【完結】剣製の魔法少女戦記
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第六章 正義の在り処編
第百八十八話 『クーデター』
前書き
更新します。
今回はある人が表舞台に登場します。
ではどうぞー。
モリアおよびキリングドールの製造工場の手掛かりを掴んでギンガ、アルトリア、ネロを連れてやってきたシホ達の目の前に突如として現れたライダーと名乗る女性。
彼女は一枚の騎乗兵が描かれているタロットカードのようなものを取り出すと「インストール!」と叫んだ。
途端、彼女の体にカードからあふれ出る魔力の帯に包まれていって光が晴れた先には先ほどまでの簡素な恰好ではなく赤い装飾が目立つ鎧を身に纏ってその手には身の丈以上の長さの方天戟が握られていた。
おそらくサーヴァントのような気配というのはあのカードが関係がありそうであるのは明白だ。
しかし、彼女の体からあふれ出ている闘気、これは間違いなく本物であるのは経験則でシホ達全員は察知していた。
「戦う前に聞かせてもらえるかしら?」
「あんだ……? せっかくやる気だしてんのに戦いはやめるとかは勘弁だぜ?」
「できれば戦いはしたくないわ。でも、それより先ほどのカードはなに……?」
シホは単刀直入でそのことを聞いた。
カード自体にサーヴァントの力が宿っていて、さらにはサーヴァントの能力を疑似的に体に再現するなど元の魔術の世界でも聞いたことがない。
そんなことが発覚すればそく封印指定にかけられていてもおかしくない代物だ。
「あー………これな。俺もあんま知らねー」
「………真面目に答えなさい」
シホは視線に殺気を込めて再度ライダーに問いかける。
しかしライダーは本当に知らないらしく、手をブラブラさせながらけだるい声で、
「だーかーらー……知らないっていってるだろ? 俺はマスターにこれを使いこなせるように調整されて作り出されたホムンクルス体だ。だから詳しくは知らないし、それに……」
ライダーはニヤリと口角を上げる笑みを浮かべて、
「知っていてもそう簡単に教えるわけねーだろ?」
「………」
シホはこれ以上は無駄な詮索だと思い、ならば覚悟を決めることにする。
「ギンガ。ネロと一緒に周りのキリングドールの相手をしてもらっていいかしら? もちろん最大限警戒はして手加減無用よ」
「あ……は、はい! お任せください!」
「任されたぞ! 奏者よ!」
それでギンガは左手のリボルバーナックルを構えて戦闘態勢に入り、ネロも隕鉄の鞴の大剣をいつでも飛び出せるように水平に構える。
「そしてアルトリア。彼女……ライダーを私と二人で即座に倒すわよ。なにか胸騒ぎがする……早く機動六課に戻らないとなにかが間に合わないかもしれないから」
「了解しました。確かに私も直感が危険の前兆を感じ取っています。いざという時はユニゾンも検討に入れていきましょう」
「わかったわ」
シホ達の即席の作戦が決まったところでライダーが声をかけてくる。
「もういいかー?」と。
ライダーの表情は好戦的なようで今すぐにでも戦いたいという気持ちが顔に現れて目がすでにぎらついている。
「ええ。準備はできているわ。言っておくけど私達もあなたを本気で倒すつもりでいくわ。そして捕まえてヴォルフ・イェーガーの事を聞かせてもらうわ!」
そう言ってシホはアンリミテッド・エア、ツヴィリングフォルムを構える。
アルトリアも風王結界で覆われているエクスカリバーを構える。
「そんじゃ、いくぜ!!」
ライダーの言葉が合図となりキリングドールも含めて全員がそれぞれ行動を開始した。
◆◇―――――――――◇◆
シホ達がライダーとキリングドールと戦闘を開始した同時間に地上本部では『ラルゴ・キール提督』、『レオーネ・フィリス提督』、『ミゼット・クローベル提督』の三提督が集会を開いていた。
話している内容は今現在ミッドチルダを騒がせている最高評議会の残党狩りのことに関してだ。
「………さて、我らがこうして話をしている間にもどこかで最高評議会のメンバーが殺害されているかもしれないと思うと、やるせないねぇ」
「そうだねぇ」
ラルゴの発言にレオーネがお茶を飲みながらも返事を返す。
「今、機動六課の皆さんが捜査に動いているそうだけど、状況は芳しくないという話ですね」
「うむ」
