ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
少年の正体
「これでピナを生き返らせられるの?」
シリカが手のひらに乗る、奇跡のような花を息を詰めて見ながら、傍らで笑顔を浮かべているレンに言った。
「うん。心アイテムに、その花の中に溜まってる雫を振りかければいいんだよ。でもここはモンスターが多いから、街に帰ってから生き返らせよー」
「うん!」
シリカは右手を真下に振り、メインウィンドウを出現させ、その上に花を乗せた。
アイテム欄に収納されたのを確認し、それを閉じる。
正直に言えば転移結晶で一気に帰還してしまいたかったが、シリカはぐっと我慢して歩き始めた。とてつもなく高価なクリスタルは本当にぎりぎりの状況でのみ使うべきものなのだ。
幸い、帰り道ではほとんどモンスターと出くわすことはなく、駆け下りるように進み、麓に到着する。
──あとは街道を一時間歩くだけ、それでまたピナに会える。
弾む胸を抑えながら、小川にかかる橋を渡ろうとした時──
不意に、隣を歩いていたレンがシリカの行く手を遮った。
どうしたのか、とシリカは隣のレンを見るが、少し長い前髪とマフラーに遮られ、表情は見えない。
だが、その顔が橋の向こう、道の両脇に繁った木立を睨み据えていることは分かる。
そして、シリカが今まで聞いたことがない冷たい声がレンから発せられた。
「おばさん、それで隠れてるつもり?」
「え………!?」
シリカは慌てて木立に目を凝らす。
しかし、人影は見えない。
緊迫した数秒が過ぎた後、不意にがさりと木の葉が動いた。
同時に、プレイヤーを示すカーソルが表示される。
色はグリーン、犯罪者ではない。
短い橋の向こうに現れたのは、驚いたことにシリカの知っている顔だった。
炎のように真っ赤な髪、同じく紅い唇。エナメル状に輝く黒いレザーアーマーを装備し、片手には細い十字槍を携えている。
「ろ…ロザリアさん!?なんで……こんなところに………!?」
驚いたシリカの問いには答えず、ロザリアは唇の端を吊り上げて笑った。
「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね、坊や。侮ってたかしら?」
そこでようやくシリカに視線を移す。
「その様子だと、首尾よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね。おめでと、シリカちゃん」
ロザリアの真意が掴めず、シリカは数歩後ずさった。
何とは言えないが嫌な気配を感じる。
一秒後、その直感を裏切らないロザリアの言葉が続き、シリカを絶句させた。
「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」
「……!?な……何を言ってるの………」
その時、今まで無言でロザリアを睨み付けていたレンが進み出て、口を開いた。
「させると思う?ロザリアおばさん…いや、オレンジギルド《タイタンズハント》のリーダーさん?」
ロザリアの眉がぴくりと跳ね上がり、唇から笑いが消えた。
「え…でも……だって……ロザリアさんは、グリーン…………」
「シリカねーちゃん、オレンジギルドって言っても、全員が犯罪者カラーじゃない場合も多いんだよ。グリーンのメンバーが街で獲物をみつくろって、
パーティーに紛れ込んで、待ち伏せポイントに誘導する。……昨日、部屋で盗聴してたのも、こそこそ街から僕たちをつけてきたのも、おばさんの仲間だよね」
「……………へぇ、気付いてたんだ。勘も良いのね、坊や」
「そ……そんな…………」
シリカは愕然としながらロザリアの顔を見る。
「じゃ……じゃあ、この二週間、一緒のパーティーにいたのは………」
ロザリアは再び毒々しい笑みを浮かべ、言った。
「そうよォ。あのパーティーの戦力を評価すんのと同時に、冒険でたっぷりお金が貯まって、おいしくなるのを待ってたの。本当なら今日にもヤっちゃう予定だったんだけどー」
シリカの顔を見つめながら、ちろりと舌で唇を舐める。
「一番楽しみな獲物だったあんたが抜けちゃうから、どうしようかと思ってたら、なんかレアアイテム取りに行くって言うじゃない。《プネウマの花》って今が旬だから、とってもいい相場なのよね。やっぱり情報収集は大事よねえー」
そこで言葉を切り、レンに視線を向けて、肩をすくめた。
「でも坊や、そこまで解ってながらノコノコその子に付き合うなんて馬鹿?それとも、その子がお姉ちゃんにでも似てたのかしら?」
「残念だけど、僕は馬鹿でもシスコンでもないよ」
レンは、いつもののんびりとした声で言った。
だが、その言葉の中に含まれる針のように尖った冷たい声を隠しきれていない。
「僕もおばさんを探してたんだよ、ロザリアおばさん」
「…………どういうことかしら?」
