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(仮称)問題児たちと一緒に転生者が二人ほど箱庭に来るそうですよ?

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読み切り的な話

 
 
「〝審判権限(ジャッジマスター)〟の発動が受理されました! これよりギフトゲーム〝The PIED PIPER of HAMELIN〟は一時中断し、審議決議を執り行います。プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中断し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください! 繰り返します」


 辺り一帯に幾度も轟く雷鳴を発しながら、帝釈天より授かったギフト――〝疑似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)〟を天高く掲げるは、帝釈天の眷属にして、箱庭の貴族と謳われし、黒ウサギ。


「プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中断し―――え?」


 黒ウサギは最後まで言い切る事無く、呆然としながら空を見上げた。
 〝審判権限〟の発動が途中で止められた事、そしてギフトゲーム中でありながらも黒く輝く〝契約書類(ギアスロール)〟が、ペスト出現時とは比にならない程降りそそいできたからである。

 黒ウサギは慌ててその中の一枚を手に取り、内容を読み始める。
 黒ウサギだけではない、十六夜や飛鳥、耀の問題児たちも、〝サラマンドラ〟の新当主であるサンドラやサラマンドラのメンバーも、黒い何かの封印が解かれた白夜叉も、そしてこの場にいる面々に理不尽なギフトゲームを仕掛けたグリモグリモワール・ハーメルンの面々も驚愕し、慌てた様子でギアスロールを読み始めた。

 その黒く輝く契約書類にはこう書かれていた。


『ギフトゲーム名〝最終試練―Last Embryo―〟

  ・プレイヤー一覧
   ・現時点で箱庭の存在を知る修羅神仏、神格保有者、神族・仏門に属する者、先記の者等の属するコミュニティ、先記の者等と関わりのある全ての知的生命体。

  ・ホストマスター側 勝利条件
   ・全プレイヤーの屈服・又は殺害。

  ・プレイヤー側 勝利条件
   ・ゲームマスターを打倒。

  ・特殊条件
   一、身の潔白をホストマスターに示したプレイヤーはゲームから離脱出来る。
   二、審判権限(ジャッジマスター)を持つ者の参加を許可する。
   三、ホストマスターの許可があった者は、ゲームから離脱する事が出来る。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
 〝エルプシャフト〟連盟 印』


 そして町の中心にいきなり現れた三つの旗印。
 ギフトによる恩恵か、旗はそこまで大きくないのにこの場にいる誰ものがその旗を視認することができた。

 左側の旗は、中心に狼の顔があり、狼の顔に向けて多様な武器が周りに描かれている。
 中央の旗は、十六の異なる種族のデフォルメされた絵が描かれている。
 右側の旗は、杖に光を集めている魔法使いが描かれている。

 その旗印とギアスロールに押された印を見て、異世界から来た問題児たち以外の全ての者が驚愕し――恐怖した。


「ま、〝魔王〟だ……〝原初の魔王達〟が攻めてきたぞォォォォォォ!!」


 忽ちの内にパニックになる民衆。

 それは先ほどのペスト達、グリムグリモワール・ハーメルン出現の際の比ではなかった。
 封印が解けた白夜叉は、信じられないように突如現れた旗印を凝視しながら呟いた。


「バカな。あやつらが箱庭全土に向けて攻撃宣言? なぜだ……!?」
「冗談でしょ……」


 先ほどまで飛鳥に止めを刺そうとしていたラッテンも信じられないように呟いた。


「白夜叉、これは一体どういうことなの!?」


 飛鳥は怒鳴る様に、白夜叉に問いかけた。
 白夜叉は呆然としていたが、その怒鳴り声とも呼べる声を聞いて、ハッとした。
 そして飛鳥の問いかけを無視して、慌てて行動を開始した。


「おいおいおいおいおいおいおい、こいつは何の冗談だ!? よりにもよって〝原初達〟が箱庭全土を攻めるなんてよぉ!?」


 十六夜と戦闘をしていたヴェーザーは表情を険しくし、冷や汗を流しながらそう叫んだ。
 慌てた様子のヴェーザーを見て、十六夜は構えをとったまま、訝しげに思い口を開く。