「聞き及んでいるぞ。なんでもキリングドールという殺傷兵器を開発して暴れまわっているという話じゃな」
ミゼットの心配の声が混じっている発言にラルゴとレオーネの二人も現在の状況は理解しているらしく三人ともに悩ましい表情になっている。
それでミゼットが空間ディスプレーを表示した。
そこにはモリア・モルドレッドの顔写真とリオンの顔写真が表示されていた。
それをラルゴとレオーネの二人の前にも表示して、
「この、モリアという男……。かつて管理局の執務官として働いていたという調べがついているわ。
そして現在機動六課で保護しているというこの少女、リオン・ネームレスという子はこのモリアの手によって人工的に作られた生命体らしいのよ」
「なんと……。違法な技術にもこのモリアという男は手を出しているというのか?」
「そのようです。このリオンという少女はリンカーコアを抜かれてモリアの操り人形と化していたそうですが、シュバインオーグ一等空尉の手によって解放されたそうだわ」
「ほう……。彼女か。さすがだな。伊達にミッドチルダの英雄ではないか」
三提督の中でシホの評価はかなり高い。
あのJ・S事件を解決に導いた機動六課の中で一番活躍した功労者だからだ。
聖王のゆりかごを破壊し尽くした光景は上層部なら誰でも見ていたのだからシホの実力は折り紙付きで知られている。
今も昇進の話が持ち上がっているが、まだシホは返事を保留しているという。
それでいい返事を三提督も待ち望んでいるのが本音のところである。
他にもジェイル・スカリエッティによって捕らわれていた人々を作成したエリクシールを無料で提供して全員回復させたことから『聖女』だのというあだ名で呼ばれていたりする。
ゼスト・グランガイツのもう死しか待っていなかった体も全快にまで回復させたところからエリクシールの性能は確かな効果を発揮していることは確かであるのは事実だ。
シホ自身もいまも暇があれば量産をしているというから『聖なる錬金術師』というあだ名も広まっている。
―――閑話休題
それからシホの話が少し続いた後に脱線していた現在の事件の話を再開したところで、扉がノックされる。
「誰ですか……?」
ミゼットが扉の向こうの人物に声をかける。
扉の先では男性の声で、
「お取込み中のところ申し訳ございません。ジグルド・ブリュンヒルデ提督です」
という声が聞こえてきた。
それにミゼットが笑顔を浮かべて、
「おぉ、ジグルド坊ですか。何用ですか? 入ってきても構いませんよ」
ミゼットが『ジグルド坊』と呼ぶほどにジグルドは信頼を得ているのである。
しかし、次の瞬間その信頼は裏切られることになる。
「では、失礼します。………入れッ!」
入れという言葉が合図だったのであろう、突如として扉が勢いよく、そう蹴破られるかのように『バァン!』と開かれてジグルドと数人のものが入ってくる。
「なんだなんだ!?」
「何事じゃ!?」
「………ッ!」
ラルゴとレオーネはいきなりの事態に目を見開き、ミゼットもあまりの事態に言葉を失っていた。
「………さて、おとなしく私の言うことに従ってもらいましょうか。偉大なる三提督よ」
「これは何の真似ですか、ジグルド坊………?」
「見ての通り、クーデターですよ。ミゼット提督」
それでミゼットも信じられないといわんばかりに目を見開く。
だがすぐに気持ちを落ち着かせて、
「なにが目的ですか、ジグルド“提督”?」
ミゼットは真剣な表情になり先ほどまで『ジグルド坊』と呼んでいたのに今では『ジグルド提督』と言い直している。
「なに……あなた方は素直に私の人質になってもらいたいだけですよ。………モリア」
「はっ!」
『ッ!?』
ジグルドの背後から遅れて出てきた男の姿に三人はまたしても目を見開く。
そう、その男は先ほどまで話していたモリア・モルドレッド……その人であったのだ。
「くくく、もう電波ジャックは整っておりますよ、ジグルド提督? さっそく放送しますか?」
「ああ、頼む」
「………!」
ミゼット達三人はジグルドの大剣型デバイス『アスカロン』の刃を自分たちに向けられている事に対して悔しい表情になっているのであった。
◆◇―――――――――◇◆
そして機動六課でも事態は動いていた。
「シャーリー! シホちゃん達と通信は繋ぐことができたか!?」
