え直していた障壁で受け止められていた方の腕にヴァリスを展開、及びカートリッジの装填と排莢をほぼ同時に行う。
 そして“先の爆発させた魔力によって一時的に可視化された敵の全障壁”の中で一番密度の低い場所を正面に捉えられるように、ライはその特徴的な魔力による羽を震わせる。
 極限に近い集中により、自身の動きが遅くなっていると錯覚する程に、ライの視覚は緩やかな世界を映し出す。
 そして、人型に向けていた銃身が狙いである障壁の薄い部分が向いた瞬間、ライはヴァリスの引き金を引いた。

「このまま――――」

 言い終える前に、既にパラディンはカートリッジのロードを、そしてライはそれに合わせるように引き金を引いていく。そして障壁の薄かった箇所――――人型にとっては右斜め後方の下方側へと魔力弾が吸い込まれていく。
 初弾。着弾で障壁に亀裂を入れるが、その衝撃で銃口がずれる。修正。
 次弾。罅の入った障壁と魔力弾が対消滅を起こし、小さい穴を穿つ。
 次弾。障壁の穴を通り、人型に着弾。しかし魔力弾は抉り込むだけで起爆せず。
 次弾。少し角度を変え着弾。同じく起爆せず。
 次弾。また角度を変え着弾。同じく起爆せず。
 次弾。抉り込んだ魔力弾に着弾。起爆。

「弾けろ!」

 ライの叫びは轟音にかき消され、視界は白く塗りつぶされた。



アースラ・艦橋


 艦橋内はとても静かであった。もちろん、今現在の地球の様子や海鳴市の海上で行われている戦闘をモニターし、大型スクリーンで映像と音声を流しているため無音ということはありえない。
 静かなのは、言葉を発する人間がおらず、更に言えば先程まで動いていたはずのコンソールを叩いていた指も止まっているためそう錯覚してしまうのだ。本来であれば逐一状況を報告すべきオペレーター達や指示を出す艦長も、今はそのスクリーンに映る戦闘に引き込まれている。
 それほどまでに今のライの戦い方は既存の魔導師としてのスタイルからは逸脱している。
 純正ミッドチルダ式の遠距離での打ち合いではなく、ミッドチルダ式とベルカ式の混合術式。それに伴う近接空戦スタイル。
 今現在において、最新技術でありほとんど出回っていないはずのACSを“応用”したエナジーウイング。
 そして二機のデバイスを同時運用しそれを使いこなす本人の技量。
 今分かっているだけでもこれだけの突出した能力を見せつけるライ・ランペルージとは何者なのか?とアースラ内で、映像を見ていた全ての人間が思っていた。
 もっともミッドチルダ式とベルカ式のハイブリットやデバイス二機のシステム間の連携など、この時代においては未だ確立されていないモノについて、彼らは把握しきれていなかったが。

「艦長あのライって人は一体…………」

 恐る恐ると言った風にオペレーターの一人が訪ねてくる。もっとも言われた当人はそんなことはこっちが聞きたいと言う表情しかできない。

(どういうこと?あそこまで有能な魔導師ならば無名であることがありえない)

 リンディの一番の疑問はそこであった。本人の容姿もそうであるが、魔導師としてのあり方がとても目立つ彼の話は愚か、噂さえ聞いたことが無いことに違和感を覚えたのだ。
 管理局の人手不足は今に始まったことではないが、そのために人材収集をより多く行う為の広告塔にできそうな局員は率先してアイドルに近い扱いをしている。余談ではあるが、彼女の息子であるクロノもそれに近い扱いを受けており、最近では嘱託魔導師となれば高町なのはもそれに利用するという話もあるほどだ。
 話を戻すと戦闘はもちろん、交渉事などにおける強かさも持ちえる彼はそれこそ格好の素材と言える。それにも関わらず、本人曰く『後ろ暗い事情を処理するため表に出るわけにはいかない』と、公言こそしていないがそれに近い内容を遠まわしにではあるが言っており、ある意味で納得はできる理由ではあるのだが腑に落ちない点はいくつも存在しているのだ。
 泥沼になりそうな思考を中断することはせずに、リンディは一旦それを頭の片隅に追いやった。

「今は彼の事は二の次よ」

 『自分も気になっているのに何を偉そうに』と内心で思いながらも、彼女はオペレーター達に声をかける。
 それを皮切りに先程までスクリーンの映像に釘付けになっていた一同はハッとして、先程まで呆然としていた自身を恥じた。
 そして件のスクリーンには魔力弾の爆発による煙と崩壊した岩の剣による土煙から飛び出てくるライの姿が映し出されていた。