「おばさん、十日前に、三十八層で《シルバーフラグス》ってゆーギルドを襲ったよね。メンバー四人が殺されて、リーダーだけが脱出した」
「………ああ、あの貧乏な連中ね」
眉ひと筋も動かすことなく、ロザリアが頷く。
「リーダーだったおじさんはね、毎日朝から晩まで、最前線のゲート広場で泣きながら仇討ちをしてくれるヒトを探してたよ」
レンの小柄な体を包む雰囲気が一変した。
これまでの冷ややかさが涼しく感じるほどの、硬く研ぎ上げた氷の刃にも似た、触れるもの全てを切り裂く空気。
「おじさんはね、おばさんを殺してくれって言わなかった。牢獄に入れてくれって言ったんだ。おばさんにおじさんの気持ちが解る?」
「解んないわよ」
面倒そうにロザリアは答えた。
「何よ、マジんなっちゃって、馬鹿みたい。ここで人を殺したってホントにその人が死ぬ証拠ないし。そんなんで、現実に戻った時罪になるわけないわよ。だいたい戻れるかどうかも解んないのにさ、正義とか法律とか、笑っちゃうわよね。アタシそういう奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈持ち込む奴がね」
ロザリアの目が狂暴そうな光を帯びる。
「で、あんた、その死に損ないの言うこと真に受けて、アタシらを探してたわけだ。ヒマな人だねー。ま、あんたの撒いた餌にまんまと釣られちゃったのは認めるけど……でもさぁ、たった二人でどうにかなるとでも思ってんの………?」
唇がきゅっと嗜虐的な笑みを刻んだ。
掲げられた右手の指先が、素早く二度宙を扇いだ。
途端、向こう岸に伸びる道の両脇の木立が激しく揺れ、次々と人影を吐き出した。
シリカの視界に連続していくつものカーソルが表示される。
ほとんどが禍々しいオレンジ色だ。
その数───十。
待ち伏せに気付かず、まっすぐ橋を渡っていたら完全に囲まれていただろう。
新たに出現した十人の盗賊は、皆派手な格好をした男性プレイヤーだった。
全身に銀のアクセサリーやサブ装備をじゃらじゃらとぶら下げている。
男達はにやにやと笑いを浮かべながら、シリカの体にねばつくような視線を投げかけてきた。
激しい嫌悪を感じ、シリカはレンの小さな体の陰に隠れた。
「れ、レンくん……人数が多すぎるよ。脱出しないと……」
「アハハッ、大丈夫だよー。僕が逃げろってゆーまでは、そこで結晶を用意して見てればいーよ」
あっけらかんと笑い、レンはてくてくと橋に向かって歩き出した。
シリカは呆然と立ち尽くす。
いくらなんでも無茶だ。第一、レンはまだ武器を装備してない、そう思ってシリカは堪らず大声で呼びかけた。
「レンくん……!」
その声がフィールドに響いた途端──
「レン………?」
不意に、賊の一人が呟いた。
笑いを消して眉をひそめ、記憶を探るように視線をさ迷わせる。
「ガキで、真っ黒なマフラー……真っ赤なコート………《冥王》………?」
人が見たら、お前大丈夫か?と言われそうなくらい急激に顔を蒼白にさせながら、男は後ずさった。
「や、ヤバイよ、ロザリアさん。このガキ…六王の…め、《冥王》だ……」
男の震える声を聞き、残りのメンバーの顔がさっと青ざめた。
驚愕したのはシリカも同じだった。
何故なら、六王と言えばアインクラッドで最強の六人のプレイヤーのことだ。
そして、その中でも《冥王》と言えば
アインクラッド史上最悪のPKKの名前なのだから。
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいーん!!」
レン「はい、始まったよー。恒例の特に意味もないコーナーが」
なべさん「今回は、ひっさしぶりに来たご質問に答えますよん」
レン「して、その内容は?」
なべさん「はいはい、えーと、最近出番がないユウキについてだね」
レン「そーいえば、なんでユウキねーちゃん出てないの?」
なべさん「ロザリアおばさんに会ったら、どーする?」
レン「………………うん」
なべさん「あい、肝心のご質問は?」
レン「えと、キリトにーちゃんの《二刀流》は、ユウキねーちゃんに持たせんの?だって」
なべさん「まー確かに原作でもキリト氏が言ってますからねー」
レン「《二刀流》はユウキねーちゃんが持つことになるって?」
なべさん「そーそー、だけどユウキが二刀流を持つと、色々壊れるから原作のまんまでいくよ」
レン「それがいい」
なべさん「はい、てなわけですっかり常連になってくださった霊獣さん!どうもありがとうございます!」
レン「こんな駄文ですが、これからも変わらぬご愛読をよろしくお願いいたします!!」
なべさん「自作キャラ、感想も待ってます!」
──To be continued──
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