魔法科高校~黒衣の人間主神~
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九校戦編〈下〉
九校戦四日目(1)×新人戦と名無しの力始動
大会四日目。本戦は一旦休みとなり、今日から五日間は一年生のみの新人戦が行われる。ここまでの成績は一位が第一高校で三百二十ポイント、二位が第三高校で二百二十五ポイント、三位以下は団子状態の混戦模様。一位と二位の差が九十五ポイントとここまで一高が大量リードを奪っている。新人戦は特に俺の出番で、選手もやるし技術もやるが、予選は女子の中で混じってやって決勝リーグからは男子のところでやる。特に一高一年女子が見たいのか、学校側から蒼い翼に報告として挙がっていた。
「諸君、今日から一年生のみの新人戦が行われる。特に俺は選手では名無しとして出場し、技術では織斑一真としてやるつもりだ」
「昨日の事故に関しては聞いてますが、一体どこで妨害されるか分かりません」
「風間少佐殿の言う通りだが、俺らの部下と元部下の者なら気配や脳量子波を使い連携しつつ輩がいたら排除しろ。なお名無しとした俺はスピード・シューティングとバトル・ボードに出るが名無しの時は各競技のハンデがあるはずだ」
「織斑少将が名無しに出る時は、真っ黒の戦闘服にサングラスでの容姿を覚えておいた方がいい。諸君の職務を全うしつつ、違和感やらあれば排除したまえ。特に新人戦は邪魔をする輩が多いかもしれない。という事で今日の事務事項は終了とする。以上解散!」
全員敬礼をしてから、各自散らばったが今日の種目は両方とも出場するので俺の分身体を技術側にして、選手側を本体とした。本戦とは違い、スピード・シューティングは午前が女子で午後が男子だ。予選を終わらせたら、すぐに決勝となるが名無しは予選をしてからバトル・ボードに予選出場してから午後の男子決勝に行くつもりだ。試合中にデバイスを調整する事ができないが、選手の希望を聞いて試合と試合の合間に細かな調整をするのがエンジニアの仕事だ。分身体はゼロに任せて喋る声は俺だがゼロに記憶させているので、本人と分からない事がある。エンジニアは基本的に試合時間中は、担当する選手の傍につくが早撃ち担当選手は三人いる。
「ほのかは最終レースのようだな・・・・」
「ハイ!午後のレースですので、女子スピード・シューティングとは重なりません!」
ニコニコと笑いながらプレッシャーをかけてくるが、容姿は俺だが中身はゼロだが感情は本人と一致しているからすぐには気付かない。ほのかは横にいながら、ゼロは作業をしていた。ゼロが担当する競技は女子競技ばっかりであるが、これについては彼自身の希望ではなく女子からの希望でもあるのと一年生男子選手の方ではとても反発を買っているからだ。技術を見せたのは内定した女子選手だけだったから、一年男子のは技術を見せた後だったので一科生の一年生は二科生の俺にエンジニアをして欲しくないと全員言ったから。
「午前は名無しさんがスピード・シューティング女子予選に出てから、午前にバトル・ボードに出るらしい。決勝は男子の方で出るから、俺はほのかの試合を見れるが名無しの決勝は見れないな」
「あ、今いる一真さんは本体ではなく?」
「そうだ、声と感情は本人と同じだが、行動と喋る時はゼロである私がやっているので」
「本体の方を選手として出た方がいいですものね、私も名無しさんの試合は見てみたいです」
深雪の魔法力に最も向いているのは、ピラーズ・ブレイク。本来の深雪なら振動減速系統を得意とする事は、生徒会役員とクラスメイトが知っている。が、それはあくまで本来の方で、力を解放するとすぐに終わってしまう。なので封印をしているが、俺と同じく神化できるから攻撃時は滅も出ちゃうかもしれない。ほのかがバトル・ボードに出るのは選手として選ばれた後だった。
