天然格闘少女
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1部分:第一章
第一章
天然格闘少女
「そんなに強いの?」
「滅茶苦茶強いんだよ、これが」
彼女のことは通っている高校では誰もが知っていることだった。
「もうな。異常にな」
「確か空手は三段?」
「あと剣道も三段だし柔道も二段」
少なくともどれも尋常なことではなれるものではない。有段者、それもまだ高校生でなれるものではない。それだけのものがあるのは誰でもわかることだ。
「あと薙刀も二段だったかな」
「それに合気道もこの前初段らしいし」
「滅茶苦茶強いよなあ」
「全くだよ」
皆彼女の強さに驚くばかりであった。
「実際あれだろ?電車の中で痴漢を一撃でのしたんだって?」
「そうそう、みぞおちに一発」
それで終わりだったのである。少なくとも普通の女子高生が決めるものではない。
「それでおしまい」
「何か中学生の時絡んできた不良グループ十人を一瞬で倒したそうだし」
桁外れの強さを示す話はまだ続くのだった。
「それだけ強いのにな」
「だよな。それでもな」
ここで話が変わるのだった。
「外見はあれだよな。全くな」
「見えないんだよな」
今度は彼女の容姿の話になるのだった。
「この前あれだぜ。芸能プロからスカウト来たらしいぜ」
「女優か?アイドルか?」
「アイドルでだよ」
そちらだというのである。
「それで声かけられてたぜ」
「だよな。外見は確かにそんな感じだからな」
「顔は可愛いし」
まずは何といっても顔であった。人間というものはどうしてもまず最初にその人の顔を見てしまうものでありからこれは当然であった。
「小柄でしかもスタイルはいいし」
「胸はないけれどね」
皆見るものは見ていると言っていい。
「アイドルになれるよね」
「歌だって上手だし」
どうやら天から二物も三物も与えられている女の子らしい。
「けれどあんなに強いのがね」
「謎よね」
皆でそんな話をするのだった。その女の子の名前は渡部涼花、黒いふっわりとした柔らかい髪を肩に少し捲きつく程度まで伸ばし横に流線型になっている目の光は穏やかである。頬は少しふっくらとしていて口は大きめである。眉は薄めだが奇麗なカーブを描いている。その彼女のことである。
彼女は学校では空手部等にいる。そこで今日も拳を振るっている。
「よし、一本!」
実際の試合を想定した稽古において見事に一本取っていた。蹴りが相手の腹に一直線に入ったのである。やはりその動きはかなりのものだった。
「凄いね、今日も」
「やるじゃない」
「そんなことないわよ」
稽古の後で声をかけてくる同級生達に笑顔で返す。にこりとしてとても可愛らしい笑顔だ。
「だって私今日は」
「調子はいいって」
「ねえ」
彼女と同じ黒帯の女の子達はそれは否定した。道場を思わせる稽古場では他には剣道部や柔道部も稽古をしている。どちらもやる彼女にとっては実に都合のいい場所であった。
「だってあんたさっきは柔道部の稽古してたじゃない」
「今日は柔道と空手ね」
「明日は剣道よね」
「うん、そうなの」
自分の白いタオルで顔の汗を拭いながら皆に答える涼花だった。
「朝の練習は空手部だけれど」
「やっぱり凄いわ」
「っていうか完全に格闘少女ね」
皆そんな涼花の話を聞いて感心することしきりであった。
「何かそればっかりって気もするけれど」
「彼氏とかいないの?」
「彼氏?」
彼氏という言葉を聞いて少しばかりそのアーモンドを真横にしたような目を丸くさせる涼花であった。その表情も実にいいものであった。
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