ボスとジョルノの幻想訪問記
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主人公の資格 その①
ボスとジョルノの幻想訪問記18
あらすじ
紅魔館へ向かう途中のジョルノと妹紅を襲ったのは光の3妖精と氷の妖精の4人だった!
苦戦しながらもジョルノの機転や妹紅の勇気によりこれらの障害を乗り越えることが出来た!
その後チルノは無駄無駄ラッシュをされ、3妖精は鋭い痛みがゆっくりやってきて再起不能へ!
* * *
ボスとジョルノの幻想訪問記 第18話
主人公の資格①
3妖精を倒したジョルノはすぐに妹紅の死んだ場所に戻ってくると。
「・・・・・・その様子だと倒したみたいだな」
藤原妹紅が茂みに隠れていた。
「・・・・・・何やってるんですか。もしかして『うん・・・・・・」
と、ジョルノが恥も臆面もなく妹紅にとって恥ずかしい言葉を言い放とうとするが、当然のことながら妹紅は言わせない。
「んなわけねえだろォォォーーーーッ!! 服まで全部燃えちゃったんだよォォーーーッ!!」
「復活キャラのくせに衣服は再生不可なんですか・・・・・・。いや、まぁ普通はそうなんでしょうけど」
ジョルノはため息をついた。だが、妹紅が復活をし終えているという事実は同時に嬉しくもあった。それは無事五体満足で帰ってきたジョルノを見た妹紅にとっても同じことだ。
「「とりあえず、良かった」」
二人は同時にそう言った。
「・・・・・・で、ジョルノ。ちょいと頼みごとがあるんだ」
「何ですか? 僕の服は貸せませんよ。言っておくけどこの下には何も・・・・・・」
「いや、何でだよ!! 『も』ってなんだよ、『も』って!」
「――――と、悪ふざけはここまでにしましょう」
ジョルノは首を振った。
いやいや、お前が言い出したんだろう。
そう思わずにいられない妹紅を差し置いてジョルノは『ゴールドエクスペリエンス』を出して地面を殴った。
その地面からは次第に大きな大きな葉っぱを付けた樹木が生まれたのだ。ジョルノは特に何も言わずその葉っぱを2、3枚取って『GE』に器用に編ませる。
「・・・・・・おい、ジョルノ」
「何ですか。ちょっと集中してるので話しかけないで下さい」
「・・・・・・いやお前の優しさは・・・・・・まあ分かるんだけどさ」
と、ジョルノは完成品を妹紅に手渡した。妹紅の手には『葉っぱ』。
「私に密林の王者にでもなれと言うのか?」
葉っぱの服である。ちなみに、葉っぱの服は古くは原始時代にもあったいわゆる貞操帯の一種であり、男性ならば下半身を。女性ならば上半身の一部と下半身を隠すための・・・・・・。
「いや、その説明はいいんだよッ!! お前っ、これっ! こんな恥ずかしいの私に着れっていうのかッ!?」
「ぐだぐだと文句が多いですね・・・・・・じゃあ全裸で行きますか? 僕は全然構いませんよ」
「構えよッ! 私がちょっと悲しくなるだろ!」
妹紅は涙目ながらに訴える。だが、これ以外に方法も思いつかないので――――。
妹紅はいわゆるアマゾネスになった。
葉っぱ自体の大きさは申し分ないが、やはり粗末なものである。つまり、彼女の体を隠している面積が少ない。妹紅の体のラインをはっきりと浮かび上がらせ、慧音や永琳ほどではないにしても大きな胸がはっきりと分かる。また、お尻も彼女の輪郭に沿って丸みを帯びた美しいシルエットを描き、太股は彼女が内股で恥ずかしさを堪えているのも相まってかなりエロい。彼女の全身――――手の指の先から足の指の先まで、その白い雪のような肌がまるで人外のような荘厳ささえ感じられるようだ。さらに、その肌の白さとは対照的に、妹紅が顔を燃え上がるほどに真っ赤にしているのも興奮をそそる。普段は見せないその弱々しい表情から一筋の涙がこぼれていた。