一高の実技試験は、ほのかは四位だったがほのかの魔法は競技には向いていないからだ。全ての系統をそつなくこなし、複雑な工程の魔法式も然程苦労することなく組み上げる実力があるので研究者タイプ。得意魔法を挙げるなら、光波振動系統の幻影魔法だが、同じ振動系統でも大出力の振動・加速系を得意とする雫の方がピラーズ・ブレイクに向いている。一真が深雪を担当するのは、最初から決定事項だったが彼の技術を目の前で見た女子達が一真を指名した。この事に異議を唱える上級生はいないので俺を指名するなら同じ競技担当をしてもらった方が得策。選手が得意分野にエントリーできるように考慮したので、ほのかはバトル・ボードとミラージ・バットに決まったからだ。
「・・・・本当ならデバイスを診てやりたいが、それは無理だからせめてレースは脇で見ているか、俺本体のレース後にほのかのレースを見る事になる。本体とぶつかる心配はない」
「本当ですかっ?約束ですよ!本体も分身体も関係ないですよ」
誰かが笑った声を聞こえたのは、入り口の横にいた深雪の声だった。最初はスピード・シューティング予選だが、雫の後に名無しが出る事になっている。なので最終チェックを終えた、スピード・シューティング専用の細長い小銃形態デバイスを手渡して、一真は雫にコンディション確認するように雫に指示を出す。デバイスは魔法師からサイオンを吸収し、サイオン情報体である起動式を送信する。この交信機能にトラブルが生じると、他の部分をどれほど巧みに仕上げても役に立たない。ハード
的な交信障害があれば予備機に交換しなければならないし、ソフト的なバグがあれば大急ぎで手直しする必要がある。
「んっ・・・・万全。自分より快適」
雫の声や表情が乏しいのは、拠点にいる恋や光璃だ。なので雫とコンビ組んだ時も慣れた感じでいたからか、基本的に嘘は言わない感じだと一真は最初からそう思ったと本体は言っている。都合の悪い事は黙秘するだけ。
「一真さん、やっぱり雇われない?」
「・・・・この試合直前に冗談を言うのであれば大丈夫のようだ」
「冗談じゃないよ」
雫が言っている事は「自分と正式にデバイスメンテナンス契約を結ばないか」という意味だ。雇われないか?という質問はもう十回は超えている。雫の性格からして同じ冗談を繰り返したりはしないだろうが、本気のようだ。
「専属じゃなくてもいいから」
競技用デバイスのアレンジ参考にする為、一度見せてもらった雫のデバイスは一真が手を加える余地がないくらいに調整されている。雫のデバイスをメンテナンスしているのは、現在この国に五本の指に入ると言われている有名魔工師である。雫の、というより北山家の、と言った方が正確かもしれないが。北山家は有名な大富豪であるが蒼い翼のような超が付くほどの大富豪という称号は零家と織斑家が相応しいと思った。北山家は十師族や百家のような名門ではない。一流魔法師である母親が北山家の跡取り息子に見初められてゴールインした。という事情で父方の家系に魔法師はいないし歳の離れた弟も実用レベルと言える程の魔法素質がない。要するに父親は雫に対して親バカな一面があると見る。雫がモノリス・コードにすっかりはまったのも、父親が財力にものを言わせた魔法競技観戦ツアーを毎年組んでるほどだ。
「・・・・何度も言っているけど、俺はライセンスを持っているが蒼い翼所属の者だ。抜き取るのであれば、直接蒼い翼に頼み込んでくれ。俺だけの問題ではなくなるんでな」
雫が提示してきた契約金と作業料は、零達也の時に巨額と言える年収並みにも言えるんじゃないのかという位の破格な値段だ。学校行事の一環でやっているから無報酬で調整するのと報酬を受けての仕事とはワケが違う。
「分かった・・・・九校戦が終わったら父親に聞いてみる」
いつものように聞き分けて頷いたが、まだ諦めている様子ではなかった。だけど巨大グループである蒼い翼相手には、雫のみでは難しいだろう相手だ。何しろ大富豪という称号からの頂点でもあるからだ。選手に悪影響が無ければ問題ない会話でもあるし、緊張がほぐれているから問題ないと思った。作戦は事前に何度もミーティングを重ねてから、雫のために考案しその為のデバイスを組み立てた秘策がある。秘策は決勝トーナメントとなるが、予選は軽くイケるだろう。
「いよいよだな、雫。雫の後はいよいよ名無しの出番となるが、気にしない方がいい。決勝トーナメントは男子の方だから」
「うん。私の後の一真さん・・・・名無しさんがどういう風にやるか楽しみ」
