八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二十一話 古代の都からその十一
「格好いい筈がありません」
「そうなるんですね」
「かつて。こうした話がありました」
「現実のお話でしょうか」
「はい、友人のご子息があるゲーム関連グッズのお店に通っていたのですが」
その現実もだ、畑中さんはお話してくれた。
「そのお店の店員にオウム真理教のお話をしたところ」
「今はアレフの」
「はい、あの騒動が世を覆っていた頃です」
「まさにその時にですか」
「ご子息は大変になったと仰いました」
「その店員さんに」
「そうしました」
ここまではよくある話だと思う、親しいお店の人と世間話をすることは僕にもある。それ自体は本当に普通だと思う。
だが、だ。それでもだった。
「しかしその店員は」
「何と言ったのでしょうか」
「俺は権力に反対するのならいいと」
「権力に、ですか」
「そうです、国家権力にです」
その権力に反対するのなら構わないとだ、その店員さんは言ったというのだ。
「反対するのなら。オウムであろうともです」
「いいと答えたんですか、その人は」
「弁護士一家を皆殺しにし教団内部で粛清等を繰り返しサリンで二度も無差別テロ殺人を行いクーデターを目論んでいた」
それがオウムだったとだ、僕も聞いている。それだけ聞いてもとんでもない連中だったことがわかる。その頃僕はまだ生まれていなかったけれど。
「その様な者達をです」
「権力に逆らうならですか」
「構わないと言ったのです」
「何、そレ」
「馬鹿あるか?」
ジューンさんと水蓮さんは畑中さんのお話をここまで聞いたところでだ、その顔を顰めさせて嫌悪を出して言った。
「つまり権力に逆らう人間が何人殺しても構わなイ」
「そうとしか思えないあるぞ」
「殺された人の痛みをわからなイ」
「自分でそれを堂々と言ったあるか」
「そいつ馬鹿にしか思えないネ」
「それもとてつもない馬鹿ある」
「私もそう思います」
畑中さんも二人にこう答えた。
「その店員は相当な愚か者です」
「権力に反対するからっていっても」
ダオさんが言うことはというと。
「何でもしていいって訳じゃないでしょ」
「はい、それはならず者のすることです」
「オウムって色々やってたって聞いたけれど」
「子供を殺し自分達の邪魔になる人物の命を狙っていました」
「子供もなのね」
「そうです」
「そんな連中を権力に反対しているからいいって言ったのね」
「はっきりと、とのことでした」
「ダオだったらそんな奴ぶっ飛ばしてるわ」
気の強いダオさんらしい言葉だった、実に。
「すぐにね」
「そうされていますか」
「当たり前じゃない、そんな馬鹿叩き直さないと」
駄目だというのだ。
「他人の痛みをわかろうともしないって人でしょ」
「その通りです」
「それが馬鹿なのよ」
「正真正銘のですね」
「はい、私もそう思います」
「そうよね、そもそもオウムって権力握ろうとしてたでしょ」
「クーデターを起こし。無差別テロもその一環でした」
つまりオウムは権力に反対していたのではない、権力者になろうとしていたのだ。そしてその店員さんはそのこともわからなかったのだ。
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