天然格闘少女
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3部分:第三章
第三章
「まあいいわ。あんたなら襲われても簡単に撃退できるし」
「それも何人が相手でもね」
彼女の戦闘力については誰もが知っていることであった。
「まあ相手を見つけてね」
「いい恋をすることね」
「わからないけれどわかったわ」
こんなどうにもあやふやな涼花の返答であった。こうした危うい彼女であったが皆が名前を出したその軟派男が。彼女の前にふらりと出て来たのであった。
「ねえねえ、渡部さん」
「あっ、確か」
彼女の前に出て来たのは背の高い少年だった。年齢は涼花と同じ位である。すらりとしていてブレザーの制服を格好よく着こなしている。
茶色に染めてある髪は女性で言うボブにしていて眉は一直線である。強い光を放っている目は笑っていて口元もそれに続いている。頬がすらりとしていて端麗と言ってもいい顔であった。
「今鳥君?」
「あっ、俺の名前知ってたんだ」
その彼、渦中の人物である今鳥暢雄は涼花の言葉に笑顔で応えた。
「俺も結構有名になったんだな」
「確か軟派で女の子が大好きな」
涼花はここで周りから聞いた彼の話をそのまま出したのだった。
「それでいい加減で遊び人の」
「ちょっと、そりゃないよ」
そしてそう言われて苦笑いになる暢雄だった。
「それは嘘だって。デマだよ、デマ」
「デマなの?」
「そうだよ。俺って実は真面目なんだよ」
そしてこう涼花に言うのだった。
「それも凄くね。もう一直線だよ」
「そうだったの」
「そうだよ、そうなんだよ」
とはいっても目が笑っている暢雄であった。それがどうにも胡散臭いのであるが涼花はそれには気付いていない。しかも全く、であった。
「だからさ。その真面目な俺からの御願いなんだけれど」
「何?」
「デート。行かない?」
実に単刀直入であった。
「デート。どうかな」
「デートっていったら」
「今話題のあの三国志の映画」
彼が出したのはそれであった。
「それのチケットが二枚手に入ったんだよ」
「三国志の映画っていうとあの赤壁がどうとかいう?」
「そうそう、それそれ」
かなり天然な調子の涼花に合わせる状況になっていた。それと共にリードもしてはいる。
「その映画。どうかな」
「私の弟が三国志とか好きだけれど」
まずはこう述べる涼花だった。
「そうなの。三国志なの」
「うん、三国志」
また彼女に告げた。
「どう?よかったら」
「そうね。よかったら」
しめた、暢雄は今の彼女の言葉に内心笑った。実を言えば目にもそれは出てはいたが幸いにして涼花は天然でそれには気付かなかった。彼にとっては実に都合のいいことに。
「行ってもいい?」
「いいよいいよ、絶対に来てよ」
これで勝った、そう確信した。ところがであった。
「その弟も一緒に連れて来るから」
「えっ!?」
この言葉を聞いて唖然としない者はいない。暢雄でなくとも。
「今何て?」
「だから。弟三国志好きなのよ」
天然な調子の涼花の言葉は続く。
「だから。その弟も一緒にって考えてるけれど」
「弟さんも一緒って」
「駄目かな?」
涼花の表情も言葉も相変わらずだった。
「それじゃあ。三人でデートって」
「三人でデート」
こう言われて口をシャコ貝のようにさせてしまった暢雄だった。
「二人じゃなくて」
「デートって絶対に二人でするものなの?」
「いや、決してそうとは限らないけれど」
ここでは妙に正直になる暢雄だった。
「別にね」
「じゃあ三人でもいいのね」
「まあね」
流れから頷くしかなくなってしまっていた。
「それじゃあ三人で」
「チケットもう一枚あったらいいけれど」
「ああ、それは任せて」
このことにも正直に答えるのだった。やはり話の流れからそうなってしまっていた。
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