出番を前にして、言うべきは一つしかない。
「頑張って行って来い!」
「うん、頑張る!」
単純だが、それこそが最後の緊張をほぐすためでもあった。雫が前を向いて行った後に、ゼロは本体がいる方に報告をした。本体はここから離れた屋外演習場にいた、そこにはスピード・シューティング専用の細長い小銃形態デバイスを持つ名無しが立っていた。向いている方向としては、スピード・シューティングの方向にいるが意識を会場の選手が立つところにいた。
「隣、空いている?」
「アラ、深雪。空いているわよ。どーぞドーゾ」
観客席に座っている彼女たちに対して先ほどから同じ問いかけが繰り返されていたおんだが、今回と違って訪ねてくる相手は下心丸出しのバカばっかりだった。レオと幹比古が両端に座っているのも関わらず勇気ある野郎共達がそう問いかけてくるので、その度にエリカが殺気を乗せた嘘八百でナンパ男を追い払って確保した空席だ。座っている順番は、幹比古、美月、ほのか、空席、エリカ、レオ。真ん中に深雪の席を空けておいたのは、そうして左右からガードしておかないと怖い物知らずの身の程知らずが何人寄ってくるか分からない。レオの隣を嫌がるエリカだったが、ほんかとレオはあまり面識がないと美月から説得されてから納得した様子だ。深雪が来るまで、ほのかを除いた四人は新人戦のスケジュールを見ていたようで観客席のパンフレットを手にしていた。深雪と挨拶を交わすために顔を上げた後に、パンフレットに目を戻した美月が今更気付いたようにほのかに話しかけた。
「・・・・ほのかさん、準備はいいんですか?」
「大丈夫です。私のレースは午後だから、それに名無しさんの試合も見ておきたいですから」
美月に問われて、ほのかは少し硬い笑顔で答えた。それを呆れ声で口を挟む。
「ほ・の・か。今から緊張していては、試合まで持たないわよ?」
「うっ、分かっているんだけど。それに名無しさんの後だから」
「レースの事は考えすぎないようにと、お兄様も言ってたんだから。それに今頃名無しさんも準備をしているはずよ」
必要以上に言ってから、深雪はほのかの緊張をほぐすために仙術で緊張を無くした深雪。深雪もある程度仙術ができるので、相手を落ち着かせたり緊張をほぐす事も可能となったが最近は女神化していないのか太陽光を最近吸収していないと思ったのだったけどね。一年生達がそう言っていたが、少し離れたところに生徒会+風紀委員長の三年生トリオが陣取っていた。
「摩利、寝てなくて良いの?」
「病気じゃないんだ、それに主治医である一真君が朝診察してくれたので問題なく動ける。ちゃんと許可をもらったのだから。それより真由美の方こそ、テントに詰めていなくて良いのか?」
「大丈夫よ。何キロも離れている訳じゃないんだし、何かあったら知らせて来るでしょ。摩利が動けるのも全ては一真君のお陰って事ね」
そう言って真由美は、頬に掛かる髪をかき上げて見せたが耳には通信機を装着していた。
「しかし、真由美だけならまだしも市原まで一緒に席に外すのはどうかと思うが」
「問題ありません。今日の私は強制オフみたいなものです」
「・・・・お前の冗談は相変わらず分かりにくいぞ、市原」
ニコリとも返された答えに、一瞬、参謀の役目を事実上取られてしまった事に不満があるのかと摩利は疑った。無論そんなはずじゃない事も知っている摩利も知っているが、鈴音は作戦スタッフの総責任者だが個々の作戦立案は分業体制に従っている。あと作戦スタッフは四人しかいないのも知っている。最も大きな担当分けは、男子の試合は男子スタッフが作戦を立て、女子の試合は女子スタッフが作戦を立てる。本日の競技では、女子スピード・シューティングが鈴音の担当種目だが元々この競技は詳細な作戦が入り込む余地の無い、能力任せの色彩が濃い。選手特性に応じた魔法種類選択とそれに合わせたデバイスのセッティング傾向になるのを参謀がやるが、それを全て一真一人でやってしまったからだ。プラン自体は鈴音に事前報告を済ませている。
「さて・・・・考えてみれば、アイツのエンジニアとしての腕を実戦で見るのがこれが初めてだな。その次はいよいよ蒼い翼特別推薦枠である名無しの出番ともなるが」