「お前んとこのボスとは違う魔王なのか?」
「巫山戯んな! うちのボスはまだルーキー中のルーキーだぞ!? こんな黎明期の化物共なんかと比べるんじゃねえ!! 文字通り桁が違うわ!!」


 ヴェーザーは八つ当たり気味にそう十六夜に怒鳴り散らした。
 少しばかり焦っているヴェーザーを見て、益々疑問に思う十六夜。


「ッ! なに!?」
「おぅ!?」


 突如、ヴェーザーと十六夜の二人は先ほどまでとは違う場所に移動させられた。
 その場には険しい表情をした白夜叉、それにノーネームとサラマンドラの面々、ペストとラッテンもいた。


「無事であったか。そこの笛を持った悪魔も協力せい」


 白夜叉は十六夜が無事であったことに安堵し、ヴェーザーにそう命令する。
 不貞腐れながら白夜叉を睨むペストを見て、ヴェーザーは武器を降ろした。


「おい、白夜叉。こいつはどういう事だ?」


 十六夜は不完全燃焼な所為か、若干怒気を含ませながら白夜叉に話しかける。
 十六夜だけではなく、耀と飛鳥の二人とも怪訝な表情をしながら視線で説明を促す。

 十六夜達異世界組から見たら、辺りの光景は異様を通り越して異常である。

 マンドラを除くサラマンドラの者達が子供の様に怯えているのだ。サラマンドラだけではなく、その場にいる殆どの者達が怯えている。
 黒ウサギやサンドラすら顔を青白くして、恐怖で震えている。

 白夜叉は少しばかり早口で説明を始めた。


「この箱庭には数多の修羅神仏、魔王が存在しておる。この場に攻めてきたのはその中でも最強最悪の魔王達の内の二人だ」
「最強最悪の魔王? なんだよ、それ。そんなメチャクチャ面白そうな奴がいるのか!!?」
「バカモノ!! そんな悠長なことを言える様な相手ではないわ!!」


 最強最悪と聞いて、瞳を輝かせる十六夜。
 そんな十六夜に怒鳴り散らす白夜叉。

 白夜叉の剣幕を見て、事態が予想以上に悪いと理解する十六夜達。


「いいか? このゲームは絶対にクリアすることができない。それこそ、私が本気を出したとしても、だ」
「おいおい、どういうことだ? 契約書類を見る限り、クリア条件は確かに記されているし、内容は大分シンプルで簡単そうだが?」
「そう。ギアスロールだけを見るのならば、な。条件的にはだいぶ楽に見えるだろう。しかしな……」


 そこで一旦言葉を切り、そして一呼吸置いてから、異世界組には到底信じられない事を白夜叉は口にした。


「誰にも〝原初の魔王達〟を倒すことはできん」
「どういうことだ?」


 十六夜達は疑問に思う。
 確かにジャックの様に不死の怪物は存在する。しかし、不死だから勝てるというほど箱庭という世界とギフトゲームは甘くない。

 今回のルールを見る限り、例えゲームマスターが不死だとしても、全身を雁字搦めにして動けないようにすればプレイヤー側の勝ちだし、不死殺しの武器を調達して用いれば倒す事も出来る。最悪気絶させるだけでも勝ちだ。


「簡単だ。ただ単純に〝原初達〟は強い。それこそ、修羅神仏を始めとする強大なギフトを所持するあらゆる存在が倒せないほどにな」
「っ! それじゃあ……」
「そう、ギフトゲームはクリアする方法さえあれば、参加者の力不足は考慮しない」


 ギフトゲームは攻略するために無理難題を押し付けるゲームが存在するが、参加者側の能力不足・知識不足を考慮しない。
 クリアするのに空を飛ぶ必要があるが飛べないときは、空を飛べないのが悪い。不死を殺せないときは、殺せないほうが悪い。