海鳴市・海上


 自身の攻撃が生み出した煙から逃げるように離脱したライ。その姿は、至近距離の爆発ということもありボロボロという言葉が適したものとなっていた。

「ハァ……ハァ……」

 たった数秒の攻防で息は上がりきっていた。極限に近い集中はそれだけライの精神的な疲労を大きなものにしているのだ。
 必死に息を整える中、背中で二発の撃発の音が鼓膜を揺さぶる。その音を聞くことで思い出したように、ライは六発打ち切ったパラディンのマガジンを新しいものと交換する。

(残りのマガジンは手付かずが二つ、今パラディンに装填したマガジンが一つ、エナジーウイングに装填したマガジンが四発ずつ使って残り二発ずつ)

 脳内で残弾確認をしながらも、ライの視線は目前の煙から離れることはなかった。
 初見でしか通用しない戦術であるとはいえ、できる限りの火力を叩き込んだ先の攻撃。全てを消し飛ばすことは無理でも、無傷ではないと思っているライの思考は決して叶わない願望の類ではない。
 しかし、人型が現れる前に煙から出てきたのは、砲撃魔法による弾幕であった。

「!」

 煌びやかにも見える光の奔流に対し、ライはほぼ反射的に回避行動を取っていた。
 その光が立て続けに放たれることで漂っていた煙はほとんど吹き飛ばされ、砲台となっている人型が現状を見せる。

「――――今一歩」

 上や下という概念が希薄な飛び方で、回避行動を続けるライはチラリと見えた人型の姿を確認し、そう呟く。一瞬ではあるが、胸のすぐ下のあたりから身体の殆どが脱落していた人型の姿をライは確かに確認したのだ。それは先の腕を切り飛ばした切断面と比べると、綺麗な平面ではなく、例えるのなら風化した粘土のように歪に拉げグズグズであった。

「だけど――――」

 少なくないダメージを与えられた事に内心で安堵しながらも、ライは呟く。そして、それに合わせるようにライは回避行動に合わせて、持っているヴァリスを人型に照準、発砲した。

「ッ!」

 一発のカートリッジの空薬莢と共に吐き出された魔力弾が、吸い込まれるように人型に向かう。直撃コースに乗っているその魔力弾はしかし、人型に当たる数メートル手前でその内包した魔力を霧散させた。
 着弾の光景の代わりに見えたのは、人型を覆うように展開された障壁。しかもカートリッジを使用した圧縮型の魔力弾が直撃したにも関わらず、小揺るぎもしなかったのだ。リミッターが付いていたとは言え、未来のエースオブエースの収束砲さえ引き裂いたその弾丸でそれなのだから、その障壁の強度は推して知るべしだ。

「……どうすべきか」

 魔力弾が弾かれたのではなく霧散したことから、その障壁が魔力的な防御に特化していると推測して物理的な攻撃なら通用する、と一瞬考えるがその考えは即在に否定された。
 先程から続けられる砲撃の衝撃により、人型の直下にある折れた岩から小石や土煙が舞い上がっているのだが、それらが人型を避けるようにしているのである。
 そのことから魔力的な障壁だけでなく、物理的な障壁も展開されていると見て取れてしまい、ライにとっては攻め手に欠く状態なのだ。
 彼の表情に苦いものが混じり始めた時、その声は頭に響いてきた。

『外にいる方!聞こえますか!』

 ライがよく聞く日本語とは、少し違うイントネーション。そして幼く女性と言うよりは少女といった声。彼にとって聞き覚えがあり、初めて聞くその声にライは同じく念話での返答を行った。

『聞こえる。君は誰?』

 我ながら白々しいと思いながらも誰何の言葉を送る。幸いにも苦笑しそうになるライの表情は念話の相手に見られる事はなかった。

『あ、通じた!えっと、今そこに夜天の、あ、茶色い本を持った娘がおると思うんやけど』

『夜天の書で通じる。あと、今丁度その本を持っている人型と交戦中だ』

『こうせ……あ、ああ戦っとるんやね』

 語彙が未だ乏しいのか、ライの言葉を理解するのに少しだけ時間を要した返答が返ってくる。それを聞いて、ライは自分の言葉を選ぶよう注意するために、少し気を引き締めた。

『私は夜天の書の主の八神はやていいます』

『僕の名前はライだ。君は何を伝えたい?』

 もう数えるのも馬鹿らしくなる程の砲撃を回避し続けながら、催促の言葉を送る。そこに少量の苛立ちの感情が紛れなかった事に内心でライは安堵した。

『えっとその娘を今、本来の娘やのうて違う娘なんです』

 事情を理解していない人間が聞けば理解できない言葉ではあるが、理解しているライにとってはある意味で解りやすい言葉であった。

『今から私が何とかしますんで、その娘をどうにかしてください』

 エナジーウイングから得ている推進力が弱まり始めたため、残りの魔力を一気に離脱の為に使う。そして夜天の書の索敵圏外に出ると同時に、地面を横滑りしながらもライは海鳴の地に着地した。