好奇心剥き出しにした摩利の言葉に、真由美も興味津々の表情で頷いた。
「そうね。私の時はお手伝い程度だったし。彼が一から調整したCADがどんな性能を見せてくれるのか、楽しみだわ。それについては私も楽しみよ、どういうハンデなのかまだ分からないけど」
「北山さんを始めとして、九校戦発足式後からは選手から好評のようです。懇親会後に一年生女子だけを地下温泉に入らせた許可をあげたのも彼だと聞いています」
一科生のみで構成される一年女子の選手団は、発足式後にも時々練習を見てきては一人一人アドバイスに回ったり、デバイス調整はしないが軍医とカウンセラーの資格を持っているのか。二科生が自分のデバイス調整を任せるという事の抵抗感は一切なかった、十分実力も見せているし蒼い翼からの特別推薦枠を取るという事は実力を隠しているかのようにも思えた。
「今日も自分のCADを持ち込んでいる選手もいたようです」
「おいおい・・・・競技に差し支えるんじゃないか?」
「その辺りは織斑君の方で上手くコントロールしているみたいですね。サービスは試合前後だそうですよ」
サービスというのはデバイス調整の事で、一真が調整した競技用デバイスを使った選手が、私用のデバイス調整まで持ち込んでくるようになった。それも一年生女子全員が、持ってきていると知った一真であったが競技に合せて使うようにした。
「発足式後から着々とファンを増やしているようね」
「アイツは人当りもいいし、好意を持つのが当たり前とでも言った方がいいのか」
真由美と摩利が顔を合わせて、笑っていた。一方本人は風の精霊でバッチリ聞いていたので、まあファンを増やすというより勝手に増えただけだと思いたい。一年男子には敵に回しているが、一年女子は味方になってくれているので一年男子が文句を言おうとしても味方が壁となってくれるという感じになった。懇親会後に人工温泉を許可したのも俺だと言う事は既に上級生も次の日になってから知った事だ。雫が構えをしていた時に、何も細工されてないのを確認した後見ていたゼロであった。
「あっちは始まったようだな、雫は調子いいみたいだ」
「最初のハンデを聞いた時は、正直甘いのではと思いましたがしょうがないと思われます」
「一キロ先から狙い撃てという指示を出された時はホントにそれでいいのか?と俺も思った」
「最初は腕試しで本番は、男子決勝でしょうね」
と本体=名無しと蒼太に大会委員のはずが烈が来ていた、俺はあっちにいなくてもいいのかと聞いたがこっちの方が面白そうだと言った。それに大会委員の中には蒼い翼の者もいるから問題無し。とあちらも始まるから、小型ディスプレイで試合を見ていた。ランプが全て点った瞬間に有効範囲エリアにあったクレーが粉々にされていた。クレーは中央に砕いたり両端二つ同時に粉砕されたので、大勢の観客から嘆声が漏れたのだった。観客席でジッと瞳を凝らしている深雪達も、順調な滑り出しに対する安堵感も込みで詰めていた息を吐き出した。雫の視線にブレはなく正面を向いて標的を見ていないようにも見える。
「うわっ、豪快」
エリカがシンプルな感嘆を漏らす反対側では。
「・・・・もしかして有効エリア全域を魔法の作用領域に設定しているんですか?」
美月が自信無さそうに深雪とほのかへ訊ねた。
「そうですよ。雫は領域内に存在する固形物に振動波を与える魔法で標的を砕いているんです。内部に粗密波を発生させる事で、固形物は部分的な膨張と収縮を繰り返して風化しますから。急加熱と急冷却を繰り返すと硬い岩でも脆くなって崩れてしまうのと同じ理屈ですね」
「より正確には、得点有効エリア内にいくつか震源を設定して、固形物に振動波を与える仮想的な波動を発生させているのよ。魔法で直接に標的そのものを振動させるのではなく、標的に振動数を与える事象改変の領域を作り出しているの。震源から球形に広がった波動に標的が触れると、仮想的な振動波が標的内部で現実の振動波になって標的を破壊させるという仕組みよ」
ほのかと深雪が目をシューティングレンジに固定したまま、二人掛かりで行った丁寧な解説に、美月はしきりと頷くばかりだった。
「・・・・という仕組みですね」
