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霹靂の錬金術師

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THIRD INSTITUTE

大きな病院のような建物の脇にマスタングさんは車を止めた。私たちは降りてバリーザチョッパーと合流する。
彼はここに自分の身体が入って行ったという。
ここは確か第三研究所。そして錬金術研究所は大総統府の直轄だ。
それを知ったマスタングさんは上層部をゆするきっかけができたなどと言っていたが、私はとてもそんな気分にはなれなかった。
ここは引くべきだ。マスタングさんに提案するとすんなり受け入れられる。口実を手に入れられただけで満足なようだ。
引こうとするが、ままならない人が一人いた。

「げはははは!!」

バリーザチョッパーだ。
彼はハボック少尉の静止も聞かず真っ直ぐに第三研究所に入っていってしまった。すぐに悲鳴が聞こえてくる。
まずい。ここはバリーザチョッパーを見捨てるしか。

「………………好都合だ」

同じものを見ていたマスタングさんが私と逆の答えを導き出した。
けど、話を聞いてすぐに納得する。確かにこれは好都合だ。



私たちはバリーザチョッパーを手配中の殺人犯として堂々と武装して中に入った。増援の要請も、もうしたと言って警備兵たちを下がらしてしまった。マスタングさんは本当に口が上手い。
そのあと、人目を気にしつつ階段を降りた。その下に金網が破られた扉を見つけた。アルフォンス君が扉にされた大きな南京錠を錬金術で壊す。
中は左右に長い廊下が続いており先は暗闇に飲まれていて見えない。
そこで二手に分かれることにした。組みわけは、私とホークアイさんとアルフォンス君。マスタングさんとハボック少尉のコンビ。
私たちはマスタングさんに深追いするなと忠告されたあと、左手に行くことになった。
妙な振動があったあと、道なりに進んでいくと、ホークアイさんが何かに気づいた。

「……バリーはこっちね」

その視線の先には真新しい血痕があった。それが奥へと道しるべのごとく続いている。
それを辿っていくと、一つの高い天井の開けた場所にたどり着くことができた。
奥にある大扉の前に地を流して倒れた男とバリーザチョッパーが立っていた。
倒れた男から思わず鼻を覆いたくなるような強い腐敗臭がする。バリーザチョッパーの説明によるとこれは彼の肉体だそうだ。それに別の魂を定着させたことにより無理が生じて腐ってしまったようだ。
そんなことを話していたら、入口から女目から見ても艶のある女性が入ってきた。胸の中央にウロボロスの刺青。人造人間だ。
バリーからラスト、と言う名前が判明する。
ラストはバリーを見ると自らが釣られたことに対する悪態をついた。バリーとラストは少し言葉を交わすとバリーがラストに斬りかかっていった。
が、ラストの伸びた爪のようなものに鎧を一瞬で斬られ、バラバラになりあっけなく沈黙してしまう。
ラストがゆっくりとこちらに歩いてきた。

「さて…誰から逝く? 鎧くん? 眼鏡ちゃん? やっぱりここは中尉さんからかしら? あなた忠義が厚そうだものね。すぐに上司の跡を追わせてあげるわよ」

上司の跡を、追わせてあげる?それはどう言う意味?ホークアイさんの上司なんて私が知る限りマスタングさんしかいない。ということは…

「待って… 上司の跡、と言ったわね。まさか… まさか…」

ホークアイさんの言葉に近づいてくるラストはただ口の歪みを強くしただけだった。
それでも全てを悟らせるには十分だった。

「きっ………さまああああああああああ!!」

突然ホークアイさんがいつもの感じからは考えられない程感情をむき出しにして、ラスト向けて銃を乱射した。弾がきれればすぐに補充した。その銃の弾がきれれば新たな銃に即座に持ち替える。それは実に1分ほど続いた。
全ての弾がきれ、引き金を引く音しかでなくなった銃をホークアイさんはなおラストに向けていた。

「終わり?」

ラストは何十発と受けた筈なのに驚異的な再生力のおかげで平然としている。
ホークアイさんはそれを見て、涙を流して膝をついてしまった。
ラストが爪を伸ばしながら近づいてくる。
私はベルトにさした杖を抜きながらホークアイさんの前に立つ。