『僕と戦っている娘を倒せばいいわけだ。なるほど、伝えたいことは理解した。……そこに管制人格である彼女はいる?』

『え、あ、はい』

 ライが彼女の存在を知っていることにはやては驚きの動揺を漏らすが、なんとか返事を返した。

『彼女に伝えて欲しい。これから起きるのは主である君や、まして僕が起こした奇跡じゃない。管制人格である彼女が望み、そして手を差し伸べて欲しいと願った当たり前の希望の結果だということを。どんな過去でも、どれだけみっともなくても、それでもこれは自分が成した事だと胸を張れ』

 言いたいことを言い終えると、ライは確認をし始める。先の攻防でボロボロになった両腕を見下ろし、手を開閉させる。

(痛いけど十分に動く。パラディンの装甲に亀裂はあるが、動作に支障がなければ問題ない)

 回避と離脱により空になったエナジーウイングのマガジンを最後の予備である二つのマガジンと入れ替える。手馴れたもので、もう目を瞑ってもできる作業を手早く行っていく。

「…………満身創痍……かな?」

 戦闘準備というには、些かあっけないものであるがそれを終え、今の自分の姿を見下ろし苦笑しながらライはポツリと呟いた。

「しかし、貴方は行くのでしょう?マスター」

 独り言に答える声は首にかけたネックレスから。こんな時でも背中を押してくれる相棒にライは心からの感謝と肯定の意味を込め、バリアジャケット越しに一撫でする。

「夜天の書、か」

 ポツリと呟いた言葉に特に意図はなかったが、彼にとってそれはとても重い言葉となった。
 視線を向ける先には未だに上半身しか存在しない人型が、距離的な問題でかなり小さくなって見えるが確かに存在する。

「カートリッジ、フルロード」

「コンプレッション」

 十二発の薬莢がコンクリートの地面を跳ね、澄んだ音を響かせる。

「アクセルドライブ」

 始動キーを口にした瞬間、鮮やかなライトグリーンの羽が光を放つ。そしてその光は一筋の軌跡を残し、人型の索敵圏外に伸びていく。

「っ」

 後方に流れるどころか、飛んでいくように過ぎていく景色の中で、ライは歯を食いしばる。加速による肉体への負担が腹部の傷口からの痛みを増幅していく。飲み込みきれずに口から血液が溢れていく。
 傍から見れば気でも触れているのかと疑うようなコンディションの中、ライはしかしその顔に笑みを浮かべていた。
 索敵範囲に飛び込むと、再び壁のような弾幕が迫ってくる。
 だが、先程まで付かず離れずの距離を保つような飛び方を、彼はしなかった。

「――のっ!」

 弾幕の壁といっても多くの砲撃を多重に展開しているだけで、その壁には穴がある。その穴を通るため、ライはエナジーウイングの羽を動かす。
 かつて肩を並べて戦った紅い女性がしたように羽を纏うよう自らに包み、そして砲撃魔法の側面を掠めるように飛ぶ。高密度の魔力同士の擦過によりパラディンのフレームに高負荷が掛かるが、その甲斐あって弾幕の壁を抜けていくライ。
 砲撃を先と同じ方法で受け流し、小さい魔力弾は回避か若しくは叩き落としていく。

「まだ!」

 機械的な対応しかしてこない人型に感謝しつつ、ライは距離を詰めていく。向かう先である人型は今や固定砲台のように空中で佇んでいた。
 彼我距離が縮まる。手を伸ばせば届くと錯覚する。

(まるで月みたいだ)

 益体もない思考が脳裏を掠める。こんな状況でもそんなことを考えることができたのは、自分の目的に対するゴールが見えたためだろうか、と思う。

(限定接続)

 高速的な機動を続ける中、ライは思考操作で自分にとっての特別な札を切る。
 大分消費された自己の魔力が急速に膨れる感覚で満たされる。それはこもる様な痛みをもたらすが、目的のための代償と割り切る。