偶然か必然かは知らんが、同じ会話が同じタイミングで三年生トリオの間でも交わされていた。
「御存じの通りスピード・シューティングの得点有効エリアは、空中に設定された一辺十五メートルの立方体です。織斑君の起動式は、この内部に一辺五メートルの立方体を設定して、その各頂点と中心の九つのポイントが震源になるように記述されています」
解説役は一真から調整プランを見せられている鈴音である。
「各ポイントは番号で管理されていて、展開された起動式に変数としてその番号を入力すると、震源ポイントから球状ぬ仮想波動が広がります。波動の到達距離は六メートル。つまり一度の魔法で発動で、震源を中心とする半径六メートルの球状破砕空間が形成される事になります」
「・・・・余計な力を使っているような気もするが・・・・北山は座標設定が苦手なのか?」
「確かに精度より威力が北山さんの持ち味ですが・・・・」
摩利の問いに答える鈴音の顔は、彼女のデフォルトとも言うべきクールポーカーフェイスのままとなっている。目だけは同情交りの苦笑の影が見えた。
「この魔法の狙いは精度を補う事ではなく、精度を犠牲にする代わりに速度を上げる事にあります」
「・・・・つまり、その気になればもっとピンポイントな照準も可能という事よね?どういう事かしら」
「この魔法特徴は、座標が番号で管理されているという点です」
視線を正面に試技中の一年生に戻して、真由美の質問に答える形で、鈴音は説明を始めた。すらすらと繰り出される答えは、彼女も以前に同じ質問をして既に回答を得ていたからだ。
「スピード・シューティングは、選手の立つ位置と得点有効エリアの距離、方向、エリアの広さが常に同じです。それはつまり、この魔法で設定する必要がある震源ポイント、その位置決めする仮想的な立方体と選手の距離、視覚角も常に一定という事です。故に、座標を変数として入力する必要なく、起動式に選択肢の形で組み込んでおいて発動時にはその番号を指定するだけで魔法を発動させる事が出来ます。この程度の粗い狙いであれば、デバイスの照準システムでその時に最適なポイントを自動的に選び出す事も可能です。そしてこの魔法は、威力も持続時間も、変える必要がありません。実際にそれらは、起動式で定数として処理されます。選手は、デバイスの補助に従ってポイントを設定するだけで、ほとんど変数入力を意識する事なく、事実上ただ引き金を引くだけで標的破壊する事が出来るのです」
試技は終盤に差し掛かっていた。撃ち漏らしは一つもない。
「制御面で神経を使う必要がありませんから、魔法を発動する事だけに、演算領域のポテンシャルをフル活用する事が出来ます。連続発動もマルチキャストも思いのままです。魔法の固有名所は『能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)』で織斑君のオリジナルだそうですよ。まあ、色々な要素が詰まっている分だけ大きな起動式になりますから、北山さんの処理能力が合ってこの魔法ですが」
鈴音の説明を聞いた後に、試技は終了となった。結果はパーフェクトとなった。
「・・・・真由美の魔法とは、発想がちょうど逆だな」
「・・・・よくもこんな術式を考えつくわね」
真由美の声は、感嘆の成分よりも呆れ声成分が多く含まれている。
「しかし・・・・面白いな。実戦では自分と攻撃対象の相対位置が常に同じという事はあり得ないから、射撃魔法として見れば実戦的ではない。が、空中に仮想立方体を設定するのではなく、自分中心にした円を設定して、その円周上に震源を配置すれば全方位に有効なアクティブ・フィールドとして使えないかな?」
「持続時間が問題ね。短すぎるとタイミングが難しいし、長すぎると自分が巻き添えを喰らう可能性が出てくるわ」
そう言いながら摩利は今夜一真を捕まえて、摩利のデバイスにインストールしてほしいと言ったが試合の邪魔だけはしないように言った。次はいよいよ俺の出番となるのか、選手が立つ位置の前には蒼い翼所属の桜花がマイクを持ちながら待機していた。
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