 例え修羅神仏の様な強大な存在が打倒出来ない様な、そんな理不尽な存在であろうとも、ギフトゲームにおいては倒せない方が悪いのだ。

 故に最終最後。だからこその絶望。
 人類だけではなく、この世界に生きとし生けるもの全てに対するクリア不可能な無理難題。
 それこそがこの箱庭で最強最悪と恐怖される〝魔王達〟のギフトゲーム(試練)なのだ。

「箱庭の黎明期、〝魔王達〟は修羅神仏や神獣、幻獣に最強種を含めたありとあらゆる強大な存在を降し、或いはその存在ごと破壊することでこの箱庭を駆け昇って行きました。クリア条件はあるのに決してクリアできないギフトゲーム。このギフトゲームで敗れて往った神仏達はいつか彼等をこう呼んだそうです。―――〝魔王〟と」
「彼奴等が〝魔王〟と恐れられて以降、主催者権限を悪用する者は畏怖と恐怖を籠められて〝魔王〟と呼ばれるようになった」


 箱庭において魔王とは天災。文字通りの災害なのだ。どっかの白い真砲少女や兎の渾名とは違う。
 この箱庭に『魔王』という名を創り出し、広めた存在。それこそが今回の〝原初の魔王達〟だ。


「かの〝原初達〟が属する連合コミュニティの名は〝エルプシャフト〟。上層一桁、零番外門にコミュニティを構えておる。人数詳細は誰もわかっておらんが、二十前後のコミュニティが一つの連盟を組んだモノが〝エルプシャフト〟だ。連盟を組んだ各コミュニティのリーダーと一部の幹部達は、それぞれが少なくとも私十人分の実力以上を持っていると考えてよい。各コミュニティのリーダー等は全員揃って人類最終試練(ラスト・エンブリオ)の様なものだからな。旗を見るに、連盟コミュニティ全てが動員されていると断言できる」


 その言葉を聞いて、十六夜達に緊張が奔る。

 この箱庭は全部で七層の巨大なバウムクーヘンの様な形状になっている。五桁を中層とし、六桁以下を下層、四桁以上を上層と呼ぶ。しかも、上層からは桁一つ違うだけで別次元とも言える力の差が存在する。

 例え五桁で最上級クラスの力を所持する者でも、四桁に昇格することは困難通り越して不可能と言っていい。
 階層支配者(フロアマスター)の様に最強種の後ろ盾でもない限り、昇格する事はほぼ不可能である。それこそ、相応の〝功績〟か、大規模な〝歴史の転換期〟でも起きない限り。

 一桁、それも零番外門に居住を構えているという事は、それは箱庭で敵う存在の居ない無敵かつ最強のコミュニティという事に他ならない。

 加えて、低く見積もっても白夜叉の八倍以上の実力を持つ者が少なくとも二十人。
 人類最終試練(ラスト・エンブリオ)が何なのかは理解し切れていないが、箱庭に呼び出されたその日に白夜叉の実力の片鱗を見た十六夜達異世界組は絶対に適わない事を悟る。


「しかし、何故こんな入り組んだルールかつ対象が外にまで向けられたゲームを仕掛けた? 傘下のコミュニティもプレイヤー側に入っておるのだが――」
『……なに、少々キナ臭い噂を美猴王に聞いてな』


 白夜叉の疑問に答える抑揚のない声。
 全員が声のする方向に向くと、そこに〝魔王達〟は存在した。
 蒼い(ひかがみ)まで伸びた長髪に仮面を着けた和装の者と、黒髪紅眼で黒いジャージの様な和服を着た者。
 二人の魔王の衣類の胸元には突如現れた旗印と同じ紋章が刻まれていた。


