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柔よく剛を

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第四章

 防がれそれからだった、投げられた。蹴りを放ってもだ。
 何度も何度も投げられた、それでだった。
 一度も技を決められないまま手合わせを終えてだ、定義は八尾に問うた。
「あの」
「手合わせのことですね」
「はい、どうしてでしょうか」
 こう彼に問うのだった。
「俺はずっと投げられていました」
「これがです」
「これが?」
「合気道です」
 それだとだ、八尾は定義に温厚な笑顔で話した。
「合気道は確かにこちらからは仕掛けません」
「そうした格闘技ですね」
 もっと言えば武道だ。
「そうですね」
「そして力も技も素早さもです」
「ないんですか」
「確かに必要ですが」
 それでもだというのだ。
「決してです」
「決して?」
「強くはないのです」
「格闘技だというのにですか」
「そうです、もっと正確に言えば武道ですが」
 八尾はこのことは訂正した、合気道は武道だとだ。
「強く、硬いのではなく」
「そういうものではなく」
「柔らかいのです」 
 そうしたものだというのだ。
「柔道もそうですが」
「柔道ですか」
「柔道はご存知ですね」
「はい」
 八条学園にも柔道部があり既に手合わせもしている、だから知っていると言えた。
「そちらも」
「それは何よりです」
「柔ですね」
「柔道は剛ではありませんね」
「体格に差があろうとも」
 柔道の本質だ、それはというと。
「相手を投げますね」
「締め技もあり」
「そうした技で、ですね」
「自身より体格のある相手にもです」
「勝つものですね」
「それと同じです」
 合気道もというのだ。
「柔らかい」
「体格や力、技、素早さに勝る相手に」
「その相手からです」
 どうするかというのだ。
「身を守るもの、それがです」
「合気道ですか」
「そうなのです、合気道は決して硬くはありません」
 このことは何度も言う八尾だった。
「剛ではないのです」
「柔ですね」
「そうなのです」
「柔が剛を制する」
「制するのではなく守るものが」
 それがというのだ。
「合気道なのです」
「そうでしたか」
「ですから」
 それでだというのだ。
「体格の問題ではないのです」
「成程」
 あらためてだ、定義は納得した。。そうしてだった。 
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