「・・・・・・ジョルノ、人里に寄らせてくれ・・・・・・。服を買いたい・・・・・・。たのむから、あの・・・・・・私、これ、無理・・・・・・」
妹紅は恥ずかしさの余りぷるぷると震えながらジョルノに懇願した。
こんな姿を里の男たちに見せたら一体どうなってしまうのか・・・・・・。それはもう、薄い本が厚くなることだろう。
「・・・・・・その格好で人里行くとか正気じゃあないですね」
「ぶっ殺すぞ」
まぁ、妹紅が殺意を振りまきながら歩けば、そんなことは万に一つも起こらないだろうが。
* * *
アマゾネス妹紅の案内によりジョルノたちは人里へと到着した。ちなみに人里への入り口は2カ所あり、両方とも簡易的な関所が存在する。
「こんにちはここを通るには簡単な・・・・・・って、ええ!? な、何その格好!? 変態ッ!?」
「うるせええええッ!! ぶっ殺されたいのかテメェーーーーッ!!」
「ブッコロスゾコラァァァーーーーーッ!!」
ジョルノの後ろに隠れていた妹紅だったが、案の定関所の役員にそう言われて『スパイスガール』も一緒になって怒鳴り散らした。もちろん、役員に『スパイスガール』の罵声は聞こえないのだが、妹紅一人の声だけで十分だった。
「ひぃッ!?!? ご、ごごご、ごめんなさいいいいッ!!」
関所の役員は突然の殺意の篭もった妹紅の叫びにビビり職務を放棄して詰め所の中に閉じこもってしまった。
「・・・・・・通っていいってよ」
「絶対そんなこと言ってないですよ」
妹紅は変態呼ばわりされたことを気にしているのか、少し泣きそうだった。とはいえジョルノにそんなことは関係ない。何一つフォローを入れずに関所を無許可で通っていった。
ざわざわざわざわざわ・・・・・・
当然、関所付近の人通りは多く、妹紅の姿は一気に注目の的になる。
「えっと、妹紅・・・・・・まずは服屋さんに向かいましょう。お金は持ってませんが、僕が何とかします」
「・・・・・・み、みんなの視線が痛い・・・・・・」
「・・・・・・ほら、さっさと行きますよ」
ジョルノは一歩も動こうとしないアマゾネス妹紅の手を引っ張ってすぐ近くの呉服店をのぞき込む。
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい。って、八意さんとこの新人君? 今日は薬頼んでないけど・・・・・・」
店に入るなり、店長のおばちゃんが話しかけてきた。ちなみにこの店は彼が鈴仙と数回薬の訪問販売で訪れたことのある店だった。
「はい、えっと今日は普通に買い物です」
そう言いながらジョルノは妹紅の手を引いて店に入った。
「うう・・・・・・も、もうイヤだ・・・・・・はやく・・・・・・うう・・・・・・」
妹紅は放心状態でぶつぶつと呟いている。
「はぁ。新人君に似合うような服は店にあったかねぇ・・・・・・って何その子ッ!?」
おばちゃんは棚の商品を整理していたため妹紅に気がつくのが少し遅れた。
「うるせええええェェッ!! もういいだろ! 何回同じリアクションさせるつもりだコラァァーーーーッ!!」
「えぇっ!? ご、ごめんなさい・・・・・・??」
おばちゃんは突然の妹紅の怒声に驚き、とっさに謝った。
「妹紅、もうお店ですよ。静かにしてください」
ジョルノは妹紅を窘めながらおばちゃんの方に向かった。
「えっと、僕は服についてはよく分からないんですが、この人に似合う服が欲しいんですけど」
ジョルノの言葉に呉服屋のおばちゃんは「ぽん」と手を叩き。
「あぁ、そういうことね。それだったらいくらでもあるわよ? 値段とか考えないなら、一番似合うを繕ってあげるよ」
「値段・・・・・・そう、値段なんですが、僕たち今お金を持ってきてないんですよ」
「ありゃ」
おばちゃんは「困ったねぇ」という顔をした。
「流石にお金がないんじゃ売れないよ」
当然の答えだった。いくらこちらが困っているといってもあちらも商売である。
