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いつか止む雨

作者:九曜 瑞
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高水鎮守府
  1.辞令

 伊道成宗(いどうなるむね)は、辞令を受け物思いに耽った。

 伊道成宗、32歳の少佐である、平時ならエリートとも言える階級であるが、深海棲艦の攻撃を受け物的資源、人的資源が困窮、20代前半でも左官と言うのが当たり前となっている。
 つまり、軍部にいる者の中では一般的な階級である。
 しかし、少佐と言っても今まで実戦経験がない。それは、深海棲艦には艦娘による攻撃しか現在通用しないので、実際に前線に立つことが出来る男性はいないという理由もあるが。
 ここでいう実戦経験とは、艦娘を直接指揮したことがないということである。

「前線での指揮……か」
「君は今まで軍令部にいたんだろ? なら作戦立案などは心配ないじゃないか」
 成宗は現地に着任の前、同じく新設鎮守府へ配属になる片山一郎(かたやまいちろう)少佐と共に教練を受けていた。
「そうは言うけどね、艦娘を実際部下にした時どう接するか悩んでいるんだ。君は艦娘学校の教師という立場だったから安心だろうけど」
「うん、彼女たちは兵士……むしろ兵器というような扱いをされているが、人なんだ。人と接するように向きあえばいい……、俺はそう考えているよ」
「なるほど、あまり構えないほうがいいのかな」
「ところで、作戦立案の注意点などご教授いただけないかな」
 そのまま二人は夜が明けるまで話し込んだ、仕事の話だけならず。
 
 その後、教練を受け高水鎮守府へと向かった。
 教練もだが、一郎との会話がいい刺激となり、自分の歩むべき道が見えた気がした。
 一郎に礼を述べたら、それはお互い様だと笑って返されたが。






「今日も、雨か。交通網が麻痺してないだけ良かったかな」
 成宗は鎮守府の最寄りまで鉄道を使い、歩いて向かった。
 少し早く着いたので、これから住む町を見つつ歩いてみようと思ったから。
「おや? あの子は……」
 鎮守府に到着すると、雨の中座り込んでいる少女が見えた。
 ここにいるということは、あの子が時雨かな。しかし何故こんなところに座り込んで……いや、草むしりをしているのか?
 しかし、ずいぶん外にいたような濡れ方だな、と思いつつ彼女に傘をかけてあげた。

「雨……やんだのかな?」
「風邪を引くよ?」
「えっ?」
 
 驚いている時雨に、上着を羽織らせつつ鎮守府の中へと向かった。

 この日の雨を、私は忘れることはないだろう。 
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