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ロックマンX~5つの希望~

作者:setuna
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第五十七話 覇王

 
前書き
アクセルを処分したエックス達はハンターベースに戻る 

 
地上は夜の闇を深めていたが、ハンターベースの中では、真昼のような照明が室内を照らしていた。
イレギュラーの反乱が収束を迎えるにつれて、今度は復興の準備が慌ただしくなる。
破壊されたヤコブ関連施設を復旧させるために、作業用レプリロイドとメカニロイドが、続々とハンターベースから派遣される。
多数のレプリロイド達が行き交う中、この部屋だけはいやに静まり返っていた。
救急治療室。
大きな機械が置かれ、配線が絡まって床に伸びている部屋でゲイトはカプセルに収められたアクセルを見て口を開く。

ゲイト「アクセルを直せと言われても…メインメモリーを撃ち抜かれたら、新世代の自己治癒能力をもってしても不可能だと思うんだが…」

アクセルはあの後、ハンターベースの医務室に運ばれた。
既に機能停止しているが、亡骸を放っておくわけにもいかない。
それにかつて大破したレプリロイドが奇跡的に復活した前例もあるため、僅かな望みに縋って、運んできたのだ。

ルイン「ゼロや私はアクセルより酷い状態なのに直ったよ」

ゲイト「2人の場合はメモリーが無事だったからだろ?今回のは…無理だ。」

ルイン「お願い」

躊躇するゲイトに頼む。
有無を言わせぬ目だ。

ゲイト「やってはみる。けれど駄目元だと思った方がいい」

ライフセーバーが慌ただしく飛び込んで来る。
アクセルの修復のために、急遽呼び出されたのだ。
ゲイト達が無言で佇む中、医師達の足音だけがけたたましい。

ゲイトは今のアクセルを見て、無意識に呟いていた。

ゲイト「まるで棺のようだ…」

バシイ!!

彼は第一印象を率直に述べただけで、実際アクセルの現状は棺に収められた亡骸そのものだった。
しかし仲間の前で思わず言ってしまったのは紛れも無い失敗である。
ゲイトは素晴らしい平手をかまし、バタバタと出て行ったルインに唖然となる。

ゲイト「…流石、朱の舞姫と言われるだけのことはあるな……」

手加減なしの平手を受けて腫れ上がった頬を摩りながら、ゲイトは思わず溜め息を漏らす。




































ルインは途中ばったり、エックスとルナに出くわした。

エックス「ルイン」

ルインを見るエックスには暗い影が付き纏っている。
錯覚に決まっているが、エックスの周りだけ空気の重さが増したような気がした。
ルナはエックスよりも酷い。
まるで目に見えぬ黒い影が、彼女を押し潰してしまいそうだった。
ルインは、ゲイトの診断を伝えるべきかどうか悩んだが、口を開く。

ルイン「ゲイトは試してみるって…」

エックス「そうか……」

ルナ「…………」

エックスはルインの表情から修復が不可能だと悟ったのだろう。
暗い影を一段と深め、申し訳なさそうに俯いた。

エイリア「エックスとルインはミーティングに参加して」

パレット「先輩には私達がついてますから」

エックス「……分かった。頼む」

ルナをエイリアとパレットに任せてエックスとルインは司令室に向かう。









































司令室には、ゼロとレイヤー、アイリス、シグナスがいた。
壁に寄り掛かり腕を組むゼロは、触れたら両断されそうな険しい顔をしている。
エックスとルインは拒絶に満ちた重苦しい空気の中に静かに入っていく。
エックス達の視線がゼロとぶつかる。
ゼロはエックスとルインの様子から、アクセルにまつわる話を全て悟った。
シグナスもレイヤーもアイリスも同様に悟ったのだろう。
沈痛な表情を浮かべたが、その沈黙をシグナスが破る。

シグナス「シグマの居所は衛星ムーンだ。」

シグナスが今やイレギュラーの巣窟と成り果てた月をモニターに映しながら言う。

シグナス「ヤコブでの戦闘後に確認されたイレギュラーから解析した結果、シグマはゲートウェイを通過し、月に向かったと判明した。月面基地にイレギュラー反応が多数出現している。もう間違いない」

アイリス「現在基地を調査中ですが、電波障害が激しく、詳細は把握出来ません……」

アイリスが説明を続ける最中、唐突にモニターが点滅する。

アイリス「通信が割り込みます!!これは!?」

巨大なスクリーンに“Σ”の刻印が映し出され、水色の光が異常を告げる赤へと変わる。
癌細胞が正常な細胞を侵すように変えていく。
現れた忌まわしい男、シグマ。

エックス「シグマ!!」

シグマ『久しぶり、というべきかな、エックス』

何度も自分達を苦しめてきた宿敵。
何度倒しても蘇り、こうして立ちはだかってくる。
憎むべきイレギュラー。
怒りを顕わにするエックスに、シグマはやはり仰々しく口を開いた。

