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剣の世界の銃使い

作者:疾輝
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この世界での目標

74層迷宮区を、隠蔽(ハンティング)をかけながら駆け抜ける。何カ月か前に手に入れたローブをいつもの装備の上から着ているので、それなりに高い隠蔽(ハンティング)ボーナスが付いていて、そのお陰で、この辺りのモンスターは俺から手を出さない限りは、ほとんど看破(リピール)されることはない。あと、色が藍色に近いことからも、結構気に入っている装備だ。
それを存分に生かして、敵を避けながら迷宮区を進んでいく。何度かは戦闘になったが、とくに数も多くなかったので余裕で撃破できた。ひたすら奥へ奥へ進んでいき、ボス部屋前最後の安全地帯であろう場所で一息つくことにした。
安全地帯には俺の他に誰もいなく、俺はアイテム欄からミラージュスフィアを取り出し、ここに着くまでにマッピングしてきたデータを移していく。ミラージュスフィアは一度行った層の立体マップを開ける便利アイテムだが、それにマッピングデータを入れるとより詳しく分かるようになるのだ。

「この世界もあと四分の一か・・・・・」

これまでに俺がマッピングしてきたデータは膨大な量に上る。現在行けるもうほとんどのエリアには足を運んだし、そのおかげでマップデータはかなり埋まっている。
74層、もうそろそろ残りの4分の1まで到達しようとしている。それは俺の、いや藍椿での目標を成し遂げる時が近づいているという事だ。

「100層全ての場所のマッピング、前の俺もよくこんな事言ったもんだ」

藍椿では一人一人が目標を掲げて、それをほかの人が手伝い合って活動していた。そして、その中で俺が目標にしていたのが、全層のマッピングだ。この世界の隅々までを知り尽くしたい、そんな思いで掲げた目標だった。

「せめてラウ姐の分くらいは、残った俺が達成しないとな」

ラウ姐とリオンさんが死んでしまって、解散はしてしまった。それでも出来る事ならその願いは引き継いで行きたい。俺なんかが出来るかどうかは疑問だがな。

「さてと、あとひと頑張りしますか」

移り終わったのを確認して、ミラージュスフィアを仕舞い立ち上がる。隠密スキルを発動し、先ほどと同じように気配を隠しながら進んでいく。然程しないうちに、だんだんオブジェクトが《重く》なっていくのを感じる。余談だが、オブジェクトが重くなればなるほど、隠蔽(ハンティング)ボーナスが高くなる。そこまで便利なことでもないが、多少は速度を上げてもいいということだ。先ほどより速度を上げ、進んでいくと、予想通り鈍重そうな扉で行き止まりになっていた。この先にこの層のボスがいるのだろう。

「あー、好奇心は猫を殺すっていうしなぁ」

覗くか、覗かないか若干迷ったものの、結局俺は覗かないことにした。最前線ではどんな予想外なことがあるか分からない。一人で来ていることも考えると、ここで戻るのが賢明だろう。

「ラウ姐なら、迷いなく開けるだろうなぁ。そのまま部屋の中に突っ込んでいこうとして、リオンさんに止められて・・・」

もうあの二人はいない。理解はしていても、受け止められてはいない。これもラウ姐が仕込んだサプライズなのではないのか?あの時からもうかなりの時間が経っているのに、そんなこと考えてしまう位だ。未だにあの二人は俺の中に大きく存在している。

「やめやめ、こんなのガラじゃない」

ネガティブになってきた思考を無理やり中断し、もと来た道を戻り始める。頭の中で最短ルートを確認し、何度かショートカットを駆使しながら進んでいると、不意に前方から足音が聞こえてきた。
一人二人ではなく、多人数。それもかなり統制がされている音だ。不審に思って一度立ち止まり、索敵スキルをかけてみると、なんと二列縦隊でこちらに向かってくる十二人の集団を捉えた。
現在の最前線組では、まずこの人数では来ない。ボス戦は別として、ワンパーティで来るのが普通だ。次にこの隊列。実を言うとこの二列縦隊はあまりよくない。前方への対策はしやすいが、後方がおろそかになる。つまり、今こちらに向かって来ているのは、有名所のギルドではないだろう。少しだけ警戒心を高めながら、いくつか候補を考えていると、あちらの姿が視認できた。

「うぇ・・・軍じゃん」

集団の正体は、ある意味誰もが知っている存在だった。第一層を本拠地に構える、最も最大のギルド、《軍》。元々は、一番初めに100層攻略を謳ったギルドだったが、25層の時に甚大な被害を受けてもう今では最前線に出て来ることはないと思っていたのだが・・・。
こちらを発見した軍の連中の中の一人、多分リーダーであろう奴が合図を出して周りを休ませると、こちらに近づいてきた。

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中尉だ」

「アインクラッド解放軍?《MTD》じゃなかったのか?まあいいや。レイト、ソロだ」

軍というのは他のプレイヤー達が勝手につけた名称で、元々は《MMOトゥディ》、略してMTDだったはずだ。俺の言葉は無視してコーバッツがさらに聞いてくる。

「君はもうこの先も攻略したのか?」

「いや、ボス部屋の前まで行って戻ってきたところだ。あんた等みたいに、戦闘はほとんどしてない」

後ろで休んでいる軍の連中は、皆それぞれ疲弊した表情を見せていた。いくらレベルは高いといっても、実践での緊張感は別物か。ましてや、いつもとは違う最前線なんてのは。

「では、そのマップデータを提供してもらいたい」

「は?・・・・なぜ?」

「我々に君たちプレイヤーが協力するのは当然の義務だ!」

うーん、ここまで来ると傲岸不遜ぶりも見事というか。とはいえ、人がコツコツやってきたマッピングを渡せと。若干イライラしてきたが、表情を変えずに返答する。

「義務ね・・・。それじゃ、軍の人たちはどんな権利を俺らにくれるんだ?」

「この世界からの解放だ!そのために我々は戦っている」

解放ねぇ・・・。まあ、確かに言ってることは立派だけどさ。そろそろ俺も帰りたい。というわけで、対軍用の手札を一枚切ることにする。

「前にたった4人に負けたのはどこのどいつらだ?その程度で最前線に出てきて、言い散らすとはな」

「なっ、なぜそのことを知っている!?」

そりゃ当事者だしな。あんまりいい思い出でもないが、使えるものは使っておく。あれは珍しく俺らではなく、軍のほうから売られた物だったし、俺らに非は・・・・・うん、無いと言いたい。いつもは俺ら、というよりラウ姐が何か吹っかけてたのが普通だったし。

「それじゃ、シンカーさんによろしく言っといてくれ」

話を一方的に切り上げ、形だけの一礼をしてから立ち去る。一応の礼儀というやつだ。軍にはまた今度、ちゃんとした謝罪しに行かないとなー等と思ってたこの時は、この後のあんなことになるなんて思ってもみなかった。  
 

 
後書き
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