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ジョジョは奇妙な英雄

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『悪霊使い』の少年その②

   千城が屋上に残されてから数分後、そさくさと屋上を後にした。レイナーレが探しに来ることを思えば見つけやすい場所にいた方がいいだろう。大声で『センちゃん』と呼ばれてはかなわないし、黄昏ていたというのを母親から近所のチェザーレ家にでも伝えられたら受験を控えているであろうにチェザーレによってからかわれることは必須だ。父親のジョルジオを慕っていたとはいえども盲目なまでの忠誠は父親のことを忘れないでいてもらえるのを嬉しく思う反面、その盲従振りは恐ろしいと思うことがある。

「よっす、JOJO!」
「なんだ、チェザーレか」
「なんだってなんだよ、JOJO。夢美ちゃんとイチャコラしてたんだろー?知ってるぜ、あんちゃん。ジョセフさんからも聞いたよ、かわいいんだって?」
「お前が気にすることじゃないだろ。受験勉強はどうしたよ」

  背後から千城の肩を組むのは腐れ縁のチェザーレだった。千城のような特殊な力を持たない反面、チェザーレは波紋や鉄球の技術を使うことができる。そのチェザーレの周りにあるものは全部武器とする戦法は我武者羅でありながらも、次に起こす行動が分からないということで敵対すれば脅威となるだろう。武人のような素質を軽薄なところを持ちながらも秘めるチェザーレの祖父のシーザーのようなタイプにとっては基本的にどんな汚い手でも使うチェザーレは天敵と言えるかもしれない。ジョセフから手解きされたチェザーレのトリックの数々は多いけれども、そのチェザーレの人の良さから普段の学校生活でもチェザーレは明るく人望を集める人物として振舞っていた。
   今年、進路を決める年というのに勉強をしている様子が見られず千城に絡んでくるのはどうかと思うが、数少ない学園での友人としてはこれほどに気持ち良い者はいない。

「お前がなんとなーくではあるが、このチェザーレ=悠理・ツェペリは心配だからな。仕方あるまいて」
「心配している相手に心配されるのはどうかと思うけどな」
「けどさぁ、三匹のエロっての?あいつらも大したモンだぜ、執拗に桃源郷を求めようって普通の精神してたら出来ないモンよ」
「やりたかない」

   こいつめ、とチェザーレが千城の側頭部をグリグリする。ウィル・A・ツェペリの代からイタリア人であったチェザーレの家はチェザーレの祖父が結婚し、チェザーレの父親が生まれてもなおだった。しかし、チェザーレの父親が日本人女性と結婚した時はホリー夫妻が日本で暮らすようになったことをジョセフがシーザーに愚痴ったとき、それとなくシーザーは息子夫婦に提案して以後はどんな縁の巡り合わせか近所に彼らは住んでいたのだ。よって、幼少時からチェザーレは千城を知っている。当然、チェザーレは千城が海外で出会った初恋の女の子も知っているわけで。

「でもよォ〜〜ッ、その子だけを想うのもいいけどさ。身近のにも気づいてやれよな?これ、アニキの経験談だ」
「何を言ってるんだ、お前は」
「ったくよォ〜〜ッ、こいつは大した奴だわ。悪い意味でな」

   このニブチンがッ!
   チェザーレがぺしぺし千城を引っ叩く。祖父の血を継いだのか、千城は恵まれた体格を持っていたがチェザーレほどに背は高くなかった。老いてなお波紋の呼吸をせずともパワフルなシーザー(妻と共に老けたいらしいが、チェザーレを波紋の後継者として育てていた時は別)やその息子に似てチェザーレもまた良い体格を持っている。すでに成長期は終わったが、身長一九五センチもある威圧感溢れる大きさはそれより低い千城と比べてみても大きい。一歳しか変わらないが、いかに千城より大きいかが分かる。

「放っとけ。お前は家で受験勉強してろ」
「五月蝿いな、お前はオレの母ちゃんか。オレだってしてんだよ!それにオレには夢がある!「センちゃん!ここにいた!」

   チェザーレがその胸筋を張って自らの輝かしいとする夢を語らんとしたとき、長い黒髪を風で揺らしてレイナーレが走ってきた。そんなに運動神経は悪くなく、むしろレイナーレは良い方だ。レイナーレと同じクラスになったことはないが、木場同様にスタイルがいいことから陰ながら人気があるらしい。
   ホリーのようにレイナーレが千城を視界に入れたとき、右手を両手で包み込んで頬を膨らませる。

「どうしたんだよ、いきなり」
「ご覧ください、弟分が黒髪美少女とイチャイチャしております。チェザーレ兄貴、嫉妬が波紋疾走しちゃいそうです。辛いね、これ」
「もう、本当に忘れたの?悪い子ね、本当に。貴方の大好きな子からの手紙が届く日でしょう?」