妹紅が『どうするのよジョルノ』とジョルノの脇をつつく。だが、もちろんジョルノが何も考えずに無一文で服屋に来る筈がない。
ジョルノは「そう言うと思って・・・・・・」と、いつの間にか妹紅の足下にあった桶を取り出す。それには布が被せてあり中に何かが入っているようだった。ジョルノはカウンターに持ち上げて中身をおばちゃんに見せた。
「『これ』と交換でどうですか?」
「おぉ!? あ、あんた一体どこで『これ』を・・・・・・!?」
「永遠亭で僕と鈴仙で育ててるんですよ。これ全部を渡すと残りは殆ど無いんですが、この際ですから全部あげます」
「ちょっと、一体何を渡してんだよ・・・・・・」
妹紅がその桶の中身を見ると・・・・・・。
「うっ!?」
「こんな大量の『蚕の繭』・・・・・・育てるの大変だったんじゃないの?」
そこには妹紅が引くくらい、桶に大量に詰められた『蚕蛾の蛹の繭』だった。幻想郷では絹の材料になる繭は超高級品(まだ養蚕業が盛んではないため)。呉服屋のおばちゃんからすればこの店の最高級品を売ってもお釣りが来るくらいだった。
「あなたの言うとおり、確かに大変でしたよ。でも、全て妹紅の服と交換します」
ジョルノはまっすぐとおばちゃんの目を見て断言する。そんな彼のはっきりとした物言いにおばちゃんの職人魂が輝いた。
「いいよ、あんた。買ったわ。そのお嬢ちゃんへの気概も含めてね。呉服屋『久光』第4代目久光徳子の腕が鳴るってもんだよ」
おばちゃんは白い歯を見せながら不適に笑った。
「え、ちょ」
「ほら、葉っぱのお嬢ちゃん。こっちへ来な。新人君、すこーし時間がかかると思うから外を適当に見てきなさい」
「ありがとうございます」
おばちゃんは桶と妹紅を掴みながら店の奥に入っていった。妹紅は抵抗できずに、それにつられて奥へと引きずられていく。
店の中に一人取り残されたジョルノは「ふぅ」とため息をつき、一旦店を出た。
――――もちろん、ジョルノは蚕など育てたことは一切ない。
(・・・・・・ちょろいな。自分の店で使っている桶だと気付かないなんて)
ジョルノは呉服店にあった毛糸玉を積み上げていた桶を渡しただけである。お察しの通り、『ゴールドエクスペリエンス』の能力を使って毛糸玉を全て『蚕の繭』に変えて。
流石は元ギャングの切れ者。タクシーでのトリックの様な鮮やかな手際だった。
ともあれ、無料で妹紅の服の件は片づいた。あとは言われたとおり適当に時間をつぶして直ぐに出発するつもりだ。
と、彼が商店街を歩いているととある一角に人だかりが出来ていることに気が付いた。
「・・・・・・何ですかね。ギャンブルでもやってるんでしょうか」
ちょっと気になった彼がその人だかりをのぞき込むと――――。
「――――なッ!?」
そこには衝撃的な光景があった。
「・・・・・・おいおい、いくら何でもやりすぎじゃあないのか?」
「確かに相手は妖怪で、本業だと言ってもなぁ・・・・・・」
「あそこまでやると可哀想だわ・・・・・・」
「関所の税程度でなぁ・・・・・・」
周りの野次馬はその光景を見てそんなことを言っていた。
「うっさいわねぇー・・・・・・。あんたたち人間を妖怪から守ってやってんのは誰か分かってるのかしら? それに安全のために関所を作ったのも人里が経済的に豊かなのも全て私が管理しているからよ?」
その騒動の中心には少女と女性。少女は地面にうつ伏せになって倒れており、もう一人は倒れている少女を足蹴にしていた。
「・・・・・・」
片方の女性が周りの野次馬にそう言い放つと人々は黙ってしまった。それはおそらく図星だからだろう。
「ほらね? 何にも言えないんならさっさと消えて欲しいわ。『妖怪退治』の邪魔よ」
『妖怪退治』という単語がジョルノの耳に届いた。それにあの紅白の衣装。それは彼女の正体を示すには十分な情報だった。
(あれが・・・・・・『博麗の巫女』?)
