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ジョジョは奇妙な英雄

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『悪霊使い』の少年

『ケッ、おれに似てるのかと思えば変なところはお義父さんそっくりじゃあないか。忘れんなよ、千城。お前に俺の嫁を託す。護れる男になるんだ。オイ、ーーー。おれの嫁とウチのガキに手ェ出すんじゃねェぜ?』

   御上城樹(みかみじょうじゅ)
   本名をジョルジオ・カトブレパス。
   ジョルジオが幼いときの千城に語った話によると、ジョルジオはかつて魔王の戦車であったという。幼いときの自分に嘘をついていたのではないか、と思う千城だったが家に遊びに来た魔王だというスーツの父親の上司だという女性が疑う千城に写真を見せてきたのが記憶に新しい。母親によると、彼女の部下であった時のジョルジオは『無敵のカトブレパス』の異名を誇っていたという。カトブレパス一族が持つとされる、邪視こと魔眼の能力は強力で石化させる魔眼を持つバジリスクと同一視されるのに嫌悪を覚えるらしい。一族に対する誇りについてはジョルジオを嫌っている祖父も認めているようで娘による千城も同じでしょう?と言うと祖父は諦めた。親馬鹿である祖父は一人娘には逆らえないらしく、どうもそれは腐れ縁のチェザーレ宅も同じらしい。
   だが息子も欲しかったと語る祖父は祖父でジョルジオに甘いところがあり、千城の母親ーーホリーが家族旅行に行きたいと言っていた旨を伝えるとジョルジオを睨みつけながら旅行会社に連絡をしていたらしい。ジョルジオの部下だというレイナーレもまたジョルジオを慕っているらしく、既婚者でありながらもジョルジオの手を握ろうとしていた。何があったか知らないが、両親は千城の誇りだった。

「……クソッ」

   レイナーレがよくしてくれるのはわかるが、きっとジョルジオによる頼みなのだろうと思うとまだ自立できない自分が悔しかった。
    御上千城は駒王学園の屋上で寝そべっていた。威圧感漂う『ソイツ』は相変わらず、何も語らないでいるし荘厳な雰囲気は崩すつもりがないらしい。父親をあの『男』に殺された日、ジョルジオが死んでホリーと千城に牙が向けられた時にはじめて現れた。『アイツ』の伸ばした手が母親に触れるよりも早く、まるでジョルジオのような大きな手が掴んで叩き落とした。腕だけの出現だったが、ジョルジオの身体を槍のように貫いた手に似てはいるものの暖かみがあった。あの日から、『ソイツ』はそばにいる。眩しいばかりの笑顔と愛らしさのある少女を助けられなかった日から。父親のように強くなりたい、という強い願いに応えてくれた祖父の戦友とチェザーレとともに修行に励んだのまでは良かったが、千城には才能がなかった。『呼吸』による身体能力の向上はともかく、難しい技術とされる『鉄球』は何とか基礎だけは押さえたが。
   師範である祖父の戦友は上手くいかない弟子に対し、「JOJOもこんなもんだったさ」と笑った。どこからか聞きつけてきたのか、祖父が彼に食ってかかって喧嘩が始まったのはいつもの流れだが。その代わり、千城のそばにいる不思議な存在は千城の危険からいつも護ってくれた。高所からの転落はその腕で地面に接触して受け身を取るようにしてくれたし、その噂を聞きつけて面白がる同級生をブチのめしたりもした。いつしか、千城は『悪霊使いの少年』と呼ばれるようになっていたが。

「やあ、隣いい?」
「ああ、木場か。構わない」

   当たり障りの無さそうな笑みを浮かべて金髪の女子生徒、木場夢美(きばゆめみ)は仰向けになって空を仰ぐ千城の顔を覗き込んだ。駒王学園の誇る二大お姉さまなる存在に含まれていないらしいが、結婚したい女子ランキングに年間でランクインしているらしい。その手について聡い三匹のエロもとい、兵藤一誠、松田総司、元浜アキラによる情報である。どんな経緯で出会ったかは覚えていないが、千城の幼馴染みの少女から貰った帽子を褒めてくれたのがファーストコンタクトだった気がする。
   あまり人に踏み込みたくないこともあり、千城は極力同級生との関わりを避けていた。ズカズカと人の心に踏み込んでくる兵藤は置いておいて、だが。

「今日も帽子似合ってるね」
「ありがとうよ。お前はどうしてここに?オカルトケンキュウカイってのはいいのか?」
「オカルト研究部、ね。少しくらいは大丈夫、君と過ごしたいからね」

   台詞の端々に気遣いの色や一般男子高校生をどきりとさせるものが含まれている。一緒に時間を過ごしているとき、まるで実家にいるような安心感がある。所属している部活の名前の誤植を訂正し、木場は千城の星をあしらったエンブレムのある帽子を見る。普通のカスケットやソフト帽でなく、ニット帽タイプの帽子。授業中は千城が文句を言われたくないというので外すが、基本的に被っていることが多い。お気に入りらしく、同じものでもカラーリングの違うものを多く持っている。友人同士で誕生日プレゼントを渡そう、となった時に木場も千城に帽子を送ったことがある。

「やれやれ、その言葉で何人の男が勘違いしているのか」
「ん?なんのこと?」

   木場は首を傾げる。どうも、本人には自覚がないようだ。勘違いしてしまいがちな木場の言動でこれまで何人の男子生徒が当たって砕けたことだろうか。木場からもはっきり断るのでいつしか、木場夢美レートなるものが生まれて徐々に上がっていく難易度。剣道部に所属してはいないが、剣術にも嗜みがあるということで剣道部からはスカウトを受けているが、木場は断り続けている。学園二大お姉さまの二人が所属しているオカルト研究部の活動内容は分からないが、その辺で色々とある様子。

「今日も千城くんの悪霊さんは元気?」
「上々、ってところだ。相変わらずとも言える」
「そっか。元気そうでよかったよ、心配させないでよね」

   千城が周囲と距離を詰めたがらない理由としては、木場も言う『悪霊』の事がある。視認できず、認められず、形容できない存在を一般人は信用できない上に御上千城は気が触れている、と裏で噂が出回っているほどだ。千城の額を指で弾く木場だったが幼少期から鍛えている千城の肌は硬くて、まるで鋼のようだった。優しい風が吹き、言葉で語らう必要のない二人の間柄は楽だ。
   同じ能力を持っていると千城は見たが、未だに千城自身は木場の能力を見たことがない。仕事上の問題で見せられないらしいが、一人でも心を通わせることができれば別に構わないと思った。

「夢美?……あら、こんにちは」
「………」
「あっ、部長。『御上くん』、こちらが私の部活の部長。部長、前に話した彼です」
「あら、そうなの。はじめまして、御上くん。私はリアス・グレモリー。夢美の部活の部長でもあるの。また詳しい話は今度、ね?」

   長い赤毛、均整の取れたプロポーションに美貌は人間離れしているように見える。にこやかに笑うリアス・グレモリーだが、どこか父親の上司と姿が重なって見えた。リアス・グレモリーといえば、もう一人の姫島朱乃と人気を二分する一学年上の生徒だ。三匹のエロ達に教えれば食いついてくるであろうが、メールを送るにはまだ早い。「それじゃあ、また明日ね」と手を振る夢美に会釈して二人が去っていくと、千城は『一人』になった。 
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