   同年代には見えない妖しい魅力を宿した笑みを浮かべ、千城にレイナーレは告げる。大好きな子、と聞いて千城はハッとしてレイナーレの手首を掴んで走り出す。

「悪い、チェザーレ。また今度だ」
「おいおいおいおい。それはオレのセリフだろ。ーー許せ、千城。また今度だ。って、おまっ!さりげに美少女の手首を掴むとは!流石は色男、違いすぎるぜ!………まぁ、オレも帰るしいいか」

   表情がコロコロ変わるチェザーレを一通り眺めた後、千城はチェザーレとレイナーレを連れて走り出す。生徒が談笑しているグループをかきわけ、下駄箱へと向かって一目散。途中、三匹のエロが千城を羨む声がしたが今は気にしているところではない。
   校門でこちらに視線を送る者がいたが、全力疾走していたその視線に千城は気づけなかった。

「ハァ………ッ、ハァ………ッ。届いてた……」
「ちょ……、センちゃん早過ぎ……」
「早いとかなんか卑猥」

   流石は波紋の継承者、チェザーレは息を切らさずに自宅付近にやって来るとゴソゴソとツェペリ家の郵便受けを探っている。いつも通りのラインナップとでも言うべきか、利用している電化製品店やチェザーレお気に入りの店からの広告と通信教育の広告。しばらく通信教育の広告の梱包を開け、チェザーレは息を整えるレイナーレに制裁を受けながら体験談とやらの漫画に熱中していた。
   御上の郵便受けには丁寧な文字で『DaerSenjo,FromJapan』と宛名にある綺麗な字体で書かれた便箋、丁寧に包みを開けると折りたたまれた手紙を開いて千城は読みはじめた。
『センジョーへ
お元気ですか?私は元気にしています、お母様やおじい様にお変わりないと嬉しいです。今度、ニホンに来ることになりました。どこかはわかりませんけど、センジョーが住んでいる国なのでとても楽しみです。教会でのお仕事なんですが、センジョーは相変わらずですか?かなり時間が経ちましたし、お互いに成長したと思います。ですので、また会えたら嬉しいな。
いつもセンジョーを思ってます
アーシア・アルジェント』

  アーシアからの手紙は読んでいて心が暖かくなる。手紙を読み終えて制服の上着のポケットに直すと、ふと教会で一悶着があった日を思い出した。あの後、アーシアからは聞かされていないが(帰国の日が早まったのもある)上手くはやれているらしい。
  本人が気付いていないだけだが、千城は千城でジョセフ譲りの『勝つためには手段を選ばない』こととその発想についていける柔軟な頭を持ってはいる。
   その後、レイナーレとチェザーレの間を仲裁して家に帰った時にメールを確認した時に三匹のエロを構成する内の一人である一誠からのメールで『彼女できた』というタイトルのメールに暖かな返事を返して心配されたのは別の話。家に帰ってからも足取りやらが軽かったおかげでホリーは何があったのかと気になっていたが、レイナーレの耳打ちで納得した。当の本人はそれに気づいていなかったが。

「………でさぁ、加奈ちゃんがさぁ」
「くっ、松田!これは現実なのか!?」
「落ち着け、元浜!これは悪い夢だ!俺たちは何者かの術にはまっている……!」

   翌日の朝、朝練で先に登校したチェザーレがいなかったので千城はレイナーレと登校するようになっていた。そんな時に幸せいっぱいに破顔させて一誠が撃沈・轟沈したらしいさわやかスポーツ少年風貌の松田と優等生そうな眼鏡の元浜が『美少女・天野夕麻』となっている千城が登校しているのを見てより轟沈したらしい。一誠の言う『夕夜見加奈』なる彼女は背が高く、それでいてスタイルが良いらしく一誠はすっかり自慢のようだ。レイナーレが名前に反応したように見え、千城はその反応が気になった。

「どうした?」
「ううん、なんでもない。気のせいよ。……ありがと、センちゃん」
「クソッ!センちゃんだってよ!」
「御上め、爆発しろ!これだからリア充は!元浜!今日はAV鑑賞会だっ!」
「すまん、御上。何故だろう、今日ばかりは今までの行いを改めたい」
「わかればいいんだ」

   気の良い友人の言葉の端々から飛び出す数々は今までもてなかった理由が隠れている気がする。千城に不意に心配されたことでレイナーレが微笑んだことで松田らはうがーっと獣の如く吠えた。一誠はそれとなく千城に言われてきた注意に感謝の意を込め、頭を下げるといつも以上に話す千城。きっといいことがあったんだろうなと一誠もまた思いながらそれぞれの下駄箱に向かう。

   向かう教室を違える様子はまるでそれぞれの抱える『運命』に似ていた。 
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