話半分には聞いていた。確か宴会の準備中に鈴仙が『何だかんだスゴい人物』だと。
博麗の巫女は『妖怪退治』を専門に行う人物だという。では足蹴にされている少女は妖怪なのだろう。よく見ると帽子の下に耳があり、尻尾が生えているのが確認できる。
「く・・・・・・そっ・・・・・・! れ、霊夢っ!! お前、自分が何してるか分かってるのか・・・・・・!?」
踏みつけられている少女は悔しそうに言った。彼女は全身を酷く痛めつけられており、体中に何故か『焦げ痕』が伺える。博麗の巫女――博麗霊夢の攻撃だろうか。
と、その問いかけに霊夢はにやり、と笑ってさらに踏みつける力を強めた。
「えぇ、えぇ。言われなくても分かってるわよ橙? 幻想郷最強の『ペット』を踏みつけているのよ?」
「ぐぅ・・・・・・っ!」
「でもね、あんたのご主人様たちはあんたを助けには来ない。どうしてか分かるかしら?」
霊夢は屈んで橙という少女の髪の毛を掴みあげる。
「私が『人里における協定』を紫と結んでいるからじゃあ無いわ。確かに、そういう不可侵の協定は結んでるけど・・・・・・」
そして橙の耳元でゆっくりと、残酷に呟いた。
「ひとえにあんたが役立たずだからよ」
「――――っ!! こ、このぉォーーーーーッ!!!」
次の瞬間、ぼろぼろになっているにも関わらず橙は無理矢理起きあがり『地面』に向けて腕を付きだし――――。
「『牙Act.2』ゥゥーーーーッ!!」
なんと『スタンド』を出したのである!!
「――――『スタンド』ッ!?」
ジョルノは面食らった。確かに少女の背後には小さなロボットのような見た目で猫耳と尻尾が二本生えたような『スタンド像』があった。そして、スタンド使いの橙の指先の爪が高速で回転し――地面に穴を開ける。
「またそれ? ――――私には無意味よ」
と、突然霊夢は空中に飛んだ。だが、ジョルノが驚いたのはそこではなく、橙の爪弾の弾痕が動いたからである!
(あ、あれが『能力』なのか?)
爪弾の弾痕は霊夢に向かっていったが、霊夢は飛んでいるため全く意味はない。だが橙は続けざまに霊夢に向かって爪弾を乱射する。
「『牙Act.2』ッ!!」
ドバッドバドバッ!!
だが、霊夢はするりするりと華麗に空を舞い爪弾を全てかわしていく。――――と、霊夢は橙の側に何かを投げた。
――――ちゃりん。
「――――ハッ!?」
橙が音のしたほうを見るとそこには一枚の『小銭』が。
「・・・・・・これで終わりよ。橙」
「――――あ」
ドンッ!!!
霊夢がそう言うと、橙の体がいきなり吹き飛んだのである。しかも、なぜか全身が真っ黒焦げになっていた。
「う、うわあああああ!!」
「博麗の呪いじゃあああ!!」
「やべえええええ!!」
人里の人間たちはついに霊夢に恐れをなして散り散りに逃げていった。もちろん、ジョルノもそれに続いている。
それは彼が博麗霊夢に恐れをなしたから、ではない。
(は、博麗霊夢!! 彼女の、いや、彼女はッ!!)
村人たちには橙が突然吹き飛んだように見えただろう。だが、ジョルノの目には見えていた。
橙の『牙』同様、博麗霊夢にも『スタンド』がいたのだ!
(だが・・・・・・僕の角度から見えたのは『腕』だけだった! しかも一瞬!! あ、あんなに速い、そして強いパワーを持つ『スタンド』は初めてだ!! 金色に光っていたように見えたが・・・・・・あれは、あれは一体ッ!?)
ジョルノはまずい、と思っていた。霊夢の『スタンド』の正体不明の強さもそうだったが、なによりあの言葉――。
野次馬の一人が発していた――――「関所の税」という言葉だ!
(当然、払ってない!! そしてあの口振りから察するに、猫耳妖怪も払っていなかった!! だったら次は僕の番だ!! 早く、ここから、人里から出なくては!!)
ジョルノは人混みに紛れながら近くの路地に入った。だが、道に見覚えがない。
(クソっ! 突然だったせいで道が分からない!)
当然、適当に人里を歩いていた彼はそんなに道を覚えていなかった。
と、その時。
「――――さて、さっき報告があったのはもう二人。確か、『アマゾネスの少女』と『金髪の少年』だったわ・・・・・・。で、あんたがそうよね? 『金髪の少年』?」
ジョルノの背後には既に――――。
「『金』は払って貰うわ。100倍返しでね」
「は、博麗霊夢ッ・・・・・・!!」
博麗霊夢が空中で見下ろしていたのだった!!