『……現在封印中の〝絶対悪〟――アジ・ダカーハ。……彼の霊格が、オレ等を除く現存する神群では太刀打ち出来ない程に高くなっているらしい。……故、既存の人類史を見切り、切り捨てる事を上層の駄神仏共は決定した。……そして、新たに箱庭を作り出し、この箱庭に在する、オレ等を含む全ての人類最終試練(ラスト・エンブリオ)を五桁以下の住民・コミュニティ・生物諸共消滅させようとしている。と』
『これだけではどれ程の神仏がそんな事を企んでいるのか分からない。故に俺達は分担して各階層を回ってる訳だ。下層は俺と飛鳥、中層は士織と渚、四桁は鴛鴦、三桁はズェピア、三十以下の二桁は迷彩、キラは留守番でそれ以外全員が外の配役でな』


 と、事務報告でもするかの様に話す〝魔王達〟――飛鳥とフレメダ。
 その話に衝撃を受けたのは他でもない、白夜叉であった。 白夜叉は、先程とは違う意味で青白くなっていく。
 反射的に荒らげそうになった声を如何にか呑み込み、口を戦慄させて問いを投げた。


「ど……どういう、ことだ」
「……白夜叉?」


 白夜叉の震えた声に、疑問符を浮かべる十六夜達。
 だが、白夜叉も飛鳥もフレメダも、十六夜達の疑問に答えることはなく、飛鳥は白夜叉の内心とは関係無しに、無慈悲に問いの答えを口にした。


『……言葉通りだ。……既にアジ・ダカーハの霊格は上層の駄神仏を凌ぐ程高くなった。……自分達の手に負えない、かと言ってオレ等に頼むのも屈辱だったんだろう。……故に、箱庭新設を決めたようだ』
「……な、」


 無慈悲な宣告に白夜叉は言葉を失った


「ま、待て。三年前は人類史にも救済の余地ありとの結論だったはず。なのに何故だ? 何故こんな急に結果を急く事になった? 上層の〝地域支配者(レギオンマスター)〟の過半数の承諾が無ければ新設は受理されぬ筈だぞ!?」
『さて、な。大体、美猴王曰く、当時はそこのウサギの属するコミュニティが健在だったし、今は居ない主力メンバーも健在だった。人類史の完成も見えていた。今とはまるで状況が違うらしいって訳だ。
 だが現状はどうだ? 金糸雀もクロア=バロンも考明も天狐も居ない。その上〝アルカディア〟の旗と名はどっかの魔王に奪われ、現在のメンバーは金糸雀の義息子と考明の娘に〝威光〟を持つ娘、レティシアとウサギにリーダーのジン、その他ゲームに参加出来ない子供が百二十の計百二十六人。
 大体、こんな悲惨な状況だ。上層の駄神仏が三年前の決定を覆すのもわかるって訳だ』
「だ、だが!?」
『あぁ、白夜叉が言いたい事も思ってる事も解るよ。結局、だから俺達は駄神仏共を掃除する為に箱庭の存在を知る駄神仏やそれらと関わりのある者全てをプレイヤーにしたって訳だ』
「し、しかし、何もおんし等が動く必要は……。それこそ、アジ・ダカーハ封印が解かれたとしても、天軍を派遣すれば……」
『結局、封印が解かれた時に天軍や上層の修羅神仏が征伐に向かうなら俺達はこんな事なんかしないって訳だ!!』


 と、白夜叉の言い分を途中で切り、吐き捨てるように言い放つフレメダ。その表情は嫌悪感に染まっており、飛鳥は仮面で表情は伺えないが、不機嫌な雰囲気を醸し出していた。


「ま、まさか……仏門も、なのか? 仏門までもが、下層を見捨てたというのか? そうなのか、飛鳥ッ!!!」
『……ああ。……帝釈天や日本神群、その他各神群のトップと一部上位の神達。……それら以外はほぼ全てが箱庭新設派だそうだ』
「ふ――ふざけるなァッ!!!」


 途端、白夜叉の姿が幼い少女の姿から妖艶な美しい女性に変わる。そして白夜叉の激怒の一括は路地に亀裂を生み、家々の窓や壁に数多の傷を残しながら一帯を駆け抜ける。その際に発生した激風に煽られ、蹌踉めくノーネームの面々とペスト一派。サラマンドラのメンバーは吹き飛ばされた者も少なからず居た。