「そこから一歩でも動いてみなさい。その両足を弾け飛ばすわ」

ラストに向けて真っ直ぐに杖を突き出す。

「やってみなさい」

ラストは迷いなく右足で歩を進めてきた。すかさず杖を振るい、この場で錬成可能な最大電力の全てをラストの足に走らせる。
それはラストの太ももあたりにぶつかり、彼女の両足を文字通り弾けさせた。

「っ!」

突然支えを失い地に落ちたラストの余裕ぶった顔に初めて驚愕の色が浮かぶ。
そこに間髪入れずにもう一撃。杖をすっと振るう。今度は二条の紫電がラストの二の腕に走った。そして彼女は両腕も失った。

「ちっ!やるわね。さすがは国家錬金術師と言ったところかしら」

「一応ね」

私は今度は五度ほど杖を振るった。雷にもにたそれがラストに降り注ぐ。全身を粉々に焼いた。さすがにここまでやればあの再生力も役に立たないだろう。
しかしその予想は鮮やかに裏切られた。
雷の余波で生まれた白煙の中から五本の爪が斬りかかってきた。

「なーー!」

何とかよけるが、杖を五等分されてしまった。これではもう錬成はできない。
焦る私に五体満足で現れたラストは二撃目を加えてきた。今度は伸ばしによる突きだ。

「ぁあ!」

よけきれずに右脇腹に四本の爪が突き刺される。久しい肉体の生々しい痛みに思わず声をあげる。

「ソフィアさん!!」

後ろからアルフォンス君が駆け寄ってくる音が聞こえる。今来ちゃダメ。アルフォンス君にはホークアイさんを守って欲しいのに。

「死になさい」

ラストは私から爪を抜き右の爪で袈裟切りをしてきた。
そこに、私にとって安心する声が割って入った。

「よくやった、ソフィア・キャンベル」

その声にラストは硬直し、攻撃をやめてしまう。そこにアルフォンス君が私を庇うように前に立ち、一枚の壁を錬成した。
直後に爆発音。
それが間断なく実に2分。
ラストはマスタングさんの目が苦痛に歪むのは近い、という不吉な予言を最後に残して死んでいった。
ラストの死を確認した私は覚えた安堵とともに出てきた急激な眠気に逆らえず、意識を暗転させた。



目を覚ますと視界に白が広がった。急激に覚醒する意識のおかげでそれは天井だとわかる。
自分は今、たぶんベッドに横たわっているのだろう。

「あぁ、そっか。入院」

私にとって直前のラストとの戦いが思い出される。その時私は彼女に脇腹を刺された。それが原因で今入院しているのだろう。寝巻きの下に手をいれて触ると、そこにはごわついた包帯が巻かれている。
その時、足の方からから声が聞こえた。

「お!起きた。大佐ーソフィアさん起きましたよ」

「む?そうか」

私は声のした方に体を起こす。そこには向かいの二つ並べられたベッドに上半身をベッドの背に預けながら寝ているマスタングさんとハボック少尉がいた。

「無理するな、ソフィア」

「いえ、大丈夫です。あのそれより…」

「安心しろ。みんな無事だ」

「ぁ、そうですか。良かったです」

良かった。あの後、敵の増援が来た、なんてことも考えられる。本当にみんな無事で良かった。もう親しい人が死ぬのは嫌だ。
聞く話によると私は二日ほど眠っていたそうだ。その間にホークアイさんがマスタングさんに叱られたり。大総統自身が人造人間と繋がっている可能性が浮上したり。いろいろとあったそうだ。
その中で一番衝撃を受けたのはやっぱり、

「ハボック少尉……大丈夫ですか?」

「へーきへーき。ソフィアさんは気にしないでよ」

ハボック少尉の両足が動かなくなってしまったことだ。これはもう現役ではいられないことを意味する。それ以前に残酷な話だが今後、人並みの人生が送ることは難しくなることを意味している。
口ではあんなことを言っているが本心ではどう思っているのだろうか。こんなことを考えてしまうのはおこがましいと分かっているが、考えずにはいられなかった。

その一週間後に私が、さらに私より五日遅れてマスタングさんが退院した。
ハボック少尉は軍を退役することを決めたそうだ。  
 

 
後書き
この話で人造人間たちの標的の一つに主人公も加えられたとしてください。ラースさんが真理の扉を開かせると言ったアレです。 
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