「コンプレッション」

 ヴァリスに装填された残り五発のカートリッジをロードする。圧縮された魔力はいつもの弾丸ではなく、砲身を纏うようにしてある形に結い上げられる。
 それはヴァリスを一回り大きく、そしてシャープにしたようなライフル。それはかつてゆりかごに置いて壁抜きを行った時の魔力の砲身と同じ原理で編み上げられたものだ。しかし、あの時とは明らかに違う。それは無骨さがなくなり、どこか工芸品や美術品を思わせる流線型となっている部分だ。
 魔力により、外側を一新されたヴァリスを構えることなく、ライは静かにその砲身にCの世界からの魔力を込めていく。

「バレット生成、シェイプオブ“ランス”」

 込められた魔力が一定量を超えると同時に、砲身が上下に分かれる。そしてその間に挟まるようにして一本の槍が生まれた。
 それはゆりかごの中でライが使用した魔力の槍に酷似していたが、あれよりも一回り太く力強い印象を見るものに与えた。

「最後だ、飛び込むよ」

「「イエス マイ ロード」」

 唱和の声とライが姿勢制御を行ったのはほぼ同時であった。
 動かない的に向け照準を合わせるのに早々時間はかからない。ヴァリスに装填された槍の切っ先が人型に向いた瞬間、躊躇いなくライはその引き金を引いた。

「っ!」

 打ち出された瞬間、ヴァリスの機構でも抑えきれない反動の為、構えていた両腕が跳ね上がり、ヴァリスの砲身の役割を担っていた魔力も粉々に吹き飛ぶ。その魔力の、光を放ちながら粒子のように辺りを舞う姿はどこか幻想的な美しさを演出するが、それに浸るような暇はない。
 放たれた槍は直進する。
 人型から放たれる収束砲や魔力弾を引き裂きながら、目標に到達するまでの障害のことごとくを跳ね除けながら。減速もせず進み続ける。
 そして最後の障害となる魔力障壁に到達した槍は、やっとその進行を遅らせた。
 障壁はその槍に内包された魔力を霧散させようと、そして槍はその障壁を食い破ろうとして拮抗する。槍はその大きさを徐々に萎ませていくが、それと引き換えに障壁の方には亀裂が入り始める。
 そしてとうとう障壁の許容量を超えたのか、槍は障壁を突き破りその切っ先が人型を捉えた。
 衝突までのコンマ数秒という距離。障壁によってその大きさを半分以下となってしまったが、それでも十分な量の魔力を内包した槍は、そのまま直進し――――

『ロック』

 人型が展開したバインドによりその動きを止められた。
 それは異常という一言に尽きる事象。魔力でできた弾丸を同じく魔力でできたバインドで拘束するというのは、高度な技術以前にまず不可能な芸当であるからだ。一歩間違えれば魔力どうしの干渉で炸裂するような防御方法など誰もやろうとしないのだから。

『索敵』

 短いシステム音声で人型がライを探している事を告げる。そしてその答えはすぐに表された。

「とった」

 バインドで止められた槍のすぐ後方。槍を追いかけるように飛ぶことで、ライは障壁の内部に潜り込んでいた。

『プロテ――――』

 障壁の内部に新しい障壁をはろうとした人型であったが、それよりもライの行動の方が早かった。
 構えたヴァリスの銃口を静止している槍に向け、その引き金を引く。ただそれだけ。
 そしてその単純な操作により打ち出された魔力弾は槍と接触する。

「『――――――』」

 人型が展開し直していた球形の障壁内で音が消える。
 その瞬間にライが感じていたのは、全身を突き抜けるような衝撃と、未だに腹部から這い登ってくる激痛であった。
 その爆発により、球形の障壁は風船のように破裂し、ライはその爆発によって撃ち出される弾丸のように海面に向けて急降下して行く。
 落ちていく中、爆発により眩んでいた目がかすかに写しこんだのは、吹き飛んでいく人型と空中に展開された白銀のベルカ式魔法陣であった。




 
 

 
後書き
ということで、劇場版では二人の魔法少女がブラストカラミティというメルヘン要素皆無な殲滅方法を行ったあたりまでです。

次回はみんな大好きフルボッコ回になると思います。



報告させて頂きます。
最近、体調崩し気味で学校の方も忙しいので、投降が不定期になると明言させていただきます。もちろん上げれるように執筆は続けさせていただきます。
読者の方にはご迷惑をおかけします。


この作品のご意見ご感想をお待ちしております。 
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