軍艦マーチ
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第二章
第二章
「鈴木鉄也というんだ」
「鈴木鉄也さん?」
「階級は少尉だ」
階級はだ。自分から話すのだった。
「兵学校を出てすぐにだったな」
「ここに来たんだ」
「そうだ。義の為にここにいるんだ」
鈴木はにこりと笑ってだ。アウンにこう話した。
「その為にこの国にいるんだ」
「義の為にビルマに」
アウンは自分達のいる場所をこう呼んでいた。まだこの国はミャンマーとは呼ばれていなかった。ビルマと呼ばれていたのである。
「そうなんだ」
「ひいては亜細亜の為に」
鈴木の言葉が強いものになった。
「ここにいるんだ」
「亜細亜の為にって」
「亜細亜の独立、そしてビルマの独立を手に入れるんだ」
鈴木は強い顔になってだ。前を見据えて話すのだった。
「その為にここにいるんだ」
「僕達の為に?」
「そうなるな。君達と一緒に戦ってそして」
そのうえでだというのだった。
「独立を勝ち取るんだ」
「じゃあ僕達も戦うんだね」
「一緒に戦うかい?」
今度はアウンに顔を向けて。そのうえで尋ねた言葉だった。
「我々と」
「よくわからないけれど」
アウンはまだ子供だ。だからわからなかった。しかしだ。
鈴木のその真面目で一途なものはわかった。それでだ。
そのうえでだ。彼に対してこう言うのだった。
「僕、お兄さんいや鈴木さんが」
言い直した。この呼び名にだ。二人は今現地の言葉で話している。鈴木は日本語でなくだ。この国の言葉を学んでそのうえで話しているのだ。
「嘘を言っているように思えないから」
「信じてくれるんだな」
「うん、信じる」
まさにだ。そうするというのだった。
「だからね」
「そうか。それじゃあ」
「一緒に。戦いたい」
まだ子供だがそう言った。そしてだ。
そのうえでだ。アウンはだ。
時間があれば鈴木と話した。そうして海軍のことを知るのだった。その中にはだ。音楽もあった。帝国海軍のその音楽をだ。
海軍のその航空基地に案内された。そして演奏を聴いた。丁度だ。その基地に音楽隊が来てだ。そのうえで現地の人達に音楽を紹介しているのだ。
演奏は滑走路の側で行われている。野外だ。席はない。皆立ったりその場に座ったりしてだ。そのうえで音楽隊の演奏を聴いている。
その音楽の中でだ。一際いい曲は。
「あっ、この曲は」
「気に入ったかい?」
「うん、凄くいい曲だね」
その曲を立ったまま聴きながらだ。彼は鈴木に話す。
「格好いい曲だね」
「軍艦マーチというんだ」
鈴木がその曲の名前を話した。
「この曲はね」
「軍艦マーチっていうんだ」
「そう、我が海軍の中で一番有名な曲かな」
鈴木は遠くを見ながら話す。顔が笑顔になっていた。
「僕も好きだよ」
「鈴木さんも」
「そう、好きだよ」
こうだ。アウンに話すのだった。
「大好きだよ」
「そう。それだったらね」
「聴いてくれるかな、この曲」
「好きになったよ。聴きたいね」
アウンはにこりと笑って鈴木に答えた。
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