「いえ! 何度も回線を変えたりして試みていますが全部繋がりません!」
はやてが管制室でシホ達に通信が繋がらないことに焦っていた。
シホに事前に言われていたのだ。
『私達ともし通信が繋がらない事態になったら機動六課の戦力を全員第二次警戒態勢に移行しておいて。魔術事件対策課の方にもそう伝えておいて……きっと何か良くないことが起きると思うから』
と、はやては伝言を受けていたのだ。
できれば当たってほしくない事態だったがはやては仕方がないとシホの言葉をそのまま実行すべく、シャーリーにその旨を伝えた。
それでシャーリーはすぐさまに機動六課戦闘メンバーに通達をした。
「(シホちゃん……無事でいてな。私達は私達でこれから起きることに対処していくわ。でも、すぐに帰ってくるんよ!)」
はやてはそう願う。
そして隣で浮いているリインが、
「シホさん達、無事でいてくれればいいです……」
はやてが敢えて口に出さなかった不安を代わりに言ってくれることに対して少しの感謝の言葉を贈りたかったが、今は緊急事態になりそうなことなので無言で頭を撫でる事にしたのであった。
そんな時にグリフィスがルキノからなにやら報告を受けているのに気付く。
「どうした、グリフィス君……?」
「は、はい、八神部隊長。緊急事態です!」
「なに………?」
そんな時に管制室のスクリーン………否、機動六課のあらゆるスクリーンにとある光景が映し出される。
「この映像は………ジグルド提督!? それに三提督まで!」
そこには三提督に剣を向けているジグルドの姿が映し出されていた。
画面先でジグルドが口を開く。
『この映像を見ている時空管理局局員、そして一般市民よ。聞け。私はブリューナク隊隊長、ジグルド・ブリュンヒルデだ。見てわかると思うが私は現在偉大なる三提督を人質に取っている』
「なんやて!?」
はやての驚きをよそにジグルドは言葉を続ける。
『私が要求することは唯二つ。あの“J・S事件”に大きく関与していたとある人物を此処に連れて来い! そして、この管理局の全制度の撤廃を要求する!!』
そのあんまりな要求にはやて以外にもこれを見ていた時空管理局局員すべてが怒りを顕わにした。
『当然そんな要求はそう簡単にのめないことは予想できるだろう。だが、私の目的を聞けば納得する者もいるだろう………モリア、流せ』
モリアが画面に現れてはやては面を食らっている間にも、次々と最高評議会が行ってきた悪行がネットにばら撒かれていく。
しばらく黙っていたジグルドは、
『………さて、分かってもらえただろうか。私の目的は最強評議会やそれに関わったであろう者達の粛清だ。そのための今回のクーデターである。
時間は24時間! もし要求が呑めない場合は三提督の身は………さて、どうなるだろうな?』
そこでジグルドは邪悪な笑みを浮かべる。
「くっ! やられた!」
『ガンッ!』とはやては拳を叩きつける。
悔しがるはやてをよそにジグルドはまだ続ける。
『仮にこの要求が呑めない場合は、守りが薄手になってる無関係の地域に配置したキリングドールを暴れさせる!!
なお、この要求とは関係なく私の部隊であるブリューナク隊のメンバーとキリングドールの混合部隊で約二時間後に一斉に最高評議会の残党が潜んでいるだろう施設に攻撃を開始する。家族を巻き込みたくなければ……素直に出てくるのだな。
さて、私からは以上だ。諸君らの誠意ある返答を期待している!』
それで画面は切れて映らなくなりスクリーンは通常にまで戻される。
だが、そんなことなど今は気にしている余裕はもうすでにない。
これから各地で最高評議会関係者に対しての市民達による暴動が起きることは予想に難しくない。
……下手をすればキリングドールが各地で暴れまわる。
状況としては最悪な事態だ。
「でも、まだや! まだ間に合う! ジグルド提督を必ず説得する!!」
はやては説得できるだろうことを願うのであった。
後書き
ついに本性の姿を現したジグルド。
これから長い日が続きます。
まぁ、短期決戦のような感じになると思いますが……。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
では。
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