 鬼気迫る神気を放ち、銀の髪から陽炎を立ち上らせて逆立てる。眼光は金から落日を彷彿させる赤に染まっていく。
 そこに、温厚だった彼女の面影は無い。


「……仏門に降ったのは、仏門の正義を信じたからだ。そしてそれに従い、私は箱庭の安寧を守ってきた。――――決して、決して全てを守れたわけではない。然しだからと言って、上層の神仏の都合で下層を見捨てる義理は無いッ!!!
 ああ、そうだの。いっそ立場も何もかも投げ捨てて暴れるのも一興。今の話を聞き、馬鹿馬鹿しくて腹に据えかねた。
 応よ、百万でも億千万でも相手をしてやろうではないか。今こそ白夜は極夜の帳と成りて星の光諸共世の全てを呑み込んでやるわ……!!!」


 美麗だった銀の髪が、夜の帳を彷彿させる昏き闇を放つ。

 極夜――白夜の対極に位置する太陽運行を指し、夏至の頃の南極圏や冬至の頃の北極圏に見られる〝太陽が昇らない〟現象を意味する。
 白夜の星霊であり夜叉の神霊であり太陽主権を14も保持している。太陽運行を司り、夜の帳をも支配する事も出来る。太陽神でありながら夜を支配できる事から、太陽神殺しに特化している。
 黎明期に〝天動説〟として全ての宇宙観に君臨していた頃には届かない。が、その神威は未だ計り知れない。
 神々としての神威と魔王としての王威。その二つを生まれながらに手にして発生した星霊最強個体・箱庭次席第一〇番。それが彼女、〝白き夜の魔王(白夜王)〟こと白夜叉である。


「疾く退け、黄泉軍、座。おんしらを相手している場合では無くなった」
『……少し落ち着け、白夜叉』
「これが落ち着いていられるか! 邪魔をすると言うのなら例えおんしらが相手でも――」
『……落ち着けと言っている。……少し頭を冷やせ、白夜王』


 と、言霊に氣を上乗せし、威圧するように喋る飛鳥。それだけで白夜叉から漏れ出していた闇や神気、王威といったモノが霧散する。
 威圧された白夜叉は数秒間体を硬直させ、白夜叉が硬直から復活する前に飛鳥が口を動かし、何かの詠唱を始めた。


『……黒白の(あみ) 二十二の橋梁 六十六の冠帯 足跡(そくせき)・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ。……縛道の七十七 天挺空羅』


 片手を前に伸ばし、詠唱が完了すると同時に、片手と掌の更に先の空間に紋が現れた。そして、そのまま飛鳥は更に口を動かした。


『……ヘレン。……やはりと言うべきか、下層に居た白夜王はこの事を知らなかったぞ。……如何する?』


 空を向き、ソコソコの音量で独り言の様に話し出す飛鳥。飛鳥が話し終えて十秒程してから、空から声が響いてきた。



 ――どうするもこうするも、白夜王は身の潔白をお前に示したのだろう? だったら取り敢えずゲームから外れるんだ。引き込むかどうかはお前の判断に任せる。コチラは今し方帝釈天を筆頭とする箱庭新設反対派の神仏を引き込んだ所だ。鴛鴦から七天大聖の引き込みが終了したと知らせもあったし、三桁でグリムの詩人を見つけたから遊興屋(ストーリーテラー)として雇ったとズェピアから連絡があった。五桁で殿下達を引き入れたと士織と渚から知らせが来ているし、外は粗方潰し終えて残りを虱潰し中だとフラン達から連絡を貰った。お前達も何人か引き入れても良いと思うぞ? あぁそれとな、ゲーティア主導で魔神柱達が軽く煽ったら簡単に新設派の駄神仏共が一箇所に纏まってくれた。普通に億千万より多く集まったらしいが、戦力整えたら鏖殺の時間だ。