エックス「やはり貴様だったんだなシグマ…よくも…よくもアクセルを!!」

アクセルを操り、死なせる原因を作ったシグマに食ってかかるエックスをシグマは嘲笑う。

シグマ『お仲間の追悼の時間を設けてやったのだ…感謝してもらわんとな』

エックス「貴様ぁ!!」

ゼロ「俺を怒らせたことを後悔させてやる…」

凄まじい怒気を纏ったゼロがシグマに負けぬくらい低い声で言った。

シグマ『ククク…愚かな。貴様らの世界が崩れ始めているというのに!!』

ルイン「世界が…?」

シグマ『そう、最早地上に未来はない!!貴様達、旧き世界の宇宙開発は全て我が物だ!!旧き世界は、もうその役目を終えたのだ!!』

ゼロ「宇宙、だと……?」

ゼロはギリリと唇を噛み締めながら呟いた。
目の前にいるのがモニターに映ったシグマでなければすぐにでも叩き斬っている。
アクセルの仇が目の前に映っているというのにそれが出来ないのが腹立たしかった。

エックス「貴様…何を企んでいる!!?」

問い質そうとするエックスに嘲笑を浮かべるシグマ。

シグマ『企む?これは自然の摂理だ。進化だよ、エックス。進化した者が生き延び、流れに乗り遅れた者は死に絶える。古から受け継がれる理だよ!!ふはははは!!お前達はアクセルがどうだと言っているが、失敗作のプロトタイプの命などどうでもいいことだ!!お前達も後を追うことになるのだからな!!私自ら引導を渡してやろう。進化したレプリロイドの王としてな!!』

ルイン「シグマ…!!」

アイリス「ふざけないでよ…っ!!」

レイヤー「アイリス…さん?」

レイヤーは目を見開いてアイリスを見つめる。
普段は穏やかな頼れる先輩であるアイリスの表情が深い悲しみと憤怒に染まっていた。

アイリス「シグマ…あなたは私達からどれだけ大切な物を奪えば気が済むの…?何もかもあなたがいたからっ!!!!」

直ぐにでも護身用の拳銃を抜きかねない勢いでモニターに向かって叫ぶ。
エックス達はイレギュラーハンターの仲間を。
アイリスはレプリフォースの同志と兄を。
誇り高い戦士だった彼らはモニターに映る悪魔のせいで死んだのだ。

シグナス「落ち着け!!」

激しい怒りをぶつけるアイリスを制し、シグナスが淡々たる口調で言う。
それは感情を押し殺した、怒りが強く滲む声であった。
彼もまたシグマに苦楽を共にした仲間を奪われたのだ。
その怒りは永きに渡る因縁を持つエックス達には及ばないかもしれない。
しかしそれでも全ての元凶を睨み据えた。

シグナス「シグマ…私は貴様を進化した者とは断じて認めない。犠牲を払う進化などない。貴様のしていることはただの暴走だ。」

ゼロ「暴走と進化を履き違えた愚かなイレギュラー…」

エックス「イレギュラーハンターとして、俺はお前を許さない!!」

ルイン「あなたとの決着を…今度こそ着ける!!」

シグマ『ふふふふ、はははははは!!』

高笑いをするシグマの姿がメインモニターから消えた。
全員がモニターを睨んでいたが、次の瞬間に気持ちを切り替える。

ルイン「それにしても…ヤコブ計画が最初からシグマに狙われていたなんてね」

アイリス「でもそう考えると全ての辻褄が合うわ……宇宙開発が盛んになった背景と新世代型レプリロイドの開発は無関係ではないもの……」

ゼロ「そこへ来て、新世代型のイレギュラー化、か……いずれにしても、奴をこのまま放っておく訳にもいくまい」

アイリス「ええ、さっきの通信で逆探知に成功したわ。発信源はポイントRYH46。最大規模を誇る月面基地。そこにシグマがいるはずよ」

エックス「ああ、これで最後だ…シグマ…決着を着ける!!」

ルイン「今度こそ終わらせる!!シグマとの因縁を!!」

決意を胸にエックス達は表情を引き締めた。
エックス達とシグマの永きに渡る因縁も終わりを迎えようとしていた。 
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