八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第十三話 バリ島からの女の人その二
「いい人だね」
「そうでしょうか」
「うん、私にこうしたこと教えてくれるからね」
だからだというのだ。
「先輩はいい人だよ」
「自分ではそう思いませんが」
「悪い人だっていうの?」
「決して。善人ではありません」
それは、というのだ。
「私は」
「具体的にはどうしたところが?」
「陰気ですし嫉妬深いですし。うじうじと悩みますし」
「そうなの」
「ですから」
善人ではないというのだ、ご自身は。
「そう思っています」
「そうは見えないけれどね」
こうした話をしているとだ、二人のところにだ。
小夜子さんが来てだ、そのうえでこう言った。
「お二人共もう」
「どうしたの?」
「そろそろ朝御飯ですから」
だからだというのだ。
「いらして下さい」
「ああ、もうそんな時間なのね」
「このアパートでは起きればです」
「すぐになのね」
「はい、朝御飯です」
小夜子さんは僕の目の前でだ、ラブポーンさんにこのことを話していた。
「ですから食堂に参りましょう」
「そうだね、そういえば私もお腹ぺこぺこだし」
両手を自分のお腹に当ててだ、ラブポーンさんは小夜子さんに対してにこにことした顔で言葉を返した。
「これからね」
「まずは食事からです」
こうも言う小夜子さんだった。
「では」
「うん、早百合先輩も行こうね」
「そうさせて頂きます」
先輩はピアノの鍵の蓋を閉めた、そのうえでラブポーンさんに応えた。
「これから」
「それじゃあね」
「音楽を奏でますと」
それで、というのだ。
「お腹が空きますね」
「神経を集中させ、頭も使い」
「それでカロリーを消費するからですね」
「そうですね、だからですね」
小夜子さんは優しい微笑みで先輩に答えた。
「お腹が空くのですね」
「演奏しますと」
「そういうことですね」
「それでは」
「そのお腹が空いた分だけ」
「頂きます」
朝御飯をだ、こう言ってだった。
三人は食堂に向かった、ここでラブポーンさんはこれまでずっと見ていた僕に顔を向けて笑顔でこう言った。
「大家さんもね」
「あっ、気付いてたんだ」
「最初からね」
にこりとしての言葉だった。
「けれど盗み聞きとかじゃないからね」
「黙っていたんだ」
「ただそこにいただけだよね」
「別に聞くつもりはなかったけれど」
ついつい聞いてしまったことをだ、僕はラブポーンさんに素直に答えた。嘘はこの時はつかなかった。何か嘘を吐いたらまずい雰囲気を感じたので。
「それでなんだ」
「だからなのね」
「それじゃあね」
それならと話してだ。そしてだった。
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