 それで声は聞こえなくなった。そしてその声が聞こえなくなると、飛鳥の手と空間から紋が消失した。飛鳥は、紋が消えたのを確認すると、白夜叉の方を向き、声を掛ける。


『……だ、そうだ。……どうする? 白夜王。……各所の実力者達に声を掛け終えたら一ヶ所に纏まった駄神仏共の根城に殴り込みを掛ける。……お前の判断に任せるが、手伝う気はないか? なに、神格を返上したところで、事が済めばオレ等が新たに授けてやるよ』


 悪徳商法の如き発言である。特に最後。しかし、白夜叉からすれば耐えられるか微妙な所の甘言であった。
 神群を相手取るには神格を返上しなければならない。神格を返上すれば、黎明期(ぜんせいき)の頃と同等とまでは行かなくとも、それに近しい実力を発揮できるが、代償として仏門の後ろ盾が無くなる事で階層支配者から退かざるを得なくなり、本来の階層(少なくとも四桁より上)に戻る事を余儀なくされる。それはノーネーム(黒ウサギ達)に会えなくなるのとほぼ同義であり、黒ウサギにセクハラする(自身の欲求に素直に従う)事が出来なくなるのである。それは彼女とて嫌であった。

 しかし、その葛藤の最中に飛鳥の神格くらい幾らでも与えてやる発言。
 その発言を聞いて少しした後、白夜叉の腹は決まった。


「…………相、分かった。おんしらに協力しようではないか。
 ふむ、こうして見るとワクワクするな。飛鳥達が居る時点で絶対勝利なのは確定的に明らかであるが、億千万の数を相手にするのも久しぶりだ。今からが楽しみだの♪」
『……わかった。……あぁ、白夜叉がゲームから外れるんだ。……ならグリムグリモワール・ハーメルンも、ノーネームも、サラマンドラもプレイヤーにしておく意味は無いな。……外しておこう』


 と、聞き手の受け取り方によっては小馬鹿にしてるような言動を取る飛鳥。そして案の定、聞き手の逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀の三人がカチンと来たようだ。


「…………今のは俺の聞き違いか? 俺には『お前ら弱いしどうせ何も知らんだろうから見逃してやる』って遠回しに言ってる様に聞こえたンだが」
「奇遇ね十六夜君。私にもそう聞こえたわ」
「……私にも、そう聞こえた」
『? ……何を当たり前な事を言っている? ……お前ら全員弱いではないか』

「ちょ、ちょっと待ってください黄泉軍様! 確かに十六夜さん達は白夜叉様には及びませんが、それでも主催者(ホスト)が推奨するだけの〝ギフト〟を保持しているのでごさいますよ!?」


 飛鳥の包み隠さない言い分にブチギレそうになり、飛び掛りそうになった十六夜達。しかし、十六夜達が飛び掛かる前に黒ウサギが大声で割り込んで来た。
 その黒ウサギの言に、フレメダが答えた。


『どこの主催者が勧めたかは知らんし、知ろうとも思わん。まあ、確かにそこの三人は人類最高クラスのギフトの持ち主だ。が、結局、飽く迄も人類最高クラス止まりって訳だ。確かに、磨けば光る物はある。だが磨かれる環境も、磨く人材も無い。磨かれていない宝石の原石なんて誰も欲しがらんぞ?
 いいか? まず一桁0番(おれら)七桁2105380番(おまえら)では大前提として住んでいる次元が根本から違う。
 刃物を使わず、手刀で鋼鉄の塊を両断できるか? 受けたダメージを流動させて体外に放出する事は? 殺気だけで生き物を殺す事は? 百倍の重力が掛かっている状態で普段通りに動き回る事は? (クシャミ)で森林を吹き飛ばす事は? 絶対零度の世界の気温を一時間シバリングしただけで24℃まで上げる事は? 輪ゴム1つで人体を真っ二つにする事は? 四肢欠損する程の重傷を瞬時に回復する事は? 体を十六分割されて生き返る事は?
 その他凡そ凡夫やそれこそ人類最高クラス止まりの輩では到底不可能な所業を2桁以上の種類体得出来て初めて一桁に来れるんだ。結局、白夜叉封印するゲームメイクしたり、アルゴールに石にされたり、仲間を頼る事が出来ないといった輩なら四桁に行けばゴロゴロ居るって訳だ。少なくとも、二桁上位に居る存在の大半は本気の白夜王とタイマン張れるンだわ。
 〝威光〟? その程度の恩恵(ギフト)、派生品だが五桁辺りからはゴロゴロ存在する。〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟? あんな使用者例外無く合成獣(キメラ)になり、且つ使えば使う程異形の化物に成って行く恩恵、四桁辺りに住む鷲獅子系統の獣共は軒並み持ってる。〝正体不明(コードアンノウン)〟はなんとか上層でも通用するだろうが、通じたとしても三桁の中盤迄だろうな。
 長々話したが、結局、今のお前等ではどれだけ頑張っても精々四桁の最底辺がいいところって訳だ』