* * *
ジョルノと妹紅が人里に至る30分ほど前――――。
「ほい・・・・・・よっと」
橙はとある用事で人里へ進入していた。なぜ進入という言葉を使わなければならないのか。それは、現在の人里の警備が凄まじく、妖怪の類は入ってはいけないというルールがあるからだ。
そのルールを作ったのは博麗霊夢である。つい最近まで異変が起こらなければ動かない巫女(異変が起こっても動かないときもある)と呼ばれていた彼女だったが、数ヶ月前から親友・・・・・・というか戦友のような存在が行方不明になってから博麗霊夢は変わってしまった。
霧雨魔理沙が失踪したせいだった。
(といっても、こんなに人ってすぐに変わっちゃうのかな・・・・・・? まさか、人里の安全だけじゃなく経済・産業その他諸々も全て引き受けちゃうなんて)
客観的に見れば博麗の巫女は成長したのだ、と言われるのも当然だった。以前の彼女とは似ても似つかないくらいの仕事振りだという。
だからと言って、人里から一部を除いたほとんどの妖怪を追い出すのは少々やりすぎである。何度か命蓮寺やワーハクタクといざこざがあったらしいが・・・・・・。
よって、妖怪追放令は八雲の者たちも例外無く。橙は仕方が無く警備の目を盗んで人里に進入していた。
ちなみに今の彼女は耳と尻尾が見えないように、大きめの帽子やロングスカートでうまく隠していた。
(――とはいえ、これで進入成功! あとは・・・・・・)
橙は懐からメモを取り出した。そこにはとある店の名前が書いてある。
(・・・・・・『花魁 巫女の里』・・・・・・。これって・・・・・・お水系の店だよね・・・・・・? 紫様と藍様はここに博麗霊夢がいるって言ってたけど)
そこにはどう考えてもアレなお店の名前が書いてあった。まさか、聖職者のくせに水商売の仕事をしているのだろうか。とんだ罰当たりだ。
ともあれ、与えられた任務――――『博麗霊夢からDISCを回収すること』をこなさなければならない。普通なら不可能だと思われたが今の橙には遂行できるという自信があった。
(スタンドを回収するには相手を再起不能にしなければならない。私が霊夢を倒せるとは全く思えないけど、今の私には成長した『牙』による奇襲攻撃ができる!)
道を歩き、目的の場所に向かいながら橙はそう思う。昨日の今日だったが、確かに橙の『牙』は大きく飛躍的な進歩を遂げていた。
『牙Act.2』。橙が打ち込む爪弾はAct.1に比べて威力・スピード・回転力と軒並み強化され、さらに弾痕が橙の自由に操れるという能力まで身につけた。代わりに指の数以上の連射は不可能だ(時間が経てば伸びてくる)が、大幅な進化が見られた。
橙は新たな武器を携え、『花魁 巫女の里』までやってきた。まだ店自体は開いていないようだった。昼間から神社ではなくこちらにいるのは巫女としてまずいのではないだろうか・・・・・・。仕方が無く橙は店の裏に回ると、小さなドアを見つけた。付近に浮浪者の影は無く、誰も見ていないようだ。念のため、『人を化かす程度の能力』を用いて極端に影を薄くし(気配絶ちのようなもの)、ドアに手をかける。当然、鍵はかかっているが、橙は人差し指をドアに向けて『牙Act.2』を打ち込む。ドアには小さな穴が開き、それは橙の意志によって自在に移動する。穴はずずずっ、とゆっくりと移動しドアのロックがかかっている箇所にたどり着いた。そして橙が穴の操作を止めると――
がぎょッ
と、ドアのロック部分のみが破壊される音がした。こうすれば傍目には壊れているのが分からない。橙は更に念のため辺りをもう一度確認して誰もいないのを見取ると、ゆっくりとドアを開いた。
中にはいると昼間だというのに室内はかなり薄暗かった。そう言えばこの建物には窓がない。かなり不衛生だが、客や遊女たちは気にしないのだろうか。
どうやらここは控え室――というか、衣装部屋のようだった。中にはかなり際どい衣装もあるが、橙にはそれが『衣服』だとは思えなかった。
(・・・・・・下着? そんなわけないよなぁ・・・・・・変な場所に穴が開いてるし・・・・・・何に使うんだろう? もしかして、破れてるから廃棄するのかな?)
