八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第十七話 不思議な先輩その六
「そうしたこともあるんですね」
「はい、アクシンデントと言うべきか」
その人が急に来たことがだ。
「予想外でした、ですが」
「ですが、ですか」
「仕事でアクシデントは付きものです」
それもまた、というのだ。
「ですから」
「こうしたことがあってもですね」
「当然と考えています」
「それならですね」
「はい、お任せ下さい」
「今回のことも」
「そうさせて頂きます」
急な入居だがそれでもだというのだ。
「今から」
「わかりました、じゃあお願いします」
僕は畑中さんにすぐに述べた。
「宜しく」
「それでは」
こうしてその急に来た入居者の人を迎えることになった、程なくしてだった。
八条荘におかっぱの銀髪に黒い肌と目を持った一五五位の背の女の子が来た、昔ながらの黒地にえんじ色のラインとネクタイのセーラー服だ。スカートの丈も膝までだ。
彫のある顔立ちで鼻が高い、目の光は強いけれど澄んでいる。その彼女がアパートに入って来てだった。
そのうえでだ、こう名乗った。
「エルザ=ナカ=ムラ」
「ナカ=ムラさん?」
「エルザでいいわ」
ぽつぽつとした抑揚のない声で答えてくれた。
「オーストラリアから来たわ」
「あの国から」
「父はアボリジニー」
お父さんのことも話してくれた。
「その族長、母は白人」
「ああ、それでなんだ」
「私の肌と目はこうした色なの」
お父さんの血を引いてというのだ。
「そうなの」
「成程、そうなんだね」
「メルボルンから来たわ」
オーストラリアの、というのだ。
「年齢は十八歳」
「じゃあ三年生なんだね」
「そうよ」
「わかりました」
先輩とわかったからだ、僕は言葉遣いを敬語に変えた。そのうえであらためて言った。
「じゃあ先輩」
「先輩なのね」
「だって僕高校二年生で十七歳ですから」
だからだとだ、僕はエルザさんに話した。
「こう呼ばせてもらいます」
「そうなのね」
「お嫌ですか?」
「別に」
エルザ先輩は抑揚のない声で答えてくれた。
「そういうのはないわ」
「そうですか、それじゃあ」
「宜しくお願いするわ」
先輩は僕だけじゃなく入居者皆にこう言った。
「これから」
「ええ、こちらこそ」
裕子さんがエルザ先輩に応えた。
「お願いするわ」
「貴女は」
「今井裕子よ」
微笑んで、だ。先輩はエルザ先輩に答えた。
「貴女と同じ三年生よ」
「八条学園の」
「ええ、そうよ」
「そうなの。クラスは」
ここでだ、こう言ったエルザ先輩だった。
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