「…………言ってくれるな。だったらどれだけ差があるのか見せて貰おうじゃねぇか、魔王さま!! クロア=バロンや金糸雀の名前が出て来た理由も気になるしなぁ!!!」


 そう言うや否や、十六夜は第三宇宙速度で飛鳥に飛び込むと、その速度のまま拳を放つ。
 辺り一帯に莫大な衝撃と破壊をまき散らす十六夜。しかし―――

『……やはりこの程度か。……くだらん』

 ―――飛鳥には効かなかった。並みの神仏ですら抗えない十六夜の拳を、衝撃波一つ出さず人差し指一本で受けきったのだ。
 そして飛鳥はゆっくりと、十六夜の拳を止めた手とは逆の手の人差し指を十六夜に向ける。悪寒がした十六夜はその場から全力で後退した。


 刹那――――

「……な!!?」

 ――――飛鳥の指から極大の光線が放たれ、その射線上に在ったあらゆるモノを塵一つ残さずに破壊した。
 綺麗な街並みも、町に温かさを与えていたペンダントランプも、サラマンドラの宮殿もその後ろに存在する火山も、光線の過ぎ去った後には何も残されていなかった。


『……北郷流気功術より抽出、尽ノ形『星光壊滅波』。……安心しろ。……今死んだとしても、ギフトゲームが終われば全て元通りだ。
 ……さて、如何に傘下コミュニティのメンバー(・・・・・・・・・・・・・)といえど、如何に盟友の後継といえど、神仏狩り(ギフトゲーム)の邪魔をすると言うのなら、容赦無く叩き潰してくれるッ―――』






 飛鳥とフレメダは足をやや交差させて幅狭く立ち、両腕をゆっくり下げ広げだした。
 何処ぞの世界でも宇宙の帝王が好んで行う、まるで相手を包み込み抱き入れるようなノーガードの姿勢。

 己等の武威を示すかの如く〝 敢えて無防備な態勢〟を摂ると、篩と言わんばかりに自身等の持つ力の一部を解放する。
 近くにいるだけで消し飛ばされそうな力の中心に、一桁零番に相応しい力量を持つ、ペストとは比較にならない程強大な〝死〟が、鎌首をもたげ存在していた。






『―――怯えろぉ! 竦めぇ! 自身の力を活かせぬまま、己が目的を果たせぬまま、死んでいけぇッ!!』

 
 

 
後書き
 最後の二人のポージングはフリーザがよくやるポーズを浮かべておけば大丈夫。

 因みにこの後十六夜達は手抜きと慢心を手心と手加減で練り込んだ位手を抜かれた状態の飛鳥とフレメダにボコボコにされた後、白夜叉に連れられてキラ達と邂逅し、箱庭消滅を目論んだ修羅神仏悉く鏖殺案件の証人になってプライドやらなんやらがバッキリ折れた後、傘下のコミュニティって事で修行を付けてもらって三桁くらいまでの実力を身につけます。道中で殿下と邂逅したり七天大聖達と仲良くなったりしますが、些事です。この時点で原作なんて無いようなものだからね。仕方ないネ。
 
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