純粋無垢な橙はかわいい。
と、橙は裏口とは別の扉を発見した。この扉には鍵がかかっておらず、普通に外に出ることができた。
衣装部屋を出ると、受付のような場所だった。もちろん、誰もいないため橙は特に警戒することもなく受付の中に入る。受付の中にも扉があるのだ。橙はおそらくここが従業員用のスペースで、霊夢はここにいるだろうと予測していた。
扉に近づいて耳を傾ける。だが、誰かがいる気配はない。ドアノブに手をかけると音もなく扉は開いた。
「・・・・・・いない」
橙の予想とは裏腹に部屋には誰もいないようだった。では、一体どこにいるのだろうか? 橙は首を傾げて再び受付に戻った。
(どこかの部屋か? 個室は全部で18部屋あるけど・・・・・・しらみつぶしに探すしか・・・・・・)
彼女は気配を消して建物の中を見回ることにした。もし霊夢と鉢合わせでもしたら最悪だが、あっちの衝撃はもっと大きいはずだろう。常にこちらが臨戦態勢でいれば『牙Act.2』ならば簡単に奇襲はできる。
建物内部は受付から二方向に廊下が伸びており、回廊になっている。建物自体は2階建てで、1階に10部屋と衣装部屋、受付。2階に8部屋あるようだ。まずは1階の10部屋を見て回ろう、と考え手始めに一番近くにあった『すすきの間』に入る。
部屋の中央に布団が一つ。簡素な部屋だな、と思いつつ誰もいないことを確認し次の部屋へと移動する。
1階の部屋を全て見回ったが誰もいなかった。橙は「ならば2階を探すまで」と思い、階段を上がった。
2階に上がって橙の嗅覚と聴覚は人間の気配を察知する。このフロアには誰かがいるはずだ、と直感したのだ。これが博麗霊夢じゃなかったらどうしようもないが、そんな可能性はほぼ0に等しい。
橙はそれまでよりも更に慎重になって一番近くの部屋を見る。ここにはいない。と、その時。
「――――っやぁんッ!!」
「――ッ!?」
いきなり、橙の耳に一際大きな矯声が聞こえた。そしてその声色には聞き覚えがあった。
間違いない。この声は博麗霊夢の声だ。
橙はすぐに声のした方へ向かう。おそらくはここから一番遠い部屋だ。
――――せめて、橙はここで気が付くべきだった。この状況と先の霊夢の黄色い声からそれほど知識のない橙でも容易に『霊夢はセックスをしている』と分かった。実は前々から霊夢は金に困り果て、ついにそっちの仕事に手を出しはじめたという噂が蔓延っており、特に霊夢も否定しないようだったので『汚職聖職者』と一時期言われていたほどだった。(既に霊夢は27歳のため、犯罪ではないし描写をしない限りこの小説も全年齢の枠を越えない)
魔理沙が失踪してからの話である。もちろん、橙はそれとこれとに関連性は見いだしていない。
だから、「今の霊夢は自分の進入に気が付いていない」という認識は至極当然の流れだろう。さらには「セックス中なら簡単に不意打ちが出来る」と思うのも無理はない。
つまり橙は明らかに油断していた。この矯声が罠だということに全くの疑念も抱けなかった。
「油断大敵よ。――――ちなみに私はマグロなの」
廊下を進んでいた橙の背後から、そう声がかけられる。橙が己の誤解に気が付く前に――――
霊夢が小銭を橙に投げつける。
直後に、光速の物体が橙の鳩尾を殴り抜いた。そのまま橙は呼吸も出来ずに建物の壁にブチ当たり――――。
ドッゴォォォ!!
「な、何だァーーッ!?」
「急に建物の壁がぶっ壊れたぞ!?」
「みんな、逃げろぉー!! 破片に当たったら痛いじゃすまねぇぞぉーー!!」
直後に廊下の壁を破壊し、全身を酷い火傷におおわれた橙が人里の通りに投げ出される。
(・・・・・・ッ!?)
べしゃっ! と全く受け身もとれずに多くの人が行き交う通りに叩きつけられた橙。だが、すぐに痛む体を起こす。当然、背後に霊夢がいたからである。
「・・・・・・『牙Act.2』ッ!!」
ぼろぼろの体に鞭を打ち、爪弾を3発打ち込む。霊夢はそれを飛んでかわした。ボゴォッ!! と、辺りの建物の壁や柱に命中し、その穴を操るも飛んでいる霊夢には当たらない。
「へぇ、穴も動くの」
面白いわね、と言いたげにその様子を眺めている霊夢。そのままほとんど動けない橙の顎を殴って地面に倒した。
「うっぐ・・・・・・!」
抵抗もほぼ出来ずに橙は地面にうつ伏せに倒れ込む。さらに追撃を加えるように霊夢が彼女を足蹴にした。
「あんたの罪を数えな」
そう言い捨てつつ懐から煙草を取り出して火をつける。だが、橙は物も言えなかった。
「フゥー・・・・・・、まぁ、言えないんならいいんだけど。試しに私が数えたところ、『人里の無断進入』『妖怪の進入』『店の無断進入』『店の器物損壊』の4つね。きっちり払って貰いましょうか」
そしてまだほとんど吸っていない煙草の火を橙の頬に押しつけた。器物損壊はほとんど霊夢の仕業だが・・・・・・。
「あっ、づぅぁッ!!!」
「100倍返しでね。もちろん、『あんた』がよ」
霊夢の能力が分からない。おそらくは『スタンド』能力だろうが、全く意味が分からない。理不尽な速さ、理不尽なパワー。
(ら、ん・・・・・・さま・・・・・・)
意識朦朧とする橙を踏みつける霊夢に周りで見ていた人々は非難の声をあげるが、霊夢の言葉に全員口をつむってしまう。
そして橙は思わずこう口走った。
「く・・・・・・そっ・・・・・・! れ、霊夢っ!! お前、自分が何してるか分かってるのか・・・・・・!?」
と、その問いかけに霊夢はにやり、と笑ってさらに踏みつける力を強めた。
「えぇ、えぇ。言われなくても分かってるわよ橙? 幻想郷最強の『ペット』を踏みつけているのよ?」
「ぐぅ・・・・・・っ!」
「でもね、あんたのご主人様たちはあんたを助けには来ない。どうしてか分かるかしら?」
霊夢は屈んで橙の髪の毛を掴みあげる。橙の目には涙がにじんでいた。
「私が『人里における協定』を紫と結んでいるからじゃあ無いわ。確かに、そういう不可侵の協定は結んでるけど・・・・・・」
そして橙の耳元でゆっくりと、残酷に呟いた。
「ひとえにあんたが役立たずだからよ」
(こ・・・・・・こんな奴がッ・・・・・・!!)
「――――っ!! こ、このぉォーーーーーッ!!!」
橙は無意識のうちに『牙Act.2』のヴィジョンを出して指から無理矢理爪弾を発射させる。ドバッドバッドバ!! と爪弾は地面に穴を開けて、その穴は霊夢を追いかけた。
「またそれ? 私には無意味よ」
橙の攻撃も空しく穴は霊夢の体には至らない。だが、橙は残った爪を全て霊夢に打ち込むために『牙Act.2』を操る。
「『牙Act.2』ゥゥーーーーッ!!」
ほとんど自力で動くことが出来ない体を、橙は意志だけで動かしていたのだ。だが、その覚悟も全て圧倒的力の前に潰される。
――――ちゃりん
「――――ハッ!?」
まただ。また霊夢は『小銭』を投げた。さっきもこの直後に私にとんでもない衝撃が走り、ヒドい火傷をおったのだ。今度も来る。橙は霊夢ではなく小銭を凝視した。まさか、『小銭』に関する『スタンド』なのか? ――――そして彼女の瞳は『スタンド像』を今度ははっきりと捉える。
右腕と顔の半分だけだ。かろうじて見えたのはそれだけだった。金色に光り、鳥のような嘴が見えた気がした。確証はない。
なぜなら彼女の体は直後には吹き飛び、意識も消し飛んだからである。
* * *
橙 スタンド『牙Act.2』
博麗霊夢 スタンド『???』
* * *
後書き
というわけでボスとジョルノの幻想訪問記第18話はここで終わりです。
1話で咲夜が言ってた『ほかの自機メンバーの状況』という複線を回収しました。仕事柄男性と付き合い(意味深)が多い博麗霊夢さんです。どうぞよろしく。ほかの自機メンバーの複線もいずれ回収していきたいので楽しみにしてください。忘れちまったよ、という方は1話へどうぞ。
この話の副題、『主人公の資格』ですがジョジョの2部(確かローマでのワムウ戦)から取りました。他の副タイトルもジョジョのどこかから取っていると思うので暇な人は確認してみてください。
主人公と言えば、次の話ではジョジョの主人公と東方の主人公同士の対決になりますね。ちなみに霊夢の『スタンド』のヒントをもう少しだけお教えしますと『ステータスは精密動作性以外全てA』です。たぶん。
霊夢ファンには申し訳ないキャラ設定ですが、この理不尽さが彼女の強さたる所以です。あと非処女です。
それでは19話でまた。
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