| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十二話 気さくなタイ人その八

 ここでだった、円香さんはマウンドを見てこんなことを言った。
「急に」
「急にって?」
「はい、晴れてきましたわ」
 こう言ったのだった。
「マウンドが」
「晴れてきたってことは」
「黒いオーラが消えました」
 そうなったというのだ。
「ここで急に」
「ということは」
「次のピッチャー次第ですが」
「抑えられるんだね」
「それが出来そうですわ」
 朗報だった、まさに。話す円香さん自身晴れやかな顔になっている。その顔で僕達にこうも言った。
「抑えられそうですわ」
「それは何よりだ」
 留美さんが最初に言った、それもかなり切実に。
「ここで勝って欲しいからな」
「そうよ、確かに阪神はここぞって時に弱いけれど」
 美沙さんもこう言う。
「今日勝ったら大きいからね」
「広島を離せるからな」
 留美さんの今度の言葉は具体的なものだった。
「小夜子殿には悪いがな」
「あの、殿ですか」
「むっ、さん付けでよかったか」
「殿はとても」
「畏こまり過ぎか」
「殿付けなぞ恐れ多いです」
 そこまで偉くないという意味の言葉だろうか。
「ですから」
「そうか、わかった」
「はい、さん付けでお願いします」
「わかりました、それでは」
 小夜子さんは留美さんにこう返した、そうした話をしてだった。
 マウンドに新しいピッチャーが来るのを見た、まずは東急練習をしてだった。
 そうしてだった、試合再開となった、すると。
 新手のピッチャーはあっという間にだった、ピンチを乗り切りしかも追加点を許さなかった。その状況を見てだった。
 僕も阪神ファンの皆もだ、こう言った。
「ほっとしたね」
「うむ、心配だったが」
「何とかね」
「抑えられましたね」
 留美さんに続いて美沙さんと早百合先輩も言った。
「後は九回だ」
「あのイニングを抑えたら」
「阪神の勝利ですね」
「あと一回だ」
 その九回のことをだ、また言う留美さんだった。
「このイニングを抑えられるかどうかだ」
「大丈夫だと思いたいですわ」
 円香さんの言葉は切実だった。
「折角黒いオーラが消えましたから」
「また出て来るとか?」
 詩織さんも心配そうにだ、円香さんに問うた。
「出たり消えたりするとか」
「はい、悪い気というものもまた」
 円香さんは真顔で詩織さんに答えた。
「出ればです」
「消えてなのね」
「また出ますわ」
「同じ試合でもなの」
「そうですわ、言うならば不安定な泉ですわ」
「それが気なの」
「球場の気はそうしたものなのでして」
 そうだというのだ。
「まさに水ものですわ」
「水ものですか」
 千歳さんはその言葉に首を少しかしげさせた。
「そうなのですか」
「はい、ですから」
「何時出たり消えたりするかわからないのですね」
「そうした不安定なものですわ」
「それはまた厄介ですね」
「厄介でもですわ」
 それでもとだ